残念なニュースです。『ロード・オブ・ザ・リング』の前日譚である『ホビットの冒険』二部作 The Hobbit の監督に決まっていたギジェルモン・デル・トロが降板を発表しました。「クリーチャーのデザインは全て完成、シーンと衣裳のデザインも仕上がり、アニメーションも製作、戦闘シーンのプランも出来上がっていたんだけど」と無念がっています。
何でこんなことになったかというと、去年の暮れにMGMが経営破綻寸前に追い込まれたのが原因。スタジオ売却のメドが立たない限り製作は困難。デル・トロはさっさと撮影を始めたいのに、スタジオ側がゴーサインを出してくれない。ニュージーランドロケは当初三年間だったのが六年かかる予定で、いつまでもゴーサインを待ってはいられず、断腸の思いで降板を決意したそうです。観たかったなあ、デル・トロの『ホビット』。
蛇足ですが、監督のファーストネーム Guillermo 、本人はきっと〈ギジェルモ〉って発音してると思うんだけど、パンフレットやDVDパッケージは〈ギレルモ〉で統一されてますね。
ABC紙の記事。昨日開幕したステーリャ・イ・レオン国際芸術祭(Fàcil)、二日目の今日、日本の伝統音楽とビーチボーイズのヒット曲をミックスさせた音楽劇 Hashirigaki(走り書き)がスペイン初お目見え。スイスのヴィデ・ローザンヌ劇場所属のドイツ人作曲家ハイナー・ゲッベルスによる作品で、テキストは英語。「観客が作品の構成要素を見失わないよう」字幕は敢えて出さないそうです。テキスト、光、音、空間がそれぞれ対等の比重を持つのだとか。会場はサラマンカのリセオ劇場。
いったいどんな作品なのか。Fàcyl の公式サイトで写真が見られます。雰囲気は何となく伝わりますね。
今年はマドリードの目抜き通りグラン・ビア着工百周年。記念イベント目白押しのなか、今日11時から16時まで大群衆によるカラオケ大会が催されるという、まあどうでもいいっちゃあどうでもいいニュースなんですが、こういうときは定番を歌うのが相場。ではマドリード市民にとっての定番とは? インターネットで募集した十数曲のうち十曲が選ばれるそうで、スポンサーのシトロエンが巨大スクリーンをカリャオ広場など三ヶ所に設置。曲のリストがあるので YouTube のリンクを貼っておきましょう。
とまあ、こんなラインナップなんですが、ほぼすべて八十年代の曲。老人は歌えるのか? フランコ時代の歌曲はタブーなのかも。
記事中の Ariel Roth は誤りで正しくは Rot。
ABC紙の記事。初演は去年で、この舞台通信で報告しようと思いつつ忘れてました。このプロジェクト、どうやら好評らしく、今日からナバーラ公演(ガヤーレ劇場)が始まります。
出演者はプロの俳優ではなく、セビーリャのスラム街エル・バシエ地区に住むジプシー八人。演劇がどういうものか知らず、読み書きも知らない、教養とは無縁の世界で生まれ育った女性たちによるロルカ劇。最年少は17歳、最年長は57歳。演出はペパ・ガンボーア。昨日の記者会見に臨んだガンボーアによると、彼女たちは自分が女優だという意識はなく、女優を目指すつもりもないそうです。
作品で描かれる閉塞感は彼女たちにとって悲劇ではなくむしろ自由を意味しており、作者のロルカのことは救世主や庇護者のように語っているとか。ロルカが死んだという歴史的事実を理解していないらしく、現実に存在する人物だと思っているそうです。「あたしたちを助けてくれて、本当にいい人だよ」なんて口々に言ってるとか。「これまで当然とされてきたのとは違う演劇が可能であり、可能なだけでなく必要なのです」とガンボーアが語っています。
昨年マドリードのエスパニョール劇場で十五日間の公演を実現、来年も公演の予定があるそうです。
エル・パイス紙の記事。ロルカはフェルナンド・デ・ロス・リーオスの秘書を務めていた――ロルカ研究者ミゲル・カバリェーロが新事実を発見、このほど出版された新著『アフリカのロルカ スペイン領モロッコ探訪記』 Lorca en África. Crónica de un viaje al protectorado español de Marruecos で明らかにしました。
フェルナンド・デ・ロス・リーオスは第二共和国政府の法務大臣を務めた教育者。ロルカとは親交が深く、巡回劇団〈ラ・バラーカ〉をサポートした人物。
発見は偶然の産物だったそうで、カバリェーロは1924年から1976年まで新聞雑誌に掲載されたロルカ関連の記事を集めていたところ、「フェルナンド・デ・ロス・リーオスが秘書ロルカとともにモロッコを訪問予定」と書かれた1931年の記事が目にとまり、裏付けとなる資料がほかにも見つかったとのこと。
画面右の写真、下の細長い写真の最前列左端、白いコートを着ているのがロルカです。拡大写真を見ると顔つきが違うようにも見えますが、縦に潰れた写真なので、プロポーションを整えれば確かにロルカに間違いありません。
ロルカがアフリカの地を踏んだのは1931年12月26日。駆逐艦フェランディス提督号 Almirante Ferrándiz でセウタに下船し年末までテトゥアン、アルカサルキビール、シャウエンを訪問。宿泊先は皮肉なことに、後のフランコ群蜂起に加わったカバネーリャス将軍の邸宅。テトゥアンで薬剤師だった従兄弟を訪問した証拠も見つかったそうです。
ロルカが暗殺された直接のきっかけはラモン・ルイス・アロンソによる告発――「フェルナンド・デ・ロス・リーオスの秘書でアカでフリーメーソン」――ですが、この「秘書」というのは右腕という意味ではなく、どうやら正式の職階だったらしい。デ・ロス・リーオスがアフリカで行った演説の原稿ではサン・フアン・デ・ラ・クルスとユダヤ人との関係に触れられていることから、スピーチライターも務めていたのは間違いないとカバリェーロは断言しています。
気になるのはフリーメーソンのこと。フェルナンド・デ・ロス・リーオスのモロッコ視察はフリーメーソンの招待によるものだそうで、仲間内では Jugan (フガン?ジュガン?)という名で通っていたそうです。証拠の手紙が残っており、そこからロルカもフリーメーソンと繋がっているのではないかと疑われたらしい。
日本はデジタル書籍の流れにすっかり後れをとっていますが、アルファベット圏は物凄いスピードでデジタル化。というわけでスペイン語の書籍もデジタル化の運びとなりました。出版大手のプラネタ、サンティリャーナ、ランダムハウス・モンダドーリの三社が電子書籍を配信するプラットフォームを設立することで合意に達しました。名称はリブランダ Libranda 。二週間後の6月11日にオープン予定。
上記三社のほかにもウォルターズ・クルワー・エスパーニャ(医学・健康科学)、SMグループ(児童文学/中南米に強い)、グルプ62(カタルーニャ)、ロカ・エディトリアルが参加を表明。
タイトル数はまず五千でスタートし、新たなデバイスが発売される九月から十二月にかけて増やす予定とのこと。
著者の印税は紙媒体では10%が主流ですが、リブランダでは20~25%に。印刷と流通のコストが削減されるので価格は紙媒体より二割から三割くらい低く設定されるよです。
ただしクリアしなくてはならない問題がひとつ。付加価値税をどうするかで、18%を要求するEU案を採用するか、それとも現行の紙媒体と同じ4%にするか、政府で審議中なのです。「18%なんかにしたら違法ダウンロードを助長するだけ」と出版社の意見は一致。アメリカではアマゾンの Kindle とアップルの iPad で書籍市場の5%を占有。リブランダは五年以内に3~5%を目指すとのこと。
アルゼンチンのラ・ナシオン紙の記事。23日(日)の夜、ブエノスアイレスのコロン劇場が三年半の修復工事を終えて無事再開、アルゼンチン独立二百周年記念式典の前夜祭が催されました。
午後7時半過ぎ、セリート通りに面した劇場裏側のファサードに3D映像を投影。コロン劇場の歴史を50分間にまとめたドキュメンタリー。9時近くにオーケストラがアルゼンチン国歌を演奏。いよいよ再開式典が開始(当初は劇場設立百周年にあたる二年前に行われる予定でした)。
オープニングは『白鳥の湖』。長い休憩を挟んで『ラ・ボエーム』から一幕。終演とともにブエノスアイレス市長のマウリシオ・マクリとフリオ・コボス副大統領が客席で国旗を広げました。
ここ数年すったもんだがありましたが、まずはめでたし、めでたし。
ついでにグレックの公式サイトはこちら。今回参加する日本関連の作品をピックアップしておきます。
バルセロナの夏を彩る芸術祭グレック。今年は6月13日から8月1日まで。エル・パイス紙の記事です。
今年は日本を大々的にフィーチャー。「ヨーロッパ中心主義を打破する」のが狙いとディレクターのリカルド・シュワルセール。13の個人・団体が参加。ジュアン・オリェーは三島由紀夫『近代能楽集』をモチーフに。振付家フラダリック・アマットと舞踊家セスク・ジャルベールは熊本県山鹿市の八千代座と『木』 Ki を共同制作。
岡田利規のチェルフィッチュも参加。ダムタイプ創立メンバーの高谷史郎はロラン・バルトの写真論をモチーフにしたパフォーマンスを。勅使河原三郎は Mirror and Music をヨーロッパ初上演。とりわけ常識破りのパフォーマンスが見られるのはバルセロナ現代文化センター(CCCB)で開催されるイベント "Flash Forward" に参加する四団体だと記事にありますが、イベント名の綴りが間違ってます。"Flash Forward" ではなく、正しくは "Fast Forward"。
『木』はスペイン公演の前に6月4日と5日に八千代座で上演。詳細は八千代座の公式サイトで。制作記者会見の様子が西日本新聞の記事で読めます。
作品数65。例年より告知が早いのには理由があり、世界的な音楽の祭典としてすっかり定着したソナール Sónar と開催時期を合わせるためだそうです。こちらもダムタイプのメンバーである池田亮二による音と光のスペクタクル Spectra[Barcelona] が6月17日にあります。オープニングを飾るのはカルメ・ポルタセリによるハイナー・ミュラー版『プロメテウス』。フェリウ・フォルモーサのカタルーニャ語版で、主演はカルメ・エリアス。会場はグレック劇場。
地元のアーティストももちろん大勢参加。カタルーニャ図書館でオリオル・ブロギの『この幽霊たち』 Questi fantasmi、アントニオ・カルボ演出、リュイス・ソレール主演の『オデュッセイア』、ベケット座ではフリオ・マンリーケの『今日僕たちが口にした言葉』 Coses que dèiem avui、シャボン玉パフォーマンスのペップ・ポウは科学者ホルヘ・ワゲンスベルクと『Bereshit:宇宙でいちばん美しい物語』 Bereshit. La història més bella del cosmos を共同制作(記事に Beresjot とあるのはスペリングのミス。正しくは Bereshit)。そしてクリスティーナ・クレメンテがセルジ・ベルベルの最新作『オフサイド』 Fora de joc。
舞踊では台湾の雲門舞集(Cloud Gate Dance Theatre)、マリア・パヘス(フラメンコ)とシディ・ラルビ・シェルカウイ(コンテンポラリー・ダンス)の共作『砂丘』 Dunas――記事には Charkaoui とありますが正しくは Cherkaoui――、先頃舞台芸術マックス賞を二部門で受賞したフラメンコのエバ・ジェルバブエナ『雨』 Lluvias など。
音楽ではシンガー・ソングライターのジュアン・マヌエル・セラットが生誕百周年を迎えた詩人ミゲル・エルナンデスに捧げる五夜連続のライブ。そしてジョルディ・サバイ(クラシック・古楽器)、ミゲル・ポベーダ(フラメンコ歌手)、ディー・ディー・ブリッジウォーター(ジャズ歌手)、エストレーリャ・モレンテ(フラメンコ歌手)が共演します
スペインテレビ RTVE のハビエル・トレンティーノによるカンヌ評。
ハビエル・バルデムが『ビューティフル』 Biutiful で最優秀主演男優賞。ただし『アワ・ライフ』のイタリア人エリオ・ジェルマーノと共同受賞。「ジェルマーノとの共同受賞はバルデムに対する愚弄」と舌鋒鋭く批判しています。
アピチャッポン・ウィーラセタクン監督の『ブンミおじさん』がタイ映画史上初のパルムドールに輝いたことについては、「(審査員の一人である)エリセの線で行けば受賞は確実と予告済み」だったそうです。記事のタイトル――スペイン映画界ダブル受賞――は『ブンミおじさん』の製作がスペイン人プロデューサー、ルイス・ミニャーロ Luis Miñarro であることを指しています。
EFE通信の記事。アメリカの小説家パトリック・カーマン Patrick Carman による書籍とAVのコラボ作品『スケルトン・クリーク ライアンの日記』が本日スペインの店頭に並びます。出版元はアナーヤ社。
二つのパーツから成るホラー物。一つは主人公ライアンが書いた日記(紙媒体)、もう一つはライアンと冒険をともにするサラが録画した九本の映像で、本のストーリーが進むに従って示されるキーワードを入力するとネットで閲覧できる仕組みだそうです。二人は謎解きに夢中な若者で、日記と手持ちのビデオカメラだけでスケルトン・クリークと呼ばれる彼らが住む町の秘密を探るんだそうだ。『スケルトン・クリーク』は三部作で、今回発売されるのは第一部。
それにしてもEFE通信の記事は固有名詞の誤字がひどい。パトリック・カーマンの名字を Craman って書いてるよ。正しくは Carman。スペイン語圏以外の固有名詞にとことん弱いEFE。お家芸と呼びたくなる。
スペイン国営放送TVEの番組「ロス・デサユーノス(朝食)」に出演したアントニオ・バンデラスのインタビュー。アルモドバルの新作『わたしがまとう皮』 La piel que habito に主演。二人がタッグを組むのは『アタメ!』以来21年ぶり。「形式も内容も論議を呼ぶ」問題作で、「一種のホラー映画だけど、アルモドバル自身が一つのジャンル。いわゆるホラー映画の枠には収まらない」とのこと。八月に撮影開始。
監督としてのプロジェクトも二つ進行中。うち一つは『クレイジー・イン・アラバマ』 Crazy in Alabama 以来二度目となる妻メラニー・グリフィスが主演。
5日(水)にマラガ大学でコミュニケーション論名誉博士号を授与されました。