芸人列伝

浅草キッド
漫才はプロレスだ!

浅草キッドをご存知か。知らざァ言って聞かせましょう。水道橋博士、玉袋筋太郎の二人の漫才コンビ。東京の若手漫才師の〈表〉の顔が爆笑問題なら、〈裏〉の顔はこの二人だ。

ビートたけしの「オフィス北野」所属。〈たけし軍団〉の一因。ベテランなのに若手と呼ばれて幾星霜。テレビ東京系「ASAYAN」がまだ「浅草橋ヤング洋品館」だったころ(ルー大柴が出ていた)、レギュラー出演していた。主なテレビ出演に「タモリ倶楽部」、ラジオではニッポン放送「奇跡を呼ぶラジオ」(94年10月終了)、TOKYO-FM「ラジオ黄金時代~ビートニクラジオ」(2000年9月20日終了)がある。99年の元日には、フジテレビ系の新春長寿番組「爆笑ヒットパレード」のトリを爆笑問題とともに務めた。ネタはテレビ向けの「サザエさん」だったが、テレビでは御法度の北朝鮮ネタあり、カツオはオヤジ狩りをするしで、出来は爆笑問題を完全に食った。ひとり勝ちだった。

彼らは、ひとことでいえぱ、〈プロレス漫才師〉である。実際にプロレスの団体を結成をしたのだが、ここでいう〈プロレス漫才師〉は別の意味である。「東京スポーツ」が尻尾を振って喜びそうな偽悪的挙措、放送禁止のネタ続出、バカバカしいことに大真面目に取り込む姿勢、キワモノであるという自意識、どれをとっても〈プロレス的〉なのだ。思えばたけし軍団そのものがプロレス団体のような組織である。

へんてこりんな変装して車の免許を取得して逮捕されるかと思うと、広末入学の一報が届くやいなや、同級生になるべく早稲田を受験(付け焼き刃ゆえ見事討死)。彼らのホームページは面白すぎる。メチャクチャな日常を綴った「博士の悪童日記」。時事ネタ(放送禁止)の漫才「捨て看板ニュース」。とくに芸能関係のネタを扱わせたら、彼らの右に出るものはない。誹謗中傷ではなく、あらゆる芸能ネタを高度な笑いに昇華させる。

たとえば。

玉袋がつくったネタでこんなのがある。奥山和由とその父が松竹を電撃解雇された直後のものだ。玉袋が家で飲んで気がつくと知らない部屋で全身血塗れ、片手にバット、片手に髪の毛を掴んでいるとき「家族の幸せを感じます」。玉袋が五歳の息子に酒を勧める。「男とは?」「飲むことよ」。(渡哲也×渡瀬恒彦の「松竹梅」のCF調で)「♪おくやまァ~おや~こ~/松竹バーイ♪」

こんなネタで速射砲のごとく客席を撃ちまくる。浅草キッドのネタはブラックだ。彼らのライバル、爆笑問題は〈お茶の間〉に支持者を獲得したが、浅草キッドは永遠に好事家の愛する存在であり続けるだろう。

(2000年10月16日)