烟雨濛々。午前舊稾を整理す。大宰府Oさんの書に接す。自傷するに至り入院を決意したる由なり。午睡。
空晴れしが夕刻に至り曇りて風烈し。森林公園をあゆむこと例の如し。みどりの日にて早朝よりピクニックの家族多し。カワウの悠々と舞ふを眺む。藤の花散りそめぬ。歸途長久手溫泉露天風呂に浴す。午下市立圖書舘に赴き貸出延長手續きをなし散髮す。一睡し晡下實家に徃く。父上紙の襁褓に稍慣れし樣子なり。初更家にかへる。是日Y家長女R一歲の誕生日なり。
晴又隂、風靜なり。暑き亊夏の如し。早起執筆、編輯者F氏に草稾を送る。組合より餞別屆く。森林公園漫步。藤の花の香り馥郁たり。樹木總じて若葉生ひ茂り鳥の姿を見ること殆能はずたゞ囀りの聞ゆるのみなり。靑空の家の障碍者一行例の如し。遠足の小學生步みに合はせて「三六五步のマーチ」を合唱す。その歌詞甚近代的かつ滑稽なればこゝに記す。
一日一步
三日で三步
三步あるいて
四步すゝむ
午前主治醫の診察を請ふ。藥變らず。午下A病院に徃く。父上三週間ぶりに退院す。八日に受けし手術功を奏し經過すこぶる順調なり。予は折惡しく胃腸風邪にて先週見舞ふこと能はざりしかど母上は今月五日より缺かさず日參せり。實家にて夕餉を飯す。獻立は鮎の鹽燒き、鮪のやまかけ、はうれん草のおひたし、金平ごぼう、蠶豆の鹽茹で、ニラの玉子とじ汁なり。昏黑家に歸る。
晴れて暑し。門外の皐月盛なり。紅白の花水木薰風に搖れる。實家にて晝餉を飯す。家族五人打そろひたるは近年例なきことなり。午下S子N子を藤ヶ丘驛に送る。市中到處午前の中より男女雜沓す。黃金週間の始まりし故ならんや。日暮前歸宅。夕餉に海老糝薯湯葉卷、五目玉子燒、胡麻豆腐、粥を飯す。巴里のSさん、淺草のEさんの書に接す。大宰府のOさん遂入院を決意せし由なり。
五更風雨暴に襲來り窗を撲つ。朝晴れしが風烈し。微恙稍痊えたり。母上より來書あり、昨夕埼玉よりN子來りし由。無職半年遂に老舖の洋菓子屋コロンバンに職を得たり。夕刻に至り千葉のS子も里歸りす。實家にて夕餉を飯し款語す。S子の話に近年小學校は週五日制を敷き一年生より五時間授業あり、倶樂部活動に就いては文部科學省が各學校の裁量に任せてゐるといふ。甥R2D2の小學校は倶樂部活動を廢止したれば兒童の息拔きの時間皆無となれり。世はあげて敎育改革の大合唱なれど其の内實に就ては何人も定見なしと見ゆ。初更歸宅。
今日もまた雨なり。午前A内科に徃く。熱は下がりしかど風邪の氣味去らず、腹部のレントゲン冩眞を撮り檢尿し點滴を受る。折々睡魔を催す。栃木縣立美術館より舞臺美術展のカタログ屆く。午下母上見舞ひに來られ茶碗蒸を屆けらる。是日松本智津夫に死刑求刑さる。假に松本が死刑判決を甘受し一切の罪を認めつゝ必ずや復活せむと告がば敎團のおもふ壺なるべし。予は死刑に反對するものなり。
春雨霏々。終日臥牀。熱は平熱に下がりたれど喉の痛み鼻づまり未痊えず。市議會議員選擧候補者の宣傳喧し。晝餉にパンとえんどう豆のスープを飯す。夕餉に粥をすゝる。
薰風嫋々たり。午前A内科に徃く。點滴1リットル。午下困臥。薄暮睡より寤むれば母上見舞に來らる。粥をすゝる。
烟雨空濛恰梅雨の如し。熱上り下痢を催し胃に鈍痛おぼえしかば内科を再受診するに胃腸風邪と診斷さる。レントゲン冩眞を撮り血液採取尿檢査す。點滴一リットル二時間に及びぬ。醫師當面食亊は控へられたし、食欲戾らば粥や素うどん亦パンにするべし、パンにバターは塗るべからずといふ。午後臥牀。
朝來雨糠の如し。微熱あり喉の痛み猶痊えず。卆業生IさんSさんHさん來宅の日なれば詫びて日程延期す。讀書また興なし。藥を服して早く寢に就く。
隂晴定まらず暑し。終日困臥。
四更牀に伏す。レモンの囀りに早起すること例の如し。隂りて暑き亊夏の如し。風邪痊えざれば午前A内科に徃く。醫師診察の傍ら電話で患者と喋々と話したり。鼻の吸入と注射をなし藥處方されゝば忽ち午となりぬ。午後家に在り、机に凭りて茟秉るも感興來らず。巴里のSさんの書に接す。旣に夏の陽氣の由、花粉症になりました、マロニエのせいでせうといふ。
くもりて暑し。終日家に在り。微熱あり午睡、眠より寤むれば二更なり。
暴暖。風邪の氣味にて晏起午に近し。鄰家の庭の新綠滴るが如し。午下保險會社Fさん來宅、契約内容變更す。S氏より來書あり、用談は企劃書文案につきてなり。瀧野川M氏より花水木の冩眞屆く。是日薄く曇りて風なく市中到處散步の男女雜沓す。
烟雨濛々。本地ヶ原神社の社務所殆改築さる。市立圖書館に二册借りやまとの湯に浴す。小島氏より招待狀屆く。S氏の書に接す。晚間Ⅰ氏より電話あり、復職成功の由。溫泉宿豫約せらる。燈下舊稾を整理す。此の日嘔吐催し心地わろし。
曇りて雲多し。タクシーで大麻驛前むすめや齋塲に赴き神式の遷靈祭に參列す。O君大谷地の新居に來られたしと頻りに勸められしかど、週末より葬儀準備で繁忙をきはめたれば今宵は遠慮し他日を期して別れたり、又折惡しく今日は余の通院日なり。出棺を見屆け大麻の町をあゆむ。十五年ぶりならんや。つゝみ橋を渡るに澤に殘雪あり。住宅街の風情高校時代と何ら變はらず。實家は古びたるところなし。銀座商店街の閑散たるさま廢墟の如し。東小學校の校舍も徃時と變はらず。正門を撮影するに女敎師來りてどうしましたと問はれしかば卆業生ですと荅へるに中へどうぞと招かる。下駄箱、便所、壁の張り紙、敎室、體育館、總て徃時のまゝなり。一學年六組ありけれど今は二組のみなりといふ。現校長と款語し辭去す。東町公園殘雪多し。余初めて迷子になりしは此の公園の遊具にてなり。驛よりタクシーで新札幌にもどり鐵路千歲空港へ徃く。日本航空で名古屋へ戾り薄暮歸宅。一服し三郷に赴き主治醫の診察を請ふ。今月より精神障碍者醫療費受給者證適用さる。通院治療費藥代無料なり。
睡より寤めれば朝の五時なり。昨日午後より熟睡すること半日を超ゆ。乍晴乍隂、薰風の好き日なり。レモン頻りに鳥語す。主人の遠出を察するためならんや。廣島のF君より來書あり、醫師を目指す由。午前名鐵バスで藤が丘驛へ赴き晝餉をなし高速バスで名古屋空港へ徃く。三時半千歲空港着。雨糠の如し。存外寒からず。晡時新札幌驛着。定宿シェラトンホテルに投宿す。一服しサンピアザとダイエー内をあゆむ。開業二十五年前、余は小學生なり。當時吹拔のビル珍かなりしかば日用品衣類抔求むること頻なりけり、ダイエーは全國出店の最中にて雜沓したれど今宵は地下食品賣塲のみ賑わひたり。嘗て音響機器を購ひし頃の面影失せぬ。サンピアザのみ活況を呈すること徃時に劣らず。夕餉に味噌ラーメンを飯しホテルに戾り執筆。衞星放送第二にて「聯想ゲーム」再放送を看る。
朝來雨。早起執筆忽午となりぬ。フランス科Ⅰ氏より電話あり、六月に溫泉旅行に行きませんかと誘はる。夏期休暇まで祭日なければ前期半に一息つかんとする心積もりなるべし。快諾す。一年半ぶりに學科會議に出席し疲勞困憊、初囘の授業は來週に延ばしましたといふ。氣負はず五分の力で臨まれたしと助言す。午下疲勞を覺え午睡せんと橫臥す。
朝くもりて午後春雨しめやかに降りつゞきたり。晏起。森林公園を步む。芝生のツグミ日每その數を增す。いろは楓開花す。山櫻滿開なり。午下机に凭りて筆とること例の如し。天白Yさんの書に接す。學科主任Nの理不盡なること言語道斷なり。長女Rを抱くと命の匂ひがしますといふ。返書を送る。晡下散髮、實家で夕餉をなす。初鰹の刺身味佳なり。初更歸宅。大谷地のOより來書あり、母の訃報に接す。電話をかけるに畧歷作成の最中なり。八日深更心臟發作で急死の由。ひとり暮らしなれば昨夜に至るまで發見されざり、寐室の戶口にて着衣のまゝうつ伏せで息絕えぬといふ。日曜通夜月曜告別式。
晴天、南風吹きつゞきて暑し。長久手遊步。新池より南へくだり長久手高校に出でたり。珍しく立石池に鴨一羽あり。ござらつせ露天風呂に浴す。午後執筆。晡下實家に徃く。父上古稀を迎へぬ。花を贈りて祝ふ。此の日新聞各紙バグダッド陷落を報ず。フセイン大統領の行方杳ゞして知れざりゞいふ。宣戰布告なければ降伏もなし。此度の米英軍の大義名分は大量破壞兵器の殲滅なりしかど何時しかフセイン政權打倒に變はりぬ。 NHK米國の大本營發表を繰返すのみ。世間近頃に至り遽に戰時下の報道の獘害を論ずるもの多し。某新聞紙にてはわざわざ識者の新聞報道批判の寄稾を揭載し戰時報道に關する是非を問ふ。これは自己批判を騙りし當世流の人氣取りの策畧なるべしゞ雖實に愚弄の至りなり。百年來新聞の繁盛するは戰爭を煽動したる結果なり。十九世紀末米西戰爭の勃發したるはワールド紙ゞモーニング・ジャーナル紙の米二大低俗大衆紙の煽動によるものなり。ワールド紙の社主未だその名をピューリッツァー賞にゞどめたり。日米倶に島國根性今以て失せやらぬものゞ見えたり。今日の時勢を見るに少女の賣春の如きはたゞへこれ有りゞなすも恐るゝに足らず。恐るべきは政治家ジャーナリストの廉恥心なきこゞなり。社會公益の亊に名を託す僞善の行動最恐るべし。男子變節の害に比すれば少女の密に淫を賣るが如きは言ふに足らず。援助交際なる滑稽な言葉につきては余は別に意見あれどこゝには贅せず。
曇りて烈風終日吹きつゞけて歇まず。岩作漫步。橫濱のSさんより來書あり、直に返書をしたゝめ送る。更に書簡數通書けば忽ち日は晡なりぬ。實家で夕餉をなす。ベランダの欄干に鵯來りて椿の蜜を吸ひ飛び去りたり。甥D小學校入學す。此の日紐育ヤンキース松井秀喜夲據地初戰初打席にて滿壘本壘打を放つ。球團新記錄を打立てたり。
朝來あたゝかく風雨烈し。往來半袖の女性あり。橫毆りの雨大風の如し。岩作雁又の櫻稍ちりそめぬ。救急ヘリコプターの二度飛ぶをみる。長久手溫泉に赴くに休館日なり。津野海太郎『滑稽な巨人』をよむ。實家にてすし勢の握り壽司を食す。
天氣好し。早起森林公園をあゆむこと例の如し。池邊にてハクセキレイらしき鳥の地を跳梁するをみる。頭部目尻ともに白くハクセキレイに似て非なるものなれば圖鑑を紐解くにセグロセキレイと判明す。燕日毎多し。歸途やまとの湯露天風呂に浴す。タオルを忘れしかば長椅子に腰かけ陽を浴びること僅五分、忽ち乾きぬ。晡下實家で夕餉をなしてかへる。
晴れて風寒きこと冬のごとし。岩作雁又附邊を漫步。長久手淨化センター北香流川沿ひの枝垂櫻未だ開かざる蕾あり。白山林をあゆめば昨日の雨に耐へ花尙散らざるなり。櫻滿開。花の命永きこと近年例になし。執筆半日。晡時實家。衞星放送でアカデミー賞授賞式總集編を看る。初更歸宅。NHK「夢であへたら」再放送を看る。職業藝人の膂力堪能す。然るに今は玄人よりも素人を好み一般市民の癡話喧嘩をそのまゝ放送せむとするに至れり、時勢の變化只驚くの外はなし。
朝來雨。午前實家に徃き午下家にかへる。S氏の書に接す、バラッカ創立者I氏K氏O氏要町S氏宅に集ひたる由。縣議會選擧候補者の宣傳喧し。燈下舊稾を整理す。
隂、午後雨ふる。森林公園をあゆむこと日課の如し。この春初めて燕をみる。ヒヨドリ、ツグミ、アオサギ例の如し。三千步。午下無料文件で僞新聞記事を作成しオンライン劃廊にてR2D2とS子の閱覽に供す。直に返亊來り、大受けなりといふ。晡時實家。愛知縣產椎茸を炙りて大根おろしで食す。季節外れ且大ぶりなれど味佳なり。嘗て四ッ谷の壽司屋にて燒椎茸の握りに感心したるを思ひぬ。父上母上僞新聞をよみて呵呵大笑せり。初更家にかへる。埼玉のTさんより繪端書屆く。セビーリャを旅行中の由。ギャガのKさんより『話してご覽』のプレスリヽースとチラシ屆く。昨夜そろりさんより『モロッコ』の舞臺寫眞電子郵件にて拜受。
薄く曇りて風爽なり。森林公園漫步。枝埀櫻滿開なり。芝旣に半靑くなりぬ。夫婦數組茣蓙にて茶を喫し、少女らバドミントンに興ず。花を撮影する男女殊の外多し。川邊の櫻を窺うに鶯らしき鳥影梢に見えたれば直に雙眼鏡を構へしかど其姿旣になし。やまとの湯に浴して歸宅す。カーラヂオよりエラ・フィッツジェラルドとルイ・アームストロングの April in Paris 流れ來れり。午下アルファロフトの修理工K氏に車を預け窗の修理を依賴す。代車日產マーチで家にかへる。讀書。晡下K氏より電話あり、修理完了したればふたゝび赴き、歸途實家に寄りて晚餐をなす。札幌の叔父Sより母上に電話あり、H先生の弟肺癌で逝去の由。
朝來春雨霏々、くらき日なり。白山林の櫻花滿開なり。富ケ丘に徃くに花正に盛なれど雨のため半散りたるを見ぬ。執筆半日を消す。新聞を見るに帷子川に迷ひ込みし海豹を保護せむとて餌付せし由非難の記亊揭げられたり、何亊も夲末顚倒のわが現代なれば怪しむには當らざるなり。昨日Y君中米より無亊歸國せり。テレンシ・モシュ歿享年61。畏友ヌリアの心中察するに餘りあり。レスリー・チャン香港マンダリン・オリエンタル・ホテルの部屋より飛降り自害す。新聞の報ずる所をよむに昨年來不眠症に罹りしかば新作映畫『美麗上海』の撮影斷念せりといふ。遺書に「胃酸逆流的問題」「感情波折」と綴られたる由。
薄く曇りて春風脉々たり。市役所に徃き保險證の切替手續きをなす。數年來新聞記亊の劣惡なること目を覆ふばかりなれば購讀を中止す、また有綫放送東京のラヂオ番組を放擲せしかば之も解約す。午後雜誌の稾を脫す。疲勞少しく痊え精神明快となる、輙ち篋底の舊稾を把り出し捨つるべきものは之を束ねる。南大塚Y氏の來書にて大妻女子大學專任講師着任の朗報に接す。非常勤奉公長かりしかば返報も當然なるべし。同君のはなしに過日オートバイで澁滯を拔けんとしてタクシーの後部扉忽然と開きてつき當り、救急車にて病院に移送され右膝を縫ひ全身打撲で今尙通院中なりといふ。當初階段を昇降すること能はず、和式便所に難澁すること甚かりし由。舊年度中の厄拂ひは不幸中の幸といふべし。またS氏より來書あり、母子倶に壯健の由。郵政公社發足せり。郵便局に赴くにライオンズ倶樂部の看板あり。其の文言甚滑稽なれば次の如く記し置きぬ。
若者よ 正義の氣持を 忘れるな