薄晴。寒風吹きすさみて冬の到來を告ぐ。NHKラヂオ第一キャンパス寄席に三遊亭天どんが子供の作文を聽く。高島俊男著天下之記者を讀み畢る。人生の敗殘者山田一郎の落魄他人事とも思はれず。柳原君新譯の小說セサル・アイラ作文學會議 を惠與せらる。NHK總合に平成二十七年新人落語大賞を見る。笑福亭べ瓶が太閤の白猿は熱意空囘りして前のめりの語り口になり語尾聞きとりにくし。桂佐ん吉の愛宕山は奇を衒はず落語本來のをかしみを釀し出したり。瀧川鯉八の俺ほめは奇矯なる仕草と聲音を濫用して感興なし。柳亭小痴樂の眞田小僧は親子の口調に區別なく、また餘りにも早口にて落ちつかず。春風亭昇々の湯屋番も珍妙なる發聲と仕草に終始して興醒めするばかりなり。余が審査員ならば佐の吉を推すなり。優勝者は案の定佐ん吉に決定せり。
薄く曇りて寒し。Eテレえほん寄席に柳家三之助ののめるを聽く。午前ことぶきの湯露天風呂に浴す。仲代達矢文化勳章、黒柳徹子文化功勞者に選ばる。午後高島俊男著天下之記者「奇人」山田一郎とその時代を讀む。三重テレビ淺草お茶の間寄席に桂ひめ太郎の後見爺さんを聽く。面白からず。柳亭小燕枝の千早振るは寄席に似つかはしき好演なり。
天氣好晴。咖啡所コメダに朝飯を喫す。八月以來市内到る處にて水道瓦斯管或は電線の取替工事中なり。九時出勤。明日大學祭の前夜祭始まるを以て八號館前の廣塲に野外舞臺設營され、植木の幹には宣傳案内の貼紙を出したり。再歸代名詞の用法を講ず。昨夜錄畫し置きたるBS日テレ笑點特大號に古今亭志ん陽のたらちねを聽く。
秋晴の空澄みて淸し。風强く旦暮寒冷なり。高島俊男著中國の大盜賊完全版後半を讀終へる。今月九日午後九時中京テレビにて錄畫し置きたる漫畫映畫思ひ出のマーニーを看る。主人公杏奈が海邉の斜面の叢に腰を下ろす仕草、また小舟が側面の棧橋にぶつかりて搖れる描寫などを樂しむ。
快晴の空日暮に及びて暗雲垂れこむ。午前ことぶきの湯に徃き露天風呂に浴す。講談社現代新書の高島俊男中國の大盜賊完全版の前半を讀む。陳勝劉邦に始まり毛澤東に至るまで中國王朝の首領は悉く盜賊なりと說く。劉邦の時代、儒家とは冠婚葬祭屋兼儀式業者なりしといふ。儒者は文を最も重んじたりき。文とは裝飾の謂にて、實用上無意味なる虛飾なり。たとへば衣服は體を保護する役に立てば足る。これを質といふ。生活の進步するにつれて質は物足りなくなり、模樣を描くに至れり。これを文といふ。儒家曰く、人間の生活が質のみによらば禽獸に大差なく、文ありて始て萬物の靈長たる資格を具ふるなり。遙か昔に死したる祖先を莊重華麗に祀るが如き儀式は儒家の最も得意とするところにて、實質はなく文のみあり。人間の生活をかゝる文を具へる生活に化するを文化といふ。BS11藝賓館に桂小南治の三十石を聽く。余はこの人の發聲口調に苦痛を感ずるのみ。東京かわら版十一月號に大空遊平かほり離婚の記事あり。かほりは漫才協會を脫會し、遊平漫談家として再出發したる由。
快晴。風寒し。高島俊男著水滸傳の世界日沒と同時に讀終へる。北宋の都開封と南宋の都臨安は政治都市なるのみならず經濟都市にて、商人集ひ種々の人々住めり。市民の娛樂の塲として瓦市といふ盛塲出現したり。瓦子、瓦舍、或は單に瓦とも稱せられ、戰前の淺草、戰後の新宿澀谷池袋が如き地區なり。瓦市の中心には勾欄といふ建物多く建ちたり。寄席と見世物小屋を兼ねたる施設にて、開封の桑家界隈には五十數軒の勾欄軒を連ね、夜叉棚や象棚など大きなる小屋は數千人を收容せり。棚は小屋の謂なり。我國の座に當たるなり。勾欄にては晝夜さま/″\の演藝を行ひ、歌、踊り、芝居、操り人形、輕業、相撲、力業、刀操り、動物使ひ蟲使ひ、謎當てなどの藝を披露したり。演藝の中心は說話なり。說話人或は說話的と稱せらるゝ藝人一人舞臺に現れ客に話を聞かせる藝能なるを以て、道具を用ひ奇拔さを競ふその他の演藝に比すれば素朴單純なりしかど、說話人の鍛へ拔かれし話藝は最も人氣を博したりき。講談浪花節に類するものなり。說話には講史と小說の二種あり。講史は戰亂の時代に取材し、實在の人物と事件を脚色しておもしろく話すものにて、代表作は三國なり。長講なれば一日二日にては語れず、連日語りて數ヶ月に及ぶこともあり。これに對して一日にて語り終へる話を小說と呼びたり。幾望の月あきらかなり。
天氣晴朗空は一點の雲なけれど朔風吹きすさみて俄に寒し。N子の誕辰なり。NHK總合演藝圖鑑に柳家喜多八の長短を聽く。BS-TBS落語硏究會に三遊亭歌武藏の稻川と入船亭扇遊の一分茶番を聽く。午前慈君を伴ひロイヤルホームセンターに赴き植木鉢數個を購ふ。歸途アピタに立寄り食料品を買ひ、道頓堀くゝるの明石燒を食す。高島俊男著水滸傳の世界(ちくま文庫)を讀む。支那には古より官吏あり、官も吏も役人を指す語なれどその地位には雲泥の差あり。その違ひを余は今日まで詳にせず。けふ本書第二章總大將宋江を讀みて漸く胥吏の何たるかを知り得たり。胥吏は役所の事務請負人なり。役所内に專用の部屋を持ちて働けど俸給は受けず。人民大衆は日頃役所とは沒交涉にて、何か揉め事の出來するに至りて初て政府機關とかゝはりを持ち、その際は必ず胥吏に金を拂ひて役所に屆け出づるなり。手數料に規定はなく、多く拂へば拂ふほど有利に取りはからひてくれるなり。胥吏は手數料收入を以て口を餬するなり。胥吏の地位は世襲にして時に金錢にて賣買され、先輩が後輩に仕事を敎へ、昇進も轉勤もなく生涯同じ役所に勤め同じ仕事をなす。正式の役人すなはち官は他所より赴任して數年の後また他地へ轉勤するがゆゑ、土地の内情に不案内なれば役所の實務は胥吏が行へり。晡時乘合自働車と地下鐵道驛を乘繼ぎて榮に出で、中電ホールに赴く。桂吉弥獨演會なり。高座に見臺膝隱しあり、めくりは上手にあり。開口一番米團治の弟子桂米輝つるを語る。吉弥大きなる白き揭示板を携へて登塲し、干支の未に因みて創作せしメリーさんを語る。登塲人物は新大阪驛にて客を乘せる辻自働車運轉手、羊山刈一といふ乘客、FM103ラヂオ通天閣のDJ笑瓶の三人なり。DJが語る塲面にては小さなる白きラヂオカセットをマイクロフォンの前に置きてジングルを流すなり。何やら色物めきたる風情いかにも大阪の藝人なり。仲入り後は見臺膝隱し取拂はれ、ざこばの弟子桂ちょうば掛取りを語る。吉弥二席目は猫の忠信なり。本寸法の藝を堪能す。初更の頃家にかへる。夜に入るも烈風やまず冬の近きを知らしむ。
薄晴。門前の老いたる楓の葉赤く色づきて秋も酣なり。NHKラヂオ第一眞打競演に三遊亭小圓歌の三味線漫談、春風亭小柳枝の甲府いを聽く。BS-TBS落語硏究會に林家正藏のたちきりを聽く。つたなき語り口に退屈し忽ち華胥に遊ぶ。自働車の修理漸く終はる。
薄く曇りて暖氣初夏に似たり。Eテレえほん寄席に柳亭左樂の權兵衞狸を聽く。口の左端に疱疹再發したれば皮膚科に赴き藥を請ふ。讀書。三重テレビ淺草お茶の間寄席に三遊亭鬼丸の權助魚、ロケット團の漫才、春風亭一之輔がふだんの袴を聽く。
薄く晴れてあたゝかなり。無風。四年振りにてリニアモーターカーに乘る。乘客は皆近鄰の大學生のみ。幸にして空席に坐るを得たり。終着驛八草に至る。運賃三百七十圓なり。愛知環狀鐵道に乘換へ貝津に出づ。運賃二百八十圓。プラトフホームより北の斜面に小さなる墓地を望む。坂道を登り竹林の小徑を步みて豐田學舍に出勤す。gustar型の動詞を練習す。午下ふたゝび貝津驛に赴くに切符賣塲の窓口シャッター降りて無人なり。案内板を見るに切符發賣は午前七時より十一時四十分まで、午後は三時二十分より八時までの由。傍に乘車引換券發行機あり。この券を降車驛にて示して運賃を拂ふなり。二時家にかへる。アマゾンのマーケットプレイスよりカシオ電子辭書EX-word用の旺文社古語辭典第十版及び旺文社全譯古語辭典第四版のデータカード屆く。中古品にて代價三千六百圓なり。
輕陰。讀書。晡時乘合自働車に乘り地下鐵道驛に行きスターバックスに一茶す。地下鐵道の座席に坐るに、眼前に立ちたる女子高校生太宰治人間失格の文庫本を讀みゐたり。榮停車塲にて降り、ナディアパーク十一階アートピアホールに赴く。特選落語會なり。座席二列二十五番高座は目の前なり。うら若き娘登塲して、開口一番は林家正藏の六番弟子、林家つる子でお付き合ひ願ひますと口上を陳べる聲の低く豐かなる響きに聞き惚れぬ。噺は初天神なり。一席目古今亭菊之丞片棒を語る。先週火曜日BS11藝賓館にて聽きしばかりの噺なり。太鼓笛の音眞似、絡繰人形の所作に客席大に沸きたり。仲入りの後入船亭扇辰目黑のさんまを語る。秋刀魚のあんかけをムニエルで御座います、シェフは川越某で御座いますなど云ふくすぐり多く稍興冷めなり。トリの林家正藏蜆賣りを語る。七年前の四月名東文化小劇塲にて聽きし小朝との二人會の時に比すれば話術上達したれど、口跡のたど/\しき惡癖は直らず。二更家にかへる。半月あきらかなり。
薄く曇りて風絕ゆ。萩野貞樹著旧かなづかひで書く日本語を讀む。著者は給ふといふ語は文語とも口語とも判斷すること能はずなどゝ不可解なことを言ひ、文語と口語を分けるのは滑稽なりと豪語して人の頤を解かしむ。議論の疎雜なること甚し。BS11藝賓館に三遊亭天どんのクラブ交番を聽く。三遊亭萬橘の壽限無は古典を大膽に改作したるものなり。
好く晴れて暑きこと晚夏のごとし。高島俊男の漢字と日本人を再讀す。DVDにてペドロ・アルモドバルの活動寫眞アイム・ソー・エキサイテッド!を看る。愚作なり。
快晴。風なまあたゝかし。NHK總合演藝圖鑑に入船亭扇辰の紋三郞稻荷を聽く。高島俊男の本が好き、惡口言うのはもっと好きを再讀す。Eテレ日本の話藝に桂文之助の住吉駕籠を聽く。三重テレビ淺草お茶の間寄席に林家錦平の紀州、古今亭寿輔の小言念佛、瀧川鯉昇の茶の湯を聽く。
天氣連日限りなく好し。NHKラヂオ第一眞打ち競演に東京ボーイズの音曲漫談、ケーシー高峰の醫學漫談、三遊亭歌武藏の子ほめを聽く。高島俊男が漱石の夏やすみを讀む。漱石の木屑錄原文と高島氏による達意の飜譯、その一例を茲に記し置く。
余兒時誦唐宋數千言喜作爲文章或極意彫琢經旬而始成或咄嗟衝口而發自覺澹然有樸氣竊謂古作者豈難臻哉遂有意于以文立身
我輩ガキの時分より、唐宋二朝の傑作名篇、よみならつたる数千言、文章つくるをもつともこのんだ。精魂かたむけねりにねり、十日もかけたる苦心の作あり。時にまた、心にうかびし名文句、そのまゝほれ/″\瀟洒のできばえ。むかしの大家もおそるゝにたらんや、お茶の子さい/\あさめしまへ、これはいつちよう文章で、身を立てるべしと心にきめた。
快晴。Eテレえほん寄席に古今亭菊志んが猫の皿を聽く。多和田葉子さんの献燈使を讀む。橘家圓藏歿。享年八十一。水曜午後一時BSプレミアムにて錄畫せしオーソン・ウェルズ脚本監督出演の活動寫眞黑い罠を看る。
晴。咖啡所コメダに朝飯を喫す。九時出勤。動詞不規則活用の講義を終へる。歸途市役所前の澀滯を避けむとて裏の畦道を走りて左折する際左後ろのタイヤ溝に落ち、心棒折れ曲がりぬ。修理工塲に赴き修繕を依賴す。
快晴。寒し。寢違へしにや一兩日前より左脇腹痛みて起臥自由ならず。四年前の秋風呂塲にて轉倒し肋骨を折りたる時のやうな痛みなり。小動物專門店リミックスに赴きセキセイ鸚哥用ペレットを購ふ。高島俊男の漢字雜談を讀む。返戾といふ熟語につきて日本國語大辭典は昭和二十二年の所得稅法に販売した商品の返戻、値引きとあるを初出の例として揭ぐれど、高島氏によれば松井簡治著大日本國語辭典(大正四年~八年)にかへすこと。返還。返附。還附。の記載あるを以て、おそらく返戾といふ語句は大正年間或は明治末年頃より銀行會社などにて肩肘張つた言ひ方として生まれたるべしと推察せらる。予が靑空文庫に公開中の作品を閱するに、河上肇貧乏物語(大正五年九月十一日より十二月二十六日まで大阪朝日新聞に連載)にたゞしその出資は六百圓以上なることを要す。この出資は後日組合を脫退せんとする者あるも、全くこれを返戾せず。といふ文章あり。高島氏の推測掌を指すなり。
天氣牢晴。風冷なり。讀書。晡時主治醫を訪ひ藥を請ふ。ことぶきの湯に一浴し、瀨港線の食堂に飰してかへる。BS11藝賓館に古今亭圓菊一門會を見る。古今亭文菊の初天神は持ち時間少なきを以て團子を食ふところにて語り終へ、紙鳶の件は端折りたり。この噺は菊壽に敎はりたる由。古今亭菊之丞の片棒も僅十一分の高座なれば息子三人を登塲せしむる餘裕なく、設定を一人息子に變へ、後の祭りをサゲとなしたり。入船亭扇遊に敎はりしといふ。
晴後に陰。體育の日。高島俊男著司馬さんの見た中國を讀む。堀井令以知著語源をつきとめるによれば關東人の云ふモノモライは關西人の云ふメバチコにて、モノモライとは人に食ひ物をもらひて食へば治るものゝ由なり。メバチコのハチは乞食なり。鉢を携へるが故なり。これもまた食ひ物をもらひて直す意なり。
微雨。午に近く霽る。NHK總合演藝圖鑑に柳亭市馬が目黑のさんまを聽く。高島俊男が漢字の慣用音って何だろう? を讀む。一ヶ所二ヶ月などのヶは箇の竹冠の左側をとりて用ゐ始めしことに由來するを知りたり。また論語は儒家經典の最高位にあらず、最も貴きは孔子自らが整えて殘したる五經すなはち易書詩禮春秋なり。論語は孔子沒後に編まれし本なればその價値は劣るなり。五經に次ぐは孝經論語孟子爾雅の順なり。
どんよりて曇りて暗き日なり。思ひかけずFさんより電子郵件あり。予が愛知縣立大學に奉職せし時の敎へ子なり。數ふれば早や十五年の昔とはなれり。NHKラヂオ第一眞打ち競演にコント山口君と竹田君のコント、松鶴家千とせの漫談、三遊亭小遊三が粗忽の釘を聽く。高島俊男のことばと文字と文章とを讀み畢る。三重テレビ淺草お茶の間寄席に桂歌春の紙入れと三遊亭笑遊の片棒を聽く。BSプレミアムにたけしのこれがホントのニッポン藝能史落語篇を見る。客人の笑福亭鶴瓶立て辯の難しさとダレ塲の處理が最も重要なることを說く。良き番組なり。
薄く曇りて風靜なり。昨日賣國奴安倍晉三内閣を改造し、行革擔當大臣に河野太郎を拔擢したり。河野は東日本大震災以來脫原發を聲高に主張し、與黨内野黨の急先鋒として振舞ひゐたりしに、一たび大臣の椅子を獲るや忽ち自身のブログの主張政策記事を悉く削除し、阿部の主義主張と軌を一にするなりと言ひ放ちて馬脚を現しぬ。一杯食はせ者とはこのことなり。Eテレえほん寄席に柳家さん喬のちりとてちんを聽く。午後いつもの溫泉に浴す。歸途アミカに立寄り牛酪を購ふ。一個二百グラム價格稅込四百七十三圓なり。白水社より西班牙語大辭典屆きたり。定價二萬七千圓のところ豫約特價二萬二千九百五十圓にて買ふを得たり。燈下高島俊男のことばと文字と文章とを讀む。
けふもまた快晴の空雲翳なけれど風の寒きこと初冬のごとし。咖啡所コメダに朝飯を喫す。九時出勤。語根母音變化動詞を總ざらひして、不規則動詞darとirの活用を練習す。學生諸氏と和氣靄々として授業を樂しむ。一體に中京大學スポーツ科學部の學生は性質至つて柔順にて正直なり。予は每週彼らに會ふを樂しみとなすなり。午下家にかへる。中央公論社版谷崎潤一郎全集第十三卷の卍を讀む。左手親指のつけ根に大きなる皸できて痛み堪難ければワセリンを塗りて樣子を見る。
空は一點の雲なく晴渡りしが西風吹きて寒し。谷崎潤一郎全集第十三卷の短篇日本に於けるクリツプン事件と或る犯罪の動機を讀む。つゞけて長篇黑白を讀む。昨夜錄畫せしBS11藝賓館に柳家喬太郎の百川を聽く。
陰後に晴。大村智ノーベル醫學生理學賞受賞。來年二月西班牙某市にて行ふ公演の臺本を和譯して事務所に送る。午下ことぶきの湯に一浴す。有鹽牛酪を購はむとてアミカに立寄るに品切なり。無鹽牛酪は在庫あり。晡時乘合自働車にて地下鐵道驛に出づ。高架下のミスタードーナツ店舖跡形もなく取り拂はれぬ。貼紙に高架耐震補强の普請中にて一時休店、來年六月營業再開豫定と讀めり。スターバックスに憩ひて丸谷才一の隨筆集無地のネクタイを讀む。地下鐵道に乘り榮に出でゝ愛知縣藝術劇塲小ホールに赴く。柳家三三と柳亭左龍の會なり。壇上座布團を二枚竝べて上手に三三、下手に左龍坐り雜談を始めること例の如し。三三が突然マクドナルドのCM見ましたかと客席に問ひかけるや一齊に拍手湧起りて一驚を喫す。予は平生テレビを見ざるが故何のことやらわからず、三三の話を聞くに、あんこパイとやらいふ新商品の宣傳廣告に拔擢されし由なり。撮影は七月に行ひ、放送開始は九月十六日にて、その間宣傳收錄のことは他言無用なりと言ひ含められしといふ。物故せし先代三遊亭歌奴の粗忽傳說と三遊亭圓歌の噓吐きぶりを暴露して兩名高座を降り、開口一番柳亭市樂藏丁稚を語る。素直なる語り口なれど時折やゝ早口になるを憾む。左龍一席目は粗忽長屋を語れり。予が最も好む噺の一つなり。左龍は目先の笑ひを追はず、常に本寸法にて勝負するなり。三三の一席目は蒟蒻問答なり。安直なる擽り幾つかあり。仲入りの後三三二席目に加賀の千代をさらりと語る。トリの左龍三方一兩損を語る。これまた本寸法なり。夜二更家にかへる。梶田隆章ノーベル物理學賞受賞の報あり。
曇りて寒し。谷崎潤一郎全集所収の未刊小說彷徨と飇風を讀む。午後接骨醫T氏を訪ふ。
天氣牢晴。風あり。NHK總合演藝圖鑑に昔昔亭桃太郎の裕次郎物語を聽く。Eテレ日本の話藝に三遊亭金馬の死神を聽く。谷崎潤一郎全集第一卷の惡魔と續惡魔を讀む。Googleマップに京都の市街圖を眺めつゝ朱雀日記を讀む。
京都の舞妓の無邪氣なことは、到底東京の雛妓の比でない代りに、藝子の方はどうも喰ひ足りない氣持がする。惚れるにしても、欺すにしても、いろ/\の技巧を用ひて手練手管を弄び、男の心を飽く迄緊張させてくれるやうな女は、容易に見つかりさうもない。京都の藝子は素人に近いから、馴れて來ると、却つて無技巧の實意に絆されると云つた人がある。成る程一往尤もな觀察であるが、私の趣味としてはさう云ふ溫柔な簡單な性格を喜ぶ譯には行かぬ。
快晴。寒し。谷崎の羮を讀み終へる。宗一と美代子の關係進展せざるまゝ物語は唐突に終りたり。解題によるに、この小說は明治四十五年七月廿日より東京日日新聞にて連載され、谷崎が初めて手がけし長篇にて、原稿の枚數を豫測すること能はず、計畫の半分も進まぬ中に非常なる紙數に達せしかば、便宜上前篇と名づけたりといふ。昨夜錄畫せしEテレニッポン戰後サブカルチャー史Ⅱ第一囘女子高生の放送を見る。風間俊介の賢さ際立てり。
どんよりと曇りし空午後に至りて隈なく晴渡りぬ。Eテレえほん寄席に柳亭小燕枝のつるを聽く。午後ことぶきの湯露天風呂に浴す。谷崎潤一郎の羮を讀む。三重テレビ淺草お茶の間寄席に古今亭志ん輔の强情灸、雷門小助六の武助馬、昔昔亭桃太郎の結婚相談所を聽く。
舊曆八月十九日。七時枕頭なる目覺し時計の鳴るを止めしに疲勞倦怠感甚しく、直に二度寢し、八時ごろ慈君睡房に來りて予を起さる。難儀して床を起出づ。陰雨冥〻。寒し。九時出勤。語根母音變化動詞を講ず。午下家にかへる。雨脚强まりぬ。足立區千住なざわ書店値段史年表を送來る。昨夜錄畫せしBS日テレ笑點特大號に春風亭ぴっかり☆の動物園を聽く。