27歳のコロンビア人監督、オスカル・ルイス・ナビア Óscar Ruiz Navia の『カニの転倒』 El vuelco del cangrejo が第60回ベルリン国際映画祭で国際映画批評家連盟賞(フォーラム部門)を受賞しました。日本のマスコミでは英語タイトルをカタカナ表記した『クラブ・トラップ』を邦題とみなしているようです。
青年ダニエルが太平洋に面する小さな町ラ・バーラに数週間滞在し、地元の農民の騒動に巻き込まれ、子供がいる未婚の女ルシアと恋に落ち、太鼓やマリンバ、たき火で祝う儀式に参加し、ルシアのおかげで人生を再スタートさせるというストーリー。予告編をみるとカニをひっくり返しているので、タイトル(El vuelco del cangrejo)は文字どおり「カニをひっくり返すこと」「裏返しにすること」です。
コロンビアの監督が同賞を獲ったのは、1982年のマルタ・ロドリゲス監督のドキュメンタリー『大地と記憶と未来についての我々の声』 Nuestra voz de tierra, memoria y futuro 以来二度目。
今年はミゲル・エルナンデス生誕百周年。スペイン内戦終結直後に死刑宣告を受け獄死したミゲルの遺族が汚名返上を政府に嘆願、マリア・テレサ・フェルナンデス・デ・ラ・ベガ副首相が受け入れ、「直ちに」汚名返上の措置をとると言明しました。
遺族はフランコ政権による死刑宣告が不当であることを「公の場で認め償う」よう、昨年10月末にアリカンテ市に要望書を提出。デ・ラ・ベガ副首相は了承し、法務大臣フランシスコ・カマーニョの署名入りの名誉回復証明書をミゲルの遺児の妻ルシア・イスキエルドに「直接手渡したい」とのこと。
ミゲル・エルナンデスは1940年1月18日、民衆擁護の詩を書いた「裏切り者の密告者」として死刑宣告を受け、後にフランコが禁固30年に減刑。しかし1942年アリカンテの獄舎で病死しました。
生誕百周年行事は予定通り行われるそうです。目玉は10月にマドリードの国立図書館で開催される展覧会『克服された影』 La sombra vencida 、ミゲル・エルナンデス全集刊行、10月末の第三回ミゲル・エルナンデス国際シンポジウム(開催地はアリカンテとエルチェと生地オリウエラ)。
部門 | 作品 |
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作品賞 | 独房211 Celda 211 |
イスパノアメリカ映画賞 | 瞳の奥の秘密 El secreto de sus ojos |
監督賞 | ダニエル・モンソン (独房211) |
新人監督賞 | マル・コル 家族との三日間 Tres días con la familia |
オリジナル脚本賞 | マテオ・ヒル、アレハンドロ・アメナーバル (アゴラ) |
脚色賞 | ダニエル・モンソン、ホルヘ・ゲリカエチェバリーア (独房211) |
オリジナル作曲賞 | アルベルト・イグレシアス (抱擁のかけら) |
オリジナル歌曲賞 | Yo, también |
主演男優賞 | ルイス・トサール (独房211) |
主演女優賞 | ローラ・ドゥエニャス (Yo, también) |
助演男優賞 | ラウル・アレバロ (Gordos) |
助演女優賞 | マルタ・エトゥーラ (独房211) |
新人男優賞 | アルベルト・アンマン (独房211) |
新人女優賞 | ソレダー・ビリャミル (瞳の奥の秘密) |
製作監督賞 | ホセ・ルイス・エスコバール (アゴラ) |
撮影賞 | シャビ・ヒメネス (アゴラ) |
編集賞 | マパ・パストール (独房211) |
美術賞 | ガイ・ヘンドリックス・ディアス (アゴラ) |
衣装デザイン賞 | ガブリエッラ・ペスクッチ |
メイクアップ&ヘアスタイル賞 | ジャン・スーウェル、スザンヌ・ストークス=マントン (独房211) |
音響賞 | セルヒオ・ブルマン、カルロス・ファルオロ、ハイメ・フェルナンデス (独房211) |
特殊効果賞 | クリス・レイノルズ、フェリクス・ベルヘス (アゴラ) |
長編アニメーション賞 | プラネット51 |
長編ドキュメンタリー賞 | ガルボ、世界を救った男 Garbo, el hombre que salvó al mundo |
ヨーロッパ映画賞 | スラムドッグ・ミリオネア |
短篇映画賞 | ディメ・ケ・ヨ Dime que yo |
短篇アニメーション賞 | 婦人と死 La dama y la muerte |
短篇ドキュメンタリー賞 | ルアンダの花 Flores de Ruanda |
名誉ゴヤ賞 | アントニオ・メルセーロ |
下の記事の補足。
今度はビスカヤのコレオ紙ですが、今年で13回目の舞台芸術マックス賞、今回は通例と異なりセレモニーの前に受賞者を発表するそうです。時期は五月、場所は未定ってところがいかにもスペインらしい。
ノミネート作品一覧はオフィシャルサイトでどうぞ。
舞台芸術マックス賞、ノミネート作品が発表されました。
1992年に自殺したボクサー、“ウルタイン”ことホセ・マヌエル・イバールの生涯を舞台化した劇団アニマラリオの『ウルタイン』(アンドレス・リマ演出)が演出賞、最優秀作品賞、劇作家賞など12部門でトップ。主人公を演じたロベルト・アラモは主演男優賞候補、しかも劇団の同僚アルベルト・サン・フアンも『タイタス・アンドロニカス』で主演男優賞候補。
次いでアーサー・ミラー作、エドゥアルド・メンドーサ台本、マリオ・ガス演出の『セールスマンの死』が7部門。リュイス・パスクアル演出『ベルナルダ・アルバの家』が最優秀作品賞と、ポンシア役のロサ・マリア・サラダが主演女優賞候補。主演女優賞には『これからの人生』 La vida por delante のコンチャ・ベラスコと、『ハムレット』をヌードで演じて話題になったブランカ・ポルティーリョもノミネート。
最優秀演出家賞にはリュイス・パスクアル、マリオ・ガス、アンドレス・リマが三つ巴。
そんなわけで今年もアニマラリオが主要部門をかっさらうでしょう。
「芝居をする際、フラメンコにおける声の使い方から大いに学んだ」――魔術師(エル・ブルーホ)こと俳優ラファエル・アルバレスの意外な告白。マドリードのアルカサル劇場で始まるフェルナンド・キニョネス作『証人』 El Testigo に合わせたインタビュー。3月14日まで。
芝居では言葉で豊かな表現をしなくてはならず、フラメンコの歌手は声だけで観客の心を動かす。「芝居ではなかなかみられない」。家では母親がサエタを歌い、父親は「田舎町によくあるフラメンコサークルの常連だった」とのこと。
『証人』の原作は、とあるカフェで〈証人〉フアンがインタビュアーにミゲル・パンタロンの波乱に満ちた人生を語るという構造ですが、ラファエル・アルバレスはこの設定に手を加え、ファリャ劇場(カディス)で催されるパンタロン追悼集会にフアンが招かれ舞台で話をさせられるという構造にしました。
アルバレスによるとミゲル・パンタロンは「フラメンコ界のドン・キホーテ」。ドン・キホーテが怪物を、サンチョ・パンサが俚諺を表象していたとすれば、パンタロンは怪物でありロマンセ。「フラメンコにおいてソレアは怪物、カンテは不可能なもの、世界との対峙を表象する」。舞台で何度もドン・キホーテを演じてきたエル・ブルーホらしい解釈です。