初更から一時間毎に目覺め、輾轉反側し夜を明かす。隂。涼風。朝刊でジャック・レモンの訃報に接す。享年76。先週より臥褥にありてレモン主演の『お熱いのがお好き』『アパートの鍵貸します』『あなただけ今晚は』『フロント・ページ』のビデオを繰り返し鑑賞したり。今宵もいづれかを鑑賞し追悼せんと欲す。
朝食後、月曜に家の裏手に開場せし阿武松部屋の稽古場を見學す。新弟子十名ほど、土俵の周りに立ち、土俵中央のトランプをめくり、出た數だけ全員で腕立て伏せをする。見てゐるだけで汗かきぬ。
くもりて蒸暑し。西班牙の親友夫妻から半年ぶりに長文の手紙屆く。仕事も家庭も安泰の由。安堵す。新聞夕刊一面シアトル・マリナーズのイチローの活躍を報ず。打率でリーグ首位に立つ。壯舉なり。橫臥し『ダニイ・ケイの天國と地獄』を久しぶりに看る。花粉症の露西亞人オペラ歌手の塲面にダニイ・ケイの才能の極致見ゆ。
細雨糠の如し。午前主治醫の診察を乞ふ。倦怠感甚だしい旨訴へる。藥一種類變はる。午後橫臥し『雨に唄へば』を看る。何度看ても看飽きぬ。音樂映畫は脚本に合はせて曲を作るのが慣はしなれど、『雨に唄へば』は、製作者アーサー・フリードが作詞しハーブ・ブラウンが作曲せし同名の曲に基づき、ベティ・コムデンとアドルフ・グリーンが間然するところなき脚本を書きぬ。篠つく雨の中ジーン・ケリーが歌ひ踊る名高い塲面で降る雨には牛乳が混入されてゐる。黑澤明の『七人の侍』の豪雨が砂糖水であるに似たり。たゞの水を銀幕で本物の雨に見せんがために往年の映畫制作者は工夫怠らざりき。ジーン・ケリーは俳優と監督と振附を兼ね、元體育敎師故踊りは極めて體操的なり。この點で彼の末裔はジャッキー・チェンなり。求道者ブルース・リーは重力を感じさせぬ天才フレッド・アステアの息子なり。
鍼の效果なく昨夜は睡魔訪れず睡眠藥に賴り寢に就く。午下ヘラルドでトニー・ガトリフ監督の映畫『ベンゴ』を看る。開卷劈頭、埃及のスーフィ敎音樂とフラメンコの卽興演奏あり、佳なり。玄人と素人の演者の競演惡しからず。物語と撮影技法に新味なし。枕上ビリー・ワイルダーの『お熱いのがお好き』を看る。これまでに何度看たか知れぬ。ワイルダーとI・A・L・ダイアモンドの脚本一部の隙もなし。原題 "Some Like It Hot" を「お熱いのがお好き」と譯した邦題は傑作。ジョー・E・ブラウンの最後の科白は極上の落語の下げに通ず。喜劇映畫を携へて孤島に渡れといはれゝば迷はずこれとマルクス兄弟の『我輩はカモである』を選ぶ。
午後名古屋驛より南紀高速バスで三重縣の鍼灸院に徃き診察を乞ふ。雷鳴り雨來る。今囘は手首、足首、首筋、頭皮にくはへて背中にも鍼を打たれる。食欲を增進さしむるためといふ。寢臺に橫たはり鍼の刺戟を受けるあひだ、先生と雜談に興ず。かつてビートたけしの番組に出演せしことあり、先生は臺本通りに科白を述べるもたけしは卽興でまくしたてゝ先生を煙に卷き、「ひどい目に遭ひました」と先生大らかに笑ふ。診察室の壁に森山周一郎の冩眞と色紙あり。財津一郎が病を患ひし折親友の森山が先生に相談に訪れたり、冩眞はその時の記念の由。昏暮名古屋に歸參す。細雨。涼味襲ふがごとし。
微熱あり終日臥褥にあり。
眠れぬこと五更に及ぶ。睡眠藥を飮むには遲く、飮まず。輾轉反側し夜を明かす。雨。主治醫の診察を乞ふ。
六時眠より覺む。隂。晝食後微熱あり臥褥。夕刻人影を感じ飛起きる。父上の不意の訪問に眠を破られる。氣の休まる暇なし。
昨日晝食後假眠のつもりで橫臥し忽ち熟睡、眠より覺むれば三更なり。蒲團を被りふたゝび眠る。七時半起牀。夜半の一時的覺醒をはさんで半日以上眠りぬ。隂晴定まらず。微風あり。日課の早朝逍遙。牧塲へ徃く。自轉車通學の高校生陸續と涼風を切り颯爽と走り去りぬ。午下湯治。實家を訪ふ。兩親と咖啡農園で喫茶。倦怠感と眠氣甚しく終始緘默すること石の動かざるが如し。三時半歸宅。熱を計るに三七・三度の微熱あり。
六時眠より覺む。二晚續きで藥に賴らず快眠す。快晴の空雲翳なし。薄暑。入梅以來雨尠し。白山林を步し町の北方を眼下に眺望す。紫陽花目に眩し。晝食後倦怠感を覺え蒲團に橫臥し、そのまゝ眠る。
六時眠より覺む。奇蹟起きたり。睡眠藥なしで七時間熟睡するを得たり。不眠に惱まされしこと九年餘、睡眠藥を服用して二年の星霜を經れば、これほどの快眠は十年に一度の快舉といはざるを得ず。鍼の效能瞠目に値するものなり。倂しこれをもつて藥物療法を放擲するつもり毛頭なし。兩者の良き處を擇びとり治療を續ける所存なり。午前大學に徃き注文せし本九册受取る。超級市場で惣菜を贖ひ、美容院で散髮。午過歸る。屆きし書物を片つ端から斜讀みす。もつとも鶴首して待望みしは加藤幹郎の『映畫とは何か』(みすず書房)なり。これを讀み徃時黑人劇塲專用映畫ありしことを初めて知る。
六時起牀。隂。風颯々。牧場まで逍遙す。鐵柵に圍はれし一頭の茶褐色の馬余に接近し、柵の外の雜草を食まんとして能はず。余これを毟りとり與へれば嬉々として貪る。進入禁止の旭新池に釣り人あり。北側の網と鄰家の植込みのあひだに人ひとり辛うじて通へる間隙あり、そこから侵入したと見ゆ。地下鐵で名古屋驛へ行く。車中岩波文庫版『斷腸亭日乘』下卷の下町大空襲の記述を讀み慄然とす。午過名古屋驛の名鐵バスセンターより南紀特急バスに乘り、東名阪自動車道と伊勢自動車道を經由して三重縣多氣郡の栃原に徃く。龜山や津は車窗外田圃多し。津を過ぎると森深々として鬱蒼たり。勢和多氣ICを降り國道四二號線を南下しほどなくして栃原停留所に着く。目の前の信號を渡ると、國道沿ひに目指す針灸院「陽明」あり。N院長夫人わざわざ表通りで余を待ちぬ。恐悦至極なり。名古屋から二時間足らずの小旅行なり。N院長は溫厚を繪に描いたやうなお人柄で、穩やかな口調に心和む。旣徃症や現今の疾病の狀況、服用せし藥の種類など訊ねらる。まづベツドに仰向けに寢かせられ、血壓と脉拍を測られる。脉拍九十を超え、これでは心臟への負擔輕からずと仰る。兩手首の裏に鍼を一本づゝ打ち、待つこと十分、再度測るに八八に下がる。「一下がるだけで心臟への負擔は違ひます」と先生。續いて腹を探るに腹部に水が溜まつてゐると仰る。七八本の鍼を臍の周りに打ち、尖端に電極を附けると鍼がトン/\/\と小刻みに振動し余の腹部波を打つが如く搖れる。鍼を拔くと、腹の張り幾分輕減す。次にうつ伏せになり、首筋から耳の裏の邊り數箇所に鍼を打たれ、この度も電氣で刺戟さる。最後はふたゝび仰向けになり、額の上の頭皮に二本打ち十分ほど放置す。先生余の頭皮に觸れたればすかさず「あなたは完璧症ですね」といふ。完璧主義者は頭皮が固くすぐ判るとの由。その間暫し款話。N先生は十年前に東京は高圓寺からこの地に遷りたりといふ。鍼はあらゆる病に效果あれども、先生の專門は「首から上」則ち鬱病や神經症などの由。若き頃は貧乏旅行で世界中を旅して囘り、訪れざるは「北極と南極、露西亞と濠太剌利」のみと微笑みながらいふのを聞き、只只仰天す。大言壯語せず、絕えず相好を崩し、患者の言葉に耳を傾けること怠らざるはけだし善良な人柄の賜物なり。診察の終はりに三度目の脉をとる。脉拍八三まで下がりぬ。
六時起牀。晴曇定めなし。風なく暖。今朝も白山林を逍遙す。白山林は小牧長久手の合戰の前哨戰の舞臺となりし處なり。一五八四年豐臣方三河攻擊隊の池田恆興が長久手の岩嵜城を攻め、白山林附邊にこの隊の最後尾、秀吉の甥で總大將の三好秀次ありき。池田が岩嵜城攻畧に手間取つてゐる間に家康軍水野忠重の奇襲を受け三好隊滅びたりといふ。今は往時を偲ばせるものなく、殺風景な住宅街なり。北には眼前に矢田川流れて白鷺が一羽川面に戲れ、水を張つたばかりの田圃曙光に照り映え美しく見えたり。彼方に森林公園仄かに見ゆ。渡辺保『日本の舞踊』再讀す。睡魔激しく橫臥。忽ち藥の力も借りず眠る。假寢から覺めれば干近くになりぬ。午後窗を開け放つ。良風吹き込む。日本に於るロルカ劇上演史を閱す。夕刻、隂慘な事件報ぜられる。大阪敎育大敎育學部附屬池田小學校に出刄疱丁を持つた男が闖入し、兒童敎員に闇雲に斬りつけ、兒童八人死亡するなり。容疑者は三十七歲無職で、兵庫縣西宮市の病院の精神科で精神分裂病と診斷され一昨年から四囘入院し先般退院したばかりなり。警察の取調べに對して「何囘も自殺を圖つたが死にきれなかつた。何もかも嫌になり、どうでもよくなつた。捕まへて死刑にしてほしかつた」と供述せりといふ。「何もかも嫌になり、どうでもよくなつた」といふ氣持ちは余の胸に響くものあり。九時半寢に就く。
四時半起牀。くもりて溽暑甚だし。起上るにひどい眩暈で體が四方の壁にぶつかる。朝朗日課の逍遙。白山林を登る。雨曇りで視界良好ならず。足許覺束なく早々に抑欝亭に歸る。主治醫と眼科醫の診察を乞ふ。眩暈は藥の副作用と主治醫はいふ。輕い藥を處方してもらふ。眼科醫曰く、角膜の疵幸にして半痊ゑたり。淚液を補ふ藥と炎症用の藥をもらふ。三郷やまとの湯で湯治す。食事處やまと亭で晝餉を喫す。午後空霽る。昨日に續き飜譯。四時譯了。漸く雜務から解放されき。肩凝り疲勞甚だし。
四時半起牀。無風。糠雨。泥のやうに寢たり。薄明に起きて窗外をみるに四鄰の集合住宅の燈り螢の光の如し。六時。リハビリを兼ねて傘を手に近鄰を逍遙す。池の端公園を拔け旭新池を巡り、數十頭の農耕馬が憩ふ農塲へ徃く。馬は大變目がよい。遠くから余を目敏く見つけ、雨中ぢつと佇みてぽかんとした表情で余を凝視す。くすぐつたい心持なり。旭新池は周圍が柵で覆はれ、「奇險」「危ない」「よいこはこゝではあそびません」など無粹な看板がそこらじゆうにべたべたと貼つてあり醜惡この上なし。余の記憶する限り昨年までは池畔に下りるは自由で、鮒や鯉にブラックバス目當ての釣り人數多をりき。だが何時の間にか柵で封鎖されぬ。この池には鴨、鷺、川鵜、雀、烏など野鳥多し。池を汚したり鳥や魚を苛める者が後を絕たぬといふなら話は別だが、然にあらずんば直ちに池を市民に開放されたし。早朝犬を散步させる人多く見ゆ。人が犬を散步させるのか、犬に散步させられてゐるのか。七時歸宅。午前超級市塲で買物。店内の樂器店のウクレヽがふと目にとまる。余はかねてよりウクレヽに只ならぬ興味を覺えたりけり。値札をみるに一九八〇圓なり。中國製で兒童向きの玩具のやうな安物なれど、余が如き初心者にはこれで事足れり。躊躇はず贖ふ。歸宅して矢も盾もたまらず梱包を解きウクレヽを彈く。さすがに粗物とみえ、弦の音調がなか/\定まらぬ。だがなんとかポロンポ/\音は出る。無聊の慰みものとしては重寶なり。午後草稾つくる。晡時母上より心外な電子郵件屆く。平重盛曰く「忠ならんと欲すれば孝ならず、孝ならんと欲すれば忠ならず」。また芥川龍之介曰く「人生の悲劇の第一幕は親子となつたことにはじまつてゐる」。親は子にとつて他者であり、子は親にとつて他者である。こゝを踏み誤る親子巷間に多し。我が家も例外にあらず。出るは溜息ばかりなり。
七時半起牀。最近にしては寢坊なり。夜通し熟睡。曇のち糠雨。風あり。演出家S氏との徃復書翰、正式に再開す。ロラン・バルト『サド・フーリエ・ロヨラ』、間宮芳生『現代音樂の冒險』再讀す。午下、茶を喫するのはどうかと父上に誘はれて實家に徃く。途次龜屋芳廣で手土產に水饅頭を贖ふ。店内冷房つよし。イチローが出塲してゐる大リーグの衞星放送中繼を橫目で見ながら兩親と歡談。東海地方が入梅した旨母上に敎はる。程なくしてどういふわけか疲勞感と睡魔に襲はれ、ソフアに橫臥しそのまゝ轉寢、華胥の國に遊ぶ。目覺めれば五時半なり。一睡の間に降りだした雨糠の如し。辭去。六時歸宅。けふが主治醫との面談日であることをはたと思ひ出すも後の祭り。かういふ些細な物忘れがひどくて困る。藥はからうじて豫備の蓄へあり。不幸中の幸ひなり。
五時起牀。高曇のち晴。降り注ぐ陽光燦々。氣分爽快なり。昨夜は早々に寢に就き「日曜洋畫劇塲」で『絕對×絕命』を觀るも、途中で睡魔訪れ、そのまゝ寢ぬ。午前舞臺演出家N氏と電話で歡談。疾病は異なるものゝともに病身故互ひに見舞ひを述べ合ふ。余の病を氣遣ひし友人Y君から電子郵件屆く。長文の禮狀をしたゝめ送る。三時過ぎ、近鄰の郵便局を往復するだけで薄暑を覺ゆ。シアトル・マリナーズのイチロー、對デビルレイズ戰で八面六臂の活躍す。休養日の豫定なりしも同僚負傷、代はりに公式戰初めて指名打者として出塲。第一打席四球で出壘、すかさず二盜。第二打席センター前安打、再び二盜。今期二十個目の盜壘は大リーグ通じて一番乘りなり。第三打席左翼前安打。第四打席センター前安打。第五打席は惜しくも投手前凡打。一試合三安打の猛打賞。打率は三割六分二厘。得點圈打率にゐたつては六割。これは驚異的なり。打てば安打量產、守りては强肩で走者を封じ込め、足の速さは脫兔の如し。なによりものび/\と野球を樂しんでゐる樣子がはつきりと伺へるのが愉快なり。
朝五時半起出でて窗外を眺む。天氣晴朗薰風颯々たり。朝日の光四鄰の樹木に照りわたりたり。早起机に憑りて草稿をつくる。昨今の西班牙に纏はる隨想なり。されども執筆の興至らず怏々として徒に時間を空費するのみ。長閑に日を送ることゝす。晝前微震あり。午下三郷やまとの湯で湯治す。休日にしては人少なし。食事處は賑はひたり。一時半歸宅。まづ坐右の名著『斷腸亭日乘』を讀む。永井荷風先生好みて用ゐる言葉數多あり。天候ならば「驟雨沛然」「淫雨空濛」「天候穩ならず。乍(たちま)ち晴れ乍ち曇る」「塵烟濛々たり」「名月皎然」「春風嫋々たり」。時に就いての表現も多し。「日も晡に近し」。「晡」は正しくは口偏ならず日偏なれど電腦では表記出來ず。先生は五更を好む。五更は季節によつて異なる故、余はまだ驅使できず。「昏黑」は日沒なり。「燈刻」は昏暮の謂なるや。續いて大瀧詠一唯一の著書にして永らく絕版なりし『All About Niagara』繙く。氏のデイスコブラフイーを始め、リヽースした總てのレコード、ラジオ出演記錄、原稾を片つ端から收めし奇書で七五〇頁の大著なり。日本音樂が如何にして西洋音樂を受容したかを具に檢證せし畢生の論文「分母分子論」が收錄されてゐないのが玉に瑕。FM愛知で「山下達郎サンデー・ソングブック」で珍盤奇盤特輯を聽く。こまどり姉妹「淚のラーメン」、チーチ&チョン「シスター・メアリー・エレフアント」、西郷輝彦「ローリング・ストーンズは來なかつた」など、なにかの間違ひで作られてしまつたとしか思へない珍奇な歌の數々に醉ひしれる。
四時半起牀。時刻は早いが泥のやうに眠りけり。高曇。午前、買物す。四年前に贖ひし筆記本電腦の硬盤が僅か二GBで、仕事に用ゐる軟件增え終に滿杯になりぬ。これでは仕事にならず、一念發起して新たな筆記本電腦を贖ふ。兩親に贈りしものと同型なり。硬盤は二十GB。四年前の十倍にして價格は半値なり。午下窗を明け良風を入れる。陽射し雲間からのぞき、薰風嫋嫋。田草月の風を浴びるに病瘉ゆ心持す。咖啡と煙草で一服し、『古語類語辭典』を耽讀す。讀物としてきはめて面白き良書なり。
年明けてはやくも靑水無月になりぬ。光隂大陸間彈道ミサイルの如し。制服衣替への季節なり。桃色の可憐な花街を彩る。五時起牀。微風蕭々うらがなし。夜を通じて一度も覺醒せず朝まで熟睡せり。インスミンを服用してから寢聰いものゝ今朝は泥のやうに快眠し、眩暈も輕く病識さはやぐ。朝餉終へるもゝどかしく友人らの電腦揭示板に近況報告す。代はりに友人らから電子郵件數多屆く。午下細務ありて大學へ徃く。ゼミのN孃、I孃、T孃來室。部活動や就職活動の事などの近況報告を受ける。休職中でもかうして彼女らと歡談出來るのは望外の幸せなり。彼女らも談笑に心彈み、はえ/″\し。談論風發、刻旣に晡時になりぬ。三人とも授業あり再會を約して去りぬ。窗外見るに雲間から微かな陽射し射す。衝浪し、三省堂の主頁で金田一春彦序、芹生公男編『現代語から古語が引ける古語類語辭典』といふ 辭書の存在を知る。時を置かず電子郵件で發注。數日後には自宅に配達さるゝが、なほなほ只今入手せんと欲し、「くまざわ書店」に赴くに、豈圖らんや、書篋に一册發見す。躊躇はず贖ふ。六時半歸宅。白夜書房より、鶴首して待望みし大瀧詠一著『All About Niagara』增補版屆く。今宵は寶を二つ手に入れたる氣分なり。奇遇なれや。重疉の至りなり。