終日暴風雨。五月に大風襲來るは近年記憶になし。午前旅裝をとゝのへ午下午睡、睡より寤むれば旣に初更なり。睡魔頻々大風の如し。
天氣牢晴、綠蔭淸風愛すべし。森林公園散策日課の如し。大道平池の邉にセグロセキレイを見ゆ。梢に雀の如き幼鳥あり、腹に斑模樣あり尾が黃綠なればカワラヒワなるべし。打越に徃き衣類を購ひ家にかへる。H先生より來書あり、直に返書を送る。讀書。いづれの紙上にも特に讀むべき記事なし。Y大學S君O大學Y君の書に接す。J病院のOさんより電話あり。
晴れて暑し。森林公園をあゆむ。植物園入り口に中學生の一行開門を待ちゐたり。書をしたゝめラモス=ペレア氏の業績を閱するに日は將に暮れむとして燈影忽新なり。NHK-FMにてシュピルマン演奏のシューマン「小夜曲」と高木ブーの「イエロー・サブマリン」を唄ふを聽く。ウクレヽ歌聲倶に佳なり。新國立劇塲H氏より來書あり、著書惠贈の件快諾す。日本演出者協會S氏の書に接す。電話にてS氏と款語、藤田嗣治につきてなり。瀧野川M氏飛鳥山の紫陽花の寫眞送らる。
乍晴乍隂。朝日の照りわたるをみるは半月ぶりならんや。暑きこと夏のごとし。森林公園をあゆむに芝にセグロセキセイを見ゆ。大道平池の林に低き電線あり、巢立ちし雀の子五羽竝びて東を向きゐたり。親燕來るや一齋に嘴をひらきて餌をねだれり。瀨戶の愛玩動物店にて鸚哥の餌を購ひかへる。午前筆を執る。ござらつせ露天風呂に浴し晡下實家に徃く。暑氣拂ひに冷し中華を期待したるに果たして冷し中華の夕餉なり。レモンの如く貪り喰ひぬ。北海道の家の處分につきて父上母上と相談し初更歸宅す。
空どんよりとくもりて暗き日なり。夕刻に至りて雨來る。新聞紙にて昨夜東北の地大に震ひたるを讀む。返書數通したゝめ半日を送る。晡時病院に抵り診察を請ふ。藥變らず。主治醫の話に昨今は臨牀心理士を志望する若者日ごと其數を增す由、中高年失業者の男に介護士の資格を取らむとする者多く、女はカウンセラーを目指すもの多なる由なり。著書を高覽に供し謝辭を述ぶ。數ふれば三年前脫藁せし時精神と膓胃を害し精神病院に入院しぬ。當時を思ひ出さんと欲すれど能はざり。兎に角書籍の形を得るに至りたるは偏に先生の御蔭なり。何亊も成就は人の助けあらばこそなり。薄暮歸宅。高知のYさん近影を送らる。
くもりて午より疎雨。天候猶全く恢復せざるが如し。氣分よからず折々眠氣を催す。疲勞のためなるべし。二時午睡。晡下ホテルモンブランにてK先生を迎へ KIHACHI に登りて晚餐款語す。昨日寶塚にて舊制中學同窓會あり、東京より伊丹に飛び始めて寶塚歌劇を御覽になりし由、出し物は花組の時代劇とのことなり。大學統廢合、西班牙文學硏究の現況、わが國の出版事情など話題盡ず、ロルカの飜譯に關して有益なる助言を賜る。藤が丘に在りし頃瑞穗區舊校舍まで自轉車にて通ひたる由。今年より漸く讀書三昧の日々を迎へたりしかど記憶力衰へ、讀み終るや忘れる一方なりとて呵呵大笑さる。衰へと雖博覽强記むかしと變らず。三浦雅士の『靑春の終焉』は好著なりと言はるゝをきゝ快哉を叫べり。舊制中學は予が三年前入院せし大牟田なり。終戰を迎へたるは佐世保に在りし時とのことなり。フランス學科K先生とは遠緣の親戚にあたる由、初耳なり。新幹線にて歸京さる。初更歸宅。雨歇まず。
曇りて風冷なり。常用筆記本電腦を ThinkPad i1800 より小型の i1620 に替へる。三郷やまとの湯露天風呂に浴し實家にて夕餉をなす。『斷腸亭日乘』にて荷風の小山内薰に對する憤懣凄まじければこゝに記す。
明治四十三四年の頃新橋に岩田家とか言ひし藝者家あり、其女主人は廣嶋の者にて小山内が先考(小山内玄洋といふ)の妾なりしと云ふ、此の女小山内が新橋の待合を倒し步くのみならず、役者を藝者に取持ちて禮を貰ふなどさま/\よからぬ風評あるを聞き氣の毒に思ひ、或時座敷にて小山内に會ひし時、御先代にはいろ/\お世話になりたる身なれば貴下のよからぬ噂をきくにつけ誠にお氣の毒でなりませぬ、女の身にて出來る亊なれば何なりと致します故御遠慮なく仰せられよと、それとはなく意見せしに、小山内はこれをよい亊に其後は折々岩田家へ金を借りに行きしといふ、父の妾より金を借り出すとは言語道斷の次第なり、自由劇塲興行の度ごと小山内は同劇塲の金錢を私すること尠からず、松筵君いつも尻ぬぐひをなしゐたりしが遂に負擔に堪へずして、自由劇塲の興行は大正某の年帝國劇塲にて演じたる信仰にて終を告ぐるに至りしなり、小山内の洋行費は木塲の材木問屋加津井と云ふ人過半を出し殘は松竹と帝國劇塲にて出せしなり、但し歸朝の後この兩劇塲の仕亊をなす時は前借を差引かれ報酬を得ること能はざるを以て、大坂太陽堂其他の店の仕亊をなし居たり、近年太陽堂雜誌女性苦樂の如きものを發行するに及び小山内は每月千圓内外の給金を貰ひゐたりしが、それにも係らず茶屋小屋の勘定を支拂はず諸方へ迷惑を掛ける亊以前と異る處なし、赤坂田町七丁目靈南坂下に河合武雄所有の貸家あり、小山内新婚當時河合の貸家を借り三四年間一度も家賃を拂はず、其の罰にや火災に遭ひ其まゝ追立てられたり、大正十二年大地震の際大坂太陽堂の世話にて太(ママ)坂に徃き其の主人中山某の別宅にすまひ、主人の弟豐三の幇間同樣の姿にて大坂の色町を飮み步き、八重梅といふ妓を根引して東京に歸り、太陽堂とは六百圓の手切金を取りて關係を斷ちたり、以後築地小劇塲に身をかくし、世間に對しては無給にて働きゐる由言ひふらせど内實は土方伯爵家より相當の金を貰ひゐるなり、目下四谷南寺町の借家は家賃月々百五拾圓なりといふ、家主は大本敎信者にて小山内には無代にて住まはせ置くとの風說もあるなり、小山内は大本敎のみならず時時邪敎を信ずる
晏起昨日の如し。隂晴定まらず風濕氣を帶びて暑し。午後脫稾。名古屋大學出版會宅配便にて演劇集送來る。來月初頭店頭に竝ぶ由。晡下實家に徃き夕餉をなす。茄子に夏の風味を感ず。日愈々長くなりぬ。初更歸宅。K先生より電話あり、月曜名古屋に來らる由。
晏起。薄晴、旣に溽暑を催す。正午熊張にI氏を訪ふ。一昨日來藥效なく熟睡すること能はず授業は四十分にて切上げ會議も缺席したるとのこと、週末は靜養につとめんと欲す由を告ぐ、余もそれがよかるべしと言ふ。旅は本復を得るまで延期することに決したり。歸途咖啡農園に立寄り父上と雜談二時間、父上新聞記事を差出す。讀むに北海道銀行と北陸銀行計營統合する由なり。道銀創業間もなき頃入社し取締役を任ぜらるゝに至るも定年退職を前に緣なき室蘭の一企業建直しを命ぜらしかば、感慨淺からざるべし。晡下家にかへり筆を秉るも懶し。J病院のOさんより電話かゝること每夜の如し。是日小島舞踊團『祈り』の初日なり。
天氣牢晴。レモンの聲に早起すること日課の如し。時刻は每朝過たず六時半ちやうどなり。朝餉をなし雜誌の稾を脫す。散步に出でむとするに飯塚のW氏より電話あり、款語一時間半忽午となりぬ。T先生の書に接し別便にて靜岡の新茶を贈らる。定年退職迄六年の由なり。直に手紙にて厚意を謝す。I氏より電話あり、不調を訴へたれば來月の旅行はとりやめとなす。鬱氣味の身には氣晴の旅も往々にして憂鬱の種となれり。數ふれば五年前に余が鬱の治療を始めし時この亊醫學書にて學びけり。此度の溫泉旅行も余當初よりあまり氣乘りせざりしかどI氏の熱意を尊重し今日に至れり。I氏自ら飜意したるは祝福するべきことなり。晡時ござらつせ露天風呂に浴す。くすの木にてアイビーヒドラ一鉢を購ひ書筐に置く。新聞紙にて星セント・ルイスの解散したるを讀む。
薄く晴れてまた曇る。森林公園正門の池にアオサギのザリガニを獲るを見ゆ。嘴を水面に刺込み捕獲する迄瞬きする間もあらざり。食べるさま雙眼鏡にてよく見るに殼を除きて丸呑したり。直に不動のかまへをなし遠方を凝視しつゝ拔足差足二三步あゆみてふたゝび嘴を錐の如く水に刺せば忽ち泥鰌大の小魚を獲たり。素知らぬ體にて獲物は逃さゞる技術は瞠目するほかなし。大芝生梢の先に四十雀戲れゐたり。札の辻川にてハクセキレイの水浴びするを見ゆ。キビタキの雌らしきもの三羽葉隂に身を寄せ鎭坐するさま愛すべし。午前執筆例の如し。演出者協會O氏より正式の依賴あり。夕刻佛蘭西學科I氏より電話あり、溫泉旅行につきてなり。S氏に電話にて近況を問ふに育兒にてんてこ舞ひの由なり、しばし款語す。富士見のTさんの書に接す。暮方雲の間より夕日斜に照り渡りたり。多和田葉子氏の『容疑者の夜行列車』伊藤整文學賞を受賞す。
細雨烟の如く新綠一段に濃なり。父上眼の痛みを訴へしかば三郷の眼科に同伴す。午下歸宅。雷鳴數囘に及ぶ。雜誌の稾をつくる。日本演出者協會O氏の書に接す。用件はロベルト・ラモス・ペレア氏のワークシヨツプ通譯につきてなり。余の網站(サイト)を瞥見し依賴を決めたる由。時期は來月初旬三日間、一日四時間の勤めなれば體に障らざるべし。余無職となりし去月より網站を事務處受附窗口と看做しゐたりしかど翌月に依賴を受くるとは夢寐にも思はざりけり。面白き亊なり。晡時實家に徃き夕餉をなすこと每日の如し。初更歸宅。雨烈しくなり春雷數囘。
曇天、雨來らむとして來らず。昨日の午睡より泥のやうに眠ること十七時間に及びぬ。玄關に屆け物あり。四軒家の Iさんからなり。三好町に徃きマイケル・ムーアの記錄映畫『ボウリング・フォー・コロンバイン』を看る。殺戮塲面にルイ・アームストロングの「この素晴らしき世界」を流すはキューブリックの『博士の異常な愛情』のイロニーに似たり。チャールトン・ヘストンを終始惡玉に仕立て上げるは短絡なり。原一男の『ゆきゆきて神軍』に及ばず、佳作といふべし。パンフレツトにムーアの『ゆきゆきて神軍』を賞讚したるを讀む。午後『滑稽な巨人』の續きを讀む。是日西宮のH 氏より來書あり、去月末嚴君大徃生の由なり。直に返書を送る。
乍晴乍隂。午下睡魔に襲はれ橫臥、忽華胥に遊ぶ。
輕隂の空雨氣猶去らず、風濕氣を含みて暑し。森林公園を步むに大道平池にコサギ一羽ゐたり。サギをみるは今月始てなり。鵯と椋鳥數多、とりわけ鵯鳥語すること頻りなり。歸途やまとの湯に浴す。土曜日なれど客幸にして輻湊せず。晝餉に合鴨のローストとビシソワーズを食す。午後脫稾。志ん朝の「三枚起請」を聽く。J病院のOさんに電話し病を問ふ。晡時實家。凾館のNさん獨逸のMさんより來書あり。
久雨纔に霽れ終日點滴の響を聞かず。ふたゝ雨にはならむと氣遣はれしが暖風を幸ひ森林公園をあゆむ。竹林猗々たり。市立體育館南交叉點にセブンイレブン出店せり。市内初なるべし。旭街道添ひの田圃に休耕田多し。午前草を作らんと欲すれど頭痛岑々讀書執筆すべからず。書筐整理半日を消す。今週始て實家に徃く。互聯網囘線100MBに改良さる。畫像の下載頗るはやし。初更家にかへる。南天滿月朧なり。新聞に21日山本有三の『米百俵』ホンジュラス國立演劇學校の學生が首府テグシガルパにて上演すとありしを讀む。
朝來淫雨濛々。茟秉るも感興來らず、氣分よからず折々眠氣を催す。午下遽に疲勞を覺え臥牀。暮刻金山に徃き名古屋市民會館にてシティボーイズ・ミックス『NOTA 恙無き限界ワルツ』を看る。きたろう口を開かば忽不條理の世界へ誘ふ。前人未到の境地といふべし。五月女ケイ子の立振舞ひ奇妙奇天烈なり。「首の皮一枚ショー」は斉木しげるの獨擅場なり。中村有志扮するアシモを本物と思ひたる客多し。大竹まこととYOUアドリブで大いに遊ぶ。ナイン・リーヴスの音樂佳なり。作家の細川徹始て演出したれど三木聡に遠く及ばず。二更歸宅。雨歇まず。
晏起。机に凭りて茟秉るも嬾く卒爾に眠氣を催す。レモン余を起こさんと瞼や唇を突くこと頻なり。寤むれば旣に昏黑となりぬ。雨霏々。書簡二通したゝむ。ソニーのCD集『志ん朝復活』より「拔け雀」を聽く。
空どんよりとくもりて風絕えたり。主治醫の診察を乞ふ。午後讀書。晡時茟秉るも感興來らず。町内燕數多。市立圖書館にて畫集を借り二階閱覽室にて眺む。暮刻前原のI氏より電話あり、S社製の筆記本電腦が天に召されました、何かおすゝめはありませんかといふ。小一時間款語。
紺の背廣の初燕
地をするやうに飛びゆけりまづはいよ/\夏の曲
西――― 東西の簾卷けば
濃いお納戶の肩衣の
花の「昇菊、昇之助」
義太夫節のびら札の
藍の匹田もすずしげに
街は五月に入りにけり赤の襟飾、初燕
心も輕くまひ行けり(木下杢太郎)
輕隂。三好に徃き『シカゴ』を看る。男性の日にて千圓なり。カメラ終始移動しカツト割夥しければ『ケープ・フイアー』以來始て眩暈をおぼゆ。歌佳なり。キャサリン・セダ・ジョーンズは言を俟たず、ジョン・C・ライリーの歌唱力は記すに價す。『オール・ザット・ジャズ』の闇と狂氣なかりたるは惜しむべし。午下歸宅、晝餉に生ハムとチーズのボカデイーリョを食す。疲勞をおぼえ午睡、忽燈刻となりぬ。
レモンの囀りにて昧爽に起き出でること例の如し。書をしたゝむに忽午となりぬ。晝餉の支度をせんと臺所に赴くに鵯の聲尋常ならず、何事かと書齋を見るに四羽ベランダの軒下を舞ひ、卒爾に雨襲來す。晝餉をすませて長久手町文化の家の立川志らく獨演會に行く。前座はらく太の「子ほめ」なり。十番弟子の由。弟子入りして今日が一年目の記念日なりといふ。生硬なれど外の噺家の弟子に較ぶればわろからず。志らくの最初の演目は「松竹梅」なり。眞打昇進の頃は口跡のはやきことジエツトコースターの如きなりしかど今日は速度に餘裕あり。枕にて白裝束集團を給食のをばさんに準へ、金正日に浜田幸一と坂口大臣を目見えさせ客席大いに沸く。中入り後は「文七元結」なり。わろからざれど志の輔には及ばず。客席九分の入りなり。歸途實家に寄り夕餉をなす。一昨日高知在住の女性より電子郵件あり、返書を送りたれば直に返事あり、余が北海道惠庭市に在りし頃の小學校の同級生と判明す。
天氣牢晴。朝餉をなし森林公園をあゆむ。先週橋上より見たりし乞食風の男今日も亦同じ處にうづくまりて魚にパン屑をやつてゐたり、年頃六十前後なるべし、相貌思ひの外溫和にして賤しからず。鵯鳥語熾なり。小雀の砂浴びするさま頑是なし。シロハラの二羽梢にて戲れるは求愛なるべし。長久手溫泉ござらつせに浴す。土曜なれど思ひの外來客尠し。新綠日に/\よし。晴丘交叉點界隈に賣土地と書きたる榜示杭點在す。舊臘より四鄰に大型店舖の進出目覺ましきものあり。ギガス、ユタカ、スギヤマ、ダイソーは好例なり。電腦のレヂストリ調整の中に半日を送る。晡下實家で夕餉に鰺と鬢長鮪の刺身を食す。父上の話に溫泉の客寡なるは農繁期なるが故なるべしといふ。歸宅せんとて表通に出るに電線にキビタキとまりてピキビキと早口に囀りゐたり。是日名古屋大學出版會編輯者T氏の來書に接す。『スペイン黃金世紀演劇集』二二日刊行の由。
雨歇み空どんよりとくもりて風絕えたり。今春ほど雨多きは罕なり。昧爽に起き出で書齋の窗を開けるに寒風蕭々たり。風邪をひかむと氣遣はれたりしかば散步せず。讀書執筆例の如し。超級市塲Iにてこども商品劵を購ふ。晡下チリコンカンを購ひ實家に行き夕餉をなす。大根の葉と白子干と白胡麻の菜飯味佳なり。初更家にかへる。巴里のSさんより來書あり。新聞にて木曾川の鵜飼と日本ライン下りの7月に再開さるを讀む。名鐵が赤字にて廢止を發表せしは一月なり。今夏より木曾川觀光なる新會社が運營を引繼ぐ由。當世の人は北信の山嶽を呼んで日本アルプスとなし木曾川下りを日本ライン下りとなす。予は甚だしく此の類の造語を忌む。
曉明暴風雨、朝餉時尤甚し、夕刻に及び一天拭ふが如く晴渡り月皎々たり。終日机に倚る。實家にて夕餉をなすこと例の如し。
烟雨空濛恰雨の如し。電話に眠を破らる。Oさんよりなり。舌稍縺れながら眠れたんですといふ。熟睡を得たるは二年ぶりならんや。早朝家を出で實家に徃き朝餉を食し父上母上をA病院に送る。父上の術後檢査のためなり。昨夜退院後始て湯舩に漬かりたる由、痛みはおぼえざれど動もすれば傷口開かんとて昨夕まで躊躇したれりといふ。檢査早々に終りぬ。實家に晝餉をなし神戶本高砂屋のエコルセを茶請に咖啡を喫し歸宅す。午後讀書執筆例の如し。昨今レモン嘴にて籠の餌入扉を押上げするりと拔出し肩にとまること頻なり。古より智慧出て大僞ありといへども斯の如き智慧は奸智ならざらんや。
晏起午に近し。くもりて風寒し。森林公園をあゆむに冩生に興じる男女多し。歸途やまとの湯に浴す。午後橫臥し讀書。新聞紙日々白裝束道路占據集團パナヱーブ硏究所の擧措を報ず。是集團千乃裕子なる女を敎祖に崇める千乃正法會の關聨組織にしてタマちやんのことを想ふ會の母體の由。正眞正銘の電波系なり。是日Oさん入院す。
昨夜深更予の粗忽なるが故に某女を不幸にす。不屆至極なれば謝罪すべくいろ/\に詫びの言葉を考へたれどなか/\思ひ浮ばず、それ故業腹の某女より一步を先んじて電話あり。約束を反故にしたるは予の落度なること明白なれば腹藏なく侘びる。幸にして誤解氷解し圓滿に收まれしかど頭痛催し精神亦混濁す。疲勞をおぼえ橫臥忽昏睡す。眠より寤むれば午を過ぎたり。日も哺ならんとする頃起牀。體溫噐を把つて驗するに平溫なり。
薄く晴れて風靜なり。暖氣蒸すが如し。國民の休日にて國道車の往來尠し。午前執筆し非國民の分を盡す。午後讀書。『笑藝人』第十號屆く。『en-taxi』創刋號にて福田和也のアコムに二百萬圓の負債あるを知る。松浦理英子の短編鶴首して待望みしかば之を讀むに然したる感興も催さず。大滝詠一の新曲完全版初放送を聽かむとFM愛知「サンデー・ソングブック」をつけたれど迂闊にも二時を十分ほど過ぎし頃なりしかば間に合はず。實家にて夕餉をなすこと日課の如し。獻立は鰈の一夜干と麻婆荳腐なり。食後林檎と菓宗庵の御所柿、赤味噌饅頭。父上の話に日中攝氏28度に達したる由。燈刻家にかへる。
晴れて暑氣甚だし。森林公園散策例の如し。椋鳥數多芝生を闊步す。高き梢の先に黃鶲(キビタキ)とまりて囀ること頻りなり。綠褐色なれば雌なるべし。やまとの湯露天風呂に浴してかへる。午下讀書、一睡。晡時例の如く實家に徃き夕餉を食す。食後菓宗庵柏餠。晚間歸宅す。夜に入り涼秋の如し。四年生Tさんより來書あり、用談は卆論指導につきてなり。昨夜新聞にてブッシュ大統領の戰鬪終結演舌冩眞を見る。空母リンカーンに "MISSION ACCOMPLISHED" の文字橫斷幕に大書せられたり。"INVASION ACCOMPLISHED" の誤りならんや。
隂晴定まらず風さはやかなり。南本地ヶ原町レストランTにて朝餉をなし森林公園植物園を散策す。東門より入りて沈牀花壇に出でたればジャーマンアイリスの花盛りなり。燕の廣芝生斜面を滑空すること舐めるが如し。展示舘を過ぎ岩本池に至るに對岸の樹枝見渡すかぎりカワウ憩ひ、ヒッチコックの『鳥』の撮影現塲の如く漆黑に見ゆ。展示舘に戾りときわ橋を渡り花木區を步みてつゝじ橋を渡り休養の森を拔け竹林に出づ。子供の背丈程の若竹二本見えたれば撮影す。東門より出づるに市の女性職員に出迎へらる。植物園管理の意見調査を請はれるまゝに應じれば謝禮なりとてパンジー二鉢を頂戴す。門前遠足の幼稚園兒小學生雜沓をなす。歸途長久手町文化の家に寄り立川志らく獨演會入塲券を購ふ。雜誌の稾を草すれば忽午となりぬ。午下實家。病身の父上永らく車を運轉せざりしかば予が代りに運し母上を伴ひ三好の超級市塲へ買出しに徃く。連休の谷間にて二千五百臺收容の駐車塲ほゞ滿車なり。咖啡を喫し晡下實家に戾り夕餉をなし燈刻歸宅す。玄關を開けるに書齋よりレモン飛來りて肩にとまる。
晴天風冷なり。昨日の午睡より寤むれば朝の九時を過ぎぬ。レモン枕元に鎭坐して居たり。予の病臥に臥せたりと思ひたるべし。京都つちえ藥局通販部より若甦内服液屆きたれば實家に持參しアンテノールのケーキで快氣祝ひをなす。午下森林公園をあゆむ。午を過ぎたれば鳥尠く、纔にキジバト數羽を數へるのみなり。遠足の小學生夥し。愛知朝鮮學園のバス一臺あれど生徒の姿見えず。大道平池の水量纔に增したり。過日の雨のためなるべし。歸途やまとの湯露天風呂に浴しマツチヨをぢさんに逢ふ。晡下自働車保險のW氏來宅す。昨年までA社にて働きゐたりしかど秋頃L代理店に引拔かれ七年後に次期社長を任ぜらるゝ豫定なれど計營よりも營業を好み今は現今の生活をそのまゝ實行せむとするに至れり。電腦に明くIBMの筆記本電腦を永らく愛用せられば電腦談義一時間に及ぶこと例年の如し。我國の保險代理店45萬店に及び其數ラーメン店を凌ぐといふ。晚間ふたゝび實家に徃き夕餉をなす。初更歸宅。