『オックスフォード英国人名辞典』 Oxford Dictionary of National Biography のスペイン版『オックスフォード・スペイン人名辞典』 Diccionario de Oxford de Biografías Nacionales が十二年間の準備期間を経ていよいよ刊行開始。全五十巻でデータ数は四万三千人。まず A から H までを収めた二十五巻を出版。残りの二十五巻は2012年半ば刊行予定。
本家英国版がいわゆる歴史上の人物すなわち物故者のみを対象とするのに対し、スペイン版の対象は1950年以前に生まれた人が対象で、さらに二つ例外があり、王室メンバー及び政府の歴代閣僚に限り1950年以降生まれの人物も立項。従って英国版にはエリザベス二世の項目がなく、逆にスペイン版にはフアン・カルロス一世の項目があります(執筆者は王室公認伝記作家ビセンテ・パラシオ)。ただし Juan Carlos I は「J」の項目なので今回の刊行分には含まれていません。最年少は元男女共生省大臣のビビアナ・アイード(1977年生まれ)。最古の人物は紀元前三世紀の軍人イストラシオ。
この種の辞書は昔から必要性が説かれてきたものの実現には時間がかかりました。遡ること二世紀以上前、1738年に王立歴史アカデミーが『世界歴史批評辞典』 Diccionario Histórico-Critico Universal を編纂するにあたり「著名なる男子の項目を含めることとす」という規約を定めたものの懸案のまま。十九世紀に入りスウェーデンを筆頭にイギリスなどヨーロッパ各国が競って自国の人物辞典を出版した潮流にも乗り遅れてしまいました。今回の出版企画が始まったのは1998年、ゴンサーロ・アネスが歴史アカデミー会長に就任したとき。執筆陣には英国のスペイン史研究家ジョン・エリオットやフランスのジョセフ・ペレス、アメリカのスタンリー・G・ペインなど世界各国の専門家が名を連ねています。
記事の終わりにグレーの囲み記事というかメモがあります。四万三千人のうち女性は三千八百人で、女性が全データの十パーセントを占める英国版に較べると少ない。その理由は監修者ハイメ・オルメードによると「十九世紀のイギリスで傑出した女性が多く輩出したため」とのこと。発行部数は千部と僅少。データはいずれネットでも閲覧できるようになるそうですが、現時点では不可。歴史アカデミー直売で、分冊販売は不可。各巻850ページで価格は3500ユーロ。
おもしろいアイデアは何でもパクるボリウッド。アレハンドロ・アメナーバル監督の『海を飛ぶ夢』 Mar adentro もパクられました。タイトルは Guzaarish(哀願)。グザーリッシュ? どう発音するのでしょう?
主演の Ethan Mascarenhas はインドのスター俳優。ストーリーは『海を飛ぶ夢』に「ヒントを得た」どころの騒ぎではなく、裁判所での陳述シーンなどは完全コピーだそうです。ところが劇場公開時の宣伝資料も公式サイトもDVDの特典映像も『海を飛ぶ夢』には一切触れず、アメナーバルのアの字もなし。ウィキペディアには詳細なデータが記載されているものの、やはりアの字も出てこない。制作費が7億5千万ルピー(約1170万ユーロ=1650万ドル)のところ興収はわずか2億9400万ルピーで大こけ。ところが半年後に発売されたDVDは大人気。映画ファンはコピーであることを承知の上。
オリジナル版の製作会社ソヘシネがインドから再映画化権の獲得交渉を受けたかどうかEFE通信社が取材したところ、はっきりとした返事はなかったそうです。
インドのコピー映画は数知れず、『ゴッドファーザー』(1972年)が Dharmatma (1975年)に、『スカーフェイス』(1983年)が Agneepath (1990年)に、『レオン』(1994年)が Bichhoo (2000年)に、『レザボア・ドッグ』(1992年)が Kaante (2002年)にとやりたい放題。西班牙映画ではアルモドバルの『ライブ・フレッシュ』(1997年)が2006年に Bas Ek Pal(ただ一瞬)のタイトルでパクられました。
3月4日と旧聞に属する記事ですが、とりあげようと思ってとりあげ忘れたのでありました。
言語アカデミーに美術アカデミー、歴史アカデミー、医学アカデミーなど、スペインには数多くの王立アカデミーがあります。そして本年3月3日、新たなアカデミーが誕生しました。その名も「非王立=非実在エスペルペントアカデミー」。Real(王立)ではなく Irreal(非王立/非実在)なのがミソ。
エスペルペント(esperpento)は言うまでもなく小説家・劇作家のバリェ=インクランが戯曲『ボヘミアの光』 Luces de Bohemiaで編み出したデフォルメとグロテスクな描写を特徴とする手法のこと。主人公マックス・エストレーリャ(Max Estrella)の名はスペインの演劇賞最高峰「マックス舞台芸術賞」にその名をとどめています。
ブルジョワの慰み物と化したありきたりの通俗演劇をバッサリ斬りすてたバリェ=インクランとエスペルペントの文学的意義を後世に伝えるべく発足。発足式は3月3日、マドリードのフエンテタハ書店内のカフェ・ビストロ「マックス・エストレーリャ」で行われました。写真を見てのとおり、バリェ=インクランに扮した者もいて、洒落を大まじめにやってるところがたいへんよろしい。
式典では文献学者の故アロンソ・サモーラ=ビセンテを永久会員に任命。彼は14年前の発起人で、晴れて設立の暁には会長職をつとめられたしと打診され快諾したものの2006年に惜しくも他界。ほかの会員は総勢16人。記事が紹介する順に列挙すると、まず会長兼裏工作担当者(!)が劇作家でジャーナリストのイグナシオ・アメストイ。書記長がジャーナリストのロサーナ・トーレス。この二人を含めた常任委員会のメンバーには大学教授のハビエル・ウエルタ、劇作家ルイス・アラウホ、批評家エンリケ・センテーノ、芝居愛好家チャトーノ・コントレーラス、女優で歌手のカローラ・エスカローラ、映画監督干せ・ルイス・ガルシーア=サンチェス、劇作家マヌエル・ゴメス、建築家で芸術サークル会長のフアン・ミゲル・エルナンデス=デ=レオン、作家ラモン・イリゴーイェン、ヘスス・ミランダ=デ=ラーラという名の作家マリアーノ・ホセ・デ・ラーラの gozno(って何だ?)、詩人で元文化大臣のセサル・アントニオ・モリーナ、女優エスペランサ・ロイ、大学教授ホルヘ・ウルティア、批評家で作家のハビエル・ビリャン。写真でバリェ=インクランと生き写しの男はそっくりさんで有名なシェルラド・パルド=デ=ベラ。
式典の最後はバリェ=インクランがこよなく愛したサルスエラ『ファラオの都』の挿入歌「バビロニオ」をエスペランサ・ロイの歌声に合わせて全員で合唱。この歌は非実在アカデミーの会歌だそうです。
セルバンテス文化センター Instituto Cervantes が本部を構えるマドリード市アルカラ通り49番地の建物はもともと中央銀行で、地下に貸金庫があるのですが、四年前からこれを「文芸箱」(Caja de Letras)として活用しています。わかりやすく言えばタイムカプセル。これまで十六人が「遺品」を保管。そして昨日、演劇人として初めてヌリア・エスペルが「遺品」を託しました。金庫の番号は1550番。「遺品」の中身はヌリアが百歳を迎える2035年6月11日まで秘密だそうです。「六十年に及ぶ女優歴を象徴するような遺品を選ぶのは難しかったので、仕事より感情に即したものを選びました」とヌリア。
通信社 Europa Press 配信によるスペインのメディア調査協会(AIMC)が発表した第14回映画館調査結果。映画館数(サイト数)が最も多いのはカタルーニャ州(760館)で、二位がアンダルシア州(703館)、三位がマドリード州(547館)。この三地域で国内総数の半分を占めます。
映画館がある市町村は467と少ないものの、これらの地域に総人口の63.1%が居住。スクリーン数は3932。日本のスクリーン数は社団法人日本映画製作者連盟によると3412。スペインの人口は約4600万人で日本の三分の一強であることを考えると、スペインは日本の三倍以上もあることがわかります。デジタル設備を有するスクリーン数は980、うち3D対応は735。日本はそれぞれ980と763でほぼ同数ですから、人口比で言うとスペインが三倍。
昨日コルドバ大劇場で開催された第14回マックス舞台芸術賞授賞式。下馬評通り『上演予定』 La función por hacer がノミネート九部門中七部門を獲得して圧勝。ピランデッロの『作者を探す六人の登場人物』を翻案した本作は、マドリードのララ劇場の舞台ではなくホールでささやかにスタートした作品。
部門 | 受賞者 | 作品 |
---|---|---|
名誉賞 | ホセ・モンレオン | |
ミュージカル演出 | ジュアン・ミケル・ペレス | ペガードス Pegados |
制作 | カミカゼ・プロドゥクシオネス | 上演予定 |
新人舞台 | ラユエラ・プロドゥクシオネス | ドッグヴィル Dogville |
新潮流 | マドリード振付コンクール | |
舞台美術 | アンドレア・ドドリコ | グレンギャリー・グレン・ロス |
照明 | フアンフォ・リョレンス | 上演予定 |
衣裳 | ウリサ・サンス | 雲 Nubes |
批評マックス賞 | パリ・ドン・キホーテ・フェスティバル | |
助演女優 | マヌエラ・パソ | 上演予定 |
助演男優 | ラウル・プリエト | 上演予定 |
主演女優 | ビッキー・ペニャ | マールブルク Marburg |
主演男優 | カルロス・イポリト | グレンギャリー・グレン・ロス |
女性舞踊家 | ソル・ピコー | |
男性舞踊家 | イズラエル・ガルバン | |
児童演劇 | アラカラダンサ | 雲 Nubes |
ミュージカル | ザ・カクタス・ミュージック・コーポレーション | ペガードス |
最優秀舞踊 | ワンダーランド | ビクトル・ウリャーテ |
最優秀演劇 | カミカゼ・プロドゥクシオネス | 上演予定 |
振付 | ソル・ピコー | エル・ボール El Ball |
中南米マックス賞 | Festival del Sur / Encuentro Teatral Tres Continentes | |
脚色 | ミゲル・デル・アルコ、アイトール・テハーダ | 上演予定(ピランデッロ作『作者を探す六人の登場人物』) |
カタルーニャ語・バレンシア語 | キコ・カダバル | 知らない人のためのシェイクスピア |
バスク語 | アグルツァーネ・インチャウラーガ、アランチャ・イトゥルベ | 父の旅 Aitarekin Bidaian |
カスティーリャ語 | フランシスコ・ニエバ | 雉鳩、黄昏、幕 Tórtolas, crepúsculo y telón |
作曲 | カルラス・サントス、アラ・マリキアン | ルチャリブレがプリセに帰って来た La lucha libre vuelve al Price |