引っ越しをした。
といっても家の話ではない。ホームページである。今まではニフティーという日本最大のプロバイダに間借りするかたちで運営してきたが、このたび独自のドメインを取得し、自分のサイトを立ち上げた。ドメインとは、サイトのいわば住所である。これまでは「nifty」という会社名が表記されていたが、これからは自分が決めた住所だけでいい。ちなみに今回取得したドメインは http://www.teatrum-mundi.net である。
teatrum mundi というのはラテン語で「世界劇場」という意味だ。「世界は劇場、人生は夢」という、シェイクスピアの時代の世界観をあらわしている。自分のサイトが一種の「世界劇場」になればいいという願いをこめてこの名前にした。
そんなことはともかく、引っ越しである。
わたしのサイトには、わずかばかりの画像ファイルと、文章のテキストファイルで構成されている。今回調べてみたら、すべてのファイルの数が四百近くあることがわかった。これらをすべて新しいサーバーにアップロードしなければならない。実際には、ほんの7、8分で送信できたのだが、送信し忘れたものがないかどうか調べたり、無事送信できたかを画面で確認したりするのに結構時間をとられた。結局およそ半日かけて、すべての作業を終えた。自分のサーバーを持つということは、言ってみれば、自分で店舗を構えるようなものである。店の看板や電話番号、店内のデザインなど、好きなようにできる。さっそくメールアドレスを変えることにした。
ychr@teatrum-mundi.net
店の名前が決まり、連絡先も決まった。あとはこれを友人知人に報告しなければならない。ここで悩んだ。数百人の知人にどうやって知らせたらよいか。考えただけで面倒くさい。礼儀としては、一人ひとりにメールを送るのがいいだろう。だがその前にひらめいた。
「掲示板があるじゃないか」
さいわい多くの友人知人がホームページを持っており、そこには掲示板がある。不特定多数の人が絶えず出入りしている場所だ。そこに案内状を書き込めば一度に大勢の人に通知できる。
さっそくいくつかの掲示板に投稿した。すぐさま反応がきた。これは便利だ。
一仕事終えた気分で一服した。すると心の中の誰かが囁いた。
「引っ越し蕎麦はどうした」
迂闊だった。言われてみればたしかに引っ越しといえば蕎麦である。「おそばに参りました」という意味で、引っ越し先の近所に近づきのしるしとして配る蕎麦だ。
あいにく家には蕎麦がない。
「ネットで探してみろ」
そうだ。こういうときこそネットサーフィンだ。
蕎麦の写真はすぐに見つかった。これをいくつかの掲示板に張りつけた。
「蕎麦だ。引っ越しは蕎麦だ。忘れるな」
サイトの引っ越しもなかなかどうして大変である。
(2001.12.28)