晴れて風涼し、午前大學病院に徃き診察を乞ふ、オフハウスに古着雜貨など賣卻す、松本幸四郎がラ・マンチヤの男帝國劇塲昨夜千龝樂、音樂劇出演二千囘の記錄達成す、
雨漸く降る、隨筆の稾を脫す、午後衞星第二に六代目菊五郎が鏡獅子の活動寫眞を看る、小津安二郎が昭和十年に撮影したるものなり、牡丹の花に見ゆる處凄艷といふべし、
晴れてはまた曇る。古着古書雜誌など賣卻す。晝餉に今夏初て龜屋芳廣の水饅頭を食す。余は水饅頭をこよなく愛する者なり。ユリイカ七月號に小劇塲特集を讀む。松村達雄歿。行年九十。原油價格一バレル六十弗を超ゆ。
四時半眠より醒む。陰。ケリ鳴く。午前三好に徃きミリオンダラー・ベイビーを看る。四度目なり。午後執筆。若き力士自轉車に乘り去る。阿武松部屋今年も白山通りに稽古塲を設けたり。日東工業南の大雄院には鳴戶部屋來る。親方元隆の里なり。名古屋塲處近し。
曇りて溽暑甚し。終日家に在り。M社の原稾をつくる。夕食後NHK-FMサウンド・ミュージアムに大貫妙子が船出風の道メトロポリタン美術館春の手紙いつも通りダウン・タウンなど聽く。
半陰半晴。風あれど暑し。晝餉にメロン麵麭と胡桃レーズン麵麭を食す。古書店に單行本辭書十册ばかり賣る。濱田壽美男私とは何かを再讀。今年は入梅中雨少し。[二十六日記す]
陰。ケリ鳴く。終日讀書。是日ガルデル七十囘忌。[二十六日記す]
陰。日中も涼しきこと肌寒きほどなり。午前大學病院に徃く。主治醫余の顏を見て、きつさうですね、わたしもどつちかといふと鬱つぽいんでよくわかるんですわと言はるゝなり。早朝より午にかけて氣分よろしからざるを訴へるに、ツムラ補中益氣湯を處方さる。主治醫の談に漢方藥にて慢性疾患による消耗疲勞を恢復し體力を增强するに效ありと、余六年來今日に到るまで依然として藥のまぬ日とてはなく唯命ばかり別狀なし。三環系四環系は言ふに及ばず精神藥安定劑睡眠藥に一として服用せざりしものなし。この後も幾年藥飮みて露命をつなぐにや。意慾の失せたることわれながら驚くばかりなり。世の中の事も今は全くわが身には緣なきやうなる心地して、ラヂオも聽かず、人の噂聞くさへ唯只うるさき心地して此方より耳を掩ふばかりなり。通院公費負擔制度適用さる。午後褥中に在りて三浦雅士が批評といふ鬱を讀む。山口縣萩國際大學定員に滿たず東京地裁に民事再生法適用を申請す。[二十六日記す]
朝の小雨午後に至りて霽る。風あれど蒸暑し。午前父上を自働車に乘せ病院に徃く。瀨港線沿道の紳士服店、トリイ、アオキ、靑山いづれも完全閉店の幟を揭ぐ。エツソ石油は瓦礫の山と化しぬ。商舖の衰勢甚し。小學校の電線に燕の子四羽あり。ケリの鳴くを聞く。其聲寂蓼を添ふ。[二十六日記す]
シテイボーイズ、てなもんや三度傘抔のヴイデオ落札さる。ゆうパツクにて郵送。あるあるマーケットにソニーのヴィデオデッキと日立製作所の炊飯器を賣る。最後に一本殘りし煙草くゆらす。[二十六日記す]
十時半起き出づ。ケリの親子遠近相應じてキリ/\と啼くを聞く。生命保險の用事を辯じ、三時半三好にて三度ミリオンダラー・ベイビーを看る。初更就寢。ケリの聲に安慰と哀愁を覺えたり。[二十六日記す]
マツヤ電器藤ヶ丘店是日閉店。臨床心理士醫療心理師ともに國家資格新設さるゝといふ。岡枝愼二歿。行年七十六。岡枝愼二はスター・ウォーズ第四話の字幕にて May the force be with you を理力と共に在れと飜譯されたり。岸惠子私の人生ア・ラ・カルトを讀む。[二十六日記す]
氣分よろしからず折々眠氣を催す。ユリイカ特集はつぴいえんど、ユリイカ臨時增刊號多和田葉子など讀む。多和田が旅をする裸の眼は日本語版獨逸語版を同時に執筆したりといふ。偉業といふべし。余は亡命先にて二度讀みたり。[二十六日記す]
三夜つゞきて睡眠藥を飮まず熟睡す。K氏より電話あり。契闊を陳ぶ。文筆の興全く索然たる時雜誌記者の依賴を受くるはまことに苦痛のかぎりなり。是日一言も發すること能はず。N子草加市に轉居す。[二十六日記す]
緊急避難の夢を。腹具合思はしからず。下痢を催したれば寢室に入りて臥す。新國立劇塲オペラ部門次期藝術監督若杉弘に決定したりと云ふ。疲勞甚し。[二十六日記す]
午前買ひ物をなす。バミリオン・プレジャー・ナイト第二卷千七百圓にて落札さる。午後困臥。腹具合よろしからず。[二十六日記す]
晝餉に枇杷を食す。DVDデイープ・ブルーを看る。猫田道子がうわさのベーコンを讀む。高橋源一郎が文學界にて詳述する處以を知り得たり。新聞紙歐羅巴西部の大旱魃を報ず。倉橋由巳子病歿行年六十九。[二十六日記す]
よく晴れて風涼し。十時半三好に徃き再びミリオンダラー・ベイビーを看る。午下一階の麵麭屋にて佛蘭西餡麵麭を食す。二時歸宅。門前に救急車と消防車來りて近鄰騷然たり。何事ならむやと階下に下りるに管理人の門より來るに出會ふ。上階の男性遽に發病したる由。火事にはあらず、心配するほどにはあらざる由。DVD三枚落札され五千三百圓を得たり。クロネコメール便にて發送す。草掛橋より川を眺む。輕鴨の親子浮びたるまゝ流れゆくなり。子二羽懸命に水を掻き親の傍を離れず。電線にツバメの親子互ひ違ひにとまりて人無き折を窺ひ地上に下り來りて餌をあさりぬ。嘴太烏、椋鳥、鵯など見る。[二十六日記す]
梅雨の入りなりといへど晴れわたりて風爽なり。朝餉の卓にて母上内田樹が博客を愛讀せらるゝを知る、昨年月刊雜誌いきいきに内田の隨筆を讀み虜となられたる由。偶然余も亡命中文學界連載私家版ユダヤ文化論のほかためらひの倫理學現代思想のパフォーマンスなど耽讀したりき。笑語、父上獨り蚊帳の外。母上伯母K從兄Sを德川美術館名古屋城など案内せむとて出發、車にて藤ヶ丘驛に送る。歸途給油。燕の子頭上を飛囘る。手紙したゝめラヂオにサンデー・ソングブックを聽けば忽ち夕刻なり。母上を驛に迎ふ。名古屋城は金鯱公開中なれど雜沓甚しく入塲劵を購ふこと能はず、德川美術館とトヨタテクノパークのみ見物せられたる由。伯母より小遣ひを頂戴す。もう四十だから要らないよと拒まれしかど、從兄Sに僕は五十一だけどもらつてるよと言はれ受取れたりと云。六時白樺書房に徃き内田樹が新書十四歲の子を持つ親へを購ふ。シュリのDVD二千五百圓にて落札さる。初更ケリの鳴くを聞く。
雨。中部地方入梅。昨夕北海道より屆きたるアスパラガスを食す。今年は氣溫低く不作といふ。朝食後母上石狩市の伯母を出迎へに中部國際空港に出發。大阪株式會社より便箋封筒屆く。鳩居堂にて賣るものよりは價低くして質は余の好みなり。午前O先生に手紙したゝむ。二時父上を伴ひ藤ヶ丘驛に徃き伯母K從兄Sを待つ。十分ほどして母上と共に來訪せらる。二十二年ぶりに再會す。伯母余が顏を見るや雄坊、雄坊もをぢさんになつたんだねえと余が頬を兩手に包みたり。伯母の相貌昔と變らず背筋眞直なれどさすがに瘦せ細りぬ。齡を重ねます/\母上に瓜二つなり。驛前の茶店に小憩笑語半時間。リニモの切符賣塲に伯母從兄母上と別れる。余が驛舍に入るは是日が初てなり。六時父上と圖書館通の洋食屋雅ダイニングに徃きて晚餐をなす。ヒレカツ豚角煮野菜いづれも美味。七時歸宅。伯母の石屋製菓より持參せられし白い戀人を食す。三十年ぶりならむ歟。
雨來らむとして來らず蒸暑し。更地にケリの啼くを聞くも須臾にしてやむ。マンション建設工事始る。午前郵便局にて舊日本育英會奬學金返濟す。育英會は昨年職員の橫領發覺し解散。獨立行政法人日本學生支援機構と改稱せり。編輯人K氏の詑狀來る。便利店に陳列せられし雜誌表紙を眺む。ビッグコミック林家正藏の似顏繪揭げ、頑張れよ、正藏の宣傳文あり。ヴィデオ五本競賣の廣告をなすに早くも入札あり。夕餉に梭魚の鹽燒とゴーヤの白和へを食す。電線に鵯の子一羽あり。味佳なり。夜蛙聲戛々。
曇りて折々日影さしたり。大學病院に徃く。先週六年通ひたるクリニックをやめて轉院、受診第二囘、診察三十分。相談室に書類提出し外に出づれば早や一時半なり。表入口に黃色の寢卷を着たる美少女あり。年の頃十位、自ら點滴の支柱を引き、バスに乘らむとする老婆を見送り居たり。見舞に來りし祖母なるべし。少女一言も物いはず、たゞ微笑みばかりなり。何の病なるや。のを寢間著を市役處に徃き手續を終る。白樺書房に立寄り三時歸宅。衞星第二にモーガン・フリーマン自らを語るを看る。哄笑すること幾囘なるを知らず。少年文藝創刊號を讀む。少年倶樂部に髣髴たり。谷川俊太郎がご挨拶見事といふほかなし。西原理恵子の插畫佳。谷川俊太郎古井由吉ともに生よりも一步を先にして死を現出したるものと謂ふべし。文學界六月號大航海など讀む。夜風濕氣を帶びて冷、明日にも入梅する氣配なり。
曇りて寒し。顏洗ひ煙草一二服吸ひ手紙したゝめれば忽正午とはなるなり。鄰の更地にケリの聲絕る間もなし。いつの頃より來り始めしにや。三年前ならむか。頭上旋囘すること幾囘なるを知らず。背廣を着たる男自働車を停め寫眞を撮影せり。キリ、キリ/\と啼く聲余が境遇を唄ふ心地す。來年巨大集合住宅建設さるゝ豫定なり。ケリの行く末いかに成行くにやと哀れいや增すばかりなり。哀惻の情押へ難し。晝餉の後瀨戶ペツトフオレストに徃く。セキセイ鸚哥十四妹など小禽を賣る店なり。平成十二年十二月レモンを購ひ早や四年半ばかりは經ちぬ。鸚哥若親一つがひにて六千九十圓との札を下げたり。小櫻鸚哥一つがひ二萬四千八百圓、羽衣セキセイ一萬圓、漣鸚哥一萬五千圓、尾長楓鳥一萬二千八百圓、十四妹一つがひ三千二百六十圓、瑠璃頭靑輝鳥一つがひ一萬九千八百圓、錦華鳥一つがひ四千五百圓。市中制服着たる女學生自轉車にて下校す。裾短く尻見えんとす。さながらフイギユアの如し。昨今フイギュアは女學生を模すものならず、女學生がフイギュアを模すなり。夕餉に始てふくらぎの生姜煮を食す。味佳なり。福祉ネツトワークに院長出演するを看る。
晴れてはまた曇る。午前三好に徃き活動寫眞ミリオンダラー・ベイビーを看る。傑作なり。日東工業裏手道路新成し舊觀を留めず。五十七號線白山の邊商舖自働車店櫛比せり。浪漫食堂に晝餉をなす。三時歸宅。晡下ラヂオに坂本九カレンダーガールを聽く。事故死せしかば我が國のビング・クロスビー偉人になりたるべし。余が批評眼を以てすればコニー・フランシスがバケイションは弘田三枝子を以て第一となすべし。抑鬱亭日乘再開す。