夕空の法則

宙恩

書斎の書類を整理していた。

私は整理に関しては本当にダメな人間である。きちんと整頓ができない。本棚に収まりきらない本は床のあちこちにうずたかく積まれているし、書類も部屋中に散乱している。とくに滅茶苦茶なのは新聞の切抜きだ。箱に入れている。お目当ての新聞記事を見つけるまで時間がかかる。「そろそろ整理しなくちゃな」。私は古い新聞の記事に順番に目を通していた。

1995年の参議院選挙公報が出てきた。

立候補者の政見が載っている。なぜこんなものを取っておいたのだろう。読めば理由が分かるかも知れない。読んでみた。「『開星論』のUFO党」という政党の政見があった。党首は韮崎という人である。それにしても「UFO党」とは凄い名前だ。「開星論」という言葉が分からない。私は政見に目を通した。

「こんにち、私たちの文明よりはるかに進化した文明をもつUFOが宇宙からやってきて、密かに地球人と接触しているという仮説は、今や公然の事実と化した」

いきなりこれである。「今や公然の事実と化した」。ちっとも知らなかったよ。いつの間にか公然の事実になってしまっている。続きを読んだ。

「現在の平和を享受しているものとして、前述の表立って評価されていないUFO星援活動について、これを看過しえぬとともに、少なくとも日本国民は、平和的に来星しているUFO宇宙人に対し、無恥なる鎖星、無謀なる攘夷行動は、厳に慎まなければなるまい」

「星援活動」。初めて目にする言葉だ。「平和的に来星している」にも驚いた。地球にやって来る宇宙人は「来星」するのであった。「星援活動」に「来星」。そして「鎖星」だ。国なら「鎖国」。星は「鎖星」だ。私は韮崎党首の言葉に次第に魅了されてしまった。続きを読む。

「宙恩に対しせめて星義でこれに応えるべきである。これが最も肝要であろう」

「宙恩」。どうやらわれわれ地球人は宇宙人に恩義があるらしい。しかもそれには「星義」で応えなければならないというのだ。「正義」からつくった造語なのだろう。それにしても「星義」には唸らされる。いったい宇宙人の恩にどうやって報いたらいいのだろうか。その説明はひとことも書いていなかった。

世の中はどうやら凄いことになっている。私は人間の想像力の豊かさに感動していた。「宙恩」なのだな。そして「星義」なのだな。感心していたら、別の政見が目にとまった。「雑民党」公認の森雅彦氏である。

なめたらアカンデ

どこまでナメルンヤ
 なめるんやったら
 エエとこナメテンカ
 エエかげんにセイヤ
 どこまでナメクサルンヤ!

今イルンヤ
 素人(ウソツケンヤツ)の政治が!

二人とも落選したのは言うまでもない。だが私は地球に「来星」している宇宙人の「宙恩」が気がかりでならない。

(2001.10.22)