毎日の楽しみのひとつは飼っているセキセイインコと戯れることだ。
夜は別として、日中はほとんどわたしの体にまとわりついて離れない。肩にとまっていたかと思うと膝に飛び移り、ふとんに横になって昼寝をしているとおでこにちょこんと座る。そして四六時中啼いている。その啼き声を描写したいのだが、これがどうも言葉で説明しづらい。
「ピーチクパーチク」
こんな単純なものではない。「ギュルギュル」とか「キュッキュッ」とか「コロコロ」とかが混ざったような複雑な声である。
複雑な声はなにもセキセイインコに限らない。人間も多種多様な声を出す。何人かがおしゃべりをする。ところが、その様子をあらわす言葉はなぜか決まっている。
「ぺちゃくちゃ」
いったい世の中に「ぺちゃくちゃ」と口にする人がいるものだろうか。ためしに客でごった返している居酒屋を覗いてみるがいい。
「ぺちゃくちゃ」
「ちがうよ、ぺちゃくちゃ」
「なに言ってるんだよ、ぺちゃくちゃ」
こんな人はいない。いくら酔っ払いといえども「ぺちゃくちゃ」と言う人はいない。
よくしゃべる人がいる。口が減らない。
「べらべらとよくしゃべるやつだ」
べらべら。そんな言葉を口にする人がいるか。もしいたとしたらその人と会話をするのは至難の業だろう。
「こんにちは」
「べらべら」
「え?なんですか」
「べらべら」
「おっしゃっていることがわからないんですけど」
「だから、べらべらですよ、べらべら」
逆に、言葉数が少ない人がいる。言いたいことがあるらしいが、なかなか口にしない。いいから話してごらんよと促すと、ようやく話し出す。
「ぽつりぽつりと話す」
この人の話の内容もさっぱりわからない。
「で、悩みって何?」
「・・・・・ぽつりぽつり」
「だから悩みだよ。何だよ悩みって」
「ぼそぼそ」
「具体的に言ってくれよ」
「むにゃむにゃ」
「おまえ、おれをばかにしているのか」
「へどもど」
「しまいには怒るぞ」
「しどろもどろ」
だが、何かを言ってくれるだけでもありがたい。中には口をかたく閉ざして貝のごとく押し黙る人がいる。質問しても返事をしない。
「うんともすんとも言わない」
「うん」はわかる。「すん」とはなんだ。もしこの人が、意を決して胸中を打ち明けたらどうなるだろう。
「相談に乗るから、な、話してごらんよ」
「うん。ありがとう」
「何があったんだ」
「すん」
わけがわからない。相談に乗った人は呆れるだろう。
「言うに事欠いて『すん』ってことはないじゃないか」
「すん」と言った人はなんとも弁解のしようがない。
「ぐうの音も出ない」
いったい「ぐうの音」とはなんだ。
「おい、『すん』ってことはないだろ。ふざけるなよ」
「ぐう」
ぐうの音が出てしまった。
インコに、チュチュチュと舌打ちしてみた。インコもチュチュチュと啼いた。
「インコがオウム返し」
おまえはいったい何者だ。
(2001.12.20)