夕空の法則

記念する

二日前、車を運転しながら、カーラジオを聴いていた。音楽番組の合間に、男性のDJがこんなことを言った。

「今日は、いいお産の日なんですよねえ」

なんのことだか分からなかったが、DJが説明してくれた。11月3日。数字を並べると1103。これを「イイオサン=いいお産」と読むのだという。

調べてみると、「いいお産の日」は、出産の現状をもっと多くの人たちに知ってもらい、今のお産の状況を少しでもよりよいものにしていこうと、出産を経験した女性たちや、自然なお産にとり組む助産婦が集まる日で、1994年11月3日に最初のイベントが東京で開かれたという。11月3日といえば文化の日である。この日に限らず、暦には記念日が多い。国民の祝日以外にもさまざまな記念日がある。私は思った。

「人はつい記念する」

記念日を制定せずにはいられない。

調べ続けているうちに、新たな事実を発見した。11月3日は「いいお産の日」だけではなかった。

「サンドウィッチの日」

制定したのはサンドウィッチのチェーン店、神戸サンド屋だ。サンドウィッチの生み の親とされるイギリスのサンドウィッチ伯爵の誕生日だそうだ。そこまではいい。「い い(11)サン(3)ド」の語呂合わせになっているのだ。私は思った。

「記念日はなぜか数字で語呂合わせにする」

それにしても113でサンドウィッチというのは強引すぎないか。と思ったら、サンド ウィッチの日は別にあることを知った。

「3月13日」

理由を聞いて驚いた。

「イチがサンに挟まれているから」

サンをパンに、イチを具に見立てている。なんて複雑な語呂合わせだ。これを考えた人はおそらく自分のアイデアに感心し、躍り上がって喜んだに違いない。それにしても、なぜこれほどまでにこじつけるのか。だが、記念日を制定する人は、とにかく語呂合わせに夢中である。

たとえば4月18日だ。

「よい歯の日」

日本歯科医師会が1993年に制定した。418を「よい歯」と読ませることで、歯磨きの習慣を普及させるのが狙いなのだろう。確かに分かりやすいし、覚えやすい。

では4月10日はどうか。

「駅弁の日」

まるで見当がつかない。制定したのは「日本鉄道構内営業中央会」である。由来の説明はこうだ。

「4と十を組み合わせると『弁』に見えるから」

そこまでこじつけるか。そうまでして記念したいのか。だが記念する人の想像力は果てしない。1月22日の記念日にも驚く。

「ジャズの日」

「JAZZ DAY実行委員会」という組織が制定した。由来が途方もない。

「JAZZ のJAはJanuaryで1月、22はZZに似ているから」

いったいどういう発想だ。だが記念する人は猪突猛進する。7月10日。

「あ、分かった。七と十で『納豆の日』でしょ」

正解である。ところがこの日は「植物油の日」でもあるのだ。日本植物油協会が制定した。この由来が分かる人がどれくらいいるだろうか。

「710をひっくり返して読むと英語のOILに見えるから」

記念する人はまったく油断も隙もない。

(2001.11.15)