皆様ご案内のとおり、大竹まこと、きたろう、斉木しげるの三人によるユニット。現在、舞台でもっとも洗練されたコントをやっているのが彼らでしょう。作者は演出も兼ねる三木聡。フジテレビの『笑う犬の冒険』のスタッフとしても活躍しています。
シティボーイズの舞台の特徴は、〈言葉のスラップスティック〉です。スラップスティックとは、簡単にいえばドタバタ喜劇という意味で、古くはマルクス兄弟やバスター・キートンの映画がそうです。シティボーイズにはしばしば、いとうせいこうと中村有志が参加しますが、いとうせいこうはマルクス兄弟の大ファンで、『マルクス・ラジオ』という著書もあります。
彼らの近年の舞台で傑出しているのは、1999年に渋谷公会堂で行った『真空報告官大運動会』。タイトルからして「?」ですね。コントのオムニバスですが、個々のコントが他のコントとリンクしていて、ひとつの物語になっているという構成になっています。冒頭突然大袈裟な音楽で登場するのが、大竹まこと扮する「刑事エレクトリック・ソウルマン」。サンフランシスコの刑事という設定で、港に変死体を発見します。真っ裸で体毛が剃られ、胸から腹にかけて付け黒子があり、なぜか褌を締め、そこには「スキマーゼ」という謎の文字。この謎解きをめぐってコントが繰り広げられます。
さて、では言葉のスラップスティックとはどのようなものか。具体的にみてみましょう。
あるコントで、なんでも妥協したがる「妥協兄弟」(きたろう・中村有志)が登場します。二人はデパートに買物に出かけます。「せっかくデパートに来たんだから、どっちつかずの物を買おう」ときたろう。「せっかく来たんだから」と「どっちつかずの物を買おう」が意味もなく結びつくのです。そして二人が最初に買うのがソファーベッド。今度はハワイ旅行に行くことにし、旅行代理店を訪れます。が、あいにくツアーは満席。サイパンなら空いていますと言われた二人はすかさず妥協。サイパンに着いて遊覧船に乗ろうとすると、これも満席。当然バナナボートで妥協。成田空港に戻ってみると、成田エクスプレスが出発した直後。二人は迷わず京成スカイライナーを選びます。
別のコントでは「リス鍋」というものが登場。「リス」と「鍋」。どう考えても結びつくはずがないものが結びつけられる。そこには意味はないのですが、無意味なものを考えるには意味とは何かを深く考えないといけません。つまりナンセンスとは、意味とは何かを問う作業の連続なのです。
舞台に設けられたスクリーンに、リス鍋の作り方のレシピが字幕で出ます。最後に、鍋から尻尾が出ているリス鍋完成の写真。こうなるとナンセンスに歯止めはかかりません。登山家たちのコントで、道に迷った彼らは、リスを発見。もちろん、リス鍋にして食べます。別のコントでは、なぜかリスの着ぐるみを着た斉木しげるが歌手になって登場、「♪恋人達のリス鍋~あなたとつつくリス鍋♪」などと歌いながら客席に降り、リサイタルをします。
こういうナンセンスな舞台で重要なのは、〈間〉あるいは〈呼吸〉です。字幕の出し方、音楽がかかるきっかけなどが重要なのです。これらがすべて絶妙です。因みに音楽を手がけているのはピチカート・ファイヴの小西康陽です。
ナンセンスの宇宙に酔い痴れたい人は、『真空報告官大運動会』のDVDをご覧下さい。『夏への無意識』もお勧めです。