朝來雨瀟條たり。机に凭りしが筆進まず。富岡多惠子の難波ともあれことのよし葦を讀む。夕餉に馬面剝の煮付を食す。
晏起九時。微雨。あたゝかなり。舊正月二日。筆秉らむとして乘り得ず。夕餉にちかの天麩羅を食す。ダンスマガジン二月號吉田裕氏の批評を茲に記す。
奇跡のやうな到達點 吉田裕
しばし呆然、とはかういふことを指すのだらうか。自分でも感銘をもてあましてしまつた。
深く心に感じ入る舞臺はしばしばある。魂の奧底にせまつてくるやうなステージにも、ときに出遭ふ僥倖はある。だがこのたびの小島章司の獨舞公演『鳥の歌 A Pau Casals』には、心底打ちのめされた。完膚なきまでにやられたのだ。一瞬後、心地よい敗北感で全身が滿たされ、身動きさへもまゝならなくなるほどに。
漆黑の闇のなかゝら、ゆっくりと浮かび上がる小島の極細のシルエット。舞臺上方には樣々な表情を湛へた椅子、椅子、椅子……。その一つひとつに、小島の萬感の想ひが投影された先人たちが陣どつてゐるかのやう。たとへば、ガルシーア・ロルカ。たとへば、カルメン・アマージャ。そしてもちろん、パウ(パブロ)・カザルス。反骨の天才チェリストが、コンサートの最後に必ず奏でたといふ、故郷カタルーニャの紺碧の空にこだまする、晴れやかな鳴き聲を模した民謠。そこから始まつたプロヽーグで、小島が垣間見せた表情がすべてを物語つていた。
黑い衣裳に、反り返つた指先からの、あるかなきかの囁き。そこに託された轟きと深閑の竝立。行きつ戾りつするブラソの軌跡が、そのまゝ彼の生き方、彼の希求、彼の祈りの凝縮でもあつた。
さういふ小島の靈性をいやましに前面に出した功績は、疑ひもなくゲストのミゲル・ポベーダ(唄)、そして音樂監督のチクエロ(ギター)に歸せられるだらう。二人とも出自がアンダルシアではなく、カザルスと同じカタルーニャなのは無論、偶然ではない。
實際、體の芯から絞り出すやうな、とよくいはれるカンテ・フラメンコの特質は、だがこゝでは一種摩訶不思議な慈愛、といつてよいほどの豐かな包容力を感じさせた。それがポベーダの眞髓といふよりも、むしろ、小島の、さらにはカザルスの本質にこそ呼應した印象ではなかつたか。
ポベーダの「リビアーナ」を經て、小島の眞骨頂ともいへるカンテ・ホンドの宇宙に差しかゝると、もはや會塲は時空を超えた壯大な敍事詩と化していた。「トナ」に續く「シギリージャ」。靜謐、といひたいほどの正確無比なサパテアードに水流のやうな衒ひのないブラセオ。完璧なブエルタ(囘轉)が釀す人智を超ゑた攝理。
どのくらゐの時間が經つたゞらう。自分がいましがた目で觸れてゐたのは、フラメンコだつたのか、あるいはフラメンコの原理さへも超ゑた何ものかだつたのか。徹頭徹尾フラメンコであることによつて、まさに徹頭徹尾「個」であり「普遍」たりえてゐる、小島の奇跡のやうな到達點だつたのか。
彼は幕開きを含めて四囘衣裳を變へて登塲した。いづれも比類なき嚴肅さを際立たせる無彩色のモノカラーだつた。だが逆に、その舞ひは何といふ絢爛たる色彩の躍動だつたことだらう。いまを盛りに全開してはその色香を惜しげもなくさらす滿艦飾の花々の、見事なまでの心意氣にも似て。
世にありがちな、ベテランに對する論功行賞的な形式上の讚辭など、小島の舞臺は頑として拒んでゐる。いま、こゝで、ありうべき最高の境地とは何なのか、つねに現在進行形の表現者として、上を上を目指す姿勢に一瞬の緩みもなく、ましてや毛ほどの妥協もない。
これほどにおのれを無にして邁進する藝術への獻身に對し、一體、いかなる言葉を贈りえよう。いや、輕々な言葉などありえまい。たゞ默して頭を垂れることのみ、ふさはしい。
(ダンス・マガジン二月號)
舊歷正月元日なり。欝稍快方に赴く。原稾執筆飜譯に半日を消す。去二十七日母上の誕辰なりしかばアンテノールに赴きケーキを購ふ。日の暮るゝを待ち富が丘の韓國料理屋Yに赴き晚餐をなす。ダンスマガジン誌に鳥の歌絕讚記事揭載さる。評者は吉田裕氏なり。エバミール、ジプレキサを飮むも眠れず、レンドルミンを飮み漸く眠るを得たり。
欝猶全快せず。終日臥牀に在りて眠を貪るのみ。
終日臥褥に在り。
九時病院に赴き心理諮詢初囘を受く。十時主治醫の診察を乞ふ。午後蓐中に在りて阿部和重シンセミアを讀み始む。
けふも朝食の後父上を病院に送る。歸途やまとの湯に立寄り湯治をなす。午後圖書館に徃き本棚を眺むに欝の波來りて如何ともすること能はず。食慾もなし。家にかへり臥牀に伏して舞城王太郎阿修羅ガールを讀む。いつか眠りに落ちたり。
曇りて風なし。寒氣凜冽。自働車の正面硝子凍結す。父上を病院に送る。疲勞甚し。何の故なるを知らず。終日蓐中に書をよむ。堀江貴文ライブドア社長辭任。第五十囘岸田國士戲曲賞發表さる。佃典彦ぬけがら三浦大輔愛の渦の二作なり。星斗森然たり。窓の社をみるに iTranslator for Java なる十二箇國語對應の無料飜譯ソフトの紹介あり。早速下戴し和文西譯をこゝろむや思ひもかけぬ譯文續出す。愉快なることこの上なければ下に記し置くなり。太字は原文、細字は余の直譯なり。
晏起十時。快晴。北風吹き狂ひて寒し。正午友と會食の約あれば淸洲に赴く。歡語時の移るを忘る。晡下歸宅。堀江貴文ライブドア社長證券取引法違反容疑にて逮捕さる。
步みて圖書館に向ふ。途次丘の上に普請中の家屋あれば看板をみるに施工主は主治醫と同姓同名なり。主事醫の新居なるべし。醫師は邸宅を建て余は居候の身なり。嗚呼。ラヂオDEパンチ附錄のコンパクトディスクにて新舊ラヂオ番組を聽く。下の如し。
前田武彦・大橋巨泉 きのうの續き | ラジオ關東 |
永六輔 パックインミュージック | TBS |
高島ヒゲ武の大入りダイヤルまだ宵の口 | ニッポン放送 |
榎本勝起 榎さんのおはようさん~! | TBS |
谷五郎の旅はつゞくよ… | 山陽放送 |
ばってん荒川 ぴら~っと登塲! | 熊本放送 |
栗田善成のまずはラジオでおつかれさん | KBC |
大倉修吾 ミュージックポスト | 新潟放送 |
小堀勝啓の心にブギウギ | CBC |
ほのぼのワイド 中村こずえの smile for you | SBS |
兩三日前より腹具合思はしからず。元氣なく讀書面白からず。
晏起九時半。疲勞甚し。腹具合よろしからず。晝夜ともに食事せず。三郷に徃き露天風呂に一浴の後三越星ヶ丘店に徃く。地下食品賣塲にて山田餠島田店の櫻餠と黑砂糖のういらうを井筒屋の商品券にて購ふ。この商品券は六年前東海テレビの取材を受けたりし時の謝禮なり。余は平生百貨店にて買物をなさゞるを以て今日まで嚢中にあり。ウィルソン・ピケットの訃報あり。行年六十四。
空晴れて寒風猶歇まず。十時病院に徃き藥を請ふ。歸途オフハウスに立寄り鞄三品を賣る。母上の運轉免許證書換への時期來れば午下車にて平針運轉試驗塲に送る。梅森のドミニク・ドゥーセの麵麭屋いつしか廢業し骨董屋となれり。セブンアンドワイに注文したりし笑藝人第十七號、ラヂオDEパンチ創刊號、落語ファン倶樂部創刊號をセブンイレブンに受取る。
西北の風烈しく塵烟濛濛たり。原稾の腹案四五篇に上れり。されど何故か感興來らず。筆を秉らむとすれども能はず。懊惱甚し。余は屡文筆の生涯を一變し、今少し無意味なる歲月を送るにしかずと思ふなり。創作の興至るを俟たむが爲、徒に平素憂悶の日を送るは、さながらお茶挽藝者の來らざる客を待つが如し。けふもブックオフに本一函を賣卻す。五百圓也。午前接骨院に徃く。齋藤憐第九囘鶴屋南北賞受賞。ネットの古書店にて新潮社荻内勝之譯ドン・キホーテ全四卷を購ふ。譯文は講談調にして寔に痛快なり。夕食後突如として睡眠を催し如何ともすること能はず、榻に臥す。
烈風終日砂塵を飛ばす。執筆忽午となれり。書筐を整理すること日課の如し。ブックオフに單行本文庫本新書一函を賣卻す。賣價八百參拾圓也。歸途警察署に立寄り免許證の住處變更の手續きをなす。藤が丘驛前を通るに愛知銀行沿道の櫻竝木いつしか伐木され寒風に切株を曝しゐたり。切株にはビニール袋に納めし紙片あり。何事なるやと讀むに、樹木醫の診察を乞ふにいづれも不健全にて恢復の見込みもあらざれば一月後半より順次撤去し、より繁殖力の高い櫻を植ゑるなり云々。今年の花見は聊か寂しき風情にならむ。三時歸宅。パセオ誌に揭載されし浜田滋郎氏の鳥の歌評事務處より屆く。絕讚を得る。夕餉に豆乳鍋を食す。西阿弗利加リベリアにてエレン・サーリーフ氏大統領に就任す。國聯開發計畫元阿弗利加局長にして阿弗利加初の女性大統領なり。芥川賞絲山秋子沖で待つ、直木賞東野圭吾容疑者Xの獻身。阪神淡路大震災十一年。
陰。北風吹き出でゝ復び寒くなりぬ。夜に入りて點滴の響を聞く。朝食後CTスキャンを受ける父上を車にて病院に送る。終日抄書更に倦まず。北の納戶部屋に積上し本箱の山を解き書筐を整理す。午眠燈刻に寤む。夕餉に赤葡萄酒を飮む。チリ大統領選開票さる。社會主義者ミシェル・バチェレ前國防大臣當選。初の女性大統領なり。西濠太剌利州ジェフ・ギャロップ首相政界引退、欝病治療に專念するといふ。加藤芳郎歿。行年八十。聯想ゲームの司會ぶりを思返して悵然たらざるを得ざるなり。當時は每日新聞を講讀し居たれば四駒漫畫まつぴら君を讀むこと日課なりき。
空よく晴れ渡り木曾御嶽を望むほどなりしが暮方よりくもりたり。暴暖春の如し。オフハウスに皿四品賣卻す。壹百五拾圓也。三郷やまとの湯に立寄り露天風呂に一浴してかへる。獨逸葡萄牙公演報告書執筆。二時父上母上を伴ひ文化會舘に徃き桂米朝小米朝親子會を聽く。人間國寶の高座にしては珍しく空席あり、入口に當日券ありと書きたる看板あり。前座よね吉は端正な語りにして宗助は起伏に乏し。小米朝は何の噺をするやと思へば桃太郞にてお茶を濁したり。藝より愛嬌にて聽かしむるなり。米朝の下手より現るや、その老衰ぶりに一驚を喫す。足腰衰弱し步みがたく、身體も聲もいつか小さくなりぬ。今年八十歲なり。此日の番組は下の如し。
よね吉 | 狸賽 |
宗助 | 親子酒 |
小米朝 | 桃太郞 |
米朝 | 鹿政談 |
中入り | |
米八 | 曲獨樂 |
小米朝 | はてなの茶碗 |
朝來の雨霏々として夜に至るも歇まず。頗る暖にして大寒の頃とも思はれず。終日唯仰臥して書を讀む。燈刻W氏より電話あり。一次試驗終りし由。第十三囘讀賣演劇大賞候補發表さる。余近年健忘症甚しければこゝに記し置くなり。
作品賞 | ||
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新國立劇塲 | 城 | 新國立劇塲小劇塲 |
Bunkamura | メディア | シアターコクーン |
パルコ | LAST SHOW | パルコ劇塲 |
新國立劇塲 | 屋上庭園/動員插話 | 新國立劇塲小劇塲 |
二兎社 | 歌はせたい男たち | ベニサン・ピット |
演出家賞 | ||
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串田和美 | まつもと市民藝術館・TBS・北海道演劇財團 | コーカサスの白墨の輪 |
永井愛 | ベニサン・ピット | 歌はせたい男たち |
蜷川幸雄 | Bunkamura | 幻に心もそぞろ狂ほしのわれら將門 |
メディア | ||
天保十二年のシェイクスピア | ||
松竹・歌舞伎座 | NINAGAWA十二夜 | |
深津篤史 | 桃園會 | 父歸る |
釣堀にて | ||
新國立劇塲 | 動員插話 | |
松本修 | 新國立劇塲 | 城 |
MODE・近畿大學演劇・藝能專攻 | 唐版風の又三郞近大バージョン |
スタッフ賞 | ||
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宇崎竜童 (音樂) | アール・ユー・オフィス | ロック曾根崎心中 |
Bunkamura | 天保十二年のシェイクスピア | |
金井勇一郎 (美術) | 松竹・歌舞伎座 | NINAGAWA十二夜 |
沢田祐二 (照明) | 新國立劇塲 | 城 |
tpt | ナイン | |
島次郎 (美術) | 新國立劇塲 | 城 |
演劇企畫集團THE・ガジラ | 死の棘 | |
中越司 (美術) | Bunkamura | KITCHEN |
メディア |
男優賞 | ||
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浅野和之 | 自轉車キンクリーツカンパニー | ブラウニング・バージョン |
パルコ | 十二人の優しい日本人 | |
尾上菊之助 | 松竹・歌舞伎座 | NINAGAWA十二夜 |
松竹・新橋演舞塲 | 兒雷也豪傑譚話 | |
日下武史 | 劇團四季 | アンチゴーヌ |
思ひ出を賣る男 | ||
段田安則 | Bunkamura | 幻に心もそぞろ狂ほしのわれら將門 |
NODA・MAP | 贋作・罪と罰 | |
仲代達也 | 劇團民藝・無名塾 | ドライビング・ミス・デイジー |
女優賞 | ||
---|---|---|
大浦みずき | tpt | ナイン |
カルテット | ||
大竹しのぶ | Bunkamura | メディア |
戸田恵子 | 二兎社 | 歌はせたい男たち |
七瀬なつみ | 新國立劇塲 | 屋上庭園 |
動員插話 | ||
松たか子 | まつもと市民藝術館・TBS・北海道演劇財團 | コーカサスの白墨の輪 |
NODA・MAP | 贋作・罪と罰 |
終日門を出でず書篋を整理し、軟盤をすべて廢棄す。晝食後自家製栗羊羹を食す。珈琲を飮みながら窓外を眺むるに、眼下の市街人家の屋根次第に暗くなりて、日の暮れゆくさま、久しく之を望めば一種の情調あり。O孃の返書を得たり。每日點滴を受け、點滴液に混入しがたき藥は注射をなし、一日二囘腕に針を刺すといふ。五年前相識りたりし時の診斷名は抑欝神經症なりしが近年は境界性人格障碍なりとぞ。三十代にして此の如き病に陷りたるは何の因緣なる歟。哀れむべきことなり。ペネロペ・クルス佛蘭西藝術文化勳章受章。
快晴の空拭ふが如し。九時病院に徃き心理試驗を受く。バウムテストとロールシャッハテストなり。實のなる木は平成十二年來描くこと兩三囘、此度も慘憺たる出來なり。予に荷風先生の畫才なし。十時半主治醫の治療を請ふ。午後執筆五六葉。三時半接骨院に徃き治療を受く。首の懲り稍改善す。歸途中央圖書館に立寄り奧泉光モーダルな事象を借りる。大江健三郎さようなら、私の本よ!多和田葉子カタコトのうわごとを讀む。
空晴渡りしが西北の風吹きつゞきて寒し。午前バルセロナのルシーアと電子郵件にて商議す。三時三郷やまとの湯に一浴し、中央圖書館に立寄りかへる。朝日新聞の網站をみるに朝日舞臺藝術賞の記事あり。グランプリ二兎社歌はせたい男たち、特別大賞蜷川幸雄、舞臺藝術賞Kバレエカンパニー、田中泯、奈良岡朋子、野村萬齋、寺山修司賞尾上菊之助、秋本松代賞戸田恵子、特別賞緒方規久子。田中泯のほか新味なし。後考のためこゝに選考委員を記し置く。
天野道映 | 演劇評論家 |
大笹吉雄 | 大阪藝術大學敎授 |
小田島雄志 | 東京大學名譽敎授 |
佐々木涼子 | 舞踊評論家・東京女子大學敎授 |
森西真弓 | 上方藝能編輯長・立命館大學敎授 |
山田洋次 | 映畫監督 |
山野博大 | 舞踊評論家 |
吉田慎一 | 朝日新聞社常務取締役編輯擔當 |
鈴木繁 | 朝日新聞東京本社文化部長 |
晏起九時。風なく晴れてあたゝかなり。寒中見舞の端書數枚したゝむ。古井由吉野川を讀み訖りぬ。前人未踏の死者の文學と謂ふべし。
晏起十時。十一時新幹線にて東京驛を發つ。一時半歸宅。困憊甚しく榻に臥し眠を貪る。
晏起十時。一時西麻布の事務處に徃く。外苑西通りを小島氏と步みて南麻布のビストロ CICADA に晝餐をなす。西班牙風ミートボール、魚介のタジン、ティラミスいづれも味佳なり。歡語時の移るを忘る。四時自働車を走らせ新國立劇塲に徃き小松原庸子舞踊團公演女の平和を看る。第一部素晴らしきフラメンコ、第二部女の平和ともに冗漫退屈限りなし。イズラエル・ガルバンの踊りのみ趣向に富みて佳し。終演後樂屋に鈴木完一郎氏を訪ふ。逢ふは十三年ぶりなり。初更ふたゝび小島氏と車にて南靑山に徃きビストロ・ダルブルに夕餉をなす。款語夜分に至る。
晏起十時。十一時四十三分のぞみ號にて名古屋驛を發つ。新富士驛より富士山を眺むるに山嶺雲に掩はれ見えず。一時十八分東京驛着。丸の内南口にH氏と逢ひ珈琲店に一茶す。土產に電動の獅子舞を頂戴す。五時秋葉原驛にて別れ、ホテルに荷を解き、小憩の後總武線に乘り戰友M氏招飮の約に赴く。八時新宿京王プラザホテルのロビイに待つこと須臾にしてM氏來れり。M氏と相識りしは去年の四月なり。逢ふは五月十九日以來なり。寒風肌を切るが如く外出しがたければ南館二階コリアンダイニング五穀亭にて晚餐をなす。M氏快瘉し無事復職せられたり。歡語刻を移す。奇談あり。こゝに記すこと能はざるを憾む。三更ホテルにかへる。
晏起九時半。午前病院に徃き治療を請ふ。學生食堂に晝餉をなし三郷やまとの湯露天風呂に一浴す。三時接骨院に徃く。松尾スズキのクワイエットルームにようこそ芥川賞候補となれり。去年の文學界七月號に讀みし小說なり。Theatre 1010 のベルナルダ・アルバの家配役變更、三田和代のベルナルダに替りて小川真由美、星野真里のアデーラに替りて占部房子、占部房子のマルティリオに替りて鬼頭典子、鬼頭典子のアメリアには入江純が替りたりし由。何故ならむや。燈刻カーマホームセンター日進竹の山店に赴き端書入れを購ふ。
去朔より西班牙新禁煙法施行さる。事務處より電話あり。新聞連載のことにつきてなり。
微雨降りてはまた歇む。西北の風はげしく寒氣凜然たり。居間に置きゐたりし木製書架を書齋に搬入す。N子と晡下ござらっせに徃くに入浴せむとするもの二十人ほど行列をなしたり。脫衣塲も混雜甚しければ二階のマッサージチェアにて揉み療治をなしてかへる。夕月空にかゝるを見る。母上の話に、舊臘千葉のS子の留守宅に空巢ねらひ忍入りて電腦デジタル寫眞機婚約指輪子供の預金通帳など金目のもの一切合財盜去れりといふ。一家四人長野の實家に里歸り中の出來事にして、鄰家の人異變に氣づきてS子の携帶電話に聯絡せられし由。盜賊はベランダの硝子を破りて侵入し、簞笥の抽斗といひ押入の蒲團といひ悉く檢めたりとぞ。警察が實況檢分をするに竊盜團の仕業なるべしとのことなり。父上の話に抑鬱亭近處も盜難の訴あり。恐るべし恐るべし。
晴れてのちに曇る。風寒からず。新潮文庫江原啓之スピリチュアルな人生に目覺めるためにを讀む。
天氣牢晴。和氣冲融なり。午後蓐中に伏し二十二年目の新春放談を聽く。燈刻藤が丘驛に徃きN子を迎ふ。夕食後N 子が命名し包裝意匠を考案したる銀座コロンバン名古屋限定味噌とくるみの香ばしケーキを食す。味佳なり。