電子辞書というものを買った。『広辞苑』や英和・和英辞典、英語類語辞典、俳句の季語辞典、漢和辞典など、12の辞書が搭載されていて、しかもシャツの胸ポケットに収まるほど薄い。
辞書や事典と名のつくものにはつい手を伸ばしてしまうたちで、書斎にはさまざまな辞典類が並んでいる。当然場所をとる。なかでもよく使う辞書に『逆引き広辞苑』がある。たとえば「から」で終わる言葉を探したいときに引くと、「赤ら」「頭から」「阿呆力」「甘辛」「アンカラ」などが載っている。だが『逆引き広辞苑』は、言葉がリストアップされているだけで、意味の説明はない。調べたければ、改めて『広辞苑』を引くしかない。ところが電子辞書版の『逆引き広辞苑』は、ボタンひとつで、選んだ言葉の意味を自動的に『広辞苑』で調べてくれる。便利だ。だが私は、便利さの背後に、どうでもいい情報がひそんでいることを発見した。収録されている学研の『四字熟語辞典』である。宣伝文句には「しゃれたスピーチや日常会話に役立つ約1450項目を収録」とある。
検索方法はいくつかあるのだが、「使用シーン/内容」から探すという方法がある。たとえば「悲しみ/絶望」だ。調べてみるといくつか候補があり、そのなかにこんな熟語を見つけた。
「脾肉之嘆」
「腕前を示し、功名を立てる機会が得られないことを嘆き残念がることのたとえ」とある。例文はこうだ。
「彼女は優秀な成績で大学院を卒業しながら、講師の口がなかなか決まらず、脾肉の嘆をかこっている」
そして「参考」にはこんなフレーズがある。
「脾肉の嘆このところ挽き肉ばかり」
なんだこれは。挽き肉ばかりで残念ということか。というより、「ひにく」と「ひきにく」のだじゃれではないのか。別の熟語に当たってみた。
「意気阻喪」
「参考」にはこうある。
「入口でまた粗相して意気阻喪」
いよいよわからない。入口に来るたびに粗相をする人がいるらしい。しかも「そそう」と「いきそそう」で、またしてもだじゃれだ。いったいどうなっているのか。
これを利用して「しゃれたスピーチ」をしている人がいると思うとおそろしい。
(2002.7.12)