夕空の法則

不思議少女

テレビが嫌いである。

以前書いたと思うが、わたしは断然ラジオ派である。「ラジオ派」などという派があればの話だが。とにかくラジオが好きだ。テレビはなぜか生理的に受けつけない。興味をそそられる番組は皆無と言っていい。多くの人は「ニュース・ステーション」を見ているのだろうが、なにを隠そう、去年の秋から一度も見ていない。テレビを持っていないわけではない。もっぱらビデオとDVDの再生装置として使っている。

だが、八十年代後半から九十年代の初めにかけては、よくテレビを見ていた。とくに深夜番組だ。

フジテレビ「やっぱり猫が好き」「カノッサの屈辱」「ハンマープライス」「NON-FIX」「北野ファンクラブ」
 日本テレビ「テレビ広辞苑」「パペポTV」
 テレビ朝日「タモリ倶楽部」「らくごのご」
 TBS「東京イエローページ」「世界かれいどすこーぷ」

「タモリ倶楽部」以外は今では見られない。こうして番組名を書いていると、懐かしくてたまらない。「パペポTV」の上岡龍太郎と笑福亭鶴瓶の打ち合わせなしの漫才は絶妙だった。「テレビ広辞苑」の劇団「そとばこまち」のコントはナンセンスの極みだった。今や引っ張りだこの三谷幸喜が台本を書いていた「やっぱり猫が好き」の笑いは都会的でよかった。

こんなことを言うと人は思うかもしれない。

「深夜番組の鬼」

だがちがう。当時わたしがもっとも魂を奪われていたのは、深夜番組ではなかった。

「フジテレビの日曜早朝番組」

たしか日曜の午前七時半の枠だったと記憶している。フジテレビにとんでもない番組が存在していた。

「美少女仮面ポワトリン」

主人公は派手なコスチュームの美少女である。どういうわけか正義の味方で、悪を倒すというストーリーなのだが、セリフといい、唐突な踊りや歌といい、とにかくテンションが高い。なにより驚かされるのは、主人公が「不思議少女」であるということだった。なにを考えて行動しているのか、視聴者にはまったくわからなかったから恐ろしい。

この番組はカルト的な人気を博し、終了後、同じコンセプトで新たな番組が始まった。

「不思議少女ナイルなトトメス」

不思議少女である。それにしても「ナイルなトトメス」ってなんだよ。「トトメス」は主人公の名前だ。が、「ナイルな」がわからない。実は「ナイル」は主人公がそこからやってきた架空の国の名前なのだが、「ナイルな」って言い草はどう考えても奇妙だ。

「イタリアな中田」

こう言っているようなものである。

物語は支離滅裂で、番組は視聴者をおいてけぼりにして勝手に進む。そこがファンにとってはたまらない魅力だった。そして、またしても続編が作られた。

「うたう!大竜宮城」

主人公はまたしても正義の味方の美少女である。しかも、歌う。どんなシチュエーションでも、歌う。

主人公がなぜか浅草で通りがかった女の子に道を訊ねる。すると主人公は女の子を路地に引っ張り込んで自己紹介をする。

「東南アジアキエナ王国の竜宮上の乙姫です」

そして突然ボサノバ調の音楽がかかり、女の子の目の前で踊りながら歌う。

 「空缶は ごみ箱にすてた
  悲しみは 空にすてた
  空缶と悲しみ 悲しみと空缶
  人生は二度ない 三度ある
  ああブロッコリー ブロッコリー
  ブロッコリーが 食べたい」

「うたう!大竜宮城」の復活を切に望む。

(2002.2.3)