夕空の法則

先週名古屋でで今年初めて雪が降った。

大雪警報が発令された。雪景色は久しぶりである。生まれも育ちも北海道なので、雪が降るとほっとする。

冬は雪だ。

「しんしんと降る」

静かに雪が降るさまだ。ことに大晦日にしんしんと降る北海道の雪はすばらしい。だが昨日の雪はちがった。

「霏々」

しきりに降るさまである。横殴りの風に乗った吹雪だ。結局外出せず、一日中家でじっとしていた。

雪国ではない地方に雪が降ると、必ず滑って転んで怪我をする人がニュースになる。その人の転び方にふさわしい言葉がある。

「すってんとひっくり返る」

すってん。誰が考えたかしらないが、転ぶさまが生き生きと伝わってくる。ほかの言葉ではこうはいかないだろう。

「のんべんだらりとひっくり返る」

まるでだめだ。

「まったりとひっくり返る」

まったりの使い方が間違っている。

「のほほんととひっくり返る」

こうなるともうわけがわからない。

「すってん」以外に転び方はないか。

「すってんころりん」

勢いよく転ぶさまだ。あくまでも転ぶさまを表す言葉である。ほかの動作で使っては具合が悪い。

「すってんころりんとあくびをする」

どんなあくびだ。

「すってんころりんと怒る」

そんな怒り方があるもものか。

「すってんころりんと仁王立ちする」

立っているのか転がっているのか。どっちなんだ。

それにしても「すってん」とはなんだろう。こんな言葉もある。

「すってんてれつく」

太鼓などの音を表す言葉だ。だがわたしの耳には、太鼓の音はドンドンとかトントンとしか聞こえない。昔の人の耳には「すってんてれつく」と聞こえたのだろう。だからといって、誰の耳にもそう聞こえるわけではなかろう。なかにはほかの音が聞こえる人もいるにちがいない。

「とっぴりへこぽこ」

なんだか間抜けな音だ。

「ごんつくぼんばん」

太鼓が破れそうである。

「はらひれほろはれ」

それはクレージーキャッツのギャグだ。

「すってん」を調べたら、こんな言葉を見つけた。

「すってんてん」

金や財産を全部失った状態、一文無しである。それにしても「すってんてん」である。いったいこの言葉はなんなのだ。一文無しでも家族がいたとする。その家族が愛想を尽かして家を出てしまった。残された男の状態はどうか。

「すってんてんてん」

「てん」がひとつ増えた。

男は借金のかたに家も差し押さえられた。金と財産を失い、家族を失い、とうとう家も奪われた。

「すってんてんてんてん」

男はホームレスになる。不良少年たちのおやじ狩りの恰好の餌食だ。ダンボールの家をめちゃくちゃにされる。

「すってんてんてんてんてん」

もう失うものはなにもない。男は雪道で滑って転ぶ。そのさまをどう呼べばよいか。

「すっとこどっこい」

すっとこどっこいにはなりたくないものである。

(2002.1.5)