夕空の法則

お買い回り下さい

去年開店したばかりの近所の大型スーパーに出かけた。

売り場は一階が衣料品、二階には雑貨や書店、飲食店がある。地下は食料品店だ。スターバックスも出店していて、毎日賑わっている。三階から六階までは屋内駐車場で、二千台以上収容できる。

駐車場に車を停めて店内に入ろうとしたら看板が目に入った。

「貴重品は必ず手に持ってお買い回りください」

そんなことは言われなくてもわかっている。余計なお世話だ。だがわたしは足をとめた。

「お買い回りください」

初めて目にする言い回しだ。

「買い回る」

ためしに辞書で調べてみた。載っていない。ただし「買回り品」という言葉があった。

「かいまわりひん 【買(い)回り品】 消費者がいくつかの商店を回り、価格・品質などを比較検討した上で購入する品物。主に耐久消費財・趣味品など」

この名詞から「買い回る」という動詞を思いついたのだろう。なにしろ大型スーパーだ。中にはたくさん店がある。あれも買いたい、これも欲しいとなると、店を次々と回ることになる。だがわたしはまったくちがう解釈をしていた。

A 買いながらその場で回る  B 買ってからその場で回る

Aは大変である。レジに並ぶ。財布を取り出す。支払いをしながら、その場でくるくると回転する。目が回り、どうと倒れる。札束が舞い、硬貨が散らばる。起き上がり、金を拾い、また回転する。いったいなにをやっているんだ。

Bも意味不明である。なぜ回転するのか。嬉しいのか。マンガなどでは、嬉しさを回転で表現することがあるが、わたしはこれまでの人生で、回転しながら喜びを表している人に出会ったことがない。だが、買い回る人は嬉しくてたまらない。買った途端に回転だ。客という客がこぞってコマのように回っている。棚にぶつかる。商品が崩れ落ちる。

考えてみると、「回る」がつく動詞はこればかりではない。

「飛び回る」

飛びながら回転する。伊藤みどりだ。伊藤みどりにしかできない技である。

「嗅ぎ回る」

においを嗅いで、その場で回転する。犬だ。

「逃げ回る」

逃げながら回転する。回転している場合か。まっすぐ走ったらどうだ。

「這いずり回る」

こんな人がそばにいたら落ち着かない。なにしろ床を這いながら回転するのだ。回転の摩擦でカーペットが燃える。火事だ。水はどこだ。水を探さねばならない。

「探し回る」

またしても回転だ。ぼやぼやしているうちにカーペットは黒こげである。持ち主の怒りはおさまらない。

「暴れ回る」

どうしてどいつもこいつも回るのか。持ち主は憤懣やるかたない。

「のた打ち回る」

おまえが回ってどうする。今度は絨毯が燃え出した。

「火の手が回る」

火の手がくるくると回転する。火に手があることに驚かされるが、それが回転するとはさらに驚きである。光景を思い浮かべる。

「斬新なイルミネーション」

今年のクリスマスは火の手を回すことをお勧めする。

(2001.12.16)