今、大活躍しているものは何だろう。
ただの活躍ではない。「大活躍」である。誰もがその栄光を讃え、嵐のような賛辞が轟く。大活躍してみたいものである。誰だってそう思うだろう。「おれもそろそろ大活躍しなくちゃな」。燃える闘志をみなぎらせる人は日本中にいるにちがいない。だが、人はなかなか大活躍はできないものである。
今年の春、オリックスのイチロー選手が大リーグのシアシル・マリナーズに移籍した。ほどなくして打率がリーグ一位に躍り出た。打点もトップだ。盗塁数も一位である。そしてチームはリーグ優勝した。これはどうみても「大活躍」だろう。だが新聞には「大活躍」という文字は見当たらないのだ。どうも、ちょっとやそっとでは人は大活躍できない仕組みになっているらしい。
私が「大活躍」しているものを発見したのは、つい先日のことである。インターネットである情報を探していた。その情報はすぐに見つかったのだが、どういうわけか、まったく関心のないサイトに出くわした。
「株式会社日本バーコード」
バーコードなら知っているが、こんな名前の株式会社があるのに驚いた。ホームページの最初の言葉はこうだ。
「バーコードのホームページにようこそ!!」
いきなり歓迎されてしまった。私はただの通りすがりのものだ。なのに感嘆符が二つもある。今にもお茶と和菓子が出されそうである。「バーコードの話」というページがある。クリックしてみた。
「見えないけれども大活躍しているバーコード」
あった。大活躍しているものがあった。バーコードだ。だが「見えない」という。見えないものが大活躍している。どうなっているのか。
「真っ暗なところで紫外線のブラックライトでないと見えませんが、あなたに配達された葉書や封筒には、断りもなくバーコードが印字されています」
大変なことになっている。「断りもなく」ときた。ひとこと断ってくれてもいいじゃないか。だがバーコードは大活躍である。どうやら「見えない」と「断りもなく」が、大活躍の秘訣らしい。
「よし、大活躍してみるか」
鈴木さんは決心するに違いない。鈴木さんは家族に断りもなく、見えなくなって、大活躍する。立派である。人はなかなかこう立派には振る舞えない。これぞ「ますらおぶり」である。きっと「九州男児」だ。そうに決まっている。
「見えない九州男児、大活躍中」
いつかそんなホームページが登場するだろう。「真っ暗なところで紫外線のブラックライトでないと見えませんが、あなたに配達された葉書や封筒には、断りもなく鈴木さんが印字されています」。
これはいやだ。気持ちが悪い。鈴木さんに言っておきたい。
余計なことはするな。
(2001.10.2)