晏起。晴れて風しづかなり。午下堤上を步す。陽射し思の外强く發汗忽襯衣を霑す。足どり重し。倦怠感甚しく心氣爽快ならず。晡時一睡、寤むれば昏黑なり。藤本義一歿。享年七十九。十六夜の月あきらかなり。
くもりて風絕ゆ。山田洋次山中伸彌高階秀彌文化勳章、宮﨑駿安野光雅辻井喬松本幸四郎文化功勞者。三時いつもの溫泉に徃き露天風呂に浴す。夜八時BS11柳家喬太郎のようこそ藝賓館に春風亭小朝一門會を見る。五明樓玉の輔が悋氣の獨樂を演じ始めるや、番組中現在では配慮が必要な用語や表現が含まれてゐる塲合がありますが時代背景及び作品を尊重し放送いたしてをりますといふテロップ畫面下隅に現れ一驚を喫す。先週迄は見ざりしものなり。思へば昨年よりBSプレミアムにて連日放送中の山田洋次監督が選ぶ日本映畫名作百選にも、敗戰前後の作品放映直前に、この映畫には一部配慮すべき表現・用語が含まれていますが作品のオリジナリティーを尊重しそのまゝで放送しますといふ注意書を揭ぐること屡なり。落語にせよ活動寫眞にせよ差別用語の頻出することは亊實なり。然れども江戶期以來最も差別を被りしものは藝人ならずや。落語家も俳優も士農工商の身分制度より排除せられ、歌舞伎役者は河原乞食と呼ばれ蔑まされたりき。被差別民たる藝人が用ゐる差別用語は差別を助長するためにあらず、己の賤しさを自覺し人々の憫笑を買ひて餬口の道を求むるなり。古典作品放送のたび一々斯くの如き辯明をなさゞるを得ざるは悲しむべきことなり。滿月鏡の如し。
西風吹きすさめども空隈なく晴れわたりて日光のうらゝかなること陽春の如し。市塲の店先にO市產の無花果今も猶あり。二時半インターバル速步。溫暖例ならず。腦外科駐車塲に半袖ポロシャツ姿の男あり。金木犀の花散り初む。讀書半日。夜幾望の月皎〻たり。
烟雨濛々たり。朝五時十五分に錄畫せしNHK總合立川志らくの演藝圖鑒に瀧川鯉昇のちりとてちんを聽く。FM愛知サンデー・ソングブックにロニー・ダイソンの Ain't Nothing Wrong を聽く。深夜一時四十四分名古屋テレビにて錄畫し置きたるノーラ・エフロン脚本演出による活動寫眞奧さまは魔女を見る。ニコール・キッドマンはエリザベス・モンゴメリーに髣髴たる金髮と高き鼻の持ち主にて正に適役なり。然れども如何せん脚本拙劣演出凡庸にて鑒賞に堪へず。シャーリー・マクレーン惡しからず。マイケル・ケインは喜劇に不向きなり。ケイン出演の喜劇作品にて余が唯一評價するはウディ・アレン監督ハンナとその姉妹一作のみ。初更雨霽れて月雲罅に現る。殘蛩の聲猶絕えず。
薄く晴れて風なく靜なる日なり。溫暖春の如し。午下水管屋の職人來り風呂塲シャワーの修繕をなす。二時半インターバル速步。十三夜の月よし。
晏起。天氣牢晴。某店に注文せし腕輪念珠屆く。午後インターバル速步。晡時ことぶきの湯露天風呂に浴す。歸途アミカに立寄る。鄰のエディオン新店舖開店當日にて百七十臺收容の駐車塲滿車なるを見る。名キーボード奏者佐藤博氏急死。享年六十五。大瀧詠一山下達郎の初期作品にて華麗なるピアノ及キーボードの演奏を聞かせたりき。晚飯におでんを食す。夜十時BSプレミアムにて井上ひさしのコント2を見る。配役は第一囘に引續き演出三宅裕司、三波伸介役に山口智充、戶塚睦夫役に田中直樹、伊東四朗役は中村獅童に代りて八嶋智人なり。コント作品は「無實の罪」「見舞ひ」「深夜放送」「アラスカにて」「變な話」「相手が惡い」の六篇なり。「變な話」を選びし三宅の感覺一流なり。出演者一同最も難しかりしコントはこの作品なりと口を揃へたり。
陰後に晴。無風。咖啡所コメダに朝飯を喫す。九時豐田學舍着。駐車塲より貝津驛に至る小徑に猿出沒注意と書きたる看板立ちたり。この學舍に敎鞭を執りて七年目なれど近鄰に猿の棲息するは今日に至るまで知らざりしなり。授業冐頭玖馬の六人組無伴奏合唱集團 Vocal Sampling のデビュー歌曲 Montuno Sampling を聽く。一時半歸家。インターバル速步。暑からず寒からず。ぴあ特別編輯版山下達郎“超”大特輯號を讀む。達郎及まりやの取材長文にて讀み應へあり。極右政治家都知事辭職し國政に復歸するといふ。夕餉に鯖の鹽麹燒冬瓜のそぼろあんかけを食す。
Montuno Sampling / Vocal Sampling
雨後の空澄渡りて西風冷なり。二時半堤上を步す。西風吹きすさみて輕寒身にしむばかりなり。金木犀滿開。晡時何となく心地爽快ならず、臥牀に伏す。
秋雨蕭々。午後いつもの溫泉に徃く。惡天候にも係らず客いつもの如く十五六人あり。この秋初めて露天風呂に湯煙立ちのぼれり。主治醫を訪ひ投藥を乞ふ。歸途農協に立寄り薄口濃口醬油二罎を購ふ。正金といふ銘柄なり。日暮れて雨霽る。寒冷初冬の如し。二更インターバル速步。半輪の月雲間に泛ぶを見る。錄畫し置きたるBS11柳家喬太郎のようこそ藝賓館に桂枝太郎が新作アンケートの行方、桂米福が猿後家を聽く。枝太郎は歌丸の弟子、米福は米丸最後の直弟子なり。
蚤起。咖啡所コメダに朝飯を喫す。十時三好の活動小屋に徃き北野武監督の新作アウトレイジビヨンドを看る。北野作品には珍しく臺詞多く物語わかりやすし。ショットの精度編輯の妙いつもながら嘆息するの外なし。男性千圓均一の日なるが故にや看客思の外多し。一時歸家。三時半インターバル速步。東南の風强し。金木犀馥郁人の面を撲つ。夜雨聲を聞く。腕輪念珠のゴム紐切れたり。
快晴。天氣連日限りなく佳し。暖氣例ならず。セキセイ鸚哥のアサリ君水桶に身を浸して水浴びすること幾囘なるを知らず。金木犀のかをり漸く抑鬱亭にも漂ひ來りぬ。本年は殘暑甚しかりし故にや花開くこと例年よりも三週間遲し。午後FM愛知サンデー・ソングブックにOPUSライブ音源特輯を聽きて後、川岸をインターバル速步にてあゆむ。午後一時BSプレミアムにて錄畫し置きたる古沢憲吾監督の活動寫眞ニッポン無責任時代を看る。脚本秀拔だれ塲なし。植木等ハナ肇谷啓みな鬼籍に入りて久し。
快晴。風なくて暖なり。二時半堤上を步す。S藥局と衞生組合の垣根に金木犀の花やうやく咲けるを見る。振興橋の下に上半身裸の男兒あり。堤防を上り來るを見るに下半身は黑きジャージの裾を膝までたくし上げゐたり。小學校五六年生なるべし。思へば余が北海道江別市に住せし時小學校の級友に年中ランニングシャツに半ズボンを穿きし友人ありき。夜半BSプレミアムにて錄畫し置きたる下妻物語を觀る。いつ觀ても愉快痛快この上なし。この映畫を活動小屋にて看ざりしは返す/\無念なり。大江健三郎定義集のつゞきを讀む。
雨霽れて快晴の空雲翳なし。共同通信の報道によるに、亞米利加の週刊誌ニューズウィーク本年十二月末日を以て紙媒體の販賣をやめ電子版に移行するといふ。余がニューズウィーク誌を定期購讀したりしは中學三年生の頃なり。英語を獨學せんがためなり。政治經濟の用語には踈かりしを以て專ら活動寫眞音樂など娛樂記事を愛讀したりき。午後理髮舖に赴き、歸途いつもの溫泉に徃く。受附にて骰子二個を轉がすにゾロ目出でゝポイント二倍を得る。風冷なるを以て半身浴はなし得ず、露天風呂に肩まで浸かりて汗を流す。大江健三郎の定義集を讀む。初更河畔をインターバル速步にてあゆむ。五日振りなり。金木犀の薰り漂ひ初む。屋角に纖月の懸かれるを見る。殘蛩の啼くを聞く。今曉三時BS-TBSにて錄畫せし落語硏究會再放送に柳家小滿んの二階ぞめきを聽く。つゞきて二更Eテレ日本の話藝に桂文珍の帶久を聽く。見臺膝隱しを用いず。語りは緩急自在、巧みなるくすぐりも交へ人をして感服せしむ。
秋霖霏々たり。咖啡處コメダに朝飯を喫す。九時出勤。一限二限とも不規則動詞 tener, venir, decir, oir, ir の活用と發音、作文練習を行ふ。一時半歸家。三時耳鼻咽喉科に徃き診察を乞ふ。風邪漸く痊ゆ。藥局待合室にて藥の處方を待つあひだ、ふと帳塲の棚を見るに大きなる體溫計のやうなものあり、近づきてよく見るにエステー社製のエアカウンターSといふ家庭用放射線測定器なり。時恰片隅の液晶テレビにてはNHKらしき放送局の福島原發周邊地域の取材番組を放送しゐたり。圖書館に立寄りて歸る。西班牙の新聞ABCセビーリャ版に揭載されたるラ・セレスティーナの舞臺評を飜譯、公式網站にて公開す。若松孝二死去。外苑西通りの橫斷步道なきところを渡らむとしてタキシ自働車に轢かれし由。享年七十六。
晏起。倦怠感甚しく臥床より起出づるにも難儀せり。雨。何故にや咽頭痛惡化し喉に痰のからむこと不快極まりなし。『ラ・セレスティーナ』ビエナル・デ・セビーリャ招聘公演の舞臺評三篇を飜譯し公式網站にて公開す。作業を終れば日は忽晡ならむとす。
晏起午に近し。晴後に陰。倦怠感甚し。午後ことぶきの湯に徃き露天風呂に半身浴をなす。歸途園藝店くすの木に立寄り、過日豫約注文せしフラワースタンド二脚を購ふ。二更臥蓐に橫りBS11柳家喬太郎のようこそ藝賓館に金原亭馬生が辰巳の辻占、五街道雲助が持參金を聽く。
晏起。風邪惡化。喉の痛み增し咳痰依然たり。罹患して三週間は經ちぬ。頭も體も重苦しく机に向ふことを得ず、被を擁して伏す。終日困臥。志ん生の落語を聽く。
曇天。午前インターバル速步。FM愛知サンデー・ソングブックを聽く中窗外より銃聲聞ゆ。警固祭の當日なるが故市内各所にて火繩銃を擊つなり。十數年前のラジオ番組を錄音したるミニディスクを MP3 文件に變換したしと思ひしが陋屋にはMDデッキなきを以て、中古品を購ひにハードオフに赴く。デノン社製 DMD-7.5E に再生できましたと書かれし札貼りてあり。帳塲の男ジャンク品ですが宜しいですかと念を押す。再生さへ可能ならば他に用はなし。代價千五百圓。買求めて家にかへり早速ディスクを插入せしが再生されず。五六枚試したれど甲斐無し。心氣欝々。早く寢に就く。
晴後に陰。鱗雲の棚引くさまいかにも秋の空なり。喉に痰からみ粘液質の洟も相變らずなり。風邪痊えざること二旬なり。昨日午後小動物用品專門店に注文せしクオリスのオーツ麦早くも朝屆きたり。舞臺評飜譯脫稾。編輯人に草稾を交附す。古今亭圓菊死去。享年八十四。二更思ひかけず丸谷才一氏の訃報に接す。享年八十七。暫し呆然たり。
晴。朝風冷なり。咽頭痛猶治せず。罹患して旣に二旬近くは經ちぬ。戲曲Cの舞臺評を飜譯す。原文は惡文の見本が如き代物にて興味索然たり。午後衣料品店にシャツ二着購ひて後いつもの溫泉に赴き半身浴をなす。いつもならば葦簀張の廣き緣臺に仰向けになり風を迎ふる者五六人あるなれど今日は一人もなし。初更川端をインターバル速步にて步む。あまりに寒ければ今宵よりスポーツ用ジャケットを着る。風邪の瘉えざる故にや、將又風の冷なるが故にや足の運び輕快ならず。風聲冬の近きを知らしむ。歐州聨合ノーベル平和賞に選ばる。
蚤起。陰晴定らず。無風。風邪未痊えず。咖啡處コメダに朝飯を喫す。用事ありて早く出勤せしが待ち人來らず。咽頭痛を冐して授業を行ふ。午後耳鼻咽喉科に行き投藥を乞ふ。佐々木中碎かれた大地に、ひとつの塲處をを讀む。
半陰半晴。無風。喉の腫れ痛み未だ治せず。戲曲B及びCの劇評を飜譯す。初更川岸をインターバル速步にて步む。暑からず寒からず速步には好適の氣候なり。この時節には珍しく蕨餠賣の輕トラックに乘り、冷たくておいしいよと擴聲器にて觸れ步くに出會ふ。
天氣好晴。咳嗽猶治せず。二時いつもの溫泉に行き露天風呂に半身浴をなす。三時主治醫を訪ひ投藥を請ふ。市中稻刈りほゞ終りたり。初更堤上を步す。長引く風邪の故にや足どり重し。舞プリンを用いて來年の豫定帳を作成す。BS11柳家喬太郎のようこそ藝賓館に喬太郎の轉宅を聽く。この日は客人なく喬太郎獨演會なり。高座の後出囃子につきて視聽者の質問に荅へ、出囃子を紹介しがてら先達の物眞似を披露す。古今亭志ん朝は老松、立川談志は木賊刈、師匠柳家さん喬は鞍馬獅子なり。物眞似は當人の認むるが如くさしたる出來にはあらざれど愛嬌あり。
晏起の後盥漱して朝飯を食し煙草を一服すれば日は忽亭午にならむとす。晴。中庭より幼き男兒二人父親と樂しく語らふ聲聞ゆ。正午を過ても窓の杜更新されず、何事なるにやと卓上の曆をみて初めて此日體育の日祝日なるを知る。CNET、japan.internet.com、ITmedia, atmarkIT など電腦關係の網站次々に智能手機向けに意匠改變しゆくなり。余は攜帶端末に興味なきを以て我が網站は舊態依然たる意匠のまゝなり。飜譯の仕事あれど感興來らず。風邪未痊えず。罹患して旣に半月は經ちぬ。二時半川緣をインターバル速步にて步む。日脚頓に短くなりて夕方五時半夕餉の膳に向ふ中家の中早くも暗くなりゆくなり。山中伸彌敎授ノーベル醫學生理學賞。iPS細胞 induced pluripotent stem cell の最初の I を小文字にせし理由は iPod に因みて、米アップル社製品のやうに廣く世間に普及せらるゝを願ひてのことなる由。スティーブ・ジョブズの革新性と相通ずる醫學の功績にいかにも相應しき插話と言ふべし。
輕陰。秋冷肌を侵す。秋やうやく酣になりぬ。喉の痛み堪ふべからず。風邪に罹りてより早くも二週間は經ちぬ。症狀の惡化するを虞れて速步は中止し空しく家にとゞまる。今曉五時十五分NHK總合テレビにて錄畫せし立川志らくの演藝圖鑒に柳家さん喬の天狗裁きを聽く。十八番とはいへ極上の語りなり。ゼンジー北京の奇術また佳し。FM愛知サンデー・ソングブック放送開始二十周年を迎へたり。夜二更名古屋テレビ日曜洋畫劇塲にアイアンマン2を看る。ロバート・ダウニー・Jr.、ミッキー・ローク、グウィネス・パルトロウ、スカーレット・ヨハンソン、サミュエル・L・ジャクソンなど役者は揃ひしが脚本拙劣鑒賞に堪へず。一時半ほどして消燈す。
晴後に陰。風死したり。暑氣九月のごとし。補講の日なれば夙く起きて咖啡所コメダに朝飯を喫す。駐車塲滿車、店内もほゞ滿席なり。名古屋には土日祝日に喫茶店にてモーニングを食す風習あり。九時過豐田學舍着。一限二限ともに出席者二十名ばかり。語學の授業にとりては最も好ましき人數なり。學生全員と一對一にて會話の練習をなす。受講生のSさん去月希臘にて開かれし花樣游泳世界ジュニア選手權に日本代表として出塲し、フリーコンビネーション四位、團體戰にては見事銀牌を獲たりといふ。大に慶賀す。一時半歸家。今曉三時BS-TBSにて錄畫せし落語硏究會に柳家小滿んが中村仲藏、柳家一琴がのつぺらぼう、柳家小三治がかんしやくを聽く。小滿んは體調すぐれざるにや口跡たど/\しく、珍しく言ひ間違ひ多し。初更インターバル速步日課の如し。半袖に半ズボンはきて寒からず。二更雨聲を聞く。
晴後に陰。溽暑去らず。喉痛し。頭も痛みて心地すぐれず。T氏來訪。釣果の鯛を餽らる。夕餉に栗ご飯を食す。夜初更川岸を步す。風邪の故にや足どり重し。大滝秀治歿。享年八十七。
晴れて暑し。十月の氣候とは思はれぬなり。喉の痛み稍去る。コメダ珈琲店に朝餉を喫して出勤す。九時過豐田學舍到着。秋學期最初の授業を行ふ。前期試驗の答案を返卻し、語根母音變化動詞の解說と練習をなす。敎室内人熅れにて溽蒸甚しく、學生諸氏口々に暑い/\と呟くなり。一時半歸家。晡刻耳鼻咽喉科に行き診察を乞ふ。咽頭痛は漸く和らぎしが黃色く濁りたる洟は相變らずなれば醫師I氏内視鏡にて鼻の奧を檢査し頭部のレントゲン寫眞も撮影す。幸にして鼻の症狀は重篤ならず。藥四種處方せらる。夕食の後河畔をインターバル速步にて步む。十一日ぶりなり。蟲の聲頻なり。去二日BSプレミアムにて錄畫せし雲の上團五郎一座を觀る。喜劇としては凡作なり。見所は偏に一座の芝居なり。フランキー堺の辨慶、三木のり平と八波むと志の玄冶店はいつ見ても小氣味よし。のり平とむと志は笑藝人コンビの最高峰といふべし。
隂。兩三日異例の暖氣なり。喉の痛み昨日にも增して不快この上なし。深夜東海テレビにて錄畫し置きたる北野武の活動寫眞 Dolls を看る。一種の無聲映畫なれば菅野美穂と西島秀俊を延々步かしめ風景と季節の移ろひを見せる演出頗る效果的なり。幕切れ近く文樂の人形と二人の走る動きを交互に見せるショット見事なり。
晴後に陰。昨來暖氣初夏の如し。氣溫攝氏二十八度に及ぶ。咽頭痛痊えず。粘液質の洟もまたとまらず。不快堪ふべからず。發症して早や旬日に及べり。余竊に思ふにこの症狀は風邪にはあらず。内科に診察を乞ひしはお門違ひにて、耳鼻咽喉科に行くべき病なるべし。午後ことぶきの湯露天風呂に半身浴をなす。中央圖書館に立寄りて家にかへる。郵便箱に年賀狀印刷申込書早くも入れあり。内田樹高橋源一郎の對談本沈む日本を愛せますか?を讀む。小沢一郎はナロードニキ、鳩山由紀夫は空想的社會主義者なりとは慧眼といふべし。内田高橋兩氏は政治を語る際專門語を排し日常言語による語り口に徹す。言はゞ素人の語りを採用し、問題の核心を剔抉するなり。この手法は前世紀末に浅田彰と田中康夫が憂國放談と稱して行ひしものと同じなり。田中氏は政治の素人として長野縣政に大きなる改革をもたらしたりき。政治の專門家はえてして大海を知らざる井の中の蛙なり。新聞記者操觚者の關心事は偏に政局のみなればなり。先頃定義集を上梓されし大江健三郎もアマチュアの知性に未來を託すなり。市民による示威運動の傳統なき日本にて反原發運動が活發になりし背景には、格差社會への異議を唱ふる素人の亂あり。初更BS11柳家喬太郎のようこそ藝賓館に夢月亭清麿の東急驛長會議、三遊亭圓丈の新・ぐつぐつを聽く。苦笑する外なし。
舊八月十六日。暗雲散じて俄に薄暑を催す。セキセイ鸚哥のアサリ君珍しく鳥籠の緣側より食卓に降り、トコ/\步み來りて余がサラドのもやしを啄む。咽頭痛去らず粘液質の洟もとまらず。咳嗽甚しく風邪の症狀依然として快瘉の兆なければ三たび内科に行き投藥を乞ふ。新たに三種處方せらる。先週來服用中の藥を擧ぐればクラビット、ロキソニン、ムコスタ、ゼスラン、トランサミン、カロナール、フスコデ、アレグラ、ジスロマックの九種に及べり。恰も人體實驗の材料となりし心地せらるゝなり。呵々。醫師E氏熱を測りませうとて大きなる體溫計を取出せしかば、余は脇の下を顯はにせむとシャツを捲り上げるに、それには及びませんと云ひて、體溫計を余の頭部に向けるや、先端より靑色なる光線發して余の額に命中せし途端に液晶畫面に三十六度〇分と表示されたり。醫療機器の進步驚くの外なし。機器は長足の進步を遂げしが、肝腎なる風邪の特效藥は人類これをまだ發明するに至らず。午後ホームセンターに赴きセキセイ鸚哥の混合餌を購ふ。晡時一睡。靑山劇塲及び靑山圓形劇塲來年三月末を以て閉塲の由。十六夜の月よし。