夕空の法則

おせち

お節料理の準備の時期である。

最近はデパートやスーパー、コンビニなどでお節を注文する人が多いらしい。わたしの実家は毎年母がお節料理を作っている。算段重ねで、中身はこんな感じだ。

黒豆
 ごまめ
 数の子
 やつがしら
 海老
 鮭のベーコン巻き
 鰯の昆布巻き
 おなますのイクラ添え
 焼き豚、
 出汁巻き玉子
 鶉の玉子
 金平ごぼう
 五目煮
 紅白かまぼこ
 羊羹

なかでも手作りの羊羹は家族の大好物である。

だがこの季節になるとなぜか必ず思い出す昔のコマーシャルがある。

「お節もいいけどカレーもね!」

西条秀樹が宣伝していたハウス・バーモンドカレーだ。いくら豪華なお節でも、三日、四日とつづくと飽きる。そこを狙ったコマーシャルだ。

カレーといえば、愛知県に来て驚いた。

「カレーハウスCoCo壱番屋」

なぜかやたらに目につくカレーライスのチェーン店である。本社は愛知県一宮市で、カレーライスのチェーン店としては日本最大だという。

初めて店に入ったのは四年前の冬だ。ただなんとなくカレーが食べたくてふらりと立ち寄った。テーブルにメニューがある。カレーだけでなく、ハヤシライスもある。なんとはなしに、店内を眺めると、季節限定メニューというポスターが壁にあった。

「ひじきカレー」

カレーライスの上にひじきをたっぷり乗せた写真がでかでかと載っている。

「なぜ『ひじき』なのか」

わたしは頭の中が真っ白になった。カレーとひじき。今まで結びつけて考えたこともない組み合わせに度肝を抜かれた。よりによって、ひじきはないじゃないか。カレーライスを食べながら、ひじきの煮付けを食べるというのならわかる。だがカレーライスそのものの上にひじきを乗せるとはなにごとか。

「胃袋に入れば同じじゃん」

たしかに理屈はそうだ。だが、ご飯にイチゴジャムをかけて食べる人間がいるか。味噌汁に牛乳を入れて飲む者がいようか。

しかし「カレーハウスCoCo壱番屋」の恐ろしさはこれだけでは済まなかった。

「フライドチキンカレー」

チキンカレーならわかる。なぜフライドチキンなんだ。カレーとフライドチキンは別々にしてほしい。

「ソースカツカレー丼」

カレーにソースをかける人がいるのは知っている。だが「ソースカツカレー丼」は、あくまでも「ソースカツ」の「カレー」である。しかも「丼」だ。これはいったいなにがどうなっているのか。

これらのメニューは全国のチェーン店で食べられるのだろうか。それとも愛知だけなのか。愛知といえば、あんかけスパゲティーだの、小倉トーストだの、よくわからない組み合わせの食べ物を発明することで有名である。愛知の人にとっては、「ソースカツカレー丼」を思いつくことなど、それこそ朝飯前にちがいない。

「もうないな。これ以上とんでもないメニューは、もうないな」

あった。

「風呂吹き大根カレー」

風呂吹き大根がまずいとは言わない。あれはおいしい。だが、カレーライスに風呂吹き大根が乗っているのでは話は別だ。カレーライスの上に、とろりと煮えた大根が乗り、あまい味噌がたらりとかかっている。

カレーと大根と味噌。なんでも組み合わせればいいというものではないはずである。

(2001.12.29)