新宿梁山泊『四谷怪談~十六夜の月』
1996年10月20日 18:30 東京ドーム前特設テント

夕べ予約して桟敷席を確保、整理券は127番。柵の外側にいったん並ばされ、なんだと思ったらテント前でひと芝居見せてくれる。公安をイメージしているのか、「新」「宿」など劇団名公演名の漢字を一つひとつ白抜きで大書された板戸をもった男たちのパフォーマンス。コートと帽子姿の奥田瑛二が弄ばれ、卒塔婆がその回りに林立する紫色のテントに担ぎこまれる。気持ちを昂ぶらせるうまい演出だ。全身黒ずくめで客入れする団員たち。野外というのに拡声器を使わない心意気や良し。

桟敷は舞台前のかぶりつき。40年間、死んだ女の幻を追い求める作家(金守珍)。闇に昭和30年から一年ごとの風俗・映画の一覧がスライドで浮かぶ。明日埋め立てられるムジナ池で、少年(かつての自分)と出くわす。「釣り糸をたらせば会える」。釣り糸に池に引き込まれる男。一点して昭和30年代の四谷の桐箪笥屋。伊策(奥田瑛二)と美和(村松恭子)が婚儀を明日に控えている。楽屋ネタを結構使っている。「孫にも衣装とはよく言ったもんだ。お前が奥田瑛二に見えるぜ」。男と駆け落ちして夫と伊策を捨てた母親お熊(三浦信子)がフラリと現れ、逆玉の息子にたかる。死んだ師匠の形見で百万は下らないと嘘をついて伊策は砥石を母親に渡し、消えてくれと頼む。婚儀。「渡辺えり子の結婚式に出てきた馬」(本当か)で新婦堂々の入場。ガラの悪い男たちがドヤドヤと割り込んでくる。所得倍増の夢におだてられた美和の父親が一千万の借金をしていた。一切合財奪われ、土建屋になる伊策。発注先のイトーチョー社長喜兵衛(黒沼弘巳)が様子を見にくる。悪い虫がつかぬよう桐の箪笥に一人娘梅香(石井ひとみ)を閉じこめている(「カステラ一番デンワは二番」。クレーンで空高く身を躍らせ照明を叩き壊そうとする)。その桐の箪笥を創ったのが伊策、梅香は伊策に惚れる。

伊策、美和、アキラがつましく暮らしている。伊策は血を売っている。体を壊した美和は薬を呑むが、これは、伊策を入り婿に迎えようとするイトーチョーが手配した毒薬。お熊が現れ、母親であること、砥石をくれたこと、薬が毒であることを知らされる美和。髪が抜け、顔が焼けるように火照り出しただれてゆく。押えつける手で伊策はヤスリで美和を殺めてしまう。血を売り続ける伊策。息子をイトーチョーに婿入りさせ上流階級の仲間入りを狙うお熊。伊策はお熊をヤスリで刺し殺し、チェーンソーでズタズタにする。弟分の直次郎(近藤弐吉)も刺し殺し、美和の妹、空(近藤結宥花)が伊策を刺す。伊策はヤスリを奪い、何度も自分の腹を刺す。「今度生まれてきたときは、船乗りになる。桐の船を浮かべて沖へ漕ぎ出す。お前の心を抱いて」。舞台中央を仕切っていた黒い板が奥に倒れ、奥の壁がいつのまにか取り払われて水道橋のビルが見える。遠くから美和が伊策を呼ぶ。水に飛び込み、美和の元へたどり着く伊策。池からザバァと飛び出る作家。

全共闘ノスタルジアの匂いをプンプン漂わせたロンマンチックな舞台の熱気に押されまくった。ときに大衆演劇スレスレの熱く恥ずかしいセリフが飛び交うが、音楽、照明が洗練されているから臭くならない。バンゲリスを二度使っていた。左脚を怪我しているはずの奥田が熱演。村松恭子、近藤結宥花、石井ひとみがとても良い。黒沼弘巳が千葉か茨城出身の成り金を好演。あんなにギャグを連発する人だとは思わなかった。巣鴨の〈やらずぶったくりバー〉『天国と地獄』も笑った。忌まわしい母の血を躰から抜き取るという脅迫観念に憑かれた男の物語は、恥ずかしい言い方だがとても共感できる。水道橋駅上空には雲の切れ間に半月が浮かんでいた。9時45分終演。アングラ芝居好例の劇団員紹介のあと、演出の金守珍が、日本シリーズは2-0で巨人が連敗、とサービス。