先週末『ルークリースの陵辱』 La violación de Lucrecia 公演でイビサ島を訪れる直前のヌリア・エスペルがマドリードの自宅で日刊イビサの電話取材に応じた記事です。
25年近く仕事をしてきたが今の映画界をとりまく状況は前代未聞、映画製作がこれほど困難な時代はかつてなかった、資金調達を呼びかける門戸はどんどん狭くなるばかり――きのうマラガで開かれたウニカハ財団の映画監督セミナーで1962年生まれの映画監督グラシア・ケレヘータが現状を嘆いています。
「テレビなしでは資金調達は不可能。以前のテレビ局はさまざまなタイプの映画に対してもっと開かれていた」。2007年に彼女が監督した『七台のキャロムビリヤード』 Siete mesas de billar francés はもはや制作不可能。新人監督がテレビ局の援助を足がかりに巣立つのは「とてもいいこと」と認めつつ、「テレビ局が主要な資金源になるにつれて、結局どんな映画を作るべきかを決めるのがテレビ局になってしまう。それが足枷になる」。
いま進行中の企画タイトルは Felices 140。ヨーロッパの宝くじユーロミリオンズで1億4千万ユーロ(約156億円)を当てた女性が田舎の屋敷に友人七人を招いて四十歳の誕生日を祝い、マスコミに追われる話。主演はマリベル・ベルドゥを予定、ただし契約はまだ。撮影はアリカンテのスタジオ〈光の都市〉 Ciudad de La Luz で来年七月か八月に開始予定。〈一軒家に少人数〉はカルロス・サウラの『ママは百歳』から得たアイデア。
もうひとつの企画はロシオ・フラードの人生をたどる連続テレビドラマで、放送局はアンテナ3。ただし企画がスタートしてからかなり経つものの実際に制作されるかどうかは未定。
メリダ古典演劇祭 Festival de Mérida のディレクターを三年務めたフランシスコ・スアレスが今月19日付けで契約満了につき解任。後任人事は未定。
古代ギリシャ・ローマの戯曲とその翻案劇のみを扱う、事実上世界唯一のフェスティバルなのですが、近年はエストレマドゥーラ州政府文化省が無理やり歌手・女優のマリア・ドローレス・プラデーラのコンサートを入れたり、ギリシャ悲劇のエレクトラとは無関係の小説家ペレス・ガルドスの戯曲『エレクトラ』をプログラムに組んだりして、「古代ギリシャ・ローマの精神と相容れない」とするスアレスは文化省と対立していました。
噂によると来年の予算は約60万ユーロ(約6800万円)で、これが事実だとすると前年比60%減だそうです。
記事の冒頭で触れていますが、第一回が開催されたのはスペイン内戦直前の1933年で、オープニングはミゲル・デ・ウナムーノ版『メデイア』。主演は大女優マルガリータ・シルグ、演出はリーバス・チェリフ。第二共和制政府のマヌエル・アサーニャ首相も臨席しました。
舞台女優として半世紀以上のキャリアを誇るヌリア・エスペル。今年七十五歳。名声をほしいままにするエスペルが「自殺行為に等しい危険なプロジェクト」(ロサーナ・トーレス記者)に乗り出しました。シェイクスピアの物語詩『ルークリースの陵辱』 La violación de Lucrecia (The Rape of Lucrece) の舞台化です。この詩が舞台化されたという記録はなく、まさに前代未聞。先週16日(土)にガリシアのオレンセ中央劇場で初日が開きました。
初めて読んだのは二十歳のとき。「すっかり気に入ったの。七十四歳になって読み直して、女優として進む道はこれだと決めました。シェイクスピアのその後の作品の萌芽と壮大さがすべて詰まっている作品」。古代ローマの王タルクイヌス・コラーティーヌスの貞淑な妻ルクレーティアの物語。タルクイニウス・スペルブスの子セクストゥスに犯され、夫に告白して自害。
演出は四十五歳のミゲル・デル・アルコ。制作フアンホ・セオアーネ。翻訳はホセ・ルイス・リーバス・ベレス。今月22日にジローナのハイシーズン・フェスティバル Festival de Temporada Alta に参加。イビサ島で公演し、11月4日からマドリードのエスパニョール劇場。その後も国内巡演の予定。
長編二作目『リミット』 Buried がきょうから全米二千の映画館で公開されるスペイン人監督ロドリゴ・コルテス(37歳)。次回作『赤い灯(原題)』 Red lights にロバート・デ・ニーロとシガニー・ウィーバーの器用が決まったそうです。製作は『リミット』と同じく、バルセロナに拠点を置く Versus Entertainment 社のアドリアン・ゲラ。ロサンゼルスの Parlay Films 社が世界配給を手がけ、韓国の Blue Storm 社も製作に参加。撮影は来年二月にバルセロナで七週間、その後カナダで二週間の予定。
脚本はコルテスのオリジナル。シガニー・ウィーバー演じる精神科医とその助手がロバート・デ・ニーロの超心理学者を調査する話だそうです。
今年11月11日に93歳を迎えるはずだった俳優マヌエル・アレハンドレが今月12日死去。
マドリード生まれで、法学と建築士の勉強をやめて俳優に転身。大学生時代に王立音楽院でカルメン・セコのデクラメーション(朗読術)の授業を受け、同級生のフェルナンド・フェルナン=ゴメスと親友になりました。三百本以上の映画に出演。
本名は Manuel Alejandre Abarca なのですが、名字の Alejandre の j を x に変更。「フランス趣味のせいではないか」(談:甥パコ)。アレハンドレではなくアレクシャンドレと発音するのでしょう。
カタルーニャ演劇界の大御所エステバ・ポイス(88歳)が現在ルメア劇場で上演中のフアン・アントニオ・カストロ作『モリエールと戯れて』 Jugant amb Molière を最後に、58年に及ぶ演出家人生に終止符を打つと発表しました。上演期間は10月13日から26日まで。
彼の才能を見いだしたのはジュゼップ・マリーア・ダ・サガーラ Josep Maria de Sagarra で1952年のこと。サグラダ・ファミリアで聖体神秘劇を上演したのが目に止まり、電話をかけて、自身の戯曲『愛は女将で生きる(原題)』 L'Amor viu a dispesa をルメア劇場で演出しないかと声をかけてくれたのがきっかけ。「気絶しそうになったよ」と楽しく述懐。
ヌリア・エスペルの師匠としても有名。教え子にはアドルフォ・マルシリャックもいますが、「いい俳優だがエゴイスト」と手厳しい。
二人目の妻が仕事で中南米に渡り、五年後彼女の後を追ってコロンビアとコスタリカで国立劇団の創立に尽力。人生最悪の決断は「スペインに帰国したことだよ! なぜかって? いちばん評価されなかった国だからだ。補助金もひどい制度だった。無利子で融資するべきだ」。
引退を表明したものの、『モリエールと戯れて』はロングランを目指すそうで、マドリードのエスパニョール劇場のマリオ・ガス芸術監督とルメア劇場のカリスト・ビエイト芸術監督も上演に前向き。「できればスペイン南部を巡演して、カタルーニャでも五十ヶ所くらいでやりたい」と意気軒昂。
予想通りの展開です。まだ噂に過ぎませんが、"Times Live" によるとハリウッドで映画化の話が進行しており、主役はハビエル・バルデム。
テレビドラマの制作も始まっており、二つはスペイン、一つはチリで制作。スペインのテレビ局アンテナ3傘下の Antena 3 Films とコロンビアのダイナモ・ファクトリー Dynamo Factory は十日前から共同で救出現場で撮影中で、タイトルは『サンホセの33人』 Los 33 de San José。別のスペインのテレビ局リンセ・テレビシオン Linze Televisión も二部構成のテレビドラマを制作するかも知れないとのこと。
『不貞な女たち(原題)』 Mujeres infieles (2004)で知られるチリの映画監督ロドリーゴ・オルトゥーサル Rodrigo Ortúzar も目下サンホセで音声映像資料を調達中で、映画タイトルは『33人』 Los 33、2012年に公開予定。
今年で25五周年を迎えるカディスのイベロアメリカ演劇祭。今年は10月19日から30日まで開催。財政状況が厳しいせいか、予算は昨年より六万ユーロ(約688万円)減。9ヶ国から合計32の団体が参加。ただし世界初演の作品は皆無。財政について「逆説的な話だが、スペイン演劇界は中南米の演劇界から学ぶ必要がある。彼の地では経済危機が常に旅の友(道連れ)だ」と、フェスティバルのディレクター、ホセ・バフレー氏。
わたくし自身、スペインの某フェスティバルと約一年かけて交渉を続けてきましたが今月破談に終わりました。どこのフェスティバルも台所事情は火の車のようです。
今年のノーベル文学賞にマリオ・バルガス=リョサが決まりましたが、数年前にこの舞台通信でお伝えしたとおり、彼には舞台俳優としての顔もあります。自身が執筆した三作品で舞台に立ち、すべてジュアン・オリェー演出(記事には Juan Ollé とありますがバレンシアの人で正しくはジュアン Joan)、女優アイタナ・サンチェス=ヒホンとの二人芝居。『嘘から出たまこと』 La verdad de las mentiras、『オデュッセウスとペーネロペーの情熱』 La pasión de Odiseo y Penélope(メリダ国際古典演劇祭参加)、『千夜一夜物語』 Las mil noches y una noche(記事に mil y unas noches とあるのは誤り)。
YouTube で『千夜一夜物語』の一部が見られます。
映画との関わりもあり、若いころは Vincent N というペンネームで映画批評を書き、1975年にはホセ・マリア・グティエレス監督と共同して自らメガホンをとり、自作小説『パンタレオン大尉と女たち』を映画化しました(邦題『囚われの女たち』)。ロケ地はスペインとサントドミンゴ。
昨日マドリードのレアル劇場でパコ・デ・ルシアがコンサートを行い、フラメンコをユネスコの無形文化遺産に申請する政府と各自治州のキャンペーンに一肌脱ぎました。申請が受理されるかどうかは来月発表されます。五年前にも一度申請しており、そのときは落選。今回が二度目。
会場にはマヌエル・チャベス、アンヘレス・ゴンサレス=シンデ文化相、ビビアナ・アイード、トリニダー・ヒメネスの各大臣が出席。そのほかアンダルシア州知事ホセ・アントニオ・グリニャン、社会労働党の下院スポークスマン、ホセ・アントニオ・アロンソ、社会労働党議員のカルメン・カルボ元文化相、マドリード州副知事イグナシオ・ゴンサレスも。フラメンコ界からも歌手のディエゴ・エル・シガーラ、舞踊家サラ・バラス、ギタリストのトマティートが集まりました。
パコ・デ・ルシアはまずソロでご機嫌を伺い、歌手のドゥケンデとダビ・デ・ハコバ、舞踊家ファルーコが加わり、ファルーコが踊ったアレグリアス「我が故郷に幸あれ」 Bendita sea mi tierra で最高潮に。
無形文化遺産登録に向けて今年一月からアンダルシア州政府文化省と各市がウェブで行っているキャンペーン "Flamenco soy"(私はフラメンコ)には二百万人に以上のアンダルシア州民が署名。呼びかけ人代表はサラ・バラス。
追記: EFE通信がコンサートの映像の一部を YouTube で公開。
英文芸誌『グランタ』 Granta がスペイン語圏の若手小説家ベスト22を発表しました。若手ベストシリーズはこれまで1983年、1993年、2003年にイギリス人作家を、1996年と2007年にアメリカ人作家を取り上げましたが、非英語圏は今回が初めて。審査員は六名で、ヴァレリー・マイルズ、アウレリオ・マホール(ともに『グランタ』スペイン語版編集者)、フランシスコ・ゴールドマン(グアテマラ系アメリカ人小説家)、メルセデス・モンマニー(カタルーニャの批評家・編集者・作家)、イザベル・ヒルトン(イギリス人ジャーナリスト)、エドガルド・コザリンスキー(アルゼンチン人作家・映画監督)。
1975年1月1日以降生まれが対象で、以下がそのリスト。
Andrés Barba | アンドレス・バルバ | スペイン | 1975 |
Oliverio Coelho | オリベイロ・コエーリョ | アルゼンチン | 1977 |
Andrés Ressia Colino | アンドレス・レシア・コリーノ | ウルグアイ | 1977 |
Federico Falco | フェデリコ・ファルコ | アルゼンチン | 1977 |
Pablo Gutiérrez | パブロ・グティエレス | スペイン | 1978 |
Rodrigo Hasbún | ロドリーゴ・アスブーン | ボリビア | 1981 |
Sònia Hernández | ソニア・エルナンデス | スペイン | 1976 |
Carlos Labbé | カルロス・ラベー | チリ | 1977 |
Javier Montes | ハビエル・モンテス | スペイン | 1976 |
Elvira Navarro | エルビーラ・ナバーロ | スペイン | 1978 |
Matías Néspolo | マティーアス・ネスポロ | アルゼンチン | 1975 |
Andrés Neuman | アンドレス・ネウマン | アルゼンチン | 1977 |
Alberto Olmos | アルベルト・オルモス | スペイン | 1975 |
Pola Oloixarac | ポーラ・オロイシャラク | アルゼンチン | 1977 |
Antonio Ortuño | アントニオ・オルトゥーニョ | メキシコ | 1976 |
Patricio Pron | パトリシオ・プロン | アルゼンチン | 1975 |
Lucía Puenzo | ルシーア・プエンソ | アルゼンチン | 1976 |
Santiago Roncagliolo | サンティアゴ・ロンカグリオーロ | ペルー | 1975 |
Andrés Felipe Solano | アンドレス・フェリーペ・ソラーノ | コロンビア | 1977 |
Samanta Schweblin | サマンタ・シュウェブリン | アルゼンチン | 1978 |
Carlos Yushimito | カルロス・ユシミト | ペルー | 1977 |
Alejandro Zambra | アレハンドロ・サンブラ | チリ | 1975 |
ご覧の通り、アルゼンチンが圧勝です。
今年のノーベル文学賞は来週7日に発表されることが決まりました。スペイン語圏でにわかに話題を集めているのがブックメーカー Unibet の予想で、なんと三十歳のパラグアイ人劇作家ネストル・サルバドール・アマリージャ Néstor Salvador Amarilla が筆頭。本国でもほとんど知られていない、事実上無名の作家です。ほかの候補者はシリアの詩人アドニス(アリ・アフメド・サイード・アスバール)、フィリップ・ロス、ジョイス・キャロル・オーツ、村上春樹など定連ばかり。
ネストル・アマリージャは1980年生まれ。生地は首都アスンシオンの北東、カアグアスー県コロネル・オビエド市近くのヘナーロ・ロメーロ地区。貧家に育ち、十七歳のときアメリカ合衆国に渡り大学で演劇とコミュニケーションを勉強。2008年、パラグアイの民放テレビ局 Canal 13 にドラマ部門ディレクターと美術ディレクターとして採用されたものの、彼が検閲とみなした上からの命令を遵守しなかったとして同年末に解雇。
対象作品は『佳日』 Fecha feliz。2006年8月に他界した独裁者アルフレード・ストロエスネル元大統領(1954年~1989年)の誕生日を批評的に描いた作品だそうです。