朝まだきより小雪ちら/\と降りてはまた歇む。寒氣甚し。午後强ひて筆を執る。晡刻疲勞して一睡。感興索然たれど五六枚に埒もなき事書きて纔に今月分の責を塞ぐ。長き冬の夜は早くも二更を過ぎたり。映畫音樂作曲家ジョン・バリー死去。ある日どこかで Somewhere in Time 忘れがたし。
兩三日來寒氣殊に甚し。八時過ぎ起出でゝ窗外を見るに細雪ふりゐたりしが須臾にして霽る。サンデー・ソングブックを聽き書齋寢室を掃除す。余生來物臭にて室内の塵を掃ふは最も苦手なりき。然るに舊臘頃より週に一度塵を掃ひて懶しからず。寧ろ心地よし。是偏に英國ダイソン社製掃除機を得たるがためなり。食器を洗ふは昔より苦とせず。夕餉の後煙草を一服せむと書齋ベランダに出づるに、擴聲器を通したる甲高き女の聲四鄰の建物に反響して、その喧しさ堪難し。知事選擧運動員なり。
今朝も夜具の冷なるに眠より覺む。時計を見るに六時前なり。空好く晴れたれど北風吹きすさみて寒し。S子に地元の野菜果物を餽らむと、朝餉の後母上を伴ひあぐりん村に赴く。開店時刻九時半と思ひしかど、入口扉の表示を見るに九時なり。買出しの客織るが如し。てきぱきと大根を陳列しゐたる農婦に常連客とおぼしき女、菠薐草あるやなしやと大聲で問ひ、姑くして農婦が菠薐草を滿載したる籠を運び來るや、初老の女五六人一時に群り來りて籠より直に鷲づかみにす。農婦苦笑して陳列させて下さいと懇願する聲も耳に入らぬやうなり。一旦家に歸り梱包してヤマト運輸に赴き發送す。母上の書込まれし送狀を受附に提示するに、係の女一閱して、一月ですよねと言ふ。何のことなるやと送狀を閱するに、配達希望日の欄に二月三十日と記されたり。粗忽天皇の母上まさに粗忽皇太后なり。夕餉の後夜食を買ひに便利店に行く。枕頭純粹な自然の贈與を讀む。志ん生の落語藁人形權兵衞狸らくだを聽く中いつか眠りに落ちぬ。
夜具の襟の冷なるに、いつもより蚤く眠よりさめたり。時計を見れば五時なり。七時寐床を出でゝ窗外を見るに空は曇りて暗し。埃及にてムバラク大統領打倒を目ざす示威運動の豫告あり。今月半チュニジアにてジャスミン革命成功し、その餘波埃及イエメンに及べり。朝餉の後あぐりん村に赴き三ヶ日產蜜柑三袋購ふ。圖書舘に立寄りて家にかへるに、事務所より署名濟入契約書送來る。直に掃描儀で讀込み、PDF文件に變換してヘレスに送れば日は忽午となれり。ラ・セレスティーナ招聘公演の事につきてヘレスと交涉を始めしは一昨年十二月なれば、契約書調印に十四箇月を要しぬ。父上何故かケーキを購ひ來る。昨日妻の誕辰なるを忘れたる罪滅ぼしのつもりらし。昨日數年ぶりにデコレーションケーキを味はひしばかりにも拘らず、今日また母上の苦手とする生クリームまみれのケーキを差出して平然たり。昔より父上は妻子の嗜好趣味について何の關心も示さず、妻の誕生日さへ記憶せざるなり。百步讓りて二日連續菓子を贈りたければ、前日がケーキなら今日は和菓子を選べばよし。何のつもりにや解すべからず。舊臘N子が父上を評して心の不自由なる人と呼びたるを思ひ出せり。至言といふべし。枕上中沢新一純粹な自然の贈與を讀む。
駐車塲の車凍りたり。今曉の寒氣甚しきを知るべし。解氷スプレーにて霜を解かし出發。試驗開始時刻は通常の授業より三十分遲ければ早朝の澀滯に卷込まれず運轉頗る快適なり。路傍の寒暖計攝氏零度を示す。九時豐田學舍到着。後期試驗を行ふ。答案用帋裏面に一年間西班牙語を學びし感想を書かしむ。地下鐵道名城線停電にて遲刻せし男子學生一名あり。滿員の車輛に一時間近く閉込められたる由。遲延證明書を提示されたれば直に問題用帋を渡す。講師控室にてネットブックを開き、讀書中の本より數ヶ所引用して書留む。盖備忘のためなり。歸路アンテノールに立寄りデコレーションケーキを購ひ圖書舘にてウォーラーステイン著近代世界システム全二卷を借る。路傍の寒暖計攝氏七度なり。一時過歸宅す。晝餉の後ケーキと紅茶にて慈君の誕辰を祝ふ。晡刻事務所より電話あり。契約書のこと通譯のことその他種々の用事あり。授業の感想を讀む。Kさん曰く西班牙語を勉强出來たのは私の自慢です、N君曰く先生の授業だからこそ樂しく參加できた、先生の人の良さを實感した、もう先生の授業が受けられないと思ふと殘念です、Nさん曰く語學の選擇に迷つたけど選んで本當によかつた、西班牙語檢定を受け學生時代に西班牙を旅行したいと思へるほどハマった、西班牙語の授業がある日は友人に今日はテンション高いねと言はれた、W君曰く興味を持てば出來るといふことをこの授業で敎はつた。余の全く意圖せざる處で學生諸氏は銘々勝手に何かを學びとりぬ。誰かこれを讀みて感激せざらむや。
身心ともに疲勞し讀書興なし。某ソフトのスクリプト言語記述法につきて某巨大揭示板群專用スレに質問を投稾するに、僅八分後に囘答を得たり。この揭示板群は屡無差別殺戮の豫告書込まれ、また支那韓國を侮蔑する極右思想の溫床なりとて、無知なる人々の間にては危險思想の巢窟と見なさるゝこと頻なり。然れど余が日々閱覽するスレは何れも極めて紳士的なり。余が現在の電腦環境を整へるに至りしは、この揭示板群に負ふ處少からず。疲勞甚しく風呂に入る氣力なし。
快晴。朝夕は寒氣凜冽なれど、晝の中は思ひの外に暖なり。感興なけれど机に向ひ雜誌の草稾二三枚ほど書き得たり。二時過セキセイ鸚哥の混合餌を買はむとホームセンターに徃く。陳列棚配置替となり保存チャック附の混合餌は各社殼無しタイプばかり、殼附きはN社製のみとなりぬ。永らく愛顧せしI社製の餌取扱中止となりたれば、N社の殼附き混合餌を買ふ。三時主治醫を問ひ藥を請ふ。歸路アミカに立寄りあられ餠冷凍鯛燒を買ふ。鄰のパチンコ店インターパレス二年前に廢業して後廢屋となりゐたりしが、いつか取壞たれて、其跡なく、廣大なる更地を風に晒すのみ。晡下家に歸る。疲勞甚しく風呂に入る氣力なし。
薄く曇りて風靜なり。心身疲勞を覺え終日唯睡眠を催し如何ともすること能はず。日の暮るゝこと稍おそくなりぬ。五時半ごろ事務所より傳眞あり、こま/″\とした用事輻輳したれば夜は忽二更を過ぎたり。
拂曉雨雪ふりしとおぼしく裏通りの路面濡れ空氣淸澄なり。セキセイ鸚哥のシジミ君秋來體調不良の氣味久しく去らざりしが、漸く恢復したとみえ背筋ピンと伸ばし、眼輝き、血色もよく、オーツ麦の過食も止め混合餌を喜々として食ふなり。サンデー・ソングブックを聽きて後散步す。植込より目白一羽飛び出づ。鵯椋鳥。初更喜味こいしの訃に接す。享年八十三。夢路いとし喜味こいしを人間國寳に認定せざりしはかへす/″\も殘念なり。
晴れてやゝ暖なり。朝餉の後あぐりん村に徃き三ヶ日產蜜柑三袋を買ふ。皮薄き小ぶりなる蜜柑の時節過ぎつゝあるなり。午後疲勞恢復せず困臥、眠よりさむれば窗外旣に暗し。讀書四更に到らむとす。
風歇みて好く晴れたり。疲勞甚しく家を出る氣力なし。筆もすゝまざれば橫臥して世界史の構造をよむほどに眠りに落ちたり。ふと寤むれば冬の半日はわけもなく暮れ果て、燈火街路を照らす。
曇りて北風寒し。熟睡せしかど疲勞甚しく、起出でむと試みしが心地爽ならず。然れど今年度最終授業の日なれば意を決して寐床を出づ。新年度より始業時刻三十分遲く九時半始業となれば蚤起も今朝が最後とはなれり。立體駐車塲屋上殘雪尙消えず。グリーンロード何故か自動車の往來いつもよりすくなし。路傍の寒暑計攝氏零度を示す。一限二限ともに點過去形の復習をなす。流行感冒猖獗の折から缺席者數名あり。歸路ユニクロにてヒートテックシャツを買はむとせしが白タートルネック以外悉く品切なり。洗濯屋理髮舖に立寄りて歸る。ビジャマルタ劇塲S氏漸くにして契約書文案を送來る。一讀するに出演者氏名に誤植散見せり。直に事務所に轉送す。連載の草稾をつくらむとせしが感興來らず、一枚をも書き得ずして已む。夜雲散じて滿月皎々たり。
陰晴定らず。午下耳鼻科に徃き蓄膿症の療治をなす。病荏苒とし未痊えず。町内突如として道路補修工事始まる。年度内に豫算消化せんがためなるべし。試驗問題完成。美術助手T氏ヘレス宛宅配送料見積を送來る。九十キログラム十四萬圓也。ビジャマルタ劇塲C氏より電子郵件あり、契約書のことにつきて進展あり。晡刻疲勞して一睡。大相撲初塲所橫綱白鵬對關脇稀勢の里戰を見る。白鵬尻込み稀勢の里に押出され、二塲所連續黑星を喫す。白鵬に天敵現る。十六夜の月鏡の如し。
天氣恢復せず曇りて暗し。殘雪猶屋根にあり。終日爐邊に試驗問題文を添刪す。ヘレスのホテル宿泊者名簿を改定す。電腦の作業は殆無料軟件で用をなすなり。文件操作改名等はあふw、文件檢索はEverything、脚本實行はAutoHotkey_L、起動呼出はfenrir、ダイアログ制御はDialogHandler、バイナリ文書のテキスト抽出はxdoc2txtなり。T氏ヘレスに發送する舞臺美術のことにつきて日本通運の送狀を送らる。總重量九十キロに及べば送料安からず。初更腹ごなしを兼ねてセブンイレブンに赴きセブンアンドワイに注文したる文庫本三册受取る。十二月十五夜の月雲の間に浮び出づ。
曶爽雪紛々たりしが姑くにして歇む。試驗問題文を起草せしが感興來らず一枚をも書き得ずして已む。照明主任より問合せあり。懸案の問題依然として進捗せず頭痛を催さしむ。三時過散步。曇りし空より薄き日の光漏れ落ち殘雪半ば解けたり。晡時疲勞して眠る。初更宿泊者名簿の事につきて事務所と電話傳眞をやりとりす。名簿作成煩累に堪へず。
早朝より雪降りしきりて終日歇まず。書齋睡房を掃除す。二更煙草購はむとて外に出るに積雪三寸位、四鄰寂然人の聲もなく車の響も絕え、夜は沈々として更け行きたり。室蘭の正月を想起せしむ。枕頭世界史の構造を讀み、志ん生拔け雀を聽く。
空またもや曇りて暗し。昨日あぐりん村にて買ひし三ヶ日產蜜柑皮薄くして實重く甘し。慈君いたく感激せられしかば、午下余ひとり再びあぐりん村に赴き三袋購ふ。ヘレスの宿泊者名簿日本語版西班牙語版をつくり調整役S氏に送信。確定申告に備へて領收書を整理すれば夜は忽初更なり。二更東海テレビ土曜プレミアムにインディ・ジョーンズ最後の聖戰を看る。枕頭柄谷行人世界史の構造を讀む。
暗く曇りし空より西北の風吹きつゝきて折々細雪ふる。朝餉の後蒲郡蜜柑を購はむとて母上を伴ひ自働車にてあぐりん村に赴く。三ヶ日產蒲郡產それ/″\一袋三百圓と廉價なり。ケーズデンキに立寄り液晶テレビを見物す。母上余が平成十年より七年間住みたりし舊抑鬱亭を見たしと云はるゝを以て久振りにK町に行く。正面玄關前に車を停め車窓より暫し家を眺む。外壁塗裝せしばかりと見え新築物件と見まごふばかりなり。母上往時を述懷して、あんたが地獄の日々を送つた家だねえ、足許もフラ/\してと云はる。余平成十年二月この家に移り住み、翌年の春初めて心療内科を受診し、明くる年精神科に入院せり。瀨港線沿道の空地悉く商舖建ち竝び隔世の感禁ずべからず。十一時半家にかへる。晡下町立圖書館に行き柄谷行人著世界史の構造を借る。資料檢索端末を見るに柄谷の登錄著者名にカラタニ・ユキトとあり。司書に誤りを報告し訂正せしむ。二更ビジャマルタ劇塲C氏よりホテル斡旋の連絡を受く。鶴首して待ち望みし知らせなり。細川俊之自宅居間にて顚倒し頭部强打、急性硬膜下血腫にて死去。享年七十。
快晴の空雲翳なし。嚴寒いよ/\烈し。襟卷をまとひ手袋を嵌め立體駐車塲に行くに車路凍結し足をすくはれ危うく顚倒せむとす。自働車の車體に霜凍りて宛ら北海道の冬のごとし。フロントガラスに解氷スプレーを二三度噴霧するに忽ち殘量盡き、詮方なくブラシで表面を削りとり、そのまゝ出發、最初の交叉點にさしかゝるや、朝日の光眞正面よりフロントガラスを射て霜に亂反射して咫尺を辨せず。已むを得ず寒風を冐して運轉席の窗をあけ放ち顏を覗かせて町内を走ること十分ばかりにて霜解けたり。グリーンロード沿道の畑一面繁霜雪の如し。路傍の寒暑計氷點下四度を示す。八時四十分豐田學舍到着。一限二限とも定期試驗前の復習を行ふ。一箇月ぶりの授業なる故にや聲次第に嗄れて喉痛し。午下自働車用品店ジェームスに立寄り解氷スプレーを購ひて家に歸りぬ。午後電子郵件を讀み書きすること日課の如し。夕餉に鴨肉鱈鍋を食す。食後皿を洗ひながら母上とタイガーマスク運動につきて談笑す。先週來伊達直人を名乘る人物全國各地の兒童養護施設などに現れ、人知れずランドセル文房具商品券などを玄關に置きて立ち去るなり。母上の話に、余幼少の頃母上の友人來宅せられし時、余自製のタイガーマスク紙芝居にて客をもてなしたることありといふ。この友人は今猶折に觸れ母上に往時の事を懷かしく語られる由。余は能く記憶せざれど、タイガーマスクの漫畫映畫は之を頗る好みて鑒賞したりき。いつの事ならむと思ひてウィキペディアを一閱するに、テレビ放映は昭和四十四年十月より昭和四十六年九月までなり。余四五歲の頃なれば、定めて白黑テレビにて見たりしならむ。枕上五代目古今亭志ん生品川心中を聽く。
快晴。寒風凜冽。宿泊先美術製作塲所通譯の事など報告書をつくり事務所に送る。今囘のごとき海外公演業務本來ならば專門の代理人が請負ふべきところ、素人の余が闇中摸索する羽目となりしは、かへす/″\無茶なる仕儀なり。今週來週分の復習敎材添刪すれば日は忽暮れかゝりぬ。午睡一時間。枕頭志ん生の芝濱文七元結を聽く。
曇りて風なく薄き日影折々窗に映ず。宿泊先の事につきてA美さんより電子郵件あり。余も氣懸りなれば昨日G氏に問合せしばかりなる旨荅ふ。午前耳鼻咽喉科に赴き蓄膿症の療治をなす。待合室に入るに患者一人もなし。持參したる文庫本を繙く間もなく診察室に呼ばれ頭蓋骨レントゲン寫眞を撮る。舊臘撮影せし寫眞と見比べるに半ば痊えたり。鼻ネブライザーにて吸入し、ドラッグストアに立寄り藥を受取る。一時前歸家。ゼミ卒業生Yさん賀狀にて昨年末入籍したる由を告ぐ。鏡開きの汁粉を食し、今月の復習敎材作成にとりかゝる。三時息つく遑もなく主治醫を訪ひ診察を受く。藥變らず。畦道を走るに鳧の子二羽車を恐れずとこ/\眼前に步み來れり。セブンイレブンに立寄りセブンアンドワイに注文し置きたる文庫本を受取り、神社に赴き正月飾りを納む。晡下家にかへる。初更舞踊團員AさんKさん電子郵件を寄せて余の病を問ひヘレス同行斷念を惜しまる。誰か之を讀みて感激せざらむや。直に返信を送る。舞臺裝置製作塲所宿泊先豫約などの事につきローラに長文の電子郵件をしたゝむ。堀越千秋氏助手T氏より荷物發送準備完了の報告を受く。夜は忽三更にならむとす。疲勞困憊甚し。枕頭志ん生の唐茄子屋芝濱を聽く中いつか眠りに落ちたり。
成人の日祝日。晏起十時に近し。好く晴れたれど北風烈しく寒氣凜冽なり。空氣淸澄、木曾の御嶽駐車塲より眺望すれば旭日雪に映じて眩し。慈君を伴ひ自働車にて開店せしばかりのユニクロに赴く。店舖廣大品數豐富なるに一驚を喫す。週末休日は特賣日なれば雜踏を恐れしが意外にも客尠し。天井際に黒木メイサ松田龍平の宣傳寫眞あり。家電量販店Eに立寄りてかへれば亭午に近し。宿泊先と舞臺美術製作の事につきてビジャマルタ劇塲G氏に長文の電子郵件を送り、ホテル宿泊者名簿四十數名分を作り直し、旅行代理店F社の航空機新幹線豫約内容を確認すれば夜は忽初更なり。NHK總合テレビ大相撲初塲所中繼にデーモン小暮解說者として登塲す。字幕にゲストデーモン閣下と表示されたり。呵々。
曇りて朔風颯々たり。ヘレス同行不可能なる旨ハビエル調整役S氏に報告す。サンデー・ソングブック大瀧詠一山下達郎新春放談後半を聽く。三更橫澤彪の訃あり。享年七十三。
快晴。調整役S氏と電子郵件を交し仕事分擔の用談をなす。忽にして半日は過たり。日脚やゝ長くなりて五時に至るも殘照微に空を染む。寒檠の下に孤坐して舊稾を整理す。蓄膿症未だ痊えず。枕頭新渡戶稻造武士道を繙讀す。
終日吹きつゞきし西北の風日暮に至りて息み寒氣嚴しくなりぬ。されど本年卯年の正月松の内は元日よりつゞきたる好天氣にて、まづは穩なる好き新春なりしと謂可し。來週分の草稾を編輯長に送る。頃日日も晡ならむとする頃疲勞を覺ゆる事甚しく一睡す。夕餉に粥を食す。
快晴。舞臺美術助手三人の旅券及び幕一式發送の事につきてT氏に電子郵件を送る。旅行代理店F社より徃復渡航券の日程表屆く。成田セビーリャ間の移動手段の事につきて舞踊家A君に Facebook 經由で質問狀を送る。A君 Facebook に近況を報告すること屡なれど、彼個人宛の傳言に氣づくこと遲く、念のため別途電子郵件を送る。いつか日は暮れたり。慈君壓力鍋で黑豆を煮らる。何故か皺だらけで色も黑からず茶色になりぬ。山下敬二郎沒享年七十一。
雨もよひの空墨を流せしが如し。終日西班牙と電子郵件をやりとりすること幾囘なるを知らず。音響機材表飜譯。調整役S氏の話に懸案の舞臺裝置二臺ビジャマルタ劇塲の備品を利用して間に合ふ見込なりと云ふ。來週分の草稾をつくらむと思ひしが遑あらず。中日新聞昨日夕刊よりこの道と題したる小松原庸子氏の半生記連載始る。
晏起十一時に近し。體の芯より疲勞睡魔滾々と湧出づること泉の如し。好く晴れたれど西北の風吹きすさみて寒し。四日連續賀狀配達せらる。郵政民營化の故なるべし。平成の大合倂とやらで全國各地市町村名の改稱せられし處鮮からず。午前耳鼻科に赴き蓄膿症の治療を請ふ。病稍快方に向ふ。醫師の說明に余が感染したるは表皮葡萄球菌なりといふ。鼻ネブライザーで吸入し抗菌劑と喀痰溶解劑を貰ふ。家に歸れば二時半なり。初更ビジャマルタ劇塲R氏より電子郵件二三通あり。西班牙の音響M社J氏より質問屆く。日本の音響T社T氏に報告す。舞臺美術製作の事につきて調整役S氏と電子郵件を交す。
晏起十時半。うらゝかに晴れたる日は終日風もなくて穩に暮れたり。舞臺監督舛田氏裝置二臺の設計圖を送來る。調整役S氏に報告す。ビジャマルタ劇塲R氏より待望の返信あり。舊臘二十日より降誕祭休暇に入りゐたりし由。千葉市美濱區オランダ家の樂花生ダクワーズを茶請にキャンブレム美濱ブレンド咖啡を喫す。
八時半眠より覺めしが起出る氣力なし。母上N子書齋に來りて。N子を自動車にて地下鐡驛に送る。歸路ヤマト運輸に赴き荷物一凾發送す。景行天皇社に初詣せむとする人々駐車塲に列をなせり。蕎麦屋拉麵屋の駐車塲もほゞ滿車なり。午時分とはいへ正月二日に飮食店に車で乘附る、いかにも外食好きの名古屋人氣風と言ふべし。二時FM愛知サンデー・ソングブックに大瀧詠一山下達郎新春放談第一囘を聽く。正月恆例のこの對談も早や二十六年目を數ふるなり。番組終了後 ShoutCAST にてオールディーズを聽く。
西班牙この日より改定禁煙法施行、兒童公園學校病院のみならず飮食店も全面禁煙となりぬ。敎師學生ともに紫煙を燻らせ講義を行ひし大學の光景を追懷し今昔の感に堪へざる心地せり。
蚤起枕頭の窓を開くに夜半の吹雪は直にやみしと見え殘雪跡なし。父上旣に起きて電腦作業中。ツイッター一瞥、高橋源一郎還曆の誕辰なるを知る。十時過母上起床、次いでN子起出で、お節料理を食す。今年は母上の手間を省かむとて品數例年より少く、お煮染鮭ベーコン卷紅白蒲鉾、統子自製の錦卵、伊達卷昆布卷慈姑數の子、父上自製の田作金平牛蒡、余手製の羊羹なり。空薄く曇りて風絕え近年稀なる好き正月なり。思ひがけずN子に御年玉を貰ふ。不甲斐なき兄面目なし。男はつらいよの原題愚兄賢妹は至言と云ふべし。雜煮を食し始むるやセキセイ鸚哥のアサリ君興味津々、籠の緣側より首を伸ばして頭もぎれんばかりなり。大根を箸につまみて見せるに、卓上をトコ/\步み來りて美味さうに食ふ。奇妙奇天烈なる鸚哥なり。午下新年の賀狀を閱す。學者の年賀を機會となし自家の抱負を麗々しく廣告するもの尠からず。實に厭ふべきものなり。藝術家の自家吹聽に至りては倨傲らしくも見え、淺ましくも見ゆるなり。滑稽なるは自家の肖像を印刷せしものなり、されどこれ等のこと早や昭和六年正月に一般の習慣となりゐたりしは荷風先生の斷膓亭日乘に明かなれば、これを笑ふ吾身こそ卻て人より笑はるゝ事なるべけれ。夕餉に長沼町かねひろの成吉思汗を食す。