大掃除をした。
大掃除をするのは何年ぶりだろう。ひとり暮らしをはじめてかれこれ16年になるが、年末に大掃除をしたという記憶がほとんどない。それには理由がふたつある。
まず長らく病を患っており、家の掃除はおろか、日常生活を営むことさえ困難な日々がずっと続いていたからである。勤め先の大学が長期休暇に入ると二ヶ月にわたって寝たきりの暮らしを余儀なくされていた。去年は半年休職し、今年度も丸一年休職中である。だが今年の秋頃からようやく体調が良くなり、睡眠や食事が規則正しくなり、毎日掃除機をかけたりできるようになった。
もうひとつの理由は、生来掃除や整理整頓が苦手だからである。とりわけ整理整頓のだらしなさにかけてはわたしの右に出る者はいないと自負している。そんなことを自負してどうするのか。だがとにかく整理整頓できない。とことん、できない。仕事柄、書斎の壁一面に本棚があり、事典や書籍、文庫本などを並べているが、並べ方がじつにどうも無造作である。どこになにがあるかはわたし自身が把握しているから問題はないが、他人がみればあまりのでたらめさに嘆くことだろう。
本を買い漁るあまり、ついに本棚に収まりきらなくなった。それらは書斎と居間の床に積んである。本だけではない。CD や CD-ROM、DVD なども、棚に収まらないものは床だ。
数年ぶりの大掃除をしていたら、大事なものを紛失してしまったことに気がついた。平凡社の『世界大百科事典』の CD-ROM である。この「夕空の法則」はもちろんパソコンで書いているが、その CD-ROM はいつもパソコンのそばに置いていた。だがいつのまにか、どこかに消えてしまった。
探さなければならない。これが一仕事である。
まずパソコンがある机の上の辞書や本や書類の山をかき分けて探す。見つからない。そのかわりに、妙なものが見つかる。
『新潮45別冊二月号 コマネチ! ビートたけし全記録』
こんなものを買っていたのだ。「全記録」というだけあって、たけしが出演したテレビ番組の一覧が載っている。それだけでも歴史的価値があろう。だがわたしが探しているのは『世界大百科事典』の CD-ROM だ。どこに行ったのか。机の下の床の本の山を探してみた。
北野武編『コマネチ!-ビートたけし全記録-』新潮文庫
またしても『コマネチ!』である。文庫版まで買っていたなんて忘れていた。思わず読む。なんとエリザベス女王からの手紙が載っている。
「バッキンガム宮殿 1997年11月5日
10月24日付のお手紙拝読しました。女王陛下は、今年度のベネチア国際映画祭において、北野武氏がその最新作『HANA-BI』で金獅子賞を受賞されたことを聞き、いたく興味を示しておられました。
女王陛下は、わざわざお知らせいただいたことに感謝すると同時に、北野氏の偉業に対して心よりの祝福を送っておられます。
敬具
ミセス・ジル・ミドルバーグ主席事務官」
だがこんなものを読んでいる場合ではない。CD-ROM だ。どこにあるのか。捜索はさらに続く。別の本が出てきた。
『ユリイカ臨時増刊 北野武そして/あるいはビートたけし』
『世界大百科事典』の CD-ROM はまだ見つからない。
(2001.12.30)