蚤起。朝來秋雨蕭條たり。カーラヂオに愛知國際放送 RADIOi を聽く。今日が放送最終日なるを以て朝七時より夜十二時まで SAYONARA MIDLAND と題し、一時間每に iJ 全員代る代る出演す。折しも Chris Glenn と佐野瑛厘話しゐたり。七時臺最後の曲はバグルスのラジオスターの悲劇 Video Killed the Radio Star なり。八時 Cocoro 登塲す。愛知國際放送十年の星霜を經て經營困難に陷り放送免許返上の憂目に逢ひぬ。周波數79.5MHzにラヂオを合はせるのも今日が最後とはなれり。八時半豐田キャンパス着。後期授業一囘目を行ふ。前期試驗の答案を返卻し、規則動詞の復習をなし、會話文を二人一組に暗誦せしめ、トレド、マチュピチュ、セゴビアのビデオを鑒賞す。午下歸宅。事務所のM氏と電話にて商議す。ある程度の目處立ちたり。明日より烟草値上となるに備へて便利店に買出しに行く。初更トニー・カーチスの訃報あり。享年八十五。お熱いのがお好きの演技を堪能せしこと幾囘なるを知らず。夜半十二時網站の意匠を六年振りに變更す。
朝の中晴れしが午後より曇る。事務所より電話、寢耳に水の話に一驚を喫す。午後本人と電話で話し安堵す。セキセイ鸚哥の好物小松菜を買はむとて農協に赴くに、不作なるにや賣切になりしにや一把もなし。母上の話に昨日もなかりし由。今日も頭痛岑々然たり。終日西班牙と電子郵件を交はして商議す。暗雲次第に天を蔽ふ。十日振りに入浴す。
朝來秋雨蕭々。午後霽る。雨後の空に薄き雲はるか彼方に棚曳きわたりるさま描くが如し。前期試驗答案を採點す。主治醫を訪ひ身心不調を訴ふ。會計窓口のテレビにNHK世界遺產への旅再放送を看る。エルチェの神祕劇一塲面放映せらる。先週來神祕劇を檢索して余の網站を訪問する者急增し、何事なるやと思ひゐたりしが、この番組の故なるを知る。歸路皮膚科に立寄る。頭痛岑々然たり。
晝前空晴れしが午後暗雲天を蔽ひ夜また雨となる。頭重く執筆苦心慘憺たり。二枚草して纔に今月分の責を塞ぐ。
曇りて風なく陰鬱なる日なり。頭痛岑々然たり。强いて筆をとる。感興索然たり。白鵬四塲所連續全勝優勝。初更雨ふる。
乍晴乍陰。薄暑。憂欝ます/\酷し。讀書する氣力もなし。夕刻テレビに大相撲秋塲所を觀戰す。今日負ければ引退の角番大關魁皇、稀勢の里を寄切りで下し八勝六敗、勝越しを決めたり。國技舘割れんばかりの大喝采。月佳し。蟲語喞々たり。
雨もよひの空墨を流せしが如し。昨夜の件につきて打開策を講じ西班牙に返信す。執筆四五枚。直に編輯長に送る。午後S子に果物一凾送らむとて自働車を運轉しヤマト運輸集配所に赴くに、肝腎の凾を家に置き忘れたり。老耄ほど言甲斐なきものはなし。踵を返して家にかへり凾を車に積みて再び集配所に徃く。イチロー二安打、十年連續二百本安打の偉業達成す。
黎明雷雨の響に睡を破らる。予は雷鳴をおそれざる性なれど、この曉ばかりは硝子窗にひゞきわたる音のあまりに物凄ければ、夜具を頭より引きかぶりてその靜まるを待つ中いつか眠りに落ちたり。朝十時頃雨盆を覆すが如し。寒冷初冬の如し。執筆半日。晡下一睡。西班牙より意想外の電子郵件あり。千載一遇の好機逃すべからざれば打開策を思案す。此日秋分。
薄く晴れて淋しき日なり。溽暑退かず。椅子に坐して物書かんと試みたれど倦怠甚しく胃に輕痛をおぼえ睡氣を催すばかりにて書く事能はず。腰重く立上ることさへ難儀なり。體の芯に鉛の詰りたるが如き心地す。寢臺に橫たはりうつら/\とする程に窗外いつか暗くなりぬ。初更雨聲を聞く。仲秋の月望むべからず。
灰色に空曇りて雨來らむとして來らず。溽暑甚し。朝餉の後步みて皮膚科に徃く。連休明けとて待合室ほゞ滿席なり。梦聲戰爭日記第七卷を讀むこと半時ばかりにして診察室に呼ばるゝ。疣を切除したる跡化膿して中々痊えず、主治醫の說明に、膝は運動盛なる部位にて肉少なからざれば全治まで暫くかゝるべしといふ。午下母上を伴ひホームセンターに徃き、セキセイ鸚哥の混合餌とオーツ麦を購ひ、鄰の超級市塲Aに買物をなす。園藝舘に立寄るにめぼしき花一つもなし。一旦歸家して後やまとの湯に赴き露天風呂に浴す。稻葉町の稻熟して水田の眺望黃金の波の如し。歸路理髮舖に立寄り、烟草屋Sにツーカートン豫約す。來月朔より値上さるゝを以てなり。晡下家にかへる。心氣欝々、何事をもなす能はず。悲しむべきなり。氣分すぐれず食を斷つ。この日カーラヂオのNHK-FM歌謠スクランブルに戰後の二重唱を聽く。
ディック・ミネ、星玲子 | 二人は若い |
松平晃、伏見信子 | 花言葉の唄 |
岸井明、平井英子 | タバコやの娘 |
霧島昇、高峰三枝子 | 純情二重奏 |
伊藤久男、二葉あき子 | お島千太郎旅唄 |
志村道夫、奥山彩子 | 蛇姫絵巻 |
小畑実、藤原亮子 | 勘太郎月夜唄 |
美ち奴、杉狂児 | うちの女房にゃ髭がある |
林伊佐緒、新橋みどり | 若しも月給が上がったら |
霧島昇、渡辺はま子 | 蘇州夜曲 |
二葉あき子、近江俊郎 | 黒いパイプ |
竹山逸郎、藤原亮子 | 月よりの使者 |
渡辺はま子、宇都美清 | 火の鳥 |
藤山一郎、並木路子 | 見たり聞いたりためしたり |
泉友子、伴淳三郎 | アジャパー天国 |
美空ひばり、鶴田浩二 | 頬よせて |
津村謙、吉岡妙子 | あなたと共に |
曇天。彼岸の入なれど秋暑猶去らず。散步がてら農協に赴きペットボトル古トレイ牛乳パックを棄つ。日の暮るゝにつれ氣分次第に憂鬱、ずる/\と蟻地獄に沈み行く心地せり。此日敬老の日。
朝夕の風涼しくなりたれど、晝の中は氣溫三十度を超え薄暑を催すこと昨日の如し。門前の金目黃楊根元より朽ちて、幅三四間ばかり灰の如き土を殘すのみ。サンデー・ソングブックにジャック・ケラー特輯第二囘を聽く。ペギー・リーのファンタスティコ、アルマ・コーガンのポケット・トランジスター、森山加代子の同曲も佳し。演奏はダニー飯田とパラダイスキングなり。他にケニー・カレンの Sixteen Years Ago Tonight、ジーン・マクダニエルズ Anyone Else など。晡下一睡。白鵬五十五連勝。イチロー日米通算三千五百安打。晚涼を待ち散步。木星の光を仰ぎつゝ暗き道を草掛橋に至る。月色淸奇水心に泛ぶを見る。舊八月十二夜の月なり。ドラッグストアに立寄りアイスクリームを帳塲にて精算せんとするに、財布を家に置き忘れたり。帳塲の娘に事情を話し商品を脇に保管せしめ、急ぎ家に歸りて財布を持ち店に戾れば、娘アイスクリームの溶けんとするを防ぐため冷凍庫に保管しゐたり。當節感心なる娘なり。
天氣好晴。風絕えて薄暑を催す。午前元同僚T氏來訪、今曉越前海岸にて釣られし眞烏賊を餽らる。物書かむと机に向ひしが何といふ事もなく筆とるに懶く、老懶とは斯くの如き生活を云ふものなるべし。大相撲秋塲所橫綱白鵬押出しにて稀勢の里を斥け五十四連勝、千代の富士を拔き歷代二位。雙葉山の六十九連勝を射程内に收めたり。夜小林桂樹の訃報あり。享年八十六。東寳社長シリーズの祕書課長嵌り役なりき。
晴れて西北の風强し。アサリ君朝餉のサラドに興味津々、卓子をトコ/\步み皿の緣に來りて、余が箸にて押へる胡瓜ともやしを啄む。西班牙への送金のことにつき事務所のM氏より急なる依賴を受く。銀行員の話に、振込め詐欺橫行する昨今、百萬圓以上の送金は振込依賴書必要といふ。國外送金受附は午前十一時より午後二時まで僅三時間、送金者の身元證明など種々雜多なる書類の提出も義務づけられ、面倒なること限りなし。晡下一睡。大相撲秋塲所白鵬叩き込みにて琴奬菊を破り五十三連勝。直後にテレビ畫面上端にニュース速報のテロップ出でたり。半年振りにjQueryを勉强す。蟲聲喞々たり。
空模樣引つゞきて穩かならず、細雨午後に至つて篠つくが如し。筆とらむとせしが心勞れて身體も重く、そのまゝ止む。パブロ電子郵件を寄す。晡下一睡。夕餉にオムレツを料理す。野球賭博など不祥事つゞきに大相撲秋塲所國技舘の觀客席上半分は空席なり。白鵬掬投げにて栃ノ心をころがし五十二連勝。昏刻木星東の空に低く輝くを見る。枕頭DVDにて川本喜八郎の人形劇死者の書を看る。感歎措く能はず。郞女が袖を上下に振りて舞ふ塲面の美しさ、蓮絲にて機を織る塲面は云ふに及ばず、大伴家持と盃を交はす惠美押勝の演技秀拔なり。岸田今日子のナレーション、宮沢りえの郞女、黒柳徹子の語部嫗、江守徹の惠美押勝いづれも佳し。
朝より小雨時々降りては歇む。朝餉を食しベランダより表通を眺む。幼稚園兒傘を携へ遠足に出かけるを見る。正午過大雨車軸を流すが如し。殘暑去つて秋冷忽肌を侵す。秋に入りてより初めて長袖を着る。執筆餘事なし。札幌土產のロイズ社ポテトチップチョコレートフロマージュブランを食す。美味ならず。チョコレートとポテトチップを別々に食ひたし。何故人々行列をなして是を求むるにや。慈君の需により夕餉に鮭のちやんちやん燒を料理す。たれは先週札幌にて伯母Kより貰ひたるものなり。初更雨ふたゝび烈しくなれり。九時テレビ愛知水曜シアター9にハリソン・フォード主演映畫ファイヤーウォールを看る。愚作珍作揃ひの木曜洋畫劇塲の歷史遂に終幕を迎へんとす。來週のジェット・リー主演映畫SPIRITスピリット放映を以て、この番組枠終了する由。女囚ものエマニエル夫人などのソフトコア、シルヴェスター・スタローン、アーノルド・シュワルツェエネッガー、チャック・ノリス、ジャン=クロード・ヴァン・ダム、ウェズリー・スナイプスなど筋肉馬鹿の作品はいづれもこの番組枠で鑒賞したりき。次囘放映作品を馬鹿々々しき惹句で告知するを見るも今宵が最後となれり。過日看たりしネバー・サレンダー肉彈凶器の惹句は〈肉・肉・彈・彈!肉・彈・彈!〉なりき。今宵のファイヤーウォールとネバー・サレンダーの兩作品にロバート・パトリック出演したるはいかにもB級映畫にふさはしき配役なり。
寢臺より起き出づるに輕き眩暈を覺え步行蹌踉たり。四五日前より睡眠劑は服さゞりしを以て原因に心當りなし。晴れたる空には白雲多く浮びて折々日を遮るさまいよ/\秋らしき心地せり。午後病院に徃く。待合室にいつもの色白き女長椅子に橫はり、バスタオルのやうな白き厚手の布にて頭より爪先まですつぽり蔽ひて眠りゐたり。眠るといふより外界の刺激を排して身心の活動を極力抑へゐるやうに見ゆ。主治醫に來年三月迄の豫定を傳ふ。藥局前の待合所に例になく患者多し。藥を待つ間、天井に備附けられしパナソニック社製プラズマテレビ VIERA に民主黨代表選擧の開票中繼を見る。地方議員票菅六十小沢四十、國會議員票菅四百十二小沢四百で相半したりしが、黨員サポーター票菅二百四十九小沢五十一の大差となり、菅直人黨代表に再選せらる。晡下歸宅。夕餉の後ハビエルとチクエロほゞ同時に電子郵件を寄す。直に返信す。今後爲すべきことの多さを思へば頭くら/\とするばかりなり。ラファエル・ナダル全米オープン優勝、二十四歲史上最年少にてグランドスラムを達成す。
深津繪里主演の映畫惡人を見んがため座席を事前豫約し置きたりしが、目覺めて時計を見るに九時、豫約の囘には間に合はず、みす/\千圓を溝に捨てぬ。朝より待望の雨ふる。新涼肌に沁む。西南の風烈しく、歇みしと思へば西北の風吹きすさみて窓紗を侵す。來月のことにつきS子と相談す。Internet Explorer で粗忽主義貧民共和國揭示板をみるにメニュー忽然と消え、原因は何なるやと超文本標記語言を閱するに、Google 公告の javascript と競合せしものと見ゆ。專用メニュー作成に半日を消す。セキセイ鸚哥のシジミ君六月より連日大聲を張上げオーツ麦を催促し來りしが、兩三日前よりぴたりと催促を歇む。所謂マイブーム(© みうらじゆん)なりしにや。呵々。晚霞微紅を呈す。
晴れて殘暑燬くが如し。路傍の土かはきて灰の如く、金目黃楊三分枯れ、最も甚しきところは五分枯れて薄の如し。正午過晝餉をなしつゝ衞星ハイビジョン BShi に川本喜八郎の世界を見る。畢生の人形アニメーション死者の書制作取材記なり。郎女が機を織る塲面巧緻を極め、驚くの外なし。暫し呆然として畫面に見入りぬ。魂鎭めの仕草をなす姬に紛れもなく魂の宿るを見る。FM愛知サンデー・ソングブックにジャック・ケラー特輯第一囘を聞く。山下達郎の語るを聞くに、恐らく世界初のジャック・ケラー特輯なるべしと。大瀧詠一作曲松本隆作詞松田聖子唄風立ちぬの元歌、ジミー・クラントンのブルー・ジーン・ビーナス Venus in Blue Jeans かゝりたり。全國ツアーの最中に斯くも充實したる番組を聞ける幸せを噛締めるばかり。番組終りて案頭の寒暑計をみるに攝氏三十五度を示す。晚涼水の如し。
好く晴れて秋暑ます/\酷烈なり。朝の中より頭痛岑々然讀書すべからず。午後7-11便利店に赴き文庫本を受取り、ドラッグストアに立寄り可口可樂ゼロを購ふ。一本八拾八圓、三本貳百五拾八圓也。油照り白露の頃とも思はれず。二時半過家にかへるに、YOMIURI ONLINE 谷啓急死を報ず。昨日自宅階段にて躓き頭部を强打、今朝腦挫傷にて死去せる由。享年七十八。喜劇人にふさはしき最期と云ふべし。東寶のクレージー映畫で谷啓後景にて驚く仕草見事なりき。小林信彦著「喜劇人に花束を」を讀返すに、トロンボーン奏者谷啓昭和三十四年より昭和四十年までスイング・ジャーナル誌トロンボーン部門の人氣投票五傑入りを果せりといふ。谷啓がクレイジー・キャッツの前身キューバン・キャッツに加入せしは昭和三十一年二月一日、植木等の加入は翌年三月一日。シティ・スリッカーズの支配人に脅され同時移籍を許されざりき。キューバン・キャッツをクレイジー・キャッツと改名せしは何時頃なりしや、當事者も記憶せず。昭和三十二年六月十八日より新宿コマ劇塲に出演したるジャズは廻るといふショウにハナ肇とクレイジー・キャッツの名が明記せらるゝを以て、小林は同年三月より六月にかけてのことなるべしと推測す。訃報記事揭載時刻午後二時半、時計を見るに二時四十六分なり。氣溫攝氏三十五度に達す。口唇ヘルペスふたゝび。耳朶裏襟首にも濕疹出來たり。塗藥を塗る。
快晴。旦暮風旣に寒けれど、日中殘暑猶去らず。午前母上を自動車に乘せHクリニックに送り、余は皮膚科に徃く。醫師の說明に、右膝の出來物は尋常性疣贅なりといふ。歸路サンドイッチ專門店Sに立寄りカツサンド三種を購ふ。美味ならず。日本振興銀行經營破綻。燈刻つく/\法師の啼くを聞く。終日頭痛岑々たり。ロキソニンを服せしが效能なし。法務省の發表に百歲以上の老人二十三萬四千人所在不明といふ。戰中戰後の死者多かるべし。
蚤起。昨晚の睡眠劑二錠は多かりしと見え、立上るや否やふら/\とよろめき、椅子の背凭れにつかまり體を支へたり。醉步蹣跚ならぬ眠劑蹣跚といふべし。窓紗を排き窓外を見るに快晴の空拭ふが如し。部屋に朝餉をなし、電子郵件を西班牙に送る。九時過ホテルを出づるに、空の澄みたる、そよ/\と吹き通ふ風の冷かなる、いづれも秋の心地あざやかなり。JRタワー地下食品街アピアを步みて冨士屋に徃き名物とうまん二十個を購ふ。右鄰に千秋庵の店舖あるを見、懷かしさのあまり余の好物ノースマンを買ふ。十時二十五分快速エアポートに乘り札幌を發つ。車内滿席、途中下車する者一人もなし。客車の搖れるたび滯在中の疲勞身體の奧より渾々と湧出でゝ、居眠りする中、いつか新千歲空港に着きたり。三階土產店にて罐詰ほぐし鮭とロイズのポテトチップチョコレートフロマージュブランを購ふ。七番搭乘口に赴くに旅客數ふるばかりなり。搭乘を待つ間ネットブックにて執筆少々。十一時四十五分全日空七〇六便にて千歲を發す。乘客四分程度。前後左右の座席に客殆皆無、ふたゝびネットブックにて執筆一時間ばかり。うつら/\とする程にいつか中部國際空港に着きぬ。時計を見れば一時二十分、定刻より十分早し。札幌の蒸暑さに慣れたる故にや、思ひの外涼し。三時過歸家。母上ととうまんを食し土產話に興ず。アサリ君とシジミ君甘き聲にて余を迎ふ。蟲聲喞々として晚涼水の如し。
蚤起。半陰半晴。一階レストランにバイキングの朝餉をなす。滿席。中國人旅行客多し。シャワーを浴びて後、大通公園を步む。日射し强く薄暑を催す。六丁目の野外公會堂前に作業員椅子を竝べ、演奏會か何かの準備作業中なり。八丁目の滑り臺二基に幼稚園兒大勢キャア/\歡聲を上げ滑り降りてはまた登る。一基は黑き螺旋狀のものにてイサム・ノグチの作品なり。白き一基は雪山の如き小山で下は砂塲なり。いかにも平和な光景に暫し見入りぬ。陽光煌めき園内の樹木濃き影をつくる。十一時叔母Sの家に徃く。叔母の需により瓦斯ストーブを點檢し、寢室に額緣の繪を飾る。正午倶に步みて病院に赴き叔父Sを見舞ふ。昨夜西班牙より屆きたる朗報を耳許にて囁き報告するや、叔父忽ち嗚咽し淚澎湃として流れたり。右半身麻痺、言葉も發すること能はざるも、周圍の話はすべて理解し、首を纔に上下左右に動かし是非可否を傳へ、喜びは淚を以て表現せらるゝなり。午後の透析始まる前に右手をマッサージし、手足の爪を切る。頭髮爪の早く伸びること余と同じ、頭髮の太く硬きことこれまた余と同じなり。一時過叔母と一旦外に出で、天麩羅屋たけうちに晝餉をなす。特上天丼の味極上なり。海老天を一口食ひ、あまりの旨さに歎聲漏れぬ。銀座天國より上等なり。胃瘻より榮養分を注入するばかりの叔父にせめて一口でも食べさせてやりたし。叔父の代りに御馳走を堪能す。二時過病室に戾ると叔父は透析の最中なりき。一時過より始めて六時半までかゝる由。氣疲れせぬやう直に辭去することゝし、また來るからねと耳許に囁きて別れを告ぐ。叔母も家にかへりて休憇するとて、倶に大通公園に步み、路上で別る。園内にトラック數臺作業人足大勢來りて木製ベンチの撤去作業を行ひゐたり。老朽化のため一新するものなるべし。早くも西の空に傾きし日の光眩しく、秋風穩やかに吹きわたり、氣分爽快なり。三時ホテルにかへり、長文の電子郵件をしたゝめハビエルに送る。愈々公演準備始まりぬ。燈刻テレビのニュースを見る。颱風九號北陸より東海を拔け熱帶低氣壓となり、關東甲信越靜岡に豪雨をふらす。身體疲勞甚しく兩脚脹脛に筋肉痛を覺ゆ。睡眠劑を服して早く寢に就く。
曇天。曉方雨ふりしと覺しく、窓濡れそぼち、眼下を行交う通勤の人傘を携へる。一階レストランにバイキングの朝食をなす中、雲散じて旭日陽光輝き初む。食後大通公園散策。雨後の空氣淸新、恰好の散步日和となれり。山内壯夫作母の母子像、佐藤忠良作開拓母の像あり。淸掃人足二名壁泉の落葉をかき集めゐたり。ポートランド市より寄贈せられしベンソンの水飮。余が十代の頃これらの銅像彫刻類は一度も目にとまらざりき。南側は木陰に蔽はれ、樹下のベンチに腰かける男女、携帶電話や手帳を見つゝ手巾扇子を使ふ者多し。花壇の花々朝日を浴びて美し。五丁目に聖恩無彊と書きたる記念碑あり。十丁目交叉點北側にライオンズといふ巨大マンション普請中なり。十一丁目にミュンヘン市寄贈のマイバウムあり。札幌市資料館手前の薔薇園、色とりどりの花立ち枯れて物寂し。資料館裏手のベンチに小憩す。思へば大通公園を東端から西端まで步き通せしは今日が初めてなり。露店の燒玉蜀黍一本三百圓、賣價昔のまゝなり。十時叔母S宅に赴く。半年の契闊を陳べ、新しき佛壇に燒香、小憇して後、倶に步みて病院に徃き叔父Sを見舞ふ。耳元で名前を告げるや、目を閉ぢたまゝ顏をくしやくしやにして嗚咽すること例の如し。直に理髮師來室、叔父は寢臺に仰臥したまゝバリカンにて五分刈りにす。この理髮師、色眼鏡をかけ、相貌手品師Mr.マリックに髣髴たり。散髮しながら、あんた好い奧さん見つけたね、どこで見つけたの、スヽキノかい、と半ば冗談、半ば本氣で叔父に問ふに、叔父瞑目したまゝ肯定も否定もせず、然し口許稍ほころびてニヤリと笑みを漏らしたり。顏を剃り、頭皮に椿油を塗る。入替りに看護師來室、胃瘻より食事と藥を注入す。一旦叔父に別れを告げ、叔母と近所の中華料理屋に晝餉をなす。腹ごなしを兼ねて近代美術館に赴き二階ラウンジに憇ひ、知事公館を見物す。二階寢室に昭和天皇皇后兩陛下の坐り賜ひし椅子あり。背凭れ高く坐り心地良し。庭園に針桐杏山紅葉櫟など樹木生茂り、芝生の土雨を含みて柔らかく、幼稚園兒二十名ばかり手をつなぎて輪をつくり步むを見る。三岸好太郎美術館は臨時休館日なり。西風俄に烈し。三時半病室に戾る。四時理學療法士來室、二十分ばかり右半身のリハビリを行ふ。六時伯母K來院。伯母Sと三人で家にかへり夕餉をなす中叔父Y來宅せらる。諧語に時の移るを忘る。初更叔父Y自働車にてホテルに送らる。二更西班牙より朗報あり。
靑空に雲多く浮び蒸暑猶去らず。アサリ君今朝も御機嫌麗しく、余がサラドを咀嚼するさまに興味津々、口を顏に近づけるに小さき嘴にて唇をつゝき戲る。旅裝をとゞのへて一服。正午前高速バスに乘り中部國際空港に徃く。乘客僅五六人。車中ネットブックで執筆半時ばかりにして、窓よりさし込む日射しと車の振動心地よく、うつら/\と居眠る中、空港に着きぬ。國内線出發ロビー人尠し。保安檢査塲にて使捨てライター二本沒收せらる。機内持込は一本のみなり。九番搭乘口にて執筆少々。二時五分全日空七一一便にて名古屋を發す。機内誌翼の王國に堀越千秋氏の表紙繪を愛で、不定期連載隨筆を讀む。機内アナウンスは滿席と告げたりしが、余の鄰席はキャンセルとおぼしく乘客來らず、これ幸と窓側に移動して執筆。ワゴンサービスの來らざるを訝しむに、今月より有料となりたるを思ひ出す。手許のメニューを見るに、水と日本茶のみ希望者に無料で供し、咖啡ジュースなど一律三百圓なる由。咖啡はスターバックスなり。三時半新千歲空港着陸。溽蒸盛夏の如し。濕氣多き風べた/\と肌に纏はりつきて不快なり。秋の北海道とも思はれず。快速エアポート車内混雜せず。車内の冷房强すぎて汗忽ち冷え、これまた不快なり。北廣島驛プラトホームに下校の高校生一同長袖シャツを肘まで捲りゐたり。民家の軒先に小肥りの女タンクトップ姿で汽車を眺めゐたり。五時半札幌驛到着。日旣に傾きたりしが溽暑甚しく、手巾にて汗を拭ひつゝホテルに投宿す。叔母Sに電話かけ明日の豫定を話合ふ。七時過驛ビル十階のラーメン共和國に赴き、最も客多き店に入り味噌ラーメンを食す。店の選擇過ちぬ。
好く晴れて殘暑猶熾なり。先月二十日より今日に至るまで晴天つゞきにて一滴の雨なし。路傍の土乾きて灰の如し。正午氣溫三十五度に達す。セキセイ鸚哥のアサリ君昨日より御機嫌にて、大聲で啼きては遊びの相手をなさしむ。顏を近づけるや嘴にて鼻先唇眼鏡の蔓など突き飽かず戲れるなり。余の食事中は籠の屋根をトコ/\步み來りて靑き塗箸に乘り、箸の先を噛みまた舐めて厭きることなし。それにつけても不可思議なるはアサリ君の少食ぶりなり。早朝混合餌一つまみ、夕方オーツ麦一つまみやるのみにて、喰ふは半分ばかり、終日喰ひつゞけるシジミ君とは好對照をなす。少食なれど頗元氣、人間の年に換算して廿五六歲なれば人生のいかなる事にも溌溂たる興味を催すなり。但し臆病なることこの上なく、蚤の心臟の持主なり。風切羽すべて拔落ち、文字通り尾羽打ち枯らしたるさま人をして憐憫を感ぜしむ。
快晴。南風烈しく溽暑堪へがたし。十時過几案の寒暑計早くも三十三度を示す。叔母Sより返信あり。叔父S淚を流したる由。ハイツセンターイングリッシュスクール取締役H氏より電子郵件あり。S先生夫妻の近況を語らる。E先生八十餘歲のご高齡に及び言葉足腰不自由となられたる由。開校三十周年祝賀會に出席せしは平成十二年の暮なれば早くも十年の歲月を經たり。E先生は余に英語圈文化の扉を開かれし恩師にして、小學生の頃より景仰措く能はざる人物なり。敬慕して最も景仰すべき人物なり。午後氣溫三十七度に達す。晝餉の後午睡纔に苦熱を忘る。夕刻食堂より窓の外を眺めるに、夕陽燃るが如く、欅の葉今にも發火せんばかりなり。烏も飛びながらにして燒鳥になりさうに見ゆ。
連日靑空に白雲多く浮ぶことデジャヴの如し。溽暑坐ながらに汗流るゝばかりなり。午前C皮膚科に赴き術後の經過をみる。異狀なし。痛みも痒みも感じず。醫師に出來物の原因を問ふに、眉を顰めて、わかりません、黑子が何故できるかわからないのと同じです、なぜ胃癌になるかわからないのと同じですとけんもほろゝの返答なり。待合室に三歲位の腕白坊主ちよこまかと走り囘る。ミニカーを床に走らせ、他の患者の脚を觸り、突然診察室に駈込み、母親に連れ戾さるゝや玄關の自動扉より外に走り出でるさま目にも止まらぬ速さなり。母親終始穩やかな表情にて坊主も奇聲を發したりせざればさほど不愉快ならず。坊主余の膝に手を添へて佇立し、ぢつと余の目を見る。余は微笑みて坊主の目を見る。十一時半歸宅。正午前除濕。連日の炎暑に疲勞を覺える事甚しく、烟草の味も佳からず。二時過寢臺に仰臥し讀書忽黑甜郷に遊ぶ。夕方寒暑計三十五度を示す。初更ガーゼとテープを購はむとてドラッグストアに徃くに、絆創膏の棚の前に母上居られたり。明日の最高氣溫三十八度の豫報を聞き、今日中に買物を濟ませたしと思ひてのことなりといふ。肩を竝べて家にかへる。中庭に閻魔蟋蟀の鳴くを聞く。夢聲戰爭日記第六卷讀了。
曇りし空次第に晴る。炎熱三伏の頃に劣らず。午前C皮膚科に徃く。二三箇月前より右膝下に徑一寸ばかりの眞白き瘡蓋でき、いくら剝きても際限なきを以てなり。待合室珍しく患者尠し。文庫本を紐解き數行讀む中に診察室に呼ばる。醫師矢繼早に病名を二つ三つ口にし、カッターで削ぎて後燒切れば全快するやも知れず、手術を希望するや否やと尋ねらる。急な話とて面食らひしが、長期の通院を避けむがため手術を受く。鄰室の寢臺に仰臥し、右膝下に局部痲醉の注射をなす。そのまゝ待つこと十分ばかり、醫師來りてレーザーか何かで治療を行ふ。痛みも何も感じず。僅二三分にて終了す。治療代九千九百十圓の高額に驚く。正午過歸宅。午後週刊誌Sの原稾を書く。鉢植に水をやりベランダに打水忽ち干上る。燒石に水なり。夢聲戰爭日記第六卷を讀む。
舊七月廿三日。二百十日の厄日なれど靑空に雲多く浮びて風もなし。朝餉を食しながら衞星第一放送を見るに、オバマ米大統領の演說生中繼されゐたり。畫面右上テロップにイラク戰鬪終結を宣言と讀めり。炎暑に疲れたるにや終日眠りを催し何事もなす能はず。晚涼を待ち便利店に赴き烟草を購ふ。信號機の移設工事漸く終りたり。氣象廰の發表に、六月より八月までの平均氣溫史上最高、明治三十一年以降最も暑き夏なりきといふ。サパテーロ西班牙首相來日。夢聲戰爭日記第五卷讀了。昭和十九年九月苦樂座北海道慰問公演旅行の記に、江別劇塲と東室蘭大國館劇塲の記載を讀み一驚を喫す。江別に劇塲ありしとは初耳なり。王子航空工員慰問とあり。東室蘭は工機部の慰問にして客種アマリヨクナシ、順ヲ替エテ貰イ三番目ニ上ル、大變受ケルとのこと。