学生と話をしていたら、「先生の声って癒し系ですね」といわれた。
声というものは本人が聞くのと他人が聞くのとでは大違いである。テープや留守電に録音した自分の声を聞いてびっくりしたことがある人は大勢いるだろう。体内の骨などに伝わった振動が混ざるので、本人が聞く声と他人が聞く声はちがって聞こえるのだ。
だがそんなことはどうでもいいのであった。
「癒し系」
「癒し」が最近の流行なのは承知している。気になるのは「系」だ。
「○○系」
いつ頃から始まったのかわからないが、こういう言葉がさかんに用いられている。「文系」「理系」などは昔からあるが、最近は「系」が増殖している。
インターネットではいろいろな人が日記を公開している。
「近くにいた男性に思いきって『シャッター押してもらえますか?』って声かけたら快くOKしてもらえて、メアド交換もしてきました。ちょっとかっこいい系な人だったので、 メールが届くの、楽しみにしてるんです」
「かっこいい人」でよさそうなものを、なぜか「かっこいい系な人」という。
「おそらく私は十分おたく系な人である事は間違いないです(^^;)」
「おたく」でいいはずだ。なのに「おたく系な人」である。
「オルタナティブ系なバンドは多いし、DianaKing や Take That あたりを演奏するのも最近はいたりして、リッチ系な人じゃなくても最近のタイ人は普段から洋楽聴くのかな?」
「リッチな人」「裕福な人」といわず、「リッチ系な人」である。
「系」はもともと体系を指す。だが今流行っている「系」の用法は、体系とは無縁だ。
A「○○に似ている」
B「○○に関わっている」
C「○○が好きである」
D「○○に詳しい」
これくらいの意味である。
Aの例で多く使われるのは動物だ。
「猿系な人」
猿に似ている人である。間寛平などだ。
Bはどうか。
「ピアノ系の人」
「癒し系の人」
数ある楽器のなかでもとりわけピアノなどの鍵盤が得意な人だ。あるいは、「癒し」に関わる人である。
Cはもっともよく使われる。
「ラーメン系な人」
ラーメン系な人はラーメンに目がない。
Dも少なくない。
「ジャズ系な人」
ジャズを語らせたら止まらない。
そのうち、さまざまな「系な人」が現れるだろう。
「ししゃも系な人」
どういう人間だ。ししゃもに目がないのか。それともししゃもに似ているのか。ししゃもに似ている人。考えただけで気持ちが悪い。あるいは、ししゃもの薀蓄を語らせたら右に出る者がいない人なのか。
「ラクダ系な人」
背中にこぶがあるのか。こぶには水があるのか。砂漠が好きなのか。
「トホホ系な人」
いったいどんな人だ。トホホである。トホホとはなんだ。
「トホホに関わっている」
トホホに関わる。意味がわからない。
「トホホに異常に詳しい人」
こうなると、もうなにがなんだかさっぱりである。
「系な人」には用心した方がいい。
(2002.1.7)