空隈なく晴れわたりしが薄暮强風吹出づ。勝見といふ婦人科に通ふ夢を見たり。玄關より木曾御嶽を望む。兒童ら敷地内にて毬遊びに興ず。終日原稾資料を閱す。來春より羽田空港施設使用料百圓徵收の由。第二ターミナルビル建設費及び第一ターミナルビル改裝費補塡のためなりとぞ。靑山ブツクセンター靑山本店六本木店再開す。三越七店舖閉鎖。大阪店、橫濱店、函館店など。是日ふたゝび網站にて千五百圓の施しを受く。立待の月明なり。
颱風襲來、終日草稾をつくる、午後雨の小止みを幸に買物をなす、漱石先生を讀み、アトランティック・スター、バリー・マニロウ、ギルバート・オサリヴァン抔聽く、三重尾鷲市八百ミリの降雨を記錄す、初更雨霽れ蛼啼く。倫敦オールド・ビック劇塲にてケビン・スペイシー藝術監督初日を迎ふ。米NBCトゥナイトショーのジェイ・レノ二千九年降板する由。紐育史上原油一バレル五十ドルを越ゆ。
六時寤む。覺えず十三時間眠りぬ。森林公園をあゆむ。手紙をしたゝむること昨日の如し。午後西の空に暗雲の湧起るを見しが日暮ても雨ふらず。二更雨。不思議の時間を過す。不可思議なれど幸福なり。
大雨沛然。世界を洗流さんばかりなり。當に余の今日の心情を寫したり。午前飜譯を推敲し手紙したゝむ。雨のまに/\鵯の啼くを聞く。午後疲勞を覺え寐床に就く。忽華胥に遊ぶ。二十八日記す。
七時半寤む。細雨空濛。ロビーに朝食をなす。九時二十一分品川を發つ。十一時半歸宅。日暮雨瀧の如く濺來れり。蟋蟀須臾にして啼きやむ。荷風先生が昭和十八年九月に書かれたる詩をこゝに轉記す。
こうろぎ
泣いても 泣いても
泣きたらで
夜はよもすがら
ひるさへも
泣く音つゞくる
蛼の
その悲しみは
知らねども
あらんかぎりの
悲しみを
命のかぎり
泣きすだく
蛼の身の
羨し。
蛼よ。 蛼よ。
泣くに泣かれぬ
かなしみに
泣かぬ人ある
人の世の
わがかなしみを
汝知るや
われに敎へよ。蛼よ。
泣くに泣かれぬ
かなしみを
泣かで忘るゝ
道あらば
われに敎へよ蛼よ。
汝が鳴く聲に
また今宵
寐もせであかす
人の世の
わがくるしみを
思へかし。
一睡もせず夜を明かす。六時半雨を冒して駒込に徃く。M氏旣に來りて在り。會ふは三年ぶりなり。レストランにて朝食款語三時間。十一時ホテルにかへる。疲勞甚く寐床に入りて眠らんとするも能はず。七時五反田の居酒屋にて編輯長F氏と今後のことにつきて商議す。三更ホテルにかへる。世界は一ならず。一個人の内にさへ複數存するものなり。寢に就くも到底眠ること能はず、久振に睡眠藥を飮む。
陰。時々疎雨。十一時五十四分新幹線にて東上す。二時投宿、三時池袋に出でてホルヘさんと笑語す。七時上野に徃き國立博物館にて古代のファンタジーを看る。小島氏天照大神を演ず。上田遥の演出凡庸なり。熊谷和徳のタップ頗る佳し。ベアトリーチェと東南亞細亞料理屋に晚餐をなす。岩戶に隱れ居たりし天照大神が出で來れるが如く、或はゼウスが雷を落すが如く、余の身は眞理に貫かれぬ。われらひとりのふたりなり。世界はまことの姿を現せり。二十六日記す。
秋分晴また陰。彼岸に入りても秋暑猶熾なり。今日もまた昨日の如く森林公園をあゆむ。風絕えて大道平池鏡の如し。岸に鷺一羽在り。午後何となくつかれて褥中に午夢を貪る。スター・ウォーズDVDボックス屆く。アントニオの返書を得る。ラス・メイヤー歿。薔薇族廢刊。イチロー六打數四安打。年間安打記錄まで十本を殘すのみ。夜月影また暗淡なり。
陰。森林公園を步む。蟲聲喞々として園内に滿つ。つく/\法師の啼くを聞く。終日執筆。日暮て空漸く晴れしが浮雲の來往烈しく月色暗淡なり。T氏の書に接す。先月來の不快の念漸く去る。イチロー五打數五安打。二十二日記す。
晏起正午。空始て霽る。欝蒸甚し。晡時クリニックに徃き主治醫の診察を請ふ。歸途綠町にドナルド・サザーランドに似たる白人男ジョギングし居たり。新聞を讀むに小學生の四割が天動說を信じ三割は日沒の方角を知らざるといふ。新國立劇塲野田秀樹マクベスの指揮者尾高忠明病氣のためリッカルド・フリッツァに交替。來月鈴木忠志モスクワ藝術座リア王を演出するなり。二更大雨濺來る。
くもりて雨意天に滿つ。殘暑昨日に劣らず。麵麭を購はむとトヽサンクに徃くに看板なく、いつしか店を疊みぬ。夕方六時を過ぐればあたりは暗し。網站の服務器を更新す。十二月劇團☆新感線帝國劇塲に進出す。二十一日記す。
乍雨乍晴。この頃家に在るも訪問者來らず待上を步むも知人に逢はず。閑適最もよろこぶ可し。來月十七日立川笑志眞打挑戰。燐光群ときはなたれて公演豫約。三時午睡。二十日記す。
日も亭午のころ目覺めて窓外を眺むるに曇りて暗く四鄰寂然たり。W氏より電話あり。冬の計畫につきてなり。キクチに徃き眼鏡を修繕せしむ。プロ野球スト初日。終日西班牙國營ラヂオを聽く。エノケン主演らくだの馬さん東映の倉庫にて發見され來週淺草にて公開さるゝなり。朝日新聞の報道を讀むに、落語らくだを飜案したるものにて、らくだと綽名されたる男を背負ひてかん/\のうを唄ふなりとぞ。澤田隆治と蒐集家宮國登の盡力多とすべし。今年エノケン生誕百周年。
くもりて時々疎雨あり。森林公園をあゆむ。散策路に中年男ふたり蹲り手て團栗を拾ひゐたり。大道平池小鷺一羽。幸にして雨に値はず。筆秉るも感興來らず。NHK總合スタジオパークに上原ひろみの生演奏を聽く。XYZ、If、カンフー・ワールド・チャンピオンいづれも佳し。來月オスカー・ピーターソンの前座を務むるなり。プロ野球選手會と日本プロ野球組織の交涉難航、今週末ストライキ決行。休塲はロックアウトせず。余は古田敦也を支持するものなり。球界は古田を誇りに思ふべし。
空くもりて今にも雨ふり出さんばかりの天氣なるに幸にしてふらず。曇りしまゝに日は秋の暮の如くに暮れ行きぬ。蟲聲晝の中より聞ゆ。ござらつせに行き沐浴す。コンビニエンスストア駐車塲に女子高生四名座り居たり。いづれもシャツ一枚に腰卷同樣なるスカートを穿ちしのみなれば逞しき肉附露出し、恰もレビュウの舞臺を見るが如く、電車の中にては股を開いて腰を掛けたる形亦一奇觀なり。この女達は現代民衆中の一大部分を占むるものにて余の見る處を以てすれば社會百般の事より自己の生涯に關する事まで公私の別なく一切思慮を費やす事なく、唯ふは/\と日を送る人間なり。常に電車の中にても雜誌類を讀むと雖これが爲に趣味情操の洗練向上せらるゝ事は決して無し。貞操の如きも子供さへ出來ねば何をしても差閊はなきものと思へるが如し。外見は利口らしく見ゆることもあれど實質は明治時代田舍出の下女に似たるものなり。男子にもかの女達に類する者尠しとなさず。
午前四時起き出づ。南天にオリオン座見ゆ。終日門を出でず。寐つ起きつして日を暮す。イラクの劇團アル・ムルワッス十月來日。
陰。ロス・アンデス、セサルの返書に接す。伊太利に在りと云。三省堂クラウン和西辭典を購ふ。わが國漸く二册目の和西辭典なり。たま/\聯續の項をみるに、そのミュージカルは一年間聯續で興業されたといふ例文あり。興行なるべし。ソニーMGMを買收。英國圖書館シエイクスピアの四折り版戲曲二十一篇を網站にて公開す。一五日記す。
睡より寤むれば午前五時なり。十三時間眠りぬ。陰後に晴。朝の中より蒸暑し。三ヶ月半ぶりに森林公園をあゆむ。レモンの墓を拜まむとするに目印の若木なく落葉も積りて所在判然とせず。きれいさつぱり土に還りぬ。園内鳥の姿なく、わづかに脊黑鶺鴒の二羽たはむるゝを見るのみ。つく/\法師の啼くを聞く。午下三好に徃き是枝裕和が誰も知らないを看る。開卷劈頭モノレール車内に坐りし柳樂優彌の爪とTシャツをみて信用に足る活動寫眞なるを確信す。兄妹の夜道を散步するを見て暗淚を催す。全篇キアロスタミが友だちの家はどこに髣髴たり。ゴンチヽの插入曲佳し。十四歲韓英惠の佇まひ恐るべし。北浦愛の小さき聲よし。木村飛影のやんちやぶり愛すべし。清水萠々子のよさは言ふを俟たず。カメラのアングル編集頗る優秀。YOUを拔擢したるは正解なり。三時半歸宅。過日アメナーバル沖へ Mar adentro ヴェネツィア映畫祭審査員特別大賞、ハビエル・バルデム主演男優賞を獲る。
晴又陰。殘暑再來る。午下橫臥してNHK總合笑ひがいちばんに林家たい平の粗忽の釘を聽く。午睡忽昏々として睡る。十三日記す。
薄く曇りて風涼し。晝夜共に家を出でず。午下NHK着服謝罪番組をみる。海老沢勝二會長一から出直す覺悟で倫理觀に基づく透明性の高い業務運營に努めたい云々、海老沢といひ渡辺恒雄といひ老醜を晒して愧じず。渡辺の輩は要するに舊時代の政治ゴロなり。過日渡辺は讀賣巨人軍の不正スカウトの責をとらむとてオーナーを辭任せり。不正僅か二百萬圓なり。週刊誌背後に右翼の恫喝あるを示唆す。アメリカ同時多發テロより早や三年は過ぎぬ。
五時起床。秋陰暗澹薄暮の如し。郵便局に兼ねてたのみ置きたる紀念切手を購ふ。終日執筆。十枚ほど書き得たり。衞星第二に桂雀々の手水廻しを聽く。滑稽なり。去八日錄畫したりしNHKにんげんドキユメント・ソリーとふたりを見る。暗淚を催す。手紙二通したゝむ。北大ポプラ竝木過日の暴風に十五本倒る。
秋風凉爽。午前執筆。午後橫臥し河合香織セックスボランテイアを讀む。第一章竹田氏の逸話を讀むや淚澎湃と下りて忍びず。身體障碍者の性欲余これを否定せず、然るに性欲を失ひし精神障碍者は何處に生の喜びを求むるや。余性欲を失ひて十年にはなりぬ。第三章ユリナさんの話に淚ふたゝび溢れて已まず。泣疲れてそのまゝ昏々と睡る。十日記す。
五時半起牀例の如し。雨漸く霽る。秋風凉爽。市中ガソリン昴騰、ハイオク一リットル百二十一圓ほどなり。午前原稾執筆、日も亭午の頃服務器を初期化しデータをふたゝび上傳す、午後書簡したゝめし後午睡三時間半。水上勉死去。行年八十五。鈴木完一郎氏の初めて演出したりしは雁の寺と余は記憶し居るなり。マイケル・ムーア、華氏九一一のテレビ放映を優先しアカデミー賞を辭退す。颱風十八號北海道上陸、札幌に風速五十メートルの暴風吹く。
陰晴定まらず朝まだきより時々驟雨あり。かくの如き天候猶數日つゞくべしと、ラヂオの言ふをきくに、夏らしき暑さにはならぬとか何とやら。是日白露なれば夏らしからぬは當然なり。朝八時半頃地大に震ふ。眩暈なるやと思ひしかど地震なり。クリニックに徃き主治醫の診察を請ふ。體調漸く平生に復したるやうなり。家にかへるに遽に睡魔來りて如何ともすること能はず、困臥忽ち華胥に遊ぶ。睡より寤むれば五時なり。颱風襲來、暴風窓を震動せしむること震ふ。廣島暴風雨に襲はれし由。風速六十メートルを超ゆ。燈刻八ヶ月ぶりに實家に徃く。夕餉を飯し初更歸宅。風いよ/\はげし。スピルバーグ佛蘭西レジオン・ドヌール勳章を受く。イチロー四打數二安打、打率三割七分九厘。
乍陰乍晴。殘暑依然たり。睡眠藥を呑み熟睡することを得たり。ホテル一階に朝餉をなし九時五十四分新幹線にて品川を發つ。十一時半歸宅。體調よし。昨夜七時と十二時に地震あり名古屋は震度四なれば少しく心配せしかど平生に異ならず。紀伊半島より渥美半島にかけて大地二三センチほど南に移動せり。郵便局に徃き用事を辯じ局員N氏と笑語す。昨夜は大地橫に大きく搖れ暫くにして漸く止みたり云。東京音協に電話をかけ國立博物館新裝紀念舞踊公演の劵を購ふ。過日北オセチア共和國の小學校にて入學式直前にチェチェンイスラム過激派校舍を占據し無差別殺戮をなしぬ。今日世界人道の爲に最も恐るべきはテロリストの爲すところなり。其害の及すところ他國に留まるにあらざればなり。夜晴れて星出づ。
午睡一時間ばかり。夕刻より雨ふる。五時名古屋市民會館にてエストゥディオ・マルソ第一囘發表會を見る。客席ほゞ滿席。礒村氏の手足頗る柔軟、萩原さん艷やかなり。小島氏ソレアを踊る。八時半終演。十時歸宅。昨日ドゥマゴ文學賞田口賢司メロウ1983に決る。選考委員浅田彰。
晴れて蒸暑し。一時小島氏との約あれば榮に赴く。西原咖啡店にて談義一時間半ばかり。今月末國立博物館にて新裝紀念の踊りを披露すると云。ホットサンド味佳し。二時半礒村氏來らればホテルに別る。便箋を購はんと丸善に立寄るも種類少なく買はずにかへる。
微雨。秋冷肌を侵す。蟲聲晝の中より聞ゑて秋の日漸くなつかしきものになりぬ。半日心やすく午睡することを得たり。DVDにてロード・オブ・ザ・リング二つの塔を看る、無聊のあまり早送りすること幾囘なるを知らず、不平もなく感激もなし、前作を看たりし時も何ら感興を催さゞりき、立體紙芝居と謂ふ可し、小島氏より電話あり、昨夜名古屋到著の由、浜田寿美男のつゞきを讀む、去二十九日種村季弘歿、享年七十一、
空模樣定まらず。風絕えてむしあつし。終日何事もなさず、紐育にて共和黨大會始る、CounterConvention.org の會員ら東十番街セイント・マークス敎會の庭にてイラク戰爭戰死者の氏名を讀上たり、林家こん平聲態治療のため入院、笑點初て休演す、先週より露西亞にてテロ頻發すれば飛行船ツェッペリンNT號シベリア上空飛行を斷念し獨逸より海路日本へ渡るといふ、飛行せざらばもはや益なき事なり、