現在時刻13時55分。外出先から帰宅してニュースをチェックして愕然。大瀧詠一さんが急死しました。
我が生涯で師匠と呼べる人をひとりだけ挙げよと言われれば、迷うことなく大瀧さんを挙げます。まったく思いがけない訃報に頭が理解を拒む。来年三月に放送予定のNHK-FM「アメリカン・ポップス伝」の続きを楽しみにしていたのに……。ご冥福をお祈りしながら、まだ呆然としています。
2013年12月31日
今年も当サイトでたくさん遊んでくれてありがとう。良い新年を迎えてくれたまえ、皆の衆。
2013年12月30日
大晦日は紅白? いえいえ、BSプレミアムの「バック・トゥ・ザ・フューチャー」三部作一挙放映でキマリでしょう。
一作目は傑作、二作目は佳作、三作目は凡作と、尻すぼみの感は否めませんが、しかしこれだけのアイデアを三作に詰め込んだロバート・ゼメキスとボブ・ゲイル(共同脚本)の力量にはシャッポを脱がざるを得ない。ロックンロール誕生の歴史に触れる音楽的センスも抜群。
2013年12月26日
生来からきしの下戸で、ビールはコップ半分も飲めないていたらくでございます。でもたまに日本酒をちょっとだけ舐めるように飲むと、その豊かな味わいに、うまいなあ、と素直に思います。同時に、たくさん飲めたらどんなにいいだろうと、愛飲家が無性に羨ましくなります。
日本酒が飲めるようになりたいと思ったきっかけは太田和彦さんの本でした。二十年ほど前にたまたま買って読んだ角川文庫の『居酒屋大全』。読めば読むほど「ああ、飲みたい!」と喉が鳴ったものでした。
今年の秋、BS11で「ふらり旅 いい酒いい肴」という太田和彦さんの番組があることを知り、以来毎週放送が楽しみです。〈居酒屋探訪家〉の名にふさわしい太田さんの飲みっぷり食べっぷりが実によろしい。テーマ曲が細野晴臣(はっぴいえんど)の「風をあつめて」で、CM前のジングルが「夜の翼(Nightwing)」という山下達郎の一人多重アカペラコーラスなのもわたくしの趣味にピタリと合います。
もう一つ、BS-TBS「吉田類の酒場放浪記」も楽しい。太田さんの番組がどちらかといえば居酒屋の名店巡りであるのに対し、吉田さんのほうはぐっと敷居が低い大衆居酒屋ばかり。見比べるのもまた一興です。ああ、飲めるようになりたい!
2013年12月18日
来週の水曜と木曜にTBS系列「水曜プレミア」のクリスマス特番で『トイ・ストーリー』と『トイ・ストーリー2』が放映されます。CGアニメ映画の傑作。脚本がすばらしい。ちなみに中国語版のタイトルは玩具總動員。おもちゃたちが大活躍するワクワク感が伝わってくるではありませんか。
2013年12月14日
先月末にご案内した拙著『カタルーニャを知るための50章』、アマゾンへのリンクを貼りましたがなぜかアマゾンには在庫がなく発送に二週間から四週間かかるとのこと。そこで楽天ブックスを調べてみると……在庫ありました。というわけで楽天ブックスにリンクを貼り直しておきます。
2013年12月8日
あす土曜はとりかえっ語が12周年を迎えます。どんどんとりかえてくんなまし。
2013年12月6日
また本を出版しました。『カタルーニャを知るための50章』(明石書店)。スペインはカタルーニャ地方の歴史や文化などを手っ取り早く知ることができるガイド本。これ一冊あればカタルーニャについて知ったかぶりができること請け合います。わたくしは演劇について短い文章を書きました。本日近日発売です。
2013年11月28日
今週23日(土)に語尾取りが12周年を迎えます。ただひたすら語尾を取り続けて12年。こうなったら命ある限り取り続けましょう。
2013年11月20日
毎日夥しい数のスパムメールが届きます。愛用するメールソフトには幸い優秀なスパムフィルターが搭載されており、ほぼすべてのスパムが自動的に専用フォルダに放り込まれるのでいちいちチェックはしないのですが、今朝ふと目にとまったメールの文面を読んで思わず爆笑しました。独り占めするのはもったいないくらいの優秀作品ですので、以下ご覧に入れます(爆笑した部分を太字にしておきました)。
○本×明と申します。
実は大切なお願いがあってこのようなメールをさせていただきました。
私はあることで稼いでいる人間なのですが、理由があってもうこれ以上は
その方法では稼ぐことができないのです。
そこであなたに協力をお願いしたいのですが・・・。
いきなり不躾なお願いで申し訳ありません。
私の周りはすでにチェックされていて、もう他にお願いできる方がいないのです。
普通にやれば月に数千万から1億円くらいの利益にはなります。
情報料としてその20%を私に、残り80%をあなたにお渡しする条件はどうでしょうか?
決して法律に触れる事や、人に迷惑をお掛けすることではありません。
と言われても信用できないですね・・・分かりました。お話しします。
私はあるサイトを使ってあるものを購入しています。
http://xxxx/xxx/xxx
使っているのはこのサイトなのですが、私自身が続けられなくなった理由もお話し
しなければなりませんよね。
実は私・・・勝ちすぎてしまったんです。
そのせいで税務署にも目を付けられ、あげくに不正まで疑われてしまいこれ以上は
私自身も私の周りも続けることができなくなってしまいました。
決して悪さをしているわけではないのですが、こういう事で利益を上げていると
世間に知られると色々な方に迷惑をかけてしまうからです。
しかし、私はまだお金が必要なんです。
なぜなら私にはまだ30人近い子供がいるから。
個人で孤児院をやって行くにはお金はいくらでも必要な以上、もうあなたにおすがりするしかありません。
どうかお力添えいただけますようお願いいたします。
朝っぱらから大笑いさせて頂きました。純然たるスパムメールというよりは、よくあるスパムのパロディ作品と呼びたくなるほどです。この文章を書いた人をわたくしは「作家」と呼びたい。
スパムメールをせっせと書く人はもちろん趣味や暇潰しのために書くわけではなく、裏社会の人からなにがしかの報酬を得て作文するわけです。そこで、あれこれ知恵を絞って、あの手この手で詐欺をしようと日夜奮闘する。その結果、もうギャグとしか呼びようのない作品が生まれてしまう。「スパムメール作家」の皆さんはきょうも頑張っていらっしゃいます。
2013年11月19日
いろんな商売を思いつく人はいるもので、北海道は千歳市にあるMISお焚き上げステーションは故人のパソコンやスマホなどの情報端末を「お焚き上げ」してくれる会社。自分が死んだとき、あるいは親しい人が亡くなったとき、端末に記録されている情報をどう処理するべきか。我が身に引き寄せて考えたことは一度もありませんが、言われてみると結構大事な問題に思えます。今後需要が増える気がするぞ。
2013年11月15日
高倉健さんが文化勲章を授かりました。NHKニュースによると親授式のあとに行われた記者会見で高倉さんはこうおっしゃいました。
日本人に生まれて本当によかったと、きょう思いました。文化のために何をしたのかなという反省も大きくあります。
高倉さんの謙虚なお人柄がまっすぐ心に伝わってきます。続いてもう一言。
二百何本という膨大な本数をやらせていただきましたけれども、ほとんどは前科者をやりました。そういう役が多かったのにこんな勲章をいただいて、一生懸命やっているとちゃんと見ていてもらえるんだなと素直に思いました。
ちゃんと見ていますとも!
全身全霊をこめた演技の数々を、わたくしたち観客は一瞬たりとも見逃すまいと、スクリーンを凝視します。ビデオやDVDでも繰り返し観ます。わたくしは主演最新作の『あなたへ』をテレビ放映でしか観ておりませんが、それでも高倉さんの立ち姿の圧倒的な存在感に心打たれ、またお辞儀の仕草の見事さに液晶テレビの前で居住まいを正したものです。
一所懸命な人を世間は放っておかない、見る目をもっている人はちゃんと見ている―――わたくしは大学の授業での雑談でときどき学生にこう話します。高倉さんの受章を我が事のように慶賀せずにはいられません。
2013年11月3日
外国の飲食物のパッケージを見ていつも思うのですが、〈モンドセレクション受賞〉のマークにお目にかかったことがないのでございます。ひるがえって我が国はいろんな商品に〈モンドセレクション受賞〉のマークがある。どういうこと? モンドセレクションって何? 疑問がふつふつとわき上がります。
調べてみると、どうやらこの賞は「申請した者勝ち」であることがわかりました。日経トレンディネットの記事によると、ブリュッセルに本部を置く品評機関が審査するそうで、審査料はなんとわずか1100ユーロ。本日の為替レートで14万8千円。安い。個人でも払えそうです。
さらに調べたところモンドセレクションの公式サイトを発見。本年度の統計データが公開されており、今年は2824商品が受賞。出品地域ごとの受賞製品の数はアフリカが73、アジアが2213、中米が34、ヨーロッパが297、北米が93、オセアニアが27、南米が87。アジアがダントツです。
しかもアジアの中では日本がこれまたダントツに多いらしい。三年連続で受賞した製品には〈国際高品質トロフィー〉 The International High Quality Trophy というものが授与されるそうで、今年のリストを眺めると一目瞭然、ほぼすべて JAPAN です。
気になるのは審査方法ですが、これが謎。味や衛生状態、成分や原材料などを吟味するらしいのですが、日本の漬け物の優劣をベルギーの審査機関がどうやって判断するのか詳細は不明。
というわけで、どうやらモンドセレクションは日本でのみやたらに珍重される賞であることがわかりました。日本の食品会社は外国の権威ある審査機関によるお墨付きがほしいのですね。権威に弱く、お上に従順な日本人の心性が如実に見てとれるではありませんか。
2013年10月29日
当サイトの人気コーナーのひとつ、四字熟語の登録数がおかげさまで5200件を超えました。
我が国最大の四字熟語辞典は三省堂の『新明解 四字熟語辞典』。収録項目数は5600件。この勢いでは遠くないうちに新明解を超えそうです。日本最大の辞典をめざして、ぜひふるってご参加下さい。
2013年10月18日
ウェブサイトのソースを書くのに用いる言語をマークアップ言語と称します。代表的なものは SGML と HTML と XML。それぞれにはさらにいくつものバージョンがあります。
当サイトの主要ページ(拡張子が .shtml)では2010年10月から XHTML 1.0 を使い、2011年6月に XHTML 1.1 にバージョンアップ。そして今月7日からは今後主流になるであろう HTML5 にグレードアップさせました。一週間経っても苦情が出ないところをみると無事に正しく表示されているようです。
ただし「語尾取り」や「とりかえっ語」など CGI プログラムのページは <font> タグを使用するため依然として XHTML1.0 Transitional のままです。
2013年10月14日
当サイトがオギャーと産声を上げたのは2000年10月6日。本日めでたく13回忌、じゃなくて13周年を迎えました。こんなに長く続けてこられたのはひとえに皆さまのおかげでありんす。これからも大いに遊んでくんなまし。
2013年10月6日
法隆寺の鐘が鳴らずとも柿が食べたい季節になりました。というわけで今月は柿色です。
2013年10月1日
画面左端のナビゲーションメニューをリニューアルしました。縦に並んだ六つのアイコンにカーソルを載せるとサブメニューが出ます。動作チェックしたブラウザは下記の通り。
気がかりなのは IE です。理論的には IE 7 以上なら正しく表示されるはず。もし表示されない場合はぜひ BBS にご報告下さい。ご使用の IE のバージョンを明記して下されば助かります。場合によってはアドレス入力欄の互換モード(四角いギザギザのマーク)をクリックして互換モードを解除すると正しく表示されるかもしれません。
2013年9月19日
原発事故が一向に収束されないばかりか放射性物質による海洋汚染は広がる一方で、十万人を超える避難民には最低限の文化的生活さえ保障されない憲法違反の状態が続くにもかかわらずオリンピック誘致に狂奔する人々のはしゃぎぶりを見るたびに、怒りを通り越して呆然とさせられてきましたが、2020年のオリンピック開催地が東京に決定したニュースをネットで読んで改めて実感したのは、ちょうど半年前にこのトップメッセージで紹介した大友克洋の慧眼でした。
『AKIRA』の舞台は2019年の東京です。1988年に第三次世界大戦が勃発し、東京は核攻撃により壊滅。戦後、東京湾に〈ネオ東京〉と呼ばれる新たな巨大都市が生まれて復興しますが、その熱が冷めつつある2019年の〈ネオ東京〉は、翌年の東京オリンピックを控えてスタジアム建設工事の真っ最中。その建築現場の地下に眠るのが〈アキラ〉です。
2020年に東京でオリンピックが開催されるのを大友克洋が予言したのが今から三十年以上前の1982年だったということにまず驚かされます。しかもオリンピック誘致の目的が東京の〈復興〉のためであるという共通点には戦慄さえ覚えます。『AKIRA』では利権のことしか考えない政治家たちや〈復興〉の熱が冷めて鬱憤がたまった民衆をあざ笑うかのように、〈神の力=アキラ〉が目覚めてしまう。
産経新聞によるとブエノスアイレスで行われた五輪誘致の最終プレゼンテーションで安倍晋三首相はまずこう語りました。
フクシマについてお案じの向きには、私から保証をいたします。状況は統御されています。東京には、いかなる悪影響にしろ、これまで及ぼしたことはなく、今後とも及ぼすことはありません。
これほどおおっぴらに嘘をつける剛胆さにはむしろ感心させられます。『AKIRA』でさんざん戯画化された政治屋の典型です。オリンピックは〈経済成長の起爆剤〉になると首相は手放しで喜び、マスコミも嬉々としてそれを伝える。彼らの視野には目先の金しかない。そんな人々をせせら笑うように、2011年3月に福島で〈アキラ〉は目覚めてしまったのではなかったか。黯澹たる気持を払拭できません。
2013年9月8日
久しぶりにアクセスカウンターを見たらいつの間にか30万の大台に達してびっくり。これもひとえに皆さまのおかげです。これからもどうかよろしく!
2013年8月27日
名作アニメ『ヤッターマン』の再放送をたまたま久しぶりにテレビで見たら、ドロンボー一味の生き方に深く共感してしまいました。
ドロンジョ、トンズラー、ボヤッキーの三人組が追い求めるのはドクロストーンという幻の石のかけらです。かけらを集めて組み合わせると大量の金塊の在処がわかるという設定で、彼らの目的は一攫千金。十八世紀半ばのゴールドラッシュでカリフォルニアに殺到した人々と同じです。
ドロンボー一味が凄いのは、「決して諦めない」ことです。毎週巨大なメカを作ってヤッターマンに戦いを挑んでは無残に敗北する。しかし弱音を吐かず、次の週には意気揚々として新たな作戦を練る。しかも巨大メカを作る資金集めを毎回ちゃんとやる。「ちゃんとやる」と言ってもその実態は詐欺商法ですが……。
彼らの精神は番組最後の歌にはっきり示されています。「やられてもやられても/なんともないない!」
どんなにやられてもへこたれない。何度失敗しても再チャレンジする。常に前を向いて、見果てぬ夢を追いかける。しかも、いかなるときもユーモアを忘れない……。
諦めてはダメなんだ! 諦めたら、そこですべてが終わってしまうのだ!
五十路に手が届こうという男がよりによってドロンボー一味に人生の奥義を学んでいいのでしょうか。別にいいよね。だって学んじゃったんだもん。ドロンボーよ永遠なれ!
2013年8月20日
従来のコンピューターでは100年かかる計算処理をわずか1秒で行う量子コンピューターの基礎実験に東大が成功しました。情報を運ぶのは電子ではなく光子(光の粒)。しかも今回は粒としてではなく、光が伝わる波の性質を利用することにより、高い成功率を収めたとのこと。
古典物理学とはまったく異なる量子力学を応用したからこそ可能になった技術です。100年かかる作業を1秒でって、もう「ケタが違う」とかいうレベルではありません。
量子コンピューターが普及した世界を想像してみると……途方もなくて想像が追いつかない。ひょっとすると将来は量子コンピューターが世界を管理運営し、人間はコンピューターの動力源として培養される時代が来るかもしれない―――まさに『マトリックス』の世界ではありませんか。
2013年8月18日
Internet Explorer 9 及び 10、もしくは Sleipnir 2 をお使いの皆さまへご報告がございます。
六月頃に発生した現象ですが、画面左端のメニューにカーソルを載せてもサブメニューのポップアップが表示されない人がいるようです。わたくしは一切スクリプトに手を加えておりませんので原因は不明ですが、解決方法がございますので、以下の手順を試みて下さい。
ブラウザの上部にはアドレスが表示される白くて細長いスペースがあります。このスペースの右端に、中央がギザギザに途切れた四角いマークが表示されていると思います。このマークをクリックすると「互換モード」というモードに切り替わります。互換モードに切り換えると、以前に正しく表示された状態に復元することができるのです。
当サイトに限らず、「あれ? 最近どうも表示がおかしいぞ?」と思ったときは、互換モードに切り換えてみて下さい。表示が元どおりになる可能性があります。
なお、そのほかのモダンブラウザ、たとえば Firefox や Chrome、Opera、Safari では問題は発生しません。お手数をおかけしますが、よろしくお願い申し上げます。
2013年8月13日 Part2
47階建ての高層マンションにエレベーターを付け忘れたスペインの建築家に本日の粗忽大賞を進呈します。
2013年8月13日 Part1
自家製赤紫蘇のジュースうますぎ。マジぱねえっす。下戸が風呂上がりに飲む三ツ矢サイダーのうまさは異常。
2013年8月11日
テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」を好んで見るようになったのは幸田シャーミンがキャスターを務めた時代なので、かれこれ二十五年くらい前でしょう。ということは番組放送開始と同時に見始めたことになります。現在のキャスターは小谷真生子さん。進行役としての安定感が抜群です。
「ワールドビジネスサテライト」のスポンサーはご存じのとおり日本経済新聞。日経新聞はテレビ東京の筆頭株主。従って番組の途中に日経新聞のCMが何度も入ります。最近のCMで印象に残ったのは、ある中流家庭とおぼしき家族の食卓風景を静止画だけで見せる作品です。新聞の見出しに応じて家族の服装や食事の献立や部屋の意匠が次々と変わる。そして最後に画面が青一色になり、中央に白抜きの文字でこんなフレーズが浮かび上がります。
「身のまわりのすべては、経済の一部です。」
世の中の現象はすべて経済で説明できますよ―――これが日経新聞の思想です。経済さえわかれば世の中が理解できる、日経は経済をわかりやすく解説する、だから今すぐ日経新聞を購読しましょう、と言いたいわけです。
これほどわかりやすいメッセージはありません。あまりにもわかりやすいので、本当かしら、世の中ってそんなに単純かしらと、逆に疑念を覚えるほどです。経済さえ学べば「身のまわりのすべて」が理解できる―――本当でしょうか。
CMの論法を一般的な命題として言い直すと、「Xがわかればすべてを説明できる」ということになります。
この論法にはかなり古い歴史があります。「身のまわりのすべて」、つまり森羅万象をたったひとつの原理で説明したいという欲望は古代ギリシャから連綿と受け継がれて今日に至ります。古代ギリシャの哲学者で『大世界大系』を著したレウキッポスは、この世にあるものはすべて小さな要素から成り立つのだから、これ以上分割できない最小の単位がわかれば世界の成り立ちを説明できると考えて、原子説を唱えました。この考えを受け継いだのが弟子のデモクリトス。彼らにとってXは「原子」でした。「原子さえわかればすべての説明がつく」。ところが現代の物理学によると原子は最小の単位ではなく、もっと小さな素粒子から成り立つというのが定説です。しかも素粒子はまだその全容が解明されません。
もうひとつ、Xの代表として一神教の神を挙げることができます。この世を創ったのは唯一絶対の神である、すべては神に由来する、これが一神教。だから「神がわかればすべての説明がつく」。しかし厄介なことに神は人知を超える存在で、神が一体何を考えているのか、人間には察しようがありません。人間の理解力など及びもしない存在が神なのですから。神の御心は計り知れない。神は人間の理解を超えている。だから人間は世の中の仕組みを永遠に理解できない。
Xには実にさまざまなものが代入されてきました。「神学」「経済学」「政治」「文学」「分子生物学」「脳科学」……。それぞれを代入すると、世界の仕組みが理路整然と説明できる。とはいえ、あくまでも「仕組みが説明できる」だけであって、なぜ世界が存在するのかという窮極の問いには答えられません。しかも見事な説明がついたと思った矢先に必ず新たな謎が生まれるのです。
ビッグバン理論や超ひも理論を使えば宇宙がいかにして生まれたか、その過程を鮮やかに説明できます。でも、なぜ宇宙というものが誕生したのかについては何も語れない。宇宙は「無」から生まれたというのが定説です。ならば「無」のままでもよかったのではないでしょうか。なぜ宇宙は生まれてしまったのでしょう。永遠の謎です。
学問は、その学問の理論を応用する限りにおいて、世の中の事象を手際よく説明できるだけです。経済学の考え方を適用すれば世界の仕組みがある程度理解できるというにすぎません。ですから日経新聞のCMのコピーは、厳密にいえば次のように書き改められるべきです。
「経済学によれば、身のまわりのすべては、経済の一部です。」
2013年8月3日
昔から暦を見るのが好きです。パソコンのデスクトップ画面には日めくりGadgetというシェアソフトを常時表示されており、陰暦や六曜、十干十二支、二十四節気、七十二候、月齢、日の出日の入りの時刻など五十種類のデータが一目瞭然で重宝します。
これらのデータのうち、ときどきハッと虚を衝かれるのが誕生日。その日に生まれた古今東西の偉人や有名人が毎日二人もしくは三人列挙されるのですが、きのうは度胆を抜かれました。
「せんだみつおとベニート・ムッソリーニ」
かたや「ナハ、ナハナハ!」のギャグで七十年代の一時期に最大瞬間風速的人気を博した芸人。かたやイタリア・ファシスト党の党首として人類の命運を左右した現代政治史上きわめて重要な人物。いかなる接点も見いだせないこの二人が、ひとたび誕生日というキーワードを設定した瞬間に、同じ項目に肩を並べてしまう。それにしてもなぜこの二人が選ばれたのでしょう。まるで見当がつきません。
7月21日にも驚きました。
「船越英一郎とアーネスト・ヘミングウェイ」
二時間ドラマの主演俳優とハードボイルド文学の先駆者。ともにフィクションの世界に生きる人であるという点では共通項がなきにしもあらずですが、では18日のこの二人はどうでしょう。
「広末涼子と木戸幸一」
木戸幸一はポツダム宣言受諾を実現させたあとA級戦犯として終身刑を受けた宮中政治家。広末涼子と接点があろうとは。誕生日おそるべし。
2013年7月30日
先ほどアマゾンをチェックしたら嬉しいことに拙著『超釈 日本文学の言葉』のカスタマーレビューが掲載されました。一読して欣喜雀躍。この本の“売り”は解説文なので、まさに狙い通りに味わって下さったご様子。五つ星が満点のところ四つになった理由にも深く同感。ありがたや、ありがたや。お客様は神様です! by 三波春夫
2013年7月29日
7月24日(水)午後1時からBSプレミアムで『2001年宇宙の旅』が放映されます。
言わずと知れたSF映画の金字塔。宇宙を舞台にした作品は後に『スター・ウォーズ』を始めとして雨後の竹の子のごとく量産されて今日に到りますが、宇宙空間をこれほど見事に造形したのは本作以外にありません。タイトルは聞いたことがあるけど観たことはない人、是非録画してご覧下さい。字幕スーパー版です。1968年製作。
ところで、主人公のデーブ・ボーマン船長を演じる俳優 Keir Dullea さんの名前はどう発音するのか、昔から疑問でした。日本では長らくキア・デュリアとして知られますが、どうもこれは正しい発音には程遠いらしい。日本語で読める最大のオンライン洋画データベース allcinema によればケア・デュリア。NHKプレミアムシネマのウェブページにはケア・ダレーという表記が見られます。しかしどちらも原音とは違うみたい。
そこで Forvo を調べて見ました。Forvo は世界各地の言語のネイティブ・スピーカーによる一般名詞や固有名詞の発音を聞くことができるサイトです。Keir Dullea さんの名前も登録されていました。発音を聞いてみると……キア・デュレイと聞こえます。積年の疑問が氷解してすっきりしました。
2013年7月17日
毎日お暑うございます。我が町は気温が連日37度。勘弁してほしい。なぜこんなに暑いのか。原因はいろいろあると思いますが、暑さの源はもちろん日光。太陽が親の敵とばかりにギラギラ輝くから暑い。
ところで太陽には所有者がいるのをご存じでしょうか。いるんです、これが。スペインのガリシア地方に住むマリーア・アンヘレス・ドゥラン(María Ángeles Durán)という女性。太陽はアンヘレスさんの所有物なのです。
アンヘレスさんの主張をまとめると、「50億年前から今日に至るまで太陽の所有者を名乗る人は存在せず確認もされていない。惑星に関してはいかなる国家も惑星を所有してはならないと定めた国際協定が存在するが、個人についてはこの限りではない。事実、あるアメリカ人男性がすでに主要な惑星及び月の所有を宣言した公正証書を作成済みである」とのこと。
そこで法律にのっとり公証人を立てて、彼女が太陽の所有者であることを証明する公正証書を作成したそうです。でも太陽って惑星じゃないよね? 恒星だよね?……という突っ込みは野暮なんでしょうね。
2010年秋の話ですが、ニュースサイト International Business Times の記事によると、アンヘレスさんはスペイン産業大臣と面会し、太陽エネルギーを利用する人から使用料を徴収できると主張。徴収した使用料の50%はスペインの国家予算に組み入れ、20%は老齢基礎年金の財源に充て、残る10%は健康向上の研究と飢餓の根絶、並びにアンヘレスさん個人の生活費に使うというのですが、合計しても100%になりません……。
どこまで本気でどこまで冗談なのかわからない話ですが、仮にアンヘレスさんの主張が正当だとすれば、熱中症で倒れたり強い陽射しのせいで皮膚癌になったらアンヘレスさんに損害賠償もしくは慰藉料を請求できそうです。これなら安心ですね。
2013年7月11日
新・意味なし掲示板で辞書談義が花盛りです。辞書は語義を調べるための道具。でも、それ以上に書物として読むのがおもしろい。言葉の森に迷い込み、あてもなくぶらぶら散策する楽しさです。
辞書には〈辞典〉と〈事典〉の二種類があるとお考えの人は多かろうと思います。前者は言葉の語義を扱い、後者は事柄や事象を説明するもの。これが一般的な了解です。どちらも発音がジショで紛らわしいので、〈事典〉はコトテンと呼ぶことがありますね。
ところが! ちょっと聞いて下さい、そこの奥さま旦那さま! じつはどちらも同じものなんです!
むかしは〈字典〉あるいは〈辞典〉と呼ぶのが慣わしでした。〈事典〉が登場したのは昭和6年。平凡社が『世界大百科事典』を発売した際に社長の下中彌三郎が考案した言葉なのです。〈百科事典〉は平凡社の商品名なのでございますよ皆さん! でもって戦後になって他社が次々と真似をして『○○事典』や『××事典』を発売するようになったのでした。おしまい。
2013年7月9日
当サイトご常連の皆さまが次々と小著『超釈 日本文学の言葉』をお求め下さり、感涙にむせんでおります。もう思い残すことはございません……がくっ。(絶命)
2013年7月1日
本日発売の拙著『超釈 日本文学の言葉』でわたくしが担当した作品一覧を時代順にご紹介します。
このほかに編集上の都合で残念ながらボツになった原稿が五篇あります。
せっかく書いた原稿をお蔵入りさせるのも悔しいので、日本文学の言葉 番外篇と題して公開します。ご笑覧下さい。
2013年6月25日
学研という会社を知ったのは小学生のときでした。雑誌『科学』と『学習』を愛読し、とりわけ『学習』にはすっかり夢中になり、なかでも連載マンガ「名探偵荒馬宗介」はとぼけた味わいの絵にもかかわらず鋭い推理が痛快で毎号待ち遠しかったものでした。
あれから四十年近く経ち、まさか自分が学研から本を出版する機会に恵まれようとは夢にも思いませんでした。『超釈 日本文学の言葉: 名言名句辞典』という本です。来週全国の書店で発売されます。
坪内逍遙、二葉亭四迷、森鷗外、夏目漱石など明治の文豪に始まり、新しいところでは平野啓一郎、町田康、川上弘美、三浦しをんまで、日本の名作小説を200冊選び、その中から名言をひとつずつ取り上げ、生きるヒントになるような短い解説をほどこした辞典です。わたくしが担当したのは39作品。どの作品を担当したかは明記されておりませんが、今年の春ごろの抑鬱亭日乘をお読み下った方なら一目瞭然です。
450ページ近くある分厚い本ですが価格は1700円とお手頃。この本をきっかけにして原作小説を読んでみる、あるいは久しぶりに読み返す、そんな人が増えてくれればこれにまさる喜びはありません。
2013年6月20日
AKB48とかいう人たちのことは何も知らないに等しいのですが、「何も知らないに等しい」からには少しくらいの知識はあるわけで、それは「小説家の綿谷りささんが彼女たちのファンである」という事実なのですが、そんな話はともかく、昨日のFNNニュースで驚いたのは前田敦子とかいう元メンバーのマネージャーを騙った詐欺師集団が37万人をだまして116億円を集めた事件で、だまされた人数といい集めた金額といい、これはもう詐欺というよりは立派なビジネスと呼ぶべきではないかと思えてしかたがなく、37万人から116億円集めたということは単純計算で一人あたり3万1351円になり、AKB48とかいう人たちの名前さえ聞けば三万円を支払うにやぶさかではない人々が数十万人いることが明らかになったわけで、これほど大勢の人がころっとだまされるAKB48とかいう人たちは一体何者なのか、その正体をつきとめたいとは思いませんか、いっそのことファンになってみませんかと問われれば、まったく関心はありませんと答えるほかなく、相変わらずわたくしは彼女たちのことは何も知らず、従って詐欺師集団から誘いのメールが来る気配すらなく、無知ゆえに詐欺に遭う機会に恵まれないままきょうも日が暮れてしまったのでした。
2013年6月14日
昨夜マドリードの王立劇場で日本スペイン交流四百周年記念音楽会が催されました。支倉常長率いる慶長遣欧使節が1613年にスペインを訪問してから四百年。今年はスペインで日本関連の文化行事が目白押し。そのオープニングイベントです。
終演後の写真が今朝の朝日新聞デジタルに掲載されました。手前に映っている今井翼さんの隣が小島章司さん。その隣がフラメンコ歌手の若きカリスマ、ミゲル・ポベーダ。一人おいてギターを持った髭面の男性が名手チクエロ。チクエロと小島さんは二十年来の盟友です。
2013年6月12日
ブログという言葉を始めて知ったのは2003年の春頃でした。当時のブログは「ネットで読んだニュース記事にリンクを貼り、記事の内容にコメントをつけて紹介する」というスタイルでした。ブログ(blog)はウェブ(web)上の記録=ログ(log)を意味するウェブログ(weblog)を略した呼称です。
気になるニュースをただ紹介するのではなく、当該記事へのリンクを貼ることによって読者はオリジナルの記事と紹介者のコメントの両方を読むことができる。いかにもネットにふさわしいスタイルで、わたくしはすぐさま「これは使える!」と飛びつきました。
2003年6月26日、演劇関連のニュースをコメントつきで紹介するページを設けました。当サイト初のブログです。約半年後、内容を少々変更し、対象とする記事をスペインの演劇・映画・文学などに絞りました。これが現在も続く舞台通信です。スタートしたのは2003年12月12日。早いもので今年は十周年です。
しかしながら皆さんご承知のとおり、今やブログといえば単なる日記のことです。言葉の本来の意味でのウェブログはほぼ絶滅したと言っていいでしょう。
眞鍋かをりさんがブログの女王として話題になったのが2004年から翌年にかけてで、眞鍋さんはニフティのココログというサービスを利用していらっしゃいました。2005年3月8日、わたくしは西日本新聞朝刊の巨大広告を見てびっくりしました。ぺろりと舌を出した眞鍋さんの顔が紙面いっぱいにアップで載り、舌の先にはチョコレート製の半導体。インテルの広告でした。このときすでにブログはネットの日記を指す言葉として使われていました。
当サイトにお越しの方から「いつもブログを読んでいます」とのメッセージを頂くことがたびたびあります。その人たちが口にするブログは舞台通信ではなく抑鬱亭日乘のことです。抑鬱亭日乘は純然たる日記ですが、人々はやはりブログといえば日記と諒解していらっしゃる。
わたくしは抑鬱亭日乘をブログと呼んだことは一度もありませんし、今後も呼ばないでしょう。当サイト唯一のブログは、言葉の本来の意味でのウェブログである舞台通信だけです。鶴田浩二の「古い奴だとお思いでしょうが……」ではありませんが、言葉の歴史性を重んじる立場をこれからも貫く所存です。
2013年6月9日
最近のBBSはタグの使用を禁ずるところが多くて文字のグラデーションが楽しめないのが残念であります。
2013年6月1日
材料(一人前)
スパゲティ……80g
玉子……1個
パンチェッタ……40g
ニンニク……少々
パルメザンチーズ……好きなだけ
粗挽き黒胡椒……適量
ラード or バター……20g
ほな行くで~。
まずフライパンにラードかバターを入れて温めまんねん。半分くらい溶けたら細こう切ったパンチェッタを入れてソテーや。じっくりソテーするんやで。焦がしたらあかんよ。え? 「パンチェッタって何?」 わしもよう知らんけど、豚のバラ肉を塩漬したもんらしいで。なかったらベーコンでも構へん。
ええ感じになったら挽き立ての黒胡椒をふりかけて、ニンニクのみじん切りを加えてまたソテーしておくんなはれ。焦がしたらあかんで~。何遍も同じこと言うけど。焦げたら往生しまっせ。
今度はスパゲティの茹で汁を少し入れて味を引き出すんや。パスタも同時に茹でとかなアカンで。茹で加減はアルデンテより少し固めや。茹で上がったら、さっきのフライパンにドバッと入れてチャチャッとかき回さんかい! 火は中火や。ソースとパスタがよくからんだら溶き卵を加えて手早く混ぜる。卵固まらんよう気いつけや。パスタの茹で汁を少し足すとええ感じになるで。
最後にパルメザンチーズをドバッと入れてまたチャチャッと手早く混ぜて完成や。皿に盛ったらまたパルメザンチーズをたっぷり振りかけて黒胡椒もパラパラかけてみ~。え? 「写真見ないとわからん?」 ほなこのブログを見んかい!
2013年5月27日
「○○を立ち上げる」という言い方を耳にしたり目にしたりするようになって十数年経つ。最初はコンピューター用語だった。「ソフトを立ち上げる」「パソコンを立ち上げる」。それから次第に「企画を立ち上げる」や「本部を立ち上げる」というふうに一般的な動詞として使われるようになり、すっかり定着してしまった。しかしわたくしはこのフレーズを目にするたびに違和感を覚える。
なぜ違和感を覚えるのか。どうも日本語の生理からして奇妙だと思えるからだ。「立ち上げる」は「立つ」と「上げる」の二つの動詞を組み合わせた言葉だ。「立つ」は自動詞、「上げる」は他動詞。自動詞と他動詞をくっつけてしまったところに違和感の原因があるらしい。
たとえば、こんな動詞があるとしたらどうだろう。
「起き上げる」
なんとなくいやな印象を受けないだろうか。「起きる」という自動詞と「上げる」という他動詞を組み合わせてみた。もちろんこんな動詞は日本語には存在しない。「起こす」と言えば済むからだ。
「立ち上げる」を正しい他動詞に言い換えるなら「立ち上がらせる」だ。しかしこの言い方は滅多にお目にかからない。言葉数が多いからだろう。ならば「稼働させる」とか「起動させる」と言えば済むはずだが、「立ち上げる」は今やすっかり市民権を得てマスコミの記者たちは好んで使う。違和感を覚える人はごく少数派なのかもしれない。
2013年5月24日
東京芸術劇場の三谷幸喜さん作・演出『おのれナポレオン』に出演中の天海祐希さんが軽い心筋梗塞のため降板、きのうときょうの公演はやむを得ず中止になりましたが、宮沢りえさんが急遽代演として出演決定。わずか二日間の稽古で代役の仕事を引き受けた宮沢さん、あなたは偉い! 三谷さんはお礼に宮沢さんに芝居を一本書くそうです。天海さんの本復を心からお祈りします。
2013年5月9日
わたくしは現行の日本国憲法より崇高な理念を掲げた憲法をほかに知りません。GHQの民政局員として憲法起草委員会の人権部門を担当し男女平等などの条項を起草したベアテ・シロタ・ゴードンさんは2000年に来日し、「日本の憲法は米国の憲法より素晴らしい」「日本国憲法は世界に誇るモデルだから50年以上も改正されなかった。他の国にその精神を広げてほしい」と訴えました。
自民党の改憲案はひとことで言ってひどい代物です。崇高な理念はずたずたに切り裂かれ、高邁な思想は見る影もない。憲法というものは軽々しく変えてはいけない。「変わらない」こと、現状維持こそが国家の使命なのですから。
改憲論者は「現行の憲法はアメリカに押しつけられたものである。だから日本人自身の手で書き改めるべきだ」と主張します。ところが日本人の手によって書き改められた自民党の改憲案は現憲法を劣化させることにしか役立たない。でも改憲論者はどうしても「押しつけられた」ことに我慢がならないようです。
であれば、選び直せばよいではありませんか。今の憲法をそっくりそのまま、今度は国民みずから主体的に選ぶのです。
ただし一ヶ所だけ、わたくしは現行の憲法に不満を覚える部分があります。それは「前文」に先立つ天皇陛下のお言葉と捺印です。
朕は、日本国民の総意に基いて、新日本建設の礎が、定まるに至つたことを、深くよろこび、枢密顧問の諮詢及び帝国憲法第七十三条による帝国議会の議決を経た帝国憲法の改正を裁可し、ここにこれを公布せしめる。
御名御璽
昭和二十一年十一月三日
現在の憲法は天皇陛下が「よろしい」とみなして「公布させますよ」と署名捺印(御名御璽)したので効力を発揮したことになっている。この部分は不要です。なぜなら今度は国民が自分たちの意志で選ぶから。
今の憲法を選び直す。これ以上に現実的な方策は思いつきません。
2013年5月4日
五月末、ル テアトル銀座が閉館します。
前身である銀座セゾン劇場が開場したのが1987年。以来二十六年間にわたり名作佳作を次々と世に送り出してくれました。上演時間九時間に及ぶ大作、ピーター・ブルック演出の『マハーバーラタ』は今も忘れません。
わたくし個人にとって、この劇場は思い出が多すぎて、穏やかな気持ちで懐古することができません。半生の重要な部分を食いちぎられるような心地です。
1987年の夏、ジブラルタル海峡を渡ってスペインからモロッコへ向かう船の中で、あるスペイン人俳優と知り合いました。翌年、銀座セゾン劇場でヌリア・エスペル主演・演出のロルカ作『イェルマ』が上演されます。学部生だったわたくしは通訳として舞台裏を徘徊していたのですが、主人公イェルマの夫を演じたのがなんとその俳優でした。思いがけず楽屋で再会し固く抱擁した日のことは到底忘れられません。
1992年、ヌリア・エスペル演出、坂東玉三郎主演による『エリザベス』の上演台本を翻訳したのもこの劇場でした。エリザベス一世が実は男だったという仮説にもとづく芝居で、作者はフランシスコ・オルス・ハリンというカタルーニャの劇作家です。豪華な俳優陣に加えて舞台美術はミラノ・スカラ座のエツィオ・フリジェリオ、衣裳は同じくフランカ・スカルツィアピーノと、贅を極めた舞台で、好評を博し、1995年に再演されました。
1999年11月、銀座セゾン劇場はいったん閉場します。最終公演は黒柳徹子主演の『マレーネ』でした。幸い劇場は存続が決まり、翌2000年4月、名称を「ル テアトル銀座」と改めて再出発します。2007年以降は運営母体がパルコに移管され「ル テアトル銀座 by PARCO」と改称されました。
今世紀に入ってからは小島章司フラメンコ舞踊団公演のホームグラウンドとしてル テアトル銀座が好んで使われました。2007年の公演『戦下の詩人たち』では天皇皇后両陛下の舞台解説者をつとめる光栄に浴しました。
こうして振り返ると、1987年の開場以来今日に至るまでわたくしは制作者としてこの劇場とずっと関わってきたのでした。演劇専門の劇場として理想的な設備を誇るキャパ770人のこの劇場がなくなってしまうのはまことにもったいない。つらい。
来たる五月末にはさよなら公演として黒柳徹子さんが『ステラとジョーイ』を演じます。演出と出演を兼ねる高橋昌也さんとの二人芝居。黒柳さんは「今回も劇場として続けてくれないかしら」と存続を望んでいます。わたくしも同感です。
2013年4月30日
去年だったかおととしだったか、たまたまネットで見つけた4コマ漫画がツボにハマりまして、以来、タイトルは何て言うんだろう、作者は誰だろうと気になっていたのですが、つい先ほど判明しました。タイトルは『ふうらい姉妹』、作者は長崎ライチ。
どんな漫画かというと―――こんな感じです。美人姉妹のシュールな世界。作品名と作者の名前がわかって、喉の小骨がとれた思いです。
2013年4月25日
いつも粗忽印鑑本舗をご愛顧下さりありがとうございます。このたびデザインのバリエーションを増やしました。
今後も豊富なバリエーションを取りそろえて皆さまのご来店をお待ち申し上げます。
2013年4月9日
今夜9時TBS系「水曜プレミア」で『カールじいさんの空飛ぶ家』が放映されます。愛妻と過ごした日々を回顧するシーンの手際よさを是非ご覧下さい。
2013年4月3日
おかげさまで「四字熟語」が順調に項目を増やしておりますが、当面の目標を五千六百項目にします。
先週たこ焼き村さんが「粗忽第二共和制」でご教示下さったところによりますと、我が国最大の四字熟語辞典は三省堂の『新明解四字熟語辞典』。収録する項目数は五千六百。これを超えれば名実ともに日本最大の四字熟語辞典になります。
そんなわけで、皆さまふるってご参加下さい。
2013年3月29日
本日めでたく「四字熟語」の登録数が五千件に達しました。こうなったら一万件をめざしましょう。
2013年3月20日
先日『AKIRA』について書きながら気づいたのですが、2019年を舞台にしたSF作品が結構あります。
『AKIRA』の舞台は2019年の東京。『ブレード・ランナー』も2019年のロサンゼルスが舞台でした。心棒が光る傘をさして雨のロサンゼルスを行き交う人たち。空を飛ぶ自動車。人間の能力を遙かに超える人造人間〈レプリカント〉の暗躍。あれは今から六年後の世界だったのですね。
ユアン・マクレガー主演の『アイランド』も2019年。アーノルド・シュワルツェネッガー主演の『バトル・ランナー』も2019年。わたくしは未見ですが、イーサン・ホーク主演の『デイブレイカー』も2019年だそうです。
どの作品にも共通するのは、人間を物質に還元して徹底的に管理する社会を描くところ。映像上のご先祖様はフリッツ・ラングの『メトロポリス』(1929年)。グローバルな監視社会というテーマはジョージ・オーウェルの『1984年』が着想の元。Google が個人のコンピューターのデータをどんどん吸い上げて自社サービスに生かす現況を考えると、オーウェルが描いた〈ビッグ・ブラザー〉は Google ではないかとさえ思えます。
2013年3月5日
きのうIOCの評価委員が来日し2020年夏のオリンピック誘致を目指す東京の視察を始めたというニュースに接して、大友克洋のアニメ『AKIRA』に思いをいたしたのであります。
『AKIRA』の舞台は2019年の東京。1988年に第三次世界大戦が勃発して東京は核兵器により廃墟と化し、東京湾に〈ネオ東京〉と呼ばれる新しい首都が建設され復興します。やがて復興の熱は冷め、都民は現状に飽き足らなくなり各地で暴動が発生。翌年の2020年には東京オリンピックを控え、スタジアムの建設が進められます。このスタジアム建設地の地下に眠るのが〈アキラ〉でした。
東日本大震災からの「復興」を世界にアピールするためにオリンピックを開こうとする現在の東京都の目論見を三十年近く昔のコミックで予見した大友克洋の慧眼には驚くほかありません。アニメ版『AKIRA』は毎年少なくとも一度はDVDで観ておりますが、何度観ても飽きません。斬新なストーリー。微に入り細にわたった丁寧な絵。掛け値なしの傑作。
2013年3月4日
明治、大正、昭和の小説を飽かず読み続ける日々でございます。この十日間で読んだのは以下の十二作品。
このリストをご覧になって「嘘だ! 読めるはずがない!」と目を吊り上げる向きもあるでしょう。そうです、島崎藤村の『夜明け前』。なにしろ原稿用紙で二千五百枚、文庫本でも全四巻の大長編。これ一作読むだけでもゆうに一週間はかかるはず……。
お説ごもっともでございます。ではどうやって読んだか。じつはこの大長編を一冊の文庫本にまとめた『藤村の「夜明け前」 』(角川ソフィア文庫)というダイジェスト版があるのでした。よくぞ手際よくまとめたものよと感心せずにはいられない縮約版です。まずこれを読んでから、端折られた部分をオリジナル版で読む、という作業をしたのでした。読んだつもりになれる本として、このビギナーズ・クラシックはお勧め。作品の背景を説明するコラムや地図も充実しています。
2013年2月25日
明治大正の名作を読む日が続いております。今月読んだ作品は―――
二葉亭四迷おもしろい。さすが坪内逍遙の弟子。樋口一葉すばらしいよ。すばらしすぎてため息が出ます。国木田独歩はとにかく歩く。とことん歩く。泉鏡花の『婦系図』はどんな終わり方だよ! とツッコまずにはいられません。有島武郎のリアリズムは描写がしつこくてちょっと苦手。でも『カインの末裔』と『生れ出づる悩み』は馴染みのある土地が舞台なので楽しめました。荷風の『つゆのあとさき』はラストがいいなあ。
2013年2月14日
ローマ法王ベネディクト16世が退位を表明しましたが、法王や枢機卿などカトリックの要職にある人たちのきらびやかな衣裳を見るたびに思います。
「イエスが見たら何て言うだろう」
イエス自身は「教会を作れ」とは一度も口にしたことがありません。教会を作ったのはパウロでした。パウロは生前のイエスとは一面識もなく、復活したイエスにも会っていない。直弟子ではなく間接的な弟子です。
もしイエスがもう一度この世に現れて、豪華絢爛な衣裳に身をまとう法王や枢機卿に会ったら何を言うだろう。立派な身なりを祝福するだろうか、それとも虚飾を難詰するだろうか。つい考えてしまいます。
2013年2月13日
四字熟語の登録数が本日現在4963件、もうすぐ五千件に達しそうです。2001年秋に開始して以来十二年目。世の中には四字熟語の辞典がたくさんありますが、五千もの項目を扱う辞典はどこを探しても見当たりますまい。ということは、もしかすると世界最大の四字熟語辞典なのかもしれません。こうなったら夢は大きく一万をめざして、さあ、あなたも熟語を登録しましょう。
2013年2月8日
明日7日(木)深夜26時58分、つまり8日(金)午前2時58分ですが、BSジャパン「朝までシネマ」で『パンズ・ラビリンス』が放映されます。脚本、演技、演出、編集、音楽、美術、衣裳、どれも文句なし。未見の方、ぜひ録画してご覧下さい。
2013年2月6日
思いがけない機会を得て明治大正の小説を集中的に読み直す毎日です。この二週間に読んだ作品は―――
どれも面白い! 『当世書生気質』は明治の学生言葉を活写して痛快。当時の若者も「ゲットする」と言っていたのだ。『金色夜叉』はぐいぐい読ませます。さすが井原西鶴に熱中した尾崎紅葉。読売新聞連載当時に読者が続きを読みたくてウズウズしたのもうなずける。田山花袋は現今の小説のご先祖さま。しかし圧巻は森鷗外。文体はまさに鏤骨の彫琢。これしかないという言葉をここぞというときに適確にポンと使う。無駄な言葉が一切ありません。文豪はすごいよ。
2013年2月1日
毎度ご愛顧ありがとうございます。新年初売の新商品はズバリ「あんこ」です。
2013年1月4日
十五年ほど前に突然あんこが大好きになり、食べるだけではもの足りず、お正月に羊羹を自分でつくるようになるほど、今ではあんこに目がありません。
そして今年の元日を迎えたところ、なんと糸井重里さんがあんこを巡る旅をお始めになるというではありませんか。思わず「ご同輩!」と叫んでしまいました。糸井さんは「羊羹にはまだたどり着けていない」とのこと。わたくし、一足お先にたどり着いてしまいました。とはいえ糸井さんのことですからそんじょそこらの羊羹では飽き足らないはず。選りすぐりの材料でお作りになるのでしょう。
そんなわけで、わたくしもあんこを巡る旅を続けようと思います。あんこは地球を救う! たぶん……。
2013年1月2日
あけましておめでとうございます。今年も粗忽の道を究めるべく精進する所存です。皆の衆も張り切ってうっかりされたし。
2013年1月1日