雷雨。久振りに鳧の鳴くを聞く。驟雨沛然、盆を覆すが如し。午に至り一時霽れてはまた小降りの雨來る。終日臥褥に在りて讀書。晚間I君より電話あり。
黑雲天を蔽ひ遠雷殷々たり。蒸暑し。覺醒早々疲勞を覺え嘆息す。終日門を出でず。胃痛。每日新聞書評欄をみる。吉岡正人印象派から二十世紀によれば、ドガの描く輪郭の銳さは片眼の弱視に由來するといふ。夕暮涼味頓に生じ、半ズボンを脫ぎ長ズボンを穿く。
曇天。風絕えて欝蒸甚し。執筆忽午となる。雨にはならじと傘を持たず地下鐵道に乘り瑞穗運動塲西驛に至り、階段を昇るに大雨車軸を流すが如く、出口より潦水流來りて一驚を喫す。詮方なく藥局の軒先に雨を避けること小一時間ばかり。余はネットの天氣豫報を信じて、秋の空模樣のかはり易きに心づかず。是亦余が日本に住みて日本の天候を知らず、同時に亦古來の俚諺傳說について知るところなきを證するものならずや。情けなき限りなり。小止みを幸に豐岡通を步みてきまぐれ茶房に徃き Koji さんの個展を看る。人間等高線地圖頗る佳なり。福井千春氏長南實譯岩波文庫オルメードの騎士を惠贈せらる。
朝來くもりし空には雲脚の動くを見たれど、霧雨折々降り來りて霽れず。涼風爽なり。朝餉を食ひて間もなくR2D2は麻雀に夢中なり。十一時驛に步みて見送る。D2歸りたくないと呟くこと頻なり。白樺書房にて文庫本二册購ひ、國民年金國民健康保險料を收め、理髮舖に立寄りかへる。午後執筆。夕刻午睡。七時半頃皆旣月蝕するとて圖書館に本を返卻しがてら東の空を仰ぐに、赤黑き滿月雲のあひだに影暗くかすかに泛べるを見るのみ。檜ケ根公園に男女十二三人花火に興じ、夏を惜しむ風情なり。蟲聲漸く多し。フランシスコ・ウンブラル歿。享年七十二。
薄く晴れて暑氣少しく忍易し。中日新聞の網站に町長選擧の結果をよむ。加藤梅雄四選、大島令子次點に終れり。朝食の後S子R2D2地下鐵道にて榮見物に出掛ける。飜譯半日。四時前三人歸宅して暫くして畢る。夕食の後D2とアイスホッケーゲームに興ず。初めて敗北を喫す。麻雀大會二更に及ぶ。エドワード・サイデンステッカー歿。行年八十六。
薄曇りて暑し。S子R2D2を伴ひ來る。R2は蹴球の成果出でゝ體引締りたり。D2細きこと例の如し。夕刻散步がてらD2を伴ひ小學校に赴き町長選擧の投票をなす。夕餉の後ビリヤードゲーム麻雀大會に興ず。
晴れて殘暑猶熾なり。岩根圀和物語スペインの歷史人物篇を讀む。福岡I君より電話あり。本日退院と思ひしかど去十八日退院しゐたり。結婚式招待客のことなど相談に乘る。執筆半日。疲勞して午睡二時間。
晴。睡眠導入劑少しく體に殘りて足許危うし。感興なけれど勉强して筆を秉る。
待望の雨漸く降る。涼風炎暑を洗去る。窗邊に赤蜻蛉と鹽辛蜻蛉來れり。午下あゆみて病院に徃く。立石池に絲を垂るゝものあり。木陰に黑揚羽の舞飛ぶを見たり。歸途用水路に身の丈一寸ばかりの蛙の子數匹を見る。稻穗頭を垂る。朝夕町長選擧街宣車の聲喧し。
聯日の炎暑に疲勞を覺ること甚し。揖斐川のMさん内祝を送らる。
薄く晴れて炎蒸昨の如し。父上とN自動車店に徃き店主と相談す。午後何事をもなし得ず、眠を貪るのみ。
晴れて秋暑酷烈なり。苦熱筆を執ること能はず。山口小夜子歿享年五十七。
白雲多く浮びて折々日を遮る。炎暑秋に入りて卻て熾なり。稻妻頻に閃き雷雨來らむとせしが遂に來らず。日曜喫茶室に鷗外先生の作山椒大夫を久米明が朗讀するを聽く。加藤幹郎映畫館と觀客の文化史を讀む。
殘暑猶熾なり。靑空に雲多く浮びて風あり。空の色は南歐地中海のほとりを思出さしむることあり。然るに今年の八月は數日前より引きつゞきたる暑さに散步に出づべくもあらず、今日も寢臺に橫たはりて書を讀むのみ。夕餉の後東方にて頻に花火を揚る響きこゆ。去十六日マックス・ローチ歿享年八十三。
晴。北風吹き出でゝ暑氣昨日に比すれば纔に忍びやすし。路傍に生垣をなす金芽柘植の葉枯れゆくばかりなり。樹影を踏みて郵便局に徃き用事を辨ず。交番前を過るに俳優の奧田瑛二に睨まれ一驚を喫す。よく見れば看板に貼られし廣告寫眞にして、白きシャツのあたりに「あなたの人生、終はりですよ。」の惹句大書せり。一見するに何の廣告なるや知らず、麻藥撲滅運動の類かと思ひよく/\見るに愛知縣警察による飮酒運轉根絕を訴へるものと知れり。余は日頃旣に老境に及びたりと思ひゐたりしかば、宣傳文に心見透かされたる心地せり。午後炎熱堪へ難く午睡を貪る。
晴れて風なし。酷熱日に日に甚し。飜譯忽午となれり。晝餉の代りに豆腐白玉團子を食す。午下煙草を求めんと外に出づるに碧空拭ふが如く烈日燬くが如し。名古屋攝氏三十九度四分。多治見熊谷攝氏四十度九分。書齋ベランダのゴールドクレストとアイビーに水を遣るに鉢の底から水滴り落ちコンクリートの床に溜るや、見る見るうちに蒸發するなり。南のベランダに打水すれど半時間にして干上れり。余かつてマドリードに在りし時攝氏四十五度を體驗したりし事あり。然れども濕度極めて低かりければ日陰に涼を納み、またアパートには空調は云ふに及ばず扇風機もなかりしかど別に不便は感じざりき。燈刻N子發つ。
快晴。終日苦熱爲すことなし。午睡に日を暮らす。群馬桐生市攝氏四十度二分。名古屋攝氏三十七度三分。石屋製菓の白い戀人消費期限を改竄し大腸菌群も檢出され、新千歲空港の賣店より撤去さる。
晴。旬日雨なし。晏起十時を過ぐ。N子が使ひ古したるパナソニック製カセット・DVD錄畫再生機ディーガを居間のテレビに繫ぐ。執筆すべき原稾山のやうにあれど筆進まず。
暑氣燬くが如し。讀書の後午睡。燈刻N子里歸りす。夕餉の後コロンバンの新作 Bons Gâteaux を食す。寢室をN子に讓りて余は書齋に蒲團を敷く。
晴れて後に曇る。藥を飮まずに熟睡するを得たり。何故か今朝も輕い頭痛を覺ゆ。日曜喫茶室に「テレビ・バラエティが生まれた日~植木等さんの思ひ出」を聽く。來客はアトランタより一時歸朝したる井原高忠なり。二十七年間人の三倍働きたれば次の二十七年間は悠々自適に過し今に至れりといふ。バラエティ番組の背景はモノトーンに如くはなし、然ればスターも華やかに輝くなりとは至言といふべし。
晴。溽蒸昨の如し。父上母上とNバスに乘りて竹ノ山の中古自働車屋を見物す。掘出物あり。カーマとアオキスーパーに立寄り、愛知學院大學まで步みてふたゝびバスに乘り歸宅す。蓮實重彥「赤」の誘惑を讀む。荒井正道氏の訃報に接す。享年九十一。寫眞家ジョー・オダネル歿享年八十五。
七時半起出るに何故か頭痛を覺ゆ。炎暑秋に入つて更に甚し。攝氏三十七度を超ゆ。乘合自働車に乘りて町役塲に赴き用事を辨ず。步みて家にかへる途次、消防署北にて乘用車と自轉車の衝突事故を目擊す。午睡わづかに苦熱を忘る。チネチッタ失火。
炎暑燬くが如し。聯載原稾を起す。先週來筆を斷ちしまゝ今日に至りしが、無聊のあまり、ふと書初めしに意外にも興味動きて、どうやら稾をつゞけ得るやうなり。創作の興ほど不可思議なるはなし。春以來幾たびとなく筆秉らむとして乘り得ざりしに、今や筆頻に進む。喜びに堪へず。木陰を選び步みて病院に徃きカウンセリングを受く。夕陽燦然たり。夕餉に黍魚子の酢漬けを食す。
曇りて後に晴る。アルファロフトのK氏白きベンツに乘りてゴルフのスペアキーを取りに來訪せらる。久振りに夕食をつくる。獻立は豚肉の香草燒き赤黃ピーマン添へ、キャベツと長葱の味噌汁なり。この日立秋。
曇天。昨日に比して暑氣稍忍びやすし。筆執るも感興來らず。父上母上と輕自働車の型錄を比較檢討す。
陰晴定まらず。苦熱昨の如し。アルファロフトに徃き、五年半乘りたるゴルフを廢車にす。龜の井を步みて一社驛に出で地下鐵道にて家にかへる。NHK-FMミュージック・プラザ第二部つのだ☆ひろに阿久悠特輯を聽く。
モンキー・ダンス | ザ・スパイダース |
狙いうち | 山本リンダ |
個人授業 | フィンガー5 |
ペッパー警部 | ピンク・レディー |
ひまわり娘 | 伊藤咲子 |
二重唱(デュエット) | 岩崎ひろみ |
ざんげの値打ちもない | 北原ミレイ |
サムライ | 沢田硏二 |
ブルースカイ ブルー | 西城秀樹 |
騎士道 | 田原俊彦 |
宇宙戰艦ヤマト | 佐々木功とロイヤル・ナイツ |
ピンポンパン體操 | 杉竝兒童合唱團と金森勢 |
瀨戶内行進曲 | クリスタルキング |
港町シャンソン | ザ・キャラクターズ |
古城の月 | 小林旭 |
さらば淚と言おう | 森田健作 |
今夏初めて西瓜を食す。
晴れて風なし。炎蒸忍ぶべからず。午前執筆。ベランダに籠を出すにアサリ嬉々として水浴びす。午睡薄暮に及ぶ。
曇りて風絕え溽暑甚し。飜譯半日。苦心慘憺す。燈刻雷雨。
曇りて風强し。Nバスに乘りて病院に徃き肺のCTスキャンを撮る。異常なし。午下步いて家にかへる。午後執筆。晡時NHK-FMミュージック・プラザ第二部に阿久悠特輯を聽く。司會者太田裕美に追悼の心微塵もなし。それにしても午後四時の番組、ポップスの看板は外すに至らざれど、質の低下殆聽くに堪へず。今はたゞ往年の輕音樂をあなたにを懷かしむのみ。母上札幌より歸宅せらる。
曇天。朝ベランダに鸚哥の籠を出し鉢植ゑに水遣るに驟雨來る。急ぎて籠を居間に入れる。シジミこの頃太り出しアサリより大きくなれり。執筆終日。車の修繕を豫約す。颱風また接近中。空模樣穩ならず。晚間I君より電話あり。二十五日退院決定。大阪Aさんと七年ぶりに話す。話し好きなこと變りなし。
晴。車のエンジンをかけむとするに充電池切れてかゝらず。ゼミ卒業生Mさんより電子郵件あり。無事女兒出產。疲勞して仰臥半日。阿久悠歿。行年七十。