街を歩いていると工事現場にさしかかる。そこでよく目にするのが、「ご迷惑をおかけします」という看板だ。ヘルメットをかぶってお辞儀をする人のイラストが描かれている。
「工事現場でお辞儀をする人」
この人はいったい何者なのか。かねてから不思議に思っていた。ところが、この人の名付け親がいたのである。
「オジギビト」
名付け親は「とり・みき」という漫画家である。『愛のさかあがり』(角川書店)で、お辞儀をする人を「オジギビト」と名づけた。
とり・みきは、オジギビトを四種類に分類している。「直立不動型」「ベンケイ型」「見得切り型」「モタレ型」だ。直立不動型を見てみよう。
直立不動である。丁寧に頭を垂れている。
なんだか二枚目である。ちょっと横に体が傾いでいる。それにしてもこの眉毛の立派さはどうだ。
わなわなと震えている。なにかしでかしそうで怖い。「ベンケイ型」を見よう。
仁王立ちである。弁慶だ。だが足がない。どうも画竜点睛に欠く。
足がある。だがどうも威厳がない。立入り禁止というよりも、「さあ、ぼくの胸に飛び込んでおいでよ」と誘いかけているようだ。「見得切り型」はどうか。
見得を切っている。まるで歌舞伎だ。思わず「大和屋!」と声をかけたくなる。
このしまりのない笑顔はなんだ。見得を切るならもっとしゃんとしたらどうだ。「モタレ型」はどうなっているのか。見てみよう。
たしかに看板にもたれかかっている。それにしてもなぜ目がかまぼこの形なのだ。オジギビトにはかもぼこ型の目が多い。謎である。
そんなところにもたれかかるな。もたれかかるというより、ビルに抱きついている。この女は何者だ。
だが、分類不可能なオジギビトもいる。
ヘルメットをかぶっていない。しかも表情がない。なぜか紙袋を提げている。だがお辞儀だけはしっかりしている。不気味である。
オジギビト。世界は謎で満ちている。
(2001.11.1)