夕空の法則

どっちつかずのもの

近頃私はよくDVDで映画を観る。DVDプレーヤーはつい先日購入したばかりだ。買ってすぐに説明書を読んだ。DVD以外に、CDとビデオCDというものも再生できることが分かった。一台三役である。便利だ。開発した人はこのアイデアを閃いたとき、さぞ満足したことだろう。「どうだ。三役だぞ。一台三役なんだぞ」。開発した人は得意満面である。

DVDで映画を観ていたときのことだ。

映画のタイトルは忘れたが、私はなぜかこう考えていた。「人はつい便利なものを考えがちである」。

発明王エジソン。彼はさまざまな「便利なもの」を発明した。電話。電球。アルカリ蓄電池。映画。聞くところによれば生涯で千数百もの発明をしたという。「発明し放題な人」だ。

「発明し放題な人」は日本にもいる。フロッピー・ディスクの発明で有名なドクター中松である。登録している特許の数は世界一だそうだ。アメリカの「発明大賞グランプリ」という大会では十年連続グランプリに輝いているという。

ところで、いったい「便利」とはどういうことをさすのだろうか。一台三役のDVDプレーヤーは重宝する。だが、世の中には「つい、うっかり、やってしまう人」がいる。そして、そんな人が発明するのは「どっちつかずのもの」だ

「ソファー・ベッド」

たしかに便利だ。昼はソファーとして使い、夜はベッドに変身する。だが、一体正体はどっちなんだ。「ベッドにもなるソファー」なのか。それとも「ソファーとしても使えるベッド」か。どっちつかずである。

「ラテカセ」

記憶にない人もいるだろうが、七十年代後半、たしかにこういう商品が発売されていた。ラジオとテレビとカセットデッキが一台に収まっている。それぞれの頭文字をとって「ラテカセ」。おまえは一体何者なんだ。やはりどっちつかずだ。

「つい、うっかり、やってしまう人」の発明力はとどまるところを知らない。油断していると、便利な商品はつぎつぎと生まれるに違いない。

「高枝切りカメラ」

テレビショッピングでよく売っている高い枝を切る長い棒だ。その先端にカメラがついている。便利なのか。どうなんだ。よく分からない。

「蒲団圧縮袋おしゃれポーチ」

蒲団をビニールの袋に入れて掃除機で中の空気を吸い取る。蒲団はぺしゃんこだ。それがたちまち「おしゃれポーチ」になる。いよいよ分からない。だが、そこは「「つい、うっかり、やってしまう人」のやることである。驚いてはいけない。

「万能ナイフマルチハンガーもみもみ君」

人は「どっちつかずのもの」に対して、あまりにも無防備である。

(2001.10.7)