玄関のドアの郵便受けでゴトンと音がしたので行ったみたら、小冊子が二冊入っていた。どちらも同じサイズで、宗教の勧誘パンフレットだった。宗教そのものには関心があるが、特定の宗教団体に属することにはまったく興味がないので、ふだんならそのままゴミ箱に捨てるのだが、異なる団体のパンフレットが同時に二冊来ることは珍しい。一冊目を読んでみた。
ぱらぱらとめくってみると、教祖の最新刊の宣伝がやたらに多い。サブタイトルがある。
「人生の勝負に勝つ成功法則」
人生を勝ち負けで考えることにびっくりさせられるが、法則があることにも驚かされる。法則があるならこんなにありがたい話はない。それに従えばいいだけのことである。だが法則とは必ず同じ結果を生み出す論理である。ということは、「常勝の法」に従った人はみな程度の差こそあれ、だいたい同じ人生を歩むことになる。それが果たして幸福なことなのだろうか。
だがそんな疑問の余地はないのだった。とにかく「法」である。本には黄色の帯に真っ赤な宣伝文句がある。
「人生に勝つ。不況に勝つ。」
またしても勝ち負けである。どうしても人生は勝たなければならないらしい。昔から「負けるが勝ち」というが、そんな論理は通じないようである。それにしても「不況に勝つ」は宗教としてどうなんだ。宗教というものはだいたい貧困と病苦からの救済を行うのが常だが、「不況」と言われるとちょっと困る。もし不況が去って第二のバブルが到来したらどうするつもりなのだろう。
「バブリーに生きる。そして勝つ」
これでいいのか。
だが『常勝の法』はとにかく「勝つ」なのだった。帯にはさらに説明書きがある。
「時代や環境に左右されず、常に勝つ―――。
そんな決意が心の底からわき上がる、
21世紀の兵法がここに結晶!
この一冊が、今年のあなたを、日本を、力強く支えます」
「21世紀の兵法」なのに「時代に左右されない」とはどういう理屈なのか。しかもこの本が支えるのは「今年のあなた」であり「来年のあなた」ではない。なにがなんだか、わけがわからない。
別の団体のパンフレットを読んでみた。「健康相談」というコーナーがある。いびきがひどくて悩んでいる会社員の悩みに医学博士が答えている。
「感謝の心で眠る」
これが「医学博士」の答えであることに驚かされる。だが驚かされるのはこれだけではない。「編集後記」のお知らせだ。
「朝起会へのおさそい」
「朝起会」というのがわからない。説明を読む。
「午前五時、私たちは全国各地で一斉に、爽やかなスタートを切っています。朝起会は、今日をよりよく、実りあるものにするための実践の第一歩です」
朝起きるためだけに集まる会がある。もしかすると、世の中の宗教団体には凡人の思いもよらぬ会が存在するのかもしれない。
「朝寝坊の会」
信者が集まり、一斉に朝寝坊する。太陽はすでに高い。寝ぼけまなこの信者が眠そうに言う。
「昼だよ。寝坊だよ」
人は集まると何をしでかすかわからない。
(2002.2.27)