夕空の法則

大統領

アフガニスタンのことが気になっているのだった。

アメリカは、世界貿易センターやペンタゴンを襲ったテロを「戦争」とみなしている。だが誰も宣戦布告はしていない。従って、これは従来の戦争とはちがうものだろう。「戦争」というよりも「犯罪」と考える方が正しいのではないかと思うのだが、アメリカはあくまでも「戦争」だと言ってゆずらない。

さらにアメリカは、この「戦争」の首謀者をオサマ・ビンラディンという男だと公言している。しかし、その証拠は実際のところ何一つない。にもかかわらず、アメリカはビンラディンを戦犯扱いするだけでなく、彼をかくまう国はアメリカの敵対国であると決めつけ、彼が潜んでいると目されているアフガニスタンを空爆した。

今回の「犯罪」に関して、わたしたちが知っているのはごくわずかな事柄だ。ざっと挙げてみよう。

  1. 今回のテロは宣戦布告された「戦争」ではなく「犯罪」である。
  2. サウジアラビアの大富豪の息子ビンラディンの国籍は不明である。
  3. サウジアラビアは近代的な「国民国家」ではない。
  4. 北部同盟は一種の山賊集団にすぎない。
  5. アメリカはアフガニスタンに宣戦布告していない。

以上のことから導き出されるのは、犯罪ならば犯罪者の割り出しが急務であり、しかるべき法的措置を行うべきであるということ、ビンラディンは〈CIAの申し子〉だということ、そしてアメリカのアフガニスタン空爆こそテロそのものだということだ。

「これは新しい戦争だ」と言ったのはブッシュ大統領である。どうやらブッシュは戦争が好きらしい。思えば父親も湾岸戦争をやっている。ブッシュ家は軍と石油資本が支えていると言われている。テレビでブッシュ見ると、いかにも「戦争、やりたいなあ」という顔をしているように見えるから不思議である。戦争好きの彼の血が騒ぐ。

「不況だし、ここらで派手に一発ブアーッといくか」

これでは植木等の無責任男だ。ブアーッとやればさぞかし気持ちがいいだろうが、やられる方はたまったものではない。なにしろ空爆である。罪もないアフガニスタンの人たちが次々と犠牲になる。だがブッシュはそんなことにはおかまいなしだ。

「ブアーッとやりたい」

ブッシュはうずうずしていただろう。作戦会議だ。軍のお偉方を集める。戦争が三度の飯より好きなブッシュだ。作戦会議に登場するときも趣向を凝らすだろう。

「わざと遅れて行く」

軍のお偉方は揃ったが、肝腎のブッシュが来ない。どうしたんだ、なにがあったんだと全員がそわそわしているその刹那、ドアを開けてブッシュは部屋に入ってくるだろう。

「お待ちどうさま~」

おまえはラーメン屋の出前持ちか。だがブッシュはさらに調子に乗るだろう。

「ゆるしてチョンマゲ」

いまどき、どこの世界に「ゆるしてチョンマゲ」などと口にする者がいようか。そもそも、チョンマゲは英語でどう言うのだ。

待ちかねていたブッシュの到着である。軍のお偉方が思わず声をかける。

「待ってました。よっ、大統領!」

わたしはアフガニスタンの人々の生活が気がかりでならない。

(2002.1.27)