劇団らせん舘+ハノーバー演劇工房『ティル』
1998年11月21日 19:00 長久手町文化の家 森のホール

グローブ座に似たホール。床の舞台の三方を客席が囲んでいる。奥は紗幕(袖から袖まで低い通路あり)。階段状の白いオブジェがいくつか。紗幕の向こうで、エレキベースとトランペット、日本太鼓の生演奏。スピーカーから日本人女性二人のナレーション。同じ文面が、微妙にずれたり重なったりする。道化姿の男が闇の舞台の対角線上を走り抜ける。日本人観光客の男「いのんど」(嶋田三朗)と「薬局の女主人」(市川ケイ)、バッグに「TILLTOUR」とある「通訳」(とりのかな)。御伽噺から抜け出してきたようなドイツ人。中世。ティル(MatthiasAlber)はシェイクスピアのパックのように、舞台を縦横無尽に駆け回り、よく喋る。「阿呆女」「乞食女」「三つ目女」が曰くありげな仕草をする。ときおり通訳がアコーディオンで歌う。「ふだんは蚊の鳴くような声で挨拶ばかりしているサラリーマンに限って、名所に来ると、突然自分の名前と日付を石にナイフで刻んだりするのは、なぜでしょうねえ」。サラリーマンへの呪詛。「ぼくは貧乏人らしくしていたい」、といろんど。教養のある人にしか見えないワイン。鍛冶屋。いのんどがハンマーや鋏で勝手にオブジェを作ってしまう。いかにも現代芸術っぽいパフォーマンス。「現代芸術って嫌いです!」と通訳。「人生の目的はやっぱり、やっぱり、やっぱり、観光ですよねえ」。博物館。できたてのパン。会食。暴飲暴食の商人の男が、ティルに殴られて昏倒。その妻の絶叫。鍛冶屋と野良犬は生演奏。歩き回るティル。カーニバル的情景。

演出の嶋田さんの挨拶。下手中央の客席にいた、黒のジャケットに黒のパンツ姿の小柄な多和田さんもひとこと。「日本とドイツでやらないと意味がないので実現できてよかった」。日本人は日本語のみ、ドイツ人とスペイン人はドイツ語のみ話す。演技は巧拙を問わないから、風通しがいい舞台になった。観客はどんな態度で観ていいのか分からないようで、ずいぶん戸惑っている様子。通訳の台詞など爆笑ものなのだが、クスリともしない。