芸人列伝

いっこく堂
腹話術の概念が変わる

いまやわが国では……これはご存知春風亭柳昇の十八番の挨拶だが……、もう、いっこく堂を知らない人はいないだろう。衛星放送の宣伝キャラクターになってしまったし、夢だといっていたラス・ベガス公演もあっという間に果たし、世界一の腹話術師といわれるあのロン・ルーカスとの共演まで果たし、その様子がNHKで流れたのだから。

本名玉城一石。劇団民芸出身。図書館の腹話術の本で独学したというのはロン・ルーカスと同じ。腹話術には不可能といわれた「ま行」「ば行」「ぱ行」を完璧に発音するだけでも凄いのだが、彼が斯界のトップに君臨しているのは、声音の多彩さ――野太い声から甲高い女声まで出す――と、設定および脚本(ストーリー)の巧みさにある(構成作家、あるいはすぐれたブレーンがいるのだろう)。

たとえば「留守番電話」というネタ。疲れた顔で帰宅するサラリーマン風の男。留守電をチェック。「ピー。要件は○○件です」という再生音から、伝言のすべてを、腹話術でやる。つまり、もう人形さえ要らないのだ。このネタの白眉は大阪弁の〈山本はん〉。NHK教育テレビ番組風「はりきり兄さん」の、人形遣いに代々の兄さんの思い出を熱く、野太い声で語る人形カンちゃん。口の動きより遅れて声が出る「衛星中継」。コップやマイクなど、物に喋らせるのも朝飯前(うるさいコップに手で蓋をすると声がこもって聞こえる!)。

いっこく堂をいちど体験したら、必ず、真似したくなる(実際、真似する芸人はいる)。いっこく堂の勝負はこれからだ。

(2000年10月16日)