夕空の法則

絶賛の方法

いちどでいいからカヌーに乗ってみたいと思っている。

カヌーについて調べていたら、山海堂という出版社の存在を最近知った。いくつか雑誌を出版しており、そのなかに『カヌーライフ』というのがある。サイトの説明によると、「日本唯一のカヌー&カヤック&ラフティング総合誌」とあり、最新号の広告がある。

「No.36夏号 絶賛発売中」

どうやらカヌーに乗るならこの雑誌を避けては通れないらしい。だからさっそく購入したかと言えばそうではなく、宣伝文句の後半の言葉に目を奪われていたのだった。

「絶賛発売中」

絶賛である。たいていの新商品は決まって「絶賛発売中」だからなにも驚く必要はないのだが、よく考えてみると、絶賛とはただならない事態である。『広辞苑』によれば、「この上なくほめること。絶大の賛美」だ。これ以上は無理です言わんばかりに褒め称える。となると、当然そこには「絶賛する人」がいることになる。

山海堂の『カヌーライフ』を絶賛する人は、言うまでもなく、「三度の飯よりカヌーが好きな人」だろう。最新号が出ると、すかさず絶賛だ。ここで気になるのは、彼らの絶賛の方法である。カヌーという特殊な趣味をもつ人のすることだ、その方法はきっと特殊なものにちがいない。躍り上がって喜ぶとか、手を叩いてはしゃぐなんていうなまやさしいものではないはずである。カヌーだ。彼らは何をするにもカヌーを使う。

「オールをぐるぐる回す」

どうも危なっかしくって迷惑だが、「三度の飯よりカヌーが好きな人」のすることだ、「回したければ回すがいいさ」と言いたい。「回せ回せ、どんどん回せ」という気持ちにもなる。

やっかいなのは、山海堂が出しているのがカヌーの雑誌ばかりではないことだ。

『土木施工』

カヌーと土木の組み合わせに驚かされるが、驚くのはまだ早い。

「2002年7月号絶賛発売中」

またしても絶賛である。『土木施工』の発売を首を長くして待っている人がいるのだ。私は土木施工について無知である。そこで最新号の目次を眺めてみた。

「特集 港湾技術 新世紀」

どうやら、「港湾技術」が「新世紀」を迎えたらしい。「三度の飯より土木が好きな人」にとって、この特集はたまらない魅力があるのだろう。内容はこうだ。

「急傾斜岩盤におけるニューマチックケーソン工法」

門外漢の私にはなんのことやらさっぱりだが、「三度の飯より土木が好きな人」はこれを見てつぶやくだろう。

「きたな、ニューマチックケーソン工法がきたな」

そして絶賛する。土木の人だ。なにはともあれ、土だろう。

「ところかまわず土を掘る」 

カヌーと土木。絶賛の方法はさまざまだ。

(2002.7.13)