晴れてよき日なり。漸く執筆の興を催し懸案の藁を終ふ。また餘事なし。日いよ/\短くなりて五時過にはあたり暗し。テレヴィジョンに職業野球日本シリーズ中日對日本ハムの試合を觀戰す。中日接戰を制し三勝一敗。コマーシャル・フィルムの拙劣いづれも見るに堪へず。有名人の顏を竝べるものばかりにしてヒューモアもなく機知もなし。何のことやらわからぬ畫像と喧しき音聲音響の洪水に頭痛を覺ゆ。
曇り。頭朦朧として筆をとるべからず。終日蓐中に呻吟す。母上風邪を召さる。
晏起十時。曇りて暖なり。机に向かへども執筆の興湧かざれば書架の書中古今亭志ん生がびんぼう自慢あるを見取りて一讀す。劇團Hの公演チラシ寫眞を見て嘆息す。思ひ千々に亂れ悄然たり。
快晴。筆執らねばならねど感興來らず頭痛如何ともするを得ず。ラヂオを聽く氣力さへなし。晝蒸南瓜を食す。東の空低く懸る月血に染りたるが如く赤きさま物凄し。
晏起十時半。終日臥褥に在りて讀書例の如し。亞爾然丁のクリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネル上院議員大統領に選出さる。空晴れて月鏡の如し。
エバミール2mgを飮みしかど眠るを得ず、拂曉起出でゝ昨日の稾を繼ぐこと一二枚。朝來雨霏々たり。午後雨の小止みを幸に三郷やまとの湯に徃き露天風呂に浴す。三月以來なり。風呂より上がるに雨降りまさりて車軸を流すが如し。忽ち濡れ鼠となりぬ。體育館南の中華料理屋いつしか五右衞門なるスパゲティー屋に替り、南榮町の酒類量販店中山も廢業し携帶電話屋になりぬ。
曇りて風靜なり。倦怠去らず、重苦しき身體を引摺り授業を行ふ。何の木なるや八號館前の廣塲に早くも赤々と紅葉したる木あり。午後執筆忽日は晡となりぬ。燈刻思ひがけぬ電話あり。
晴れわたりて風なし。倦怠疲勞昨の如し。橫臥して書を讀むのみ。晴乃ピーチク歿享年八十二。去十五日東京地裁にて製藥會社日硏化學の自殺せし男性社員勞働災害に認定されり。上司の暴言により鬱病を患ひゐたるといふ。自殺の勞災認定は初てなり。同日每日新聞に揭載されたる遺言を茲に轉記す。
悩みましたが、自殺という結果を選びました。仕事の上で悩んでいました。入社して13年程になりましたが、係長に教えてもらうには手遅れで、雑談すら無くなりもうどうにもならなくなっていました。恥ずかしながら最後には「存在が目障りだ、居るだけでみんなが迷惑している、御願いだから消えてくれ!」とか「車のガソリン代ももったいない」「何処へ飛ばされようと俺が仕事しない奴だと言いふらしたる!」等、言はれてしまいました。情けなくてどうしていいものかわからなくなり、元気もなくなり自分の欠点ばかり考えてしまい、そんな自分が大嫌いになってしまいました。先月からふと「死にたい」と感じ、家族の事や「このまま終わるか!」と考えると「見返してやる」思っていたのですが、突破口も無く係長とはどんどん話が出来る環境になりませんでした。しかし、自分の努力とやる気が足りないのだと、痛切に感じました。係長には「お前は会社をクイモノにしている、給料泥棒!」と言はれました。このままだと本当にみんなに迷惑かけっぱなしになってしまいます。転職等、選択肢もあるし家族の事を考えると大馬鹿者ですが、もう自分自身気力がなくなりどうにもなりませんでした。
倦怠甚しく机に對する可らず。臥褥に在りて讀書終日。
秋晴の好き日なり。二時半MOVIX三好に徃き、メンズデイを幸に今週もパンズ・ラビリンスを看る。俳優みな佳し。アリアドナ・ヒルのみ不滿なり。豫告篇スターダスト、ライラの冒險黃金の羅針盤、ベオウルフ、モーテル、ディスタービア。五時半歸宅。夜月明水の如し。何故にや週末以來終日眠氣を催して堪難し。睡眠導入劑を飮まずに眠るを得たるは喜ぶべし。
薄く晴れて寒し。白樺書房に徃きパセオ十一月號小島章司特輯號を購ひ理髮舖に立寄りかへる。西班牙の日刊紙エル・パイス、紙名表記を EL PAIS より EL PAÍS に改む。記事にては從前より大文字に記號を附し來れり。
晏起午に近し。藥を飮まず斯くの如く熟睡したるは實に久振りなり。薄く曇りて寒し。筆とるに懶し。終日讀書。
秋雨ふりしきりて歇む間もなし。門巷寂寥。この日晝夜家を出でず讀書。仙臺菓匠三全の萩の月、矢作菓子店胡桃柚餠子を食す。デボラ・カー歿。享年八十六。高島俊男お言葉ですが第十一卷を讀む。
一般に戰後の日本人は學歷に關して苛刻になり、學歷の低い者やない者を容赦しなくなつた。學校なんかどこを出てようと出てまいと、立派な人は立派だ、つまらんやつはつまらん、といふあたりまえのことが通用しなくなつた。民主社會はイヤな社會である。主である「民」は學歷くらゐしか人を判斷する基準をもたない。バカは人の悲しみを理解しやうとしない。
晴れたる空には雲多く浮びて折々曇る。授業の後驟雨ふり來れど須臾にして歇む。中央圖書館に立寄り病院に徃き主治醫の診察を乞ふ。木原光知子蜘蛛膜下出血で死去。享年五十九。余小學生の時NHKテレヴィジョン母と子の水泳敎室を每夏樂しみにしたりき。ベアトリーチェ公演チラシを送來る。
秋晴愛すべし。睡眠導入劑を飮まずに睡るを得たり。執筆終日。松山一六本舖の一六タルトを食す。生柚子の香佳し。二更父上東北旅行より歸宅せらる。
乍晴乍陰。暖なること昨の如し。聯載原稾執筆餘事なし。晚風蕭索。TBSラジオ「立川談志・太田光 今夜はふたりで」第二囘を斧アップローダーより落して聽く。談志圓鏡歌謠合戰の現代版なり。談志老いて猶不羈奔放、太田も善戰す。太田への談志の遺言狀といふべし。
晴れて風暖きこと初秋の如し。男性千圓のメンズデイを幸にMOVIX三好に徃きギジェルモ・デル・トロ監督の活動寫眞パンズ・ラビリンス El Laberinto del Fauno を看る。當世版ミツバチのさゝやきなり。午後執筆、短き日は忽暮れかゝりぬ。
晴れて後曇る。風絕ゆ。朝食を濟ますに表通わつしよい/\と兒童の聲俄に稠し。窗外見下ろすに、何處の神社より來りしか、十二三人靑き法被羽織りて金色の小さき御輿を擔ぎゐたり。通過るを見送るに須臾にして女兒數名の同く掛聲をかけ來るを聞く。御輿は更に小さく、貧弱なる聲は徒に寂寞の思をなさしむるのみ。讀書終日。日脚際立ちて短くなりぬ。曇りし日には夕方五時半を過ぐれば書窓忽暗淡たり。ウーピー・ゴールドバーグ俳優業を辭める旨ラリー・キング・ライブにて語りたりといふ。出演依賴絕えたればなりとぞ。
小春の好天氣打つゞきたり。午後一睡の後、中京大學文化市民會館にてスタジオマルソ第二囘發表會を看る。三年前に比して生徒の技倆見違へる程上達しぬ。休憩前に踊りし中村葵孃、年の頃は八九歲歟、天衣無縫にして華あり、セルバンテスが短篇 La gitanilla を想起さしむ。行末誠に樂しみなり。小島氏トナとシギリージャを披露す。終演後ロビーにて礒村崇史萩原朋子兩氏に祝を陳ぶ。
蚤起荷風先生が橡の落葉を筆寫す。空始めて快晴。小春の天氣喜ぶべし。アル・ゴア、ノーベル平和賞。黒川紀章歿。
薄く曇りたる空徐々に晴る。放送局員の天氣豫報をなすに、最高氣溫攝氏二十六度を宣言したれば半袖襯衣にジャケツを羽織りて豐田學舍に赴くや思ひの外に冷なり。然れども余は人一倍暑がり屋なれば授業を進めるにつれ發汗夥しくジャケツは脫ぎたり。一時歸宅して直に報道媒體用資料をつくる。夕餉の後鸚哥の籠を開放つにシジミちよこ/\と屋根に登りて四方を眺め、パッと飛立ち余のまはりを三囘巡りてヴェランダの硝子窓に打つかりぬ。漫畫映畫ヤッターマン來年正月より日本テレビにて復活するといふ。目出度き事なり。信州小布施町竹風堂の落雁方寸を食す。朝日新聞に當世出生屆名一覽あり。何れも塲末のスナックか泥水稼業の女の如し。奇妙奇天烈なれば是に記す。
虹色 | そら |
想 | こころ |
星彩 | きらら |
大空 | ひろたか |
夏向花 | ひまわり |
航海 | わたる |
倭人 | やまと |
騎士 | ないと |
絹 | しるく |
聖 | まりあ |
宇宙 | こすも |
一二三 | わるつ |
月女神 | でぃあな |
希海 | のあ |
輝也 | だいや |
梨純 | りずむ |
月愛 | るな |
瞳月 | しずく |
美星空 | うらら |
心溫 | ここあ |
梨里衣 | りりい |
颯羅 | そら |
耀琉 | ひかる |
魅麗 | みより |
伶鳳 | れおん |
凱都 | かいと |
爽楓 | さやか |
瑳翼 | さすけ |
曇りし空午後に到りて晴れる。町役塲に行き用事を辨ず。心倦みたり勞れたり。余今は何をも見ず何をも知らず。無なる哉、空なる哉。荷風先生ふらんす物語を再讀す。
雨歇み午後晴れ間覗く。金木犀の香り夜風に滿つ。東京ボーイズ旭五郎歿。享年六十三。最早や謎かけ問答を聽けぬは淋しきかぎりなり。
雨。心倦み果てゝ週末の追想を繰返す力だになし。京極夏彦百器徒然袋風を讀む。此日體育の日。
薄く晴れて暑し。十時赤坂の宿を出で千代田線にて表參道に出で稽古塲に徃く。ナニの來るに逢ふ。ナニとイレーネの稽古を見學し、プラグラム原稾のことにつきてハビエルと話合ふ。表參道驛より半藏門線に乘り大手町下車、地下をあゆみてオアゾを拔け丸ノ内北口に出づ。二時半のぞみ號にて名古屋へ向ふ。うつら/\するうちに着きたり。存外寒し。五時歸宅。古田敦也引退。
半陰半晴。十時四十四分發のぞみ號にて東上す。品川驛下車、山手線に乘換へ新宿に出でゝ京王プラザホテルに赴く。一時歸朝中のTさんと落合ひ韓國料理屋五穀亭に晝餐をなす。京王百貨店甘味處雅風に小憩し、小田急百貨店の愛玩動物屋を見物す。五時半西口地下に別る。新宿村スタジオに赴かむとて靑梅街道に向ひあゆみしが少しく疲勞を覺えたれば丸ノ内線に乘り西新宿驛下車、六時新宿村スタジオに徃き通し稽古を看る。僅か二週間で造りたるとは。舞臺美術擔當堀越千秋氏の知遇を得る。十時タキシを倩いハビエル、ナニ、イレーネ、ベゴーニャと倶に新宿三丁目どん底に夕餉をなす。十一時半一行に別れ地下鐵道丸ノ内線に乘り國會議事堂前にて千代田線の乘換へ赤坂に投宿す。
晴れて暑し。親の印刷機故障したれば母上を伴ひ家電量販店に行く。ギガス、コムロード、エイデン、コジマ、ヤマダ電機を囘り比較檢討しエプソン社製PX-V780を購ふ。歸途デニーズに一茶す。
晴れて暴に暑し。輕自働車を運轉し初めて豐田學舍に徃く。ガソリン價格ふたゝび高騰、レギュラー壹百四拾壹圓。授業後洗濯屋に寄るに日啓書房いつしか廢業しぬ。店の奧を覗くに本棚の書籍すべて運出され、手前の平臺に雜誌數册を殘すのみ。床には兒童用三輪車二臺放置され、右手の平臺に三四歲とおぼしき男兒ひとり悄然と腰掛けたるさま、悲哀言ふべからざるものあり。日頃客の出入りするを殆見ざりしかば早晚店を疊まんと思ひゐたり。今迄營業を續け得たるは寧ろ不可思議と言ふべし。中央圖書館に立寄り本三册借り、二時前病院に徃き主治醫の診察とカウンセリングを受く。歸宅して直に原稾をつくる。晴れたる空夕刻に到りて雲に蔽はる。母上の話に榮進堂も店を疊みたりといふ。小書店は絕滅の一途を辿るなり。若桑みどり先生の訃報に接す。余嘗て東京外國語大學に學びし時、若桑先生のマニエリスム論講義を拜聽するは大なる愉しみなりき。ジュゼッペ・アルチンボルドの魅力を知り得たのも先生の御蔭なり。マニエリスム藝術論、薔薇のイコノロジーは愛讀書なりき。昨日虛血性心不全にて病歿さる。享年七十一。
どんよりと曇りて風絕ゆ。手紙一通したゝむれば忽午とはなれり。感興なけれど勉强して筆を執る。晡下一睡。暮方微雨あり。枕上荷風先生のあめりか物語を讀む。
靑空に白雲多く泛びてふたゝび暑くなりぬ。濕氣遂に去り秋風爽なり。父上の購はれし輕自働車漸く納車さる。車内存外廣く原動機も强力なり。日暮れて暗雲廣がり墨を流せしが如し。小雨ふる。
陰曆八月二十二日。秋霖午後に至りて歇む。飜譯推敲。日本郵政發足。I君結婚式招待狀送來る。枕上荷風先生が日和下駄を讀む。