夕空の法則

モンゴル

田代まさしが逮捕された。

去年、目黒区内の駅構内で女性のスカートの中をバッグに隠していたカメラで盗み撮りして、東京都迷惑帽子条例違反で書類送検され、しばらく芸能活動を謹慎していた。今年復帰したと思ったら、今度は逮捕だという。なにをしでかしたのか。

「アパートの風呂場をのぞいた」

朝日新聞によると、今月9日に大田区内のアパートの一階の風呂場の窓から入浴中の男性をのぞき見したという。田代まさしは逃げたが、見られた男に取り押さえられて田園調布署に引き渡されたらしい。

記事を読んで、状況を想像してみた。

「男が入浴中の男をのぞき見する」

のぞき見といえば男が女に対して行うものとばかり思っていたが、今回の事件で認識を改めねばならない。

「入浴中だった男が田代まさしを追う」

男はバスタオルを巻いて追いかけたそうだ。季節は冬だ。寒い。バスタオルを巻いた男が冬の街を疾走する。そのときの田代まさしの状態はこうだ。

「バスタオルを巻いた男に追いかけられる」

そんなばかな話があるものか。

わたしたちはここからひとつの教訓を学ぶ。

「のぞき見してはいけないものがある」

入浴中の他人をのぞき見してはいけない。ほかにどんなものをのぞき見してはいけないだろう。

「髪をセットするまえの黒柳徹子」

想像すると不気味である。いったいどんな頭をしているのか。ざんばら頭の髪の毛が蛇のようにのたくっている。徹子が鏡を見ながら髪をタマネギの形にまとめあげる。見てはいけない。これはのぞき見してはいけないだろう。そんな気がする。

「平幹二郎の役作り」

筋金入りの役者である。ひとりで稽古中だ。シェイクスピアの『マクベス』である。も のすごい形相だ。見ないほうがいい。うっかりのぞき見すればなにをされるか知れたも のではない。

「望遠鏡」

望遠鏡はのぞいて見るものだ。大いにのぞき見すればいいじゃないか。

「望遠鏡をのぞいて見ている人をのぞき見する」

なぜだ。星を見たいのか。見たいなら、見せてくれと頼んだらどうだ。だが、のぞき見 する人はのぞき見したくてたまらない。

「自分の背中」

見られる人がいたらお目にかかりたい。しかものぞき見である。器用というより、変人 である。

「モンゴルの大平原に輝く太陽」

のぞき見するには、物陰が必要だ。だが大平原である。まわりは地平線だ。どうやってのぞき見するというのか。しかも太陽をのぞき見する。動機が理解できない。だが罰せられる心配はなさそうだ。

「市川正容疑者、太陽をのぞき見で逮捕」

逮捕されてしまった。市川容疑者が余罪を告白する。

「動物園の人まね小猿」

なんでも人のまねをする猿だ。市川容疑は檻からそっと中をのぞき見した。

「人まね小猿と目が合う」

人まね小猿は、のぞき見する人のまねをするのだった。

のぞき見したい人はモンゴルに行くべきである。

(2001.12.14)