- そんなわけで久しぶりの微笑問題ですが、今年もいろんな出来事がありましたね。
- 酒鬼薔薇聖斗に東電OL事件、ペルー大使館の人質事件に和歌山毒物カレー事件。よくもまあ次々と……。
- いつの話だよ!どれも十年近く前だろ。
- 何かあったっけ、今年?
- びっくりしたのは〝ホリエモン〟ことライブドアの堀江貴文社長が1月に逮捕されたことだね。
- 何で逮捕されたのかいまだによくわからないんだけど。
- 関連企業の企業買収をめぐって虚偽の発表をしたとかで、容疑は証券取引法違反。
- その程度のことなら他にも大勢やってるだろう。
- そうかもしれないけど。
- もっと悪いやつ、いっぱいいるぜ。
- 見せしめにされたっていう説もあるね。
- 結局スケートボードにされたんだよ。
- それを言うなら〝スケープゴート〟だろ!
- スケートと言えば、荒川静香がやってくれたな。
- 2月のトリノ・オリンピックだね。フィギュア・スケートで見事金メダルに輝いた。〝イナバウアー〟は流行語になったね。
- 上半身を思い切り後ろにそらした、あの安定感は素晴らしかったな。
- 確かにね。
- 人が乗っても倒れないらしい。
- そうなの?
- 「やっぱりイナバウアー、百人乗っても大丈夫」。
- それはイナバの物置だろ!スポーツの話題では3月にもビッグイベントがあったね。WBC。
- 世界ボクシング評議会?
- それも確かにWBCだけど。
- 東京ビューティーセンター?
- TBCだろ、それは!野球だよ。3月のワールド・ベースボール・クラシック。王ジャパンが見事初代世界王者になった。
- 王だけに〝王者〟になったと。
- 偶然だけどね。
- 長嶋だったら〝長者〟だぜ。
- 何でだよ!
- 落合だったら〝落ち武者〟だぞ。
- くだらないこと言ってんじゃねえよ!プロ野球では日本ハムが中日を下して44年ぶりの日本一に輝いた。
- 札幌は盛り上がったな。
- 新庄効果がすごかったね。
- なにしろ選手全員が新庄だもんな。そりゃ日本ハムも優勝するよな。
- 何だよそれ!選手全員が新庄って、意味がわかんねえよ!
- みんなこっそりゲルマニウムブレスレットしたり。
- それで勝てれば苦労はしないよ!
- 高校野球も盛り上がったな。
- 37年ぶりの引き分け再試合で早稲田実業が駒沢苫小牧を下して初優勝。斎藤佑樹投手が人気者になったね。
- うめぼし殿下だっけ?
- ハンカチ王子だ!まちがえようのないボケするな!
- だけど、いやな事件もあったよな。
- 今年はいじめを苦にした自殺が多発したよね。福岡県では中学2年の男子が、岐阜県でも中学2年の女子が遺書を残して自殺した。
- どうして死ぬのかな?
- そりゃ、死にたくなるほどつらいからだろ。
- 楽しいのにな、いじめるの。
- それはいじめる側だろ!死ぬのはいじめられる側に決まってるだろ!
- でも、〝いじめ〟っていう言葉にも問題あるぜ。
- というと?
- いじめって、実際の中身は恐喝とか強請だろ?
- まあそうだね。
- たとえ未成年であれ、犯罪は犯罪だってきちんと教えるべきだと思うな。
- なるほどね。
- わかったらパン買ってこい!
- それがいじめだよ!今年は子供が犠牲になる事件が多かったね。秋田で下校途中に行方不明になっていた小学一年の男児が遺体で発見されて、近所に住む無職の女が死体遺棄容疑で逮捕された。しかも小学4年の自分の長女まで殺していたことがわかった。
- 集団登校、集団下校が当たり前になったな。
- 不審な人物に狙われるのが怖いからね。
- そのうちトイレも集団で行ったりして。
- 何でだよ!
- 集団排尿に集団排便。
- 汚いよ!
- そもそも給食は一緒に食べるんだから、出す時も一緒がいいだろ。
- 全然よくない!
- トイレの中はぎゅうぎゅう詰めで、窒息死する生徒が出たりして。
- バカか!
- 〝いじめ〟じゃなくて〝みじめ〟な死。
- くだらないよ!まあいろんなことがあったけど、おめでたいニュースといえば何といっても紀子さまが男子をご出産したことだね。
- 皇室に男の子が生まれるのは久しぶりなんだろ?
- 父親の秋篠宮さま以来、41年ぶり。お名前は「悠仁」に決まった。「ゆったりとした気持ちで、長く久しい人生を歩んでほしい」という願いがこめられている。
- 愛子さまの女帝容認論はどうなるんだよ?
- それなんだけど、皇位継承順位は皇太子さま、秋篠宮さまに次いで悠仁さまが三番目になる。女性・女系天皇を容認する皇室典範改正案は見送られたんだ。
- でももし愛子さまが性同一障害だったら、将来性転換するかもしれないね。
- 絶対しねえよ!
2006年12月29日
2006年12月26日
志ん朝の落語をCDで聴きまくる、そんなクリスマスです。
2006年12月24日
積もっているところも
まだ降っていないところも
穏やかな冬でありますように
2006年12月21日
『FEDERICO』公演、無事終了しました。連日満席で大いに盛り上がりました。お越し下さったみなさまに感謝申し上げます。特に福岡から日帰りで観に来てくれたAさん、ありがとう。
2006年12月16日
きょうから始まる『FEDERICO』の紹介記事です。
タイトルの「舞踏団」は「舞踊団」のまちがい。しっかりしてくれよ、朝日。ぷんぷん。
2006年12月12日
小島章司フラメンコ2006『FEDERCO』、いよいよ今週です。木曜日のマチネと金曜はあいにく満席。ご来場を心よりお待ち申し上げます。
2006年12月10日
きょうから6年目に突入です。
さあ、はりきってとりかえましょう。
2006年12月7日
え!なんですって?もう12月ですよ。なのに、なのに……やわらか戦車をご存じない?それで年を越すなんて……悲しすぎます!
2006年12月3日
死にたくなることが、ときどきあります。
どこかで売ってないかなあ。頭ぶっつけ用の豆腐。
2006年12月1日
小島章司フラメンコ舞踊団公演『FEDERICO』。12月12日~15日まで、俳優座劇場です。ぜひ足をお運び下さい。
2006年11月27日
きょうから六年目に突入です。さあはりきってどうぞ。語尾を取らずに何を取れというんだ。
2006年11月24日
覚えてますか?去年の6月に紹介、秋には休止された人工知能が帰ってきましたよ。
2006年11月16日
に見えるかな?
2006年11月1日
盗聴被害に「自分はルイ14世」に電子レンジ。これっていわゆる電波系ですね。
2006年10月27日
小島章司フラメンコ舞踊団の公演『FEDERICO』のご案内です
フェデリコ・ガルシーア・ロルカ没後70周年追悼公演。特別ゲストはドミンゴ・オルテガ。12月12日から15日まで、俳優座劇場です。ぜひ足をお運び下さい。
2006年10月23日
ダメでダメでダメダメな人間だと長年自負してきましたが、こちらのダメ人間度チェックを試してみたら100点満点中48点で偏差値54.0、AからEのランクではC、総評は「中途半端なダメ人間」でした。
ダメの度合いさえもが中途半端。ますますダメで落ち込みます。
2006年10月16日
サイトを開設して六年が経ちました。これもひとえにみなさんのご愛顧のたまものです。これからもどうかご贔屓に。
2006年10月6日
に見えるかな?
2006年10月1日
16日から22日まで開催中です。詳しくはオフィシャルサイトで。
2006年9月18日
暑さも峠を過ぎ、風に秋の到来を感じる今日このごろ、みなさんちゃんと粗忽してますか?涼しくなって油断してませんか?九月は粗忽強化月間です。いま決めました。気を引き締めて、うっかりしてください。
2006年9月11日
大好きなインタビュー番組、ジェームズ・リプトンが司会をつとめるアクターズ・スタジオ・インタビュー。番組の最後は必ずゲストに10の質問をします。
みなさんはどう答えますか?わたしはこうです。
2006年9月7日
世界には立派な粗忽者がいます。機内で眠ってしまった17歳少女、お目にかかる機会があったらひしと抱きしめたい。お母さんには会いたくないです。
2006年9月6日
8月22日のごあいさつで触れたラ・オピニオン・デ・グラナダ紙の記事、入手しました。PDFファイルです。
2006年9月4日
動画がこちらで見られます。わずか1分45秒ですが、ぶっとびました。何度見てもタネがわからないよ。
2006年9月2日
理解しているつもりでも、じつは「積極的な誤解」であることが往々にしてある。難かしいよ。難かしいなあ。
2006年9月1日
バレンボイムと亡きサイードが創設したオーケストラ。団員はイスラエル人とアラブ人とスペイン人の若き演奏家ばかり。今月20日にグラナダのアルハンブラ宮殿内にあるカルロス五世宮殿の中庭で演奏を聴きました。奇をてらわない堅実な演奏でした。「異文化の共存」という文化的・政治的目的ばかりが話題として取り上げられがちですが、演奏の質がたいへん高くて感心しました。日本にも来てくれないかしら。
2006年8月30日
サウナ世界選手権に奥様運び大会。いいなあフィンランドは。行ってみたくなるじゃないか。
2006年8月27日
アンダルシアから帰ってきました。アルハンブラ宮殿があるグラナダの地元紙 La Opinión de Granada に名前が載ったよ。ネット版では残念ながら読めません。
2006年8月22日
2006年8月10日
これまでいろんなスパムメールが届いたが、今回のには驚いた。
Subject: 主人がオオアリクイに殺されて1年が過ぎました。もしやと思い Google で検索したら 64,400件もヒットした。やっぱり有名なのだな。
2006年8月04日
千葉大学が粗忽ポイント1点ゲット。あなたもぼやぼやしていられませんよ。
2006年8月02日
粗忽、やってますか?「あちゃー。やっちまっただよ」と思ったら迷わず掲示板に申告しましょう。だってここは粗忽主義貧民共和国。粗忽ポイント獲得です。ポイントは永久不滅。素敵なグッズと交換できる……かも知れません。
2006年8月01日
語尾取り同様、とりかえっ語も記念に保存しました。3月31日から今月27日まで、約四ヶ月分です。
2006年7月30日
3月3日からきのうまで、約五ヶ月間にわたる語尾取りの歴史です。読むだけで楽しいよ。
2006年7月28日
ヒトラーのトレードマーク、ちょび髭。あれはチャップリンの人気にあやかろうと生やしたものです。それに腹を立てたチャップリンがヒトラーに“復讐”したのが『独裁者』。今夜7時50分、衛星第二です。
2006年7月27日
スパムメールは相変わらずだ。毎日三十通以上届く。無修正動画がどうの人妻がどうのといったものばかりで迷わず削除するが、ときどき、え?と目を疑うタイトルがある。
「この電子メールはあなたにとって迷惑メールですか? 」
迷惑に決まってるじゃないか。電子メールとか迷惑メールという言い方が自動翻訳っぽい。日本語話者が最初から日本語で書いたとは思えない。
「迷惑メールではありません」
いや、だから迷惑なんです。
「いよいよですね・・・」
何がいよいよなのか、わからない。
「そのままがいいんじゃない?」
「なんだろ」
「大盛りご飯」
お手上げだ。
「やればできる子なんだから」
なんだか知らないが励まされてしまった。そしてきょうもスパムメールは届く。
2006年7月21日
いちばん好きな歌は何ですか?わたしは「子犬小犬のプルー」です。
2006年7月18日
2006年7月15日
私はもう、嘘をつく心には倦きはてた。
なんにも慈むことがなく、うすつぺらな心をもち、
そのくせビクビクしながら、面白半分ばかりして、
それにまことしやかな理窟をつける。
私はもう、嘘をつく心には倦きはてた。
なんにも了解したためしはなく、もとより自分を知りはしないで、
意地つぱりで退屈で、何一つ出來もしないのに
人ごとのおひやらかしばかりしてゐる。
私はもう、嘘をつく心には倦きはてた!
中原中也「嘘つきに」
『中原中也全詩歌集 上』講談社文芸文庫、p.400
2006年7月1日
こんなページもあるのでした。
2006年6月30日
久しぶりに漢字検索試験でもやってみますか?
2006年6月23日
みなさん、きょうのご予定は?
あしたは?え、まだ決まってない?
ではこちらで予定を組んでみてはいかがでしょう。
2006年6月20日
- 先生。
- ん?
- どうしたんですか。溜息なんかついて。
- ああ、ちょっとね。
- 何かあったんですか。
- 私はね、生きているのがいやになったよ。
- 何ですか、突然。
- プレスリーだ。
- プレスリー?
- 死んでるんだよ。
- 知ってますよ。それで落ち込んでるんですか?
- まさか。死んだのは1977年だ。 なのに去年一年間で5200万ドルも稼いでるんだ。
- すごいですね。プレスリーってたしか、熱烈なファンは「エルビスは生きている」って信じてるんですよね。
- 誰かが曲をカバーすれば著作権料が入るし、写真とかグッズの売上げもある。
- 誰がお金受け取ってるんですか。
- 娘のプリシラらしい。それだけじゃないぞ。アンディ・ウォーホールは1600万ドルの収入があった。マリリン・モンローも800万ドルだ。
- 人気あるんですね。
- 驚いたのはアインシュタインだ。去年2000万ドル稼いでる。
- アインシュタインって何の収入があるんですか。
- ディズニーにベイビー・アインシュタインというブランドがあるんだ。赤ちゃん用のグッズだ。あと、肖像写真の使用料もかなりあるらしい。
- そうなんですか。
- そうんですかって、君は平気か?アインシュタインが死んで、もう五十年以上なんだぞ。なのにまだ稼いでいるんだぞ。
- だってすごい人だし。
- それにひきかえ、私は生きているのに年収が百万にも満たないんだぞ。
- 較べる相手が違いすぎます。
- そうか。
- そうです。
2006年6月19日
海は、お天氣の日には、
綺麗だ。
海は、お天氣の日には、
金や銀だ。
それなのに、雨の降る日は、
海は、怖い。
海は、雨の降る日は、
呑まれるやうに、怖い。
あゝ私の心にも雨の日と、お天氣の日と、
その兩方があるのです
その交代のはげしさに、
心は安まる暇もなく
中原中也「(海はお天氣の日には)」
『中原中也全詩歌集』講談社文芸文庫、p.388-9
2006年6月01日
4月28日に産経新聞が報じたとおり、人材不足のイギリス対外情報部MI6がスパイ募集の新聞広告を出しました。
我が粗忽主義貧民共和国もスパイが不足しています。あなたもスパイになりませんか?募集要項は下記のとおりです。
希望者は市販の履歴書に写真を貼って5月31日までに送ること。写真はいかにもスパイらしい恰好で撮影すること。当選者は6月1日、本サイトで発表します。写真も公開します。
2006.5.14 ゆう粗忽天皇
昨日は喜び、今日は死に、
明日は戰ひ?……
ほの紅の胸ぬちはあまりに淸く、
道に踏まれて消えてゆく。
歌ひしほどに心地よく、
聞かせしほどにわれ湍ぐ。
春わが心をつき裂きぬ、
たれか來りてわを愛せ。
あゝ喜びはともにせん、
わが戀人よはらからよ。
われの心の幼なくて、
われの心に怒りあり。
さてもこの日に雨が降る、
雨の音きけ、雨の音。
中原中也「春の雨」
『中原中也全詩歌集 下』講談社文芸文庫、p.267-268
2006年5月7日
何年か前に「意味なし掲示板」でやった遊びです。
なるべく単純なキーワード三つを Google で検索し、たった一件だけヒットさせる。これがなかなか難しい。たとえば、
6件ヒットしてしまいました。
これでも2件。
やりました。1件です。
いかにも奇をてらった言葉ではなく、なるべくシンプルでよく使う言葉で探す。これがポイントです。
2006年4月26日
春は土と草とに新しい汗をかゝせる。
その汗を乾かさうと、雲雀は空に隲る。
瓦屋根今朝不平がない、
長い校舍から合唱は空にあがる。
あゝ、しづかだしづかだ。
めぐり來た、これが今年の私の春だ。
むかし私の胸搏つた希望は今日を、
嚴めしい紺靑となつて空から私に降りかゝる。
そして私は呆氣てしまふ、バカになつてしまふ
―――藪かげの、小川か銀か小波か?
藪かげの小川か銀か小波か?
大きい猫が頸ふりむけてぶきつちよに
一つの鈴をころばしてゐる、
一つの鈴を、ころばして見てゐる。
中原中也「春」
『中原中也全詩歌集』講談社文芸文庫、p. 34-35
2006年4月25日
- ねえ。
- 何?
- ここって、更新されないの?
- え?
- ここ。この、小さいウィンドウ。
- 僕たちがいましゃべってる、ここ?
- うん。
- されるんじゃないの?最近はお休みみたいだけど。
- じゃあさ、場所借りちゃっていいよね?
- え?
- ちょっと宣伝したいんだよね。
- 何の?
- 映画。
- ふーん。すれば?
- あのね、ホルヘさんに教わったんだけどね。『蟻の兵隊』っていうの。
- 蟻の兵隊?
- そう。ドキュメンタリー映画。あのさ、1945年8月15日に日本は敗戦したでしょ。
- したよ。
- ところがね、戦争続けてた人がいるのよ。
- 誰?
- 中国の山西省に駐屯していた北支方面軍第一軍の兵士なんだけどね。日本に帰還しないで、軍務命令でそのまま戦争を継続させられたの。でね、中国の国民軍に売られちゃったの。
- 国民軍?
- うん。でね、共産軍と四年間戦わされたの。二千六百人くらい。
- ふーん。
- でさ、戦死者もいっぱい出たんだけど、生き残った人たちがね、日本に帰国したわけ。
- うん。
- ところが日本政府は冷たいのよ。「自主的に国民軍に加わった」として、軍籍は認められなくて、戦後補償もまったくなかったの。
- へえ。
- そういう人たちの映画。
- どこでやるの?
- いまのところ東京と大阪。東京は7月22日から27日まで、イメージフォーラム。大阪は第7芸術劇場、時期は未定だけどだいたい同じころの予定。
- ふーん。暇だったら観てみるかな。
- 「蟻の兵隊を観る会」っていう人たちが企画してるんだけど、8月いっぱい上映したいんだって。でも予算がないんだって。
- うん。
- だから、ネットでどんどん宣伝して欲しいんだって。アドレスは http://www.arinoheitai.com/。 そういうわけだから、じゃあね。
- じゃあねって、どこ行くの?
- どこだっていいでしょ!
- 別にいいけど……ところで、そもそも、僕たち、誰?
- いいじゃない、そんな細かいこと……。
- 細かくないと思うけど。
2006年4月19日
「人の好みはさまざまだから何ともいえないが、私は『薄情』というのが好きだ。人にも時代にも、余り親しく寄りそわない。同窓のよしみで旧交をあたためるなど、したことがない。教え子とか師弟といった関係を好まない。そんなふうに言われたくないし、自分でも使ったことがない。編集者といわれる人とのかかわりも同じで、会えば対等であり、仕事の終わりが縁の切れ目、記憶のなかにとどめていればいい」
池内紀「『薄情』なやめ方」『遊園地の木馬』みすず書房、1998年、154-155ページ
2006年4月8日
伊東 では第五回夢の品評会を始めたいと思います。
戸塚 きょうは三波さんだったね。
伊東 ええ。では三波さん、よろしくお願いします。
三波 よろしくお願いします。
伊東 いつの夢ですか。
三波 いつにしようか、いろいろ考えたんですけど、先月の21日、これにしました。
戸塚 21日か。春分の日だ。
伊東 大安だったんじゃない?
戸塚 え?そう?
三波 うん。大安だった。
戸塚 期待できそうだな。
伊東 では、夢のあらましからお願いします。
三波 あの日はいつもどおりビールを三本空けて床に就いたんだ。
戸塚 ビールの話はいい。夢だよ、夢。
三波 わかってるよ。最初に覚えているのは、水のないプールに飛込もうとしてるんだよ。
伊東 ひとりで?
三波 いや、各レーンに選手がいて。ほら、オリンピックみたいに。
戸塚 水はないのか?
三波 ないんだ。空っぽ。で、飛び込む。
戸塚 飛び込むったって、がらんどうのコンクリートの箱だろ?
三波 うん。それがね、他の選手はちゃんと泳いでるんだ。
伊東 ちゃんとって?
三波 だから、まるで水があるみたいに、スイスイと。
伊東 ふーん。でも水はない?
三波 ない。で、僕だけスタート台に立ったまま眺めている。
戸塚 だらしがないな。
三波 誰が?
戸塚 お前だよ。
三波 どこがだらしないんだよ?
戸塚 だってそうじゃないか。俺たちは夢見のプロだよ?それを、ただ眺めていましたって、ガキの遣いじゃあるまいし。
伊東 まあまあ、とりあえず続きを聞きましょう。
三波 終わり。
戸塚 え?
三波 終わりです。
戸塚 じゃあ、ただ眺めてただけ?
三波 あとは覚えていない。
伊東 これは、夢としてどうなんでしょう……。
戸塚 君の夢は、根本的にまちがっているね。
三波 まちがってるって、どういうことだよ?
戸塚 夢としてのリアリティーがない。なんか、適当に考えてきましたって感じがする。
三波 見た本人が見たって言ってるんだから、これほど確かなことはないだろ。
戸塚 そこがかえって怪しいんだよ。しかも安易だ。水のないプールは満たされない心、ひとりだけ泳げないのは不能を表している。こんな単純な夢は、夢の風上にもおけないね。批評するにも値しない。
伊東 でも、ある意味、波瀾万丈のストーリーよりはリアルだと言えなくもないな。
三波 言えなくもないって、どっちなんだよ。
戸塚 言えないってことだよ。プロのドリーマーとして、もっとちゃんとした夢を見てもらいたいもんだ。
三波 そういう君こそ、このあいだの夢はなんだ。
戸塚 なんだよ?
三波 「ナンバーズ4が当たって焼肉屋でお祝い」って、そんなみみっちい夢見て、僕は情けないよ。
戸塚 いいじゃないか。僕の夢は写実主義的だからね。徹底したリアリズムに特徴がある。
伊東 自分で言ってりゃ世話はないな。
戸塚 その点、君の夢は、まあよく言えばロマン主義的、悪く言えば構造的に破綻してるね。
三波 破綻していない夢なんてあるものか!
戸塚 そこが君のドリーマーとしての未熟さだよ!
三波 なんだとッ!
戸塚 お、やるかッ!
伊東 えーそろそろ時間になりました。続きは第六回でということにいたします。
2006年4月1日
Q 化学情報協会 (JAICI) とはどういう団体ですか?
A 化学情報協会にお問い合わせ下さい。
Q どうして雪は降るの?
A どうしてもです。
Q リバース エンジニアリングすると、論理モデルのオブジェクト名と物理モデルのオブジェクト名が同じですが、論理モデルのオブジェクト名を変更する簡単な方法はありますか?
A 勘弁してください。
2006年3月29日
なんとなくアクセスカウンターに眼をやったら、いつの間にか20万を超えているではありませんか。
だからどうするということもなく、これからもぼちぼちやってまいります。
2006年3月24日
大滝詠一『A LONG VACATION』が発売されたのが1981年3月21日。何度針を落としたことか。「針を落とす」はもう死語でしょうね。
2006年3月21日
「フランス語は数を勘定できない」から国際語として失格だとかなんとか、石原都知事が発言して物議をかもしたことがありました。あちこちで反論の声が上がりましたが、じゃあ日本語はどうなんだ、日本語はちゃんと数が勘定できるのか、そんな議論はあったでしょうか。
イチ、ニ、サン。
これは中国語の数え方を取入れたものですね。もともとの日本語だと、ひとつ、ふたつ、みっつ、でしょう。
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、むっつ、ななつ、やっつ、ここのつ。とお。
さて、その次です。
ジュウイチ、ジュウニ、ジュウサン……。
また中国語が出てくる。
日本語は「十までしか数えられない言語」ではないでしょうか。
2006年3月1.日
フランス映画『真夜中のピアニスト』がセザール賞の八部門を獲得した。どこかで聞いたようなタイトルだ。ロマン・ポランスキーの『戦場のピアニスト』があったじゃないか。フランスとポーランドの合作でカンヌ映画祭のパルムドールである。その前には『海の上のピアニスト』があった。イタリア映画だ。
これだけピアニストが重なるのにはそれなりの理由があるのだろう。
「ヨーロッパ人はピアニストに弱い」
ピアニストというだけでヨーロッパ人は「ああ」とか「おお」と感慨をもよおす。海の上のピアニストだったりすればもう涙がとまらない。戦場と来た日には滂沱の涙だ。それに較べて「真夜中」はどうもインパクトが弱くはないか。そりゃ夜中に弾くやつだっているだろうさ。たいていは近所迷惑だ。『真夜中のピアニスト』が近所迷惑な人間の話なのかどうか、あらすじさえ知らないので何とも言えないが、ここで思い出さずにいられないのが去年ちょっとしたニュースになった、あの男のことだ。
「ピアノマン」
イギリスの海岸で全身ずぶ濡れで発見された、正体不明のピアニストだ。ひとことも口をきかない。その代わりピアノの腕前がすごい。記憶喪失らしいが、どうも妙だと、すぐ人びとは気づいた。どこかのプロデューサーが仕掛けた新手のやらせではないかとか、そんな風説が出回ったが、結局は記憶喪失のふりをしていた精神病患者とわかり、つまりは噂どおりだった。がっかりである。
だがこのニュースは重要な教訓を残したのであって、それは彼がピアニストではなくピアノマンと呼ばれた、ということである。ビリー・ジョエルに「ピアノマン」という歌があるが、それと関係があるのかないのか。あるような気がする。というのは、ピアニストよりピアノマンの方が俗っぽくてくだけた感じがするからであり、さらに近年のビリー・ジョエルがちょっとどうかと思うくらいにみっともなく太っているからである。だらしない肥満ぶりなのだ。
やらせじゃないかと思ったら本当にやらせだった。だらしない男だ。ピアニストではないがピアノを弾く。だからピアノマン。ピアニストが正装ならピアノマンはカジュアルだ。ピアニストがバッキンガム宮殿ならピアノマンは浅草花やしきである。だから、エッセイストではないがエッセイを書くだらしない者はこう呼ばれるべきだ。
「エッセイマン」
尊敬したいという気持ちになれない。なにしろエッセイマンだ。ふざけている。「ちょっとエッセイなんかやってます」とでも言いたげな、実にどうもいい加減なやつである。どんな風にいい加減か。とるに足らない日々の暮らしをつづる、ただそれだけでは、エッセイマンではない。
「セーターのボタンがかけちがっている」
だらしない。ああ、なんてだらしがないんだ。ボタンがずれたまま、彼はそのことに気づかず、身辺雑記を書きなぐっているのだ。そして私は靴下を左右逆にはいてこれを書いている。
2006年2月28日
防衛施設庁談合。まったくもう。開いた口がふさがらない。
ぷんぷん。
2006年2月27日
- 先生。
- ん?
- モーツァルトですよ。
- モーツァルトがどうした。
- 生誕250年です、今年。
- そうなのか。
- モーツァルトを聞くと頭がよくなるんですよ。
- え?
- トマトもおいしくなるんです。
- モーツァルトを聞くと味が変わるのか。
- トマトに聞かせるんです。
- そんな馬鹿な話があってたまるか。
- 牛乳もよく出るんです、牛に聞かせると。
- 妙な話だな。
- でも本当らしいです。
- 世界でいちばんモーツァルトを聞いたのは、モーツァルトだろう。
- はい?
- いや、だから、ウォルフガング・アマデウス・モーツァルトだろう、モーツァルトの曲をいちばん聞いたのは。
- そうかもしれませんね。
- あいつが、世界一の頭脳の持ち主だと、君はいうのか。
- そういうわけじゃ……。
- だってそうなる理屈じゃないか。『アマデウス』を観たか。
- 映画ですか。観ましたけど。
- ケラケラ笑っていたぞ。人前でオナラもする。
- あれは映画です。
- あの男にパレスチナ問題が解決できると、君はいうのか。
- 別にそんな……。
- 世界中の知識人が頭を悩ませているのに解決の糸口が見えないパレスチナ問題だぞ、それを解決させてこそ、頭のいい人間じゃないのか。
- でも、馬鹿ではなかったと思います。
- 「頭がいい」というのがどういう意味か、定義する必要がある。
- そうなんですか?
- 糸井重里がこんなことを言っていた。なにか面白い遊びを考えつける人、それが頭のいい人だって。
- あ、なんかわかります。
- モーツァルトも、どっちかっていうと、そういうタイプじゃないのか。
- そんな感じですね。
- 君もモーツァルトを聞きたまえ。
- どっちなんです!
2006年2月22日
- きょうのゲストは、挫折一筋四十年、挫折家のオチアイケンジさんをお迎えしております。オチアイさん、よろしくお願いします。
- こちらこそ、よろしく。
- さっそくですが、オチアイさん。
- はい。
- “日本初の挫折家”でいらっしゃるオチアイさんですが、どんなお仕事なのですか。
- そうですね。簡単に言えば、挫折するわけです。
- 挫折といってもいろいろあると思うんですが……。
- きのうの夜、7時に目覚ましをセットしたんですね。
- ええ。
- ……。
- セットして?
- ……。
- オチアイさん?
ここまで考えて、あまりのつまらなさに書くのがイヤになりました。だったら書かなきゃいいのに。
2006年2月14日
- いやア、えらい目におうた。
- どないしたんや。
- どないもなにも、えらい目や。
- えらい目だけじゃ分からん、ちゃんと説明してくれなア。
- よく冷静でいられますね、僕がこんな目におうてるちゅうに。
- だから説明してくれなア分からん。
- そこまで言うなら話したるわ。
- そこまでって、何も言うてへんがな。
- 君は僕が心配じゃないンか。
- 心配もなにも、何があったのか言ってくれんと。
- えらい目です。
- それはもう分かったから、順番に話してや。
- 今朝のことや。
- 今朝?ああ、そう言えば、君、朝方家におらんかったな。
- 何です。
- いや、朝方家におらんかったやろ、て。
- 何で知ってるねん。
- 何でって、電話したら誰も出エへんかったからや。
- 君、電話かけてきたの。
- ああ。
- どうやって。
- ……どうやってって、ウチから君ンとこにかけたンや。
- 君ンとこ、電話あるの。
- ……。
- 君ンとこ、電話あるの。
- あのなア、何年一緒に仕事してるねん。
- かれこれ百五十年になりますか。
- なるかい!○○年や。
- はア、もう○○年ですか。
- ○○年一緒に仕事して、ウチに電話があるかどうかも分からンか。
- 分かりません。
- あるに決まってるやろが!しょちゅう電話で話しとるやろ。
- 話してますが、君ンちに電話があるかどうかは、知らん。
- あるから、ウチからかけられるンやろが。
- そうとは限らンで。
- 何でや。
- 公衆電話からかも分からん。
- なんでいちいち公衆電話からかけなアカンねん。
- 電話がないからや。
- あるワ。
- ホンマか。
- ホンマや!だいたい、電話かけたいときにいちいち公衆電話行かなアカンかったら、面倒でしやアないやないか。
- だからいつも大変やなア思うて同情しとったところや。
- ンなアホな。
- 電話かけるたびに峠を越えるのは、さぞかし難儀やろなア、五キロの山道はしんどいで、もう若くないんやし。
- 僕はどこに住んどるンや。
- 電話線、引いてるか。
- バカにしとんのか。電話があるンやさかい、電話線、引イとるに決まとるやろ。ンなもん、子供でも分かる理屈や。
- ほう、そうですか。
- 当たり前や。
- では伺いますが。
- 何や。
- 携帯電話って、ありますな。
- ああ、あるよ。最近、仰山売れとるらしいなア。
- 売れてます。
- 売れとるねエ。街歩いてると、交差点なんかで耳にあてて話してるサラリーマン、よう見かけるようになったワ。
- よう見ますナ。
- 人によっては電車の中でも平気で喋っとる。座ってると、いきなりピピピーや。
- はア。
- いや、はアって、ピピピーやがな。
- 何や、警察かい。あんた、また何か悪さしよったか。食い逃げでもしたンか。
- あのナ、何で警察が出てくンねん、携帯電話やがな、鳴るやろ、ピピピーって。
- そうですか。
- 君、知らんのとちゃうか。
- 知ってまンがな携帯電話くらい。
- ほなピピピ!って鳴るやろ。
- さよか。
- さよか、て、鳴るやろが。ホンマに知っとンのかいな。
- 僕の知ってるのは、ルルルーや。
- ルルル?まア、ルルルでもええがな。色んな種類があるんやろ。ホンでな、座ってると、鳴るわけや隣で、ピピピー。
- ルルルー。
- ええやろ、どっちでも!ほなルルルーにしといたるワ、ルルルーて鳴るわけや。何や思うたら、これがその携帯電話や。隣に座ってる若い女性が、バッグから出して、あれは待ち合わせの確認かなア、友達と大きな声で話し出すこと、ようあるで。
- あるある。
- びっくりするわナ。
- で、君のはどこのメーカーやねん。
- 僕は持っとらンよ。
- え?持っとらンの。
- 持っとらンがな、あんなモン必要あらへん。
- 必要ないか。
- ああ、あらへん。
- でも、ないと不便やろ。
- 何でやねん。別に会社の営業マンみたいに外を歩き回る生活じゃあるまいし、欲しいと思わん。
- でもあると便利やで。
- そうか。
- そらそうや、峠の向こうの公衆電話に行く途中で、急ぎの電話をかけられるがな。
- アホか。携帯電話があるんなら、なんでわざわざ峠の向こうの公衆電話まで行かなアカンねん。
- せやから言うてるやろ、なんで携帯電話買わへんのや、て。
- 要らンわい!ウチには電話がある。
- あるの?それハヨ言ってエな。で、電話線は引いてるの。
- 引いとるに決まっとるやろが!アホか!何度同じ話させたら気イ済むんや!
- それはこっちの台詞です。
- なにおオ。
- 携帯電話を持っているのか、いないのか。
- ……。
- 携帯電話があれば、電話線は要りまへん。
- そらそうやがな。
- だから、お宅の電話は携帯電話かどうかと、こう訊イてンのやないかい。
- ウチの電話が携帯電話かどうか……。なんや、そンなことかいな。
- そンなことかいなって、もう長いことかかってるよ、この話題で。
- 僕が出不精なの、知っとるやろ。仕事のないときは、たいていウチにおる。
- そうですなア。
- おまけに機械音痴や。
- そうそう。音痴やでエ、君ンとこのラジオ。
- 何ですか。
- 君ンとこのラジオ、よう歌、歌わん。とくにイカンのが『津軽海峡冬景色』や。いいとこにくると、ギーギーガーガー言いくさる。
- そら、君がダイヤルをきちんと合わせンからや。
- さよか。
- その音痴やない。……機械音痴、分からンか、要するに、最近の機械はボタンやつまみが仰山ついとるやろ。
- はい。
- あれがアカンのや。目が回って、どれがどれだかよう分からん。
- ほう、回りますか、目が。
- ……言葉の絢やで。ホンマにぐるぐる回るンとちゃうで。
- 当たり前やがな。そんな、ぐるぐる回る目エがあってみい、気色悪くて誰もそばに寄りつかん。
- だったらいらんこと言うな。
- はア。
- せやから、携帯電話なんてようついていけヘンし、必要もないわけや。昔からのフツーの電話で充分ですワ。
- さよか。
- ああ、フツーのでええ。
- 君、珍しい人ですね。
- そら、今どきフツーの黒電話は珍しいかも分からンけどなア。
- 僕は繋がる電話じゃなきゃあきまヘン。
- なにイ。
- よう、繋がらン電話で用が足せるね。
- 昔からある、フツーの黒電話やで。確かに古いが立派に使えるがな。
- フツーの電話で繋がりますか。
- 繋がるよ。だから、しょっちゅう君とも話してるやないかい。
- 不通の電話で。
- ……。
- 不通の。
- 君、「普通」やで。「不通」とちゃうで。
- だから、「不通」でしょ。
- 「普通」や!どこにでもある、当たり前の電話や。
- なんや、「普通」かいな。わてはてっきり「不通」かと思ったがな。「普通」なら「普通」と、最初から言うてエな。
- 言うとるやろが!何の変哲もない昔からの普通の電話や。
- ほう、まだ使えますか。
- どっこもおかしいとこ、あらへん。
- ホンマ。
- ホンマや。
- その電話、受話器はついて……。
- 当たり前や!もうこの話はええ加減にせエ。
- で、何の用や。
- 何が。
- 用事は何やちゅうねん。
- 何の。
- もう忘れたンか。さっき君、言うたがな、今朝電話かけてきたンやろ。
- うん、今朝かけたよ。
- だから何の用があってかけてきたンやて訊イてンのや。
- そら、今日の仕事のことに決まっとるやないか。仕事がある日は毎朝、電話で打ち合わせをしとるやろが、だから今日の舞台のことで、かけたわけや。そしたら、君、おらんかったやろ。
- どうして、いないと分かる。
- 出エヘンかったやろ、電話に。
- 出ませんよ。
- だから留守やったな、言うてンのや。
- 家におらンかったわけではありません。
- どないしたんや。
- 出られなかったんです。
- なンで。
- えらい目におうたんです。
- ……やっと振り出しに戻った。だから何があったのか、さっさと言わンんかい。
- 君、腰抜かしたらアカンで。
- 何や知らンが、物騒な話やな。どないした。
- では、お話しします。
- 何があったんや。
- 実は、クリントンさんに招ばれて、コッカイでトウベンせなアカン羽目になりまして、そらもうエラい目に……。
- おい、もう一辺言うてみイ。
- せやから、クリントンさんに招ばれて、コッカイでトウベンせなアカン羽目になりまして……。
- (また始まったという顔で)話がメチャクチャや。嘘ばっかり並べて。アレか、仕事、したくなかったンかい。
- 嘘とは何です、人聞きの悪い。
- 誰が信じるかい、そんな話。
- 本人が言うてンのやから、これほど確かなことはないでしょうが。
- そのホンニンが怪しい人間や。
- やめた。
- 何が。
- 話してやらん。
- 怒ったンかい。
- 怒った。
- 怒らんでもエエがな。
- いくら僕が日本の聖母マリア様と、崇め奉られているとはいえ、怒るときは怒りますよ。
- 何で君が聖母マリアやねん。
- もう去年のこと、覚えとらンの。
- 去年。
- 年の暮れや。
- 何かあったか。
- 贈ってあげましたやろ。
- 僕が君に何かもろうたか。
- これやから歳は取りたくないねえ。ボールを贈りましたやろ。
- ボール?ボールて……ああ、孫にボールをくれたなア。
- 鞠で遊ぶようになったと聞いて、すかさず贈ったったンねん。
- すかさず、って大袈裟やがな。でもまア、ありがたかったワ。
- あれ、お歳暮やねん。
- あのボールが。
- はい。
- そら知らなんだワ。君からお歳暮もろうたことなんてなかったからな。
- お歳暮に鞠を贈ったわけです。お歳暮の鞠……歳暮の鞠……聖母マリア。
- なンやシヤレか。
- で、そらもうエラい目におうたわけや。
- 訊くだけバカバカしいワ。君がアメリカの大統領に招ばれるわけ、あらへんがな。
- 何の話です。
- 何の話て、今、言うたやろが。
- 何て。
- アメリカの大統領に招待されたンやろ。誰が信じるか、そんな法螺話。
- 誰がアメリカの大統領に招ばれンねん。
- 今、君がそう言うたやろが。
- 言いませんよ。
- ……とうとうボケよった。君、気イつけや。自分は大丈夫思うてても、ボケはよう防げンさかいな。
- ボケとは何です。君、失礼ですよ。
- クリントンに招待されたンやろ。
- そうですがな。回覧板回ってきてな。
- 君、自分で喋ってること分かってンのか。アメリカの大統領が何で君ンとこに回覧板回さなアカンねん。
- 君、さっきからアメリカの大統領、アメリカの大統領て九官鳥みたいに繰り返してるけど、何のこっちゃ。
- クリントンたらアメリカの大統領や!ビル……クリントン!知らンのかい。
- ああ、ビルかいな。ビルのこっちゃあらへんがな。ビル、ビルって、ビビルでしかし。
- しょうもないこと言イなさンな。ビルやないンか。
- ビルやあらへん。平屋や。
- 何やて。
- せやから、ビルやのうて、平屋ですねん。
- 誰が。
- クリントンやがな。
- ああもう!何の話や、さっぱり分からん。
- せやから、裏の平屋に住んでるクリントンから回覧板がきたんです。
- 裏の平屋て、君ンとこの裏に住んどるのは木梨さんやで。
- そうですよ。
- ほな、何でクリントンやねん。
- 木梨さんの奥さん、甘党でンねん。
- はじまったでエ。また分からんわ。
- あそこの奥さん、甘党で、何が好きといってクリキントンにはもう目がないンや。
- ほオ、あの奥さんが。クリキントンに目がない。
- こないだも、僕がハワイに行った土産にクリキントンを持っていったら、そらもう喜んだのなんの……。
- 何でハワイ土産がクリキントンやねん。第一、君、ハワイなんて行ったことないやろ。
- とにかくクリキントンが好きなわけや。
- それでどうした。
- だからクリントンやがな。
- おい待て。クリキントンやろ、今の話は。
- そうです。
- クリキントンとクリントンは、全然ちゃうやろ。
- 木梨さんの奥さんでっせ。
- 分かっとるよ。
- 木梨ですよ。
- そうや。
- クリキントンがキナシで……クリントンやがな。
- なんや、シャレか。
- で、夕べ、回覧板が回ってきましてな。
- 木梨さんの奥さんから。
- はア、クリントンから。
- もうエエて、それは。
- 木梨さんの奥さんのクリントンから回覧板がきたわけや。
- で、どないした。
- こない書いてまンのや。「明日の午前十一時、ショウニンカンモンがありますのでコッカイでトウベンされたし、つきましては……」。
- 何イ。
- コッカイでトウベンせエ言われたら、よう断れませンがな。
- バカも休み休み言イや。
- ほな一服させて……。
- 休むな!よく考えて物を言えちゅうねん。
- 考えるも考えないも、そない書いてたンやから、しゃーないでっしゃろ。
- 君、いつから国会議員になったンや。
- 何です。
- まあ、最近はタレント議員とか言うてなア、芸人やタレントが立候補して国会議員になる人もようけいおるワ。
- おりますなア。
- 青島さん然り、横山ノックさん然り。二人とも、今や東京都知事に大阪府知事や。
- エライこっちゃ。
- エライこっちゃとは何です。ちゃんと選挙で選ばれたンやから、問題あらへん。
- さよか。
- そらそうや。伊達や酔狂でやってんのとちゃうンやから。
- 無責任男やで。
- 誰が。
- 青島さん。
- あれは芸や。都知事の仕事は無責任では務まらんワ。
- もう一人はタコ坊主でっせ。
- タコ坊主て……人の風貌をとやかく言イなさンな。
- 大阪はタコに乗っ取られた。
- もうエエ。
- はよ巨人の松井に引退してもらわな。
- 何で松井が出てくンねん。
- タコの化け物でっせ。ゴジラに退治してもらわな。
- アホか。そんなしょーもない話はどうでもエエ。問題は君や。
- 何ですか。
- せやから、いつから国会議員になったンやて、訊いてンのや。
- 僕が何で国会議員やねん。
- ちゃうンかい。
- 僕ら、もう何年一緒に仕事してると思うねん。
- さっき言うた。
- 百五十年……。
- もうエエ。
- 長いこと一緒に仕事して、僕が国会議員かどうかも、君、分からンか。
- 分かってるよ、分かってるけど、君が……。
- ……とうとうボケよった。気イつけや。
- そらこっちの台詞じゃ。
- 国会議員なんて、よう立候補せん。
- まアな、そんな柄やないわな。
- 選挙運動せなアカン。
- そらそうや。
- 選挙カーで街中、ぐるぐる回って。
- そうや。
- 車の上に乗って。
- そうそう。
- 肩からタスキかけて。
- 夢路いとし、て書いてな。
- 白い手袋はめて。
- あア、何や知らンけど、皆はめとるなア。
- 隣に若い女の子立てて。
- 若い女の子?ああ、鴬嬢言うンかいな、ようおるわ、若い女性がマイクもってな。
- 若い女の子、右隣に立たせて。
- 右でも左でもどっちゃでも構へん。
- 右にも左にも。
- わがまま言イなさンな。
- 前にも後ろにも。
- 君が見えヘンやろ。
- まわりにびっしり女の子並べて。
- 何考えてンのや。
- マイクで人民に呼びかけるわけや。
- ジンミンてな言い方があるかい。まア、町内の人にアピールするわけやな。
- 町内の人に呼びかけるわけや。
- そうそう。
- 「ご町内のみなさま」。
- ご町内のみなさま。
- 「毎度お騒がせしております」。
- そうや、謙虚に行かなアカン。毎度お騒がせしております。
- 「夢路いとしでございます」。
- 名前を売るのがいちばん大事や。夢路いとしでございます。
- 「夢路いとしでございます」。
- 夢路いとしでございます。
- ご家庭でご不要になった古新聞、古雑誌がございましたら……。
- そら、チリガミ交換や。
- 選挙なんてようやらん。
- まア、君には向いてないな。
- せやのに、何で僕が国会議員やねん。
- 君が言うたがな、国会で答弁するて。
- 何で僕が国会で答弁せなならンねん。何も悪いことしてませんよ。絵に描いたような清廉潔白の好男児や。
- ……好男児ちゅうのは余計やけど、ま、悪さする人間やないワ。
- 当たり前です。たまに、悪戯するくらいで、それも他愛ないモンや。
- 悪戯って、どんな悪戯や。
- 向かいのお宅の三毛猫つかまえて。
- 猫つかまえて、どないするねん。
- 尻尾にロケット花火くくりつけて火イつけるだけのことです。
- 立派な犯罪や!動物虐待やで。エエ歳してみつともない真似しなさンな。
- こんな幼気なボクがですよ。
- 幼気。
- 何で答弁せなならンわけですか。
- それを訊いてンやないか。
- 僕が言うてンのは、コッカイでトウベンや。
- せやから国会で答弁やろ。
- ちゃいまンねん。
- 分からん。
- そうそう、言い忘れましたけど、裏のクリントン、ああ見えても冗談が好きでンねん。
- あの木梨の奥さんが?冗談好き?そら知らなンだワ。いや僕はあんまりお話ししたことはないけども、いつも居ずまいがキチンとして、見るからに真面目そうな人やけどなア。
- せやから人は見かけによらンちゅうことや。
- ホンマやねエ。
- 旦那さんは芸人さん。
- え!木梨さんとこの旦那さん、芸人やったの?ちっとも知らなんだワ。
- 人を見かけで判断してはいけません。
- そらそうや。
- 君は到底信じないかも分からンけど、こう見えても僕かて、女子高生に毎日キャーキャー言われてンねんで。
- ンなことあるわけないがな。
- 人を見かけで判断してはあきまヘン。
- 君が?女子高生にキャーキャー言われてる?毎日。
- もう、毎日やねエ。
- あのなア、今の女子高生にいちばん人気があるのは誰か、知っとるか。
- 知らん。誰や。
- なんや、知らんのか。若い子のことも知っとかんと、取り残されるだけやで。
- もうすっかりあきまヘン。すき焼きの残りのシラタキみたいなモンやねエ。
- そないに卑下することもあらヘンけどな。キムタクや。
- あァキムタクね。僕のことや。
- 何で君がキムタクやねん。
- 何や知らンけど、最近女子高生にキムタク、キムタク、て呼ばれますねん。
- キムタクやで?分かってンの。
- 僕はよう知らんのやけどね。
- ほな教えたるワ。若い二枚目のタレントさんや。
- 長谷川一夫みたいなモンか。
- 古いねエ、君も。まあ現代の長谷川一夫みたいなモンや。木村拓哉ちゅうタレントさんや。略してキムタク。
- ほう、木村拓哉がキムタク。
- そうや。
- ほな、君はさしずめキミコやね。
- 何で僕がキミコやねん、女性の名前やろ。
- 喜味こいしを略して、キミコ。
- ヘンなところで切りなさンな。
- そうすると、僕の幼なじみはミズタマリやね。
- 水たまり?けったいな名前やなア。
- 水田真理子さんやから、ミズタマリや。
- 別に略さんでもエエがな。
- 向かいの家の娘さんは、ハナミズ。
- 鼻水。
- 花田みずき、ゆうねん。
- 略さんでエエ。
- そのお隣りさんが、ベンジョや。
- 便所!どんな名前や。
- アメリカ人のご夫婦でね。旦那さんの名前が、ベン……ジョー言いまンねん。
- そのまンまやな。そんな話はどうでもエエ。君が女子高生にもてるわけあらヘン。キムタクはどこ行ってもキャーキャー言われンねんで。
- 問題はそこや。そこが僕とキムタクとの違いや。
- 何や。
- キムタクはどこでもキャーキャー言われまンのやろ。
- そうや。
- 僕の場合は、条件がありまンねん。
- 条件。
- どこでも、ちゅうわけではないねん。
- つまり、どこでもモテるわけやないけど、どつかでキャーキャー言われると、そういうことかいな。
- そうでンねん。
- どこでキャーキャー言われるンや。
- 夜道で。
- 夜道。
- 仕事が終わって、電車で帰りますね。
- そら僕たちは仕事が終われば電車で帰りますよ。
- 帰りはたいてい夜や。
- まあ、必ずというわけではないけれど、夜になることが多いわナ。
- 駅からの帰り道、トボトボと家路につきます。
- なんや佗びしいね。トボトボと。まアええワ、トボトボと家路につく。
- 辺りはなぜか真っ暗。
- そら夜やから暗くて当たり前や。
- すると目の前に女子高生が、なぜか僕とぴったり同じ速度で歩いているンや。
- ぴったり同じ速度。
- そうでンねん。それも毎晩や。
- そら、おかしいで。なんぼなんでも毎晩女子高生が君の目の前を歩くわけ、あらヘンがな。
- それがなぜか、毎晩必ずいるねん。
- けったいな話やなア。
- しかも、僕が角を曲がると、その子も必ず同じ角を曲がりよるねん。もうひとつ角を曲がると、その子も曲がる。別の角を曲がると、やっぱり曲がる……。
- 途中でその子、後ろ、振り向かンか。
- そうでンねん、振り向きまンねん。
- で、また暫くして、振り向いて……。
- そうそう。
- で、しまいには、キャーいうて叫んで駆け出す……。
- なんや、君も同じ目におうてンか。
- そら君、変質者や!誰だって薄気味悪いワ。君、毎晩そんなことしとるンか。
- せやかて家に帰るんやから、しやあないがな。
- そらまあそうやけど。
- 最近やっと謎が解けまして。
- どないした。
- その子、ウチの孫娘やった。
- なんや、君、自分とこの孫、追っかけてたンかい。なら帰り道が一緒なのも不思議やないワ。
- せやから、最近、煙たがられてまンねん、顔会わすたんびに、ケムタク、ケムタク言うて。
- そらキムタク違いや!それはエエから、国会の答弁はどないした。
- それでンがな。夕べ帰ったら、回覧板がきて。
- それはもう聞いた。
- ショウニンカンモンや。
- それが分からん。
- ショウニンカンモンやで。
- 何遍言われても分からん。なんで君がショウニンカンモン受けなアカンねん。
- 僕じゃありませんよ。ジョニーでんがな。
- 誰や、そのジョニーちゅうんは!お向かいさんのお隣りさんか。
- あれはベンジョ。
- もうエエ。
- ベン……ジョーさんやなくて、ジョニーや。ウチの犬や。
- 犬?ジョニーて、犬の名前か。
- そうです。
- 君、犬なんて飼うてんの?いつから。
- 最近、孫娘が友達に譲ってもろうて。
- そら知らなンだ。でその犬が。
- ジョニーが。
- 犬のジョニーが、なんで証人喚問受けンねん。
- 何言うてますの。ジョニーちゅう犬が我が家に来ましてンねんで。
- そうや。
- ジョニーゆうくらいやさかい、日本の犬じゃありませんよ。
- まア、日本は昔からポチとかシロとかつけることが多いわナ。
- ジョニーはアメリカ犬。
- アメリカ犬て、ヘンな言い方やな。
- 人間がアメリカ人なら、犬はアメリカ犬や。
- まア、そういう理屈になるかなア。
- だからジョニーは英語しか分かりませんのや。
- そういうもんですか?アメリカの犬は英語しか分からんの。
- そらそうですワ。なんでアメリカの犬がポルトガル語、分かるねん。
- そんなこと知らん。
- で、孫娘がジョニーを我が家に連れてこなアカン。
- もろうたンやったら、そら連れてこなアカン。
- 何て言って連れてきます?英語しか分からンのやで。
- 知らんワ。何て言うて連れてきたン。
- カモン。
- はア。
- カモン!カモン、ジョニー!ジョニー、カモン。
- 証人喚問やのうて、ジョニー、カモンか。
- せやから、最初からそう言うてまンがな。
- 最近耳が遠くなったンかなア、そうは聞こえヘンかったけど。
- ジョニーがカモンしたから、裏のクリントンが気イ利かせてくれたわけや。
- 何のこっちゃ。
- ジョニーがカモンしたから、町内の人を集めて歓迎のお祝いをしましょう、とまあ、こういうことや。
- 大袈裟やなア。
- だから、コッカイでトウベンしましょう、ちゅうわけで、今朝、僕は台所で鰹節で出し汁とつてました。
- なんの関係があるンや。
- だから出汁とらなア、弁当の煮物、作れヘンがな。
- 弁当。
- そうや、ご近所の人に集まってもらって、歓迎のお祝いを、ウチの庭で開くことになったんや。
- 君ンとこの庭で。
- そうや、ウチのガーデンで。
- ガーデンて、格好つけなくてもエエがな、猫の額や、あんな庭。
- ガーデン言わなア、ジョニーに分からん。
- ジョニーて、犬か。
- さっき言いましたやろ、英語しか分からんて。
- 言うたよ。
- ところで、何で犬のジョニーが猫のオデコで弁当喰わなアカンの。
- 狭い土地のことを猫の額言うんや!……。
- さよか。
- そんなことも知らんか。
- で、出汁とってましたがな。ご近所みんな来るんですよ、仰山集まるわけや、出す料理もそら大変や、電話に出るどころの騒ぎやおまヘンで。
- つまり、君ンとこに犬がきたんで、その歓迎の、まア、言うたらパーティーやね。
- そうです。
- パーティーを、君ンとこの庭で。
- ガーデンで。
- ガーデンで開くことになった、とこういうわけか。
- そうでンねん。
- なら、何で最初からそう言わンの。
- 言うてまンがな。
- 言うとらンやろが。コッカイでトウベンやろ。
- それはクリントンが回覧板に書いた文句をそのまま言っただけですよ。僕が書いたわけやあらヘン。
- ほな、なんで犬の歓迎パーティーになるねん。
- クリントンさんの旦那さんは芸人ですよ。
- さっき言うた。
- 芸人は逆さ言葉をよう使いまンがな。
- 逆さ言葉て、僕たちがよう言う、たとえばハワイをワイハ言うたり、素人さんをトウシロー言うたりする、アレのことか。
- そうです、そうです。ですそう、ですそう。
- そんな言葉で無理して使うな!ほな、コッカイは。
- カッコイイ、やね。
- カッコイイ、の逆さまが、コッカイか。
- そうでンがな。
- なら、トウベンは。
- 弁当や。
- トウベンの逆さが、ベントウ。
- カッコイイ弁当や。
- 何のこっちゃ。
- カッコイイ僕が作る弁当や。
- 誰がカッコイイんや。
- 僕、カツコイイやろ。
- 何で。
- ケムタクやもん。
- もうええワ。
(1995年か96年に夢路いとし・喜味こいしに捧げて書いた台本)
2006年2月7日
閲覧者のみなさんがせっせと書いて下さった「ハリー・ポッターと冬の中心でソナタを叫ぶ」が無事完結して以来、ページを白紙に戻してほったらかしだった、みんなで小説のコーナー。 ほったらかしだったよ。申し訳ない。
次はどんな企画にしようか考えていたら、驚いた。始まっているじゃないか。何だかわからないが、すでに新しい書き込みがある。何かがもう始まっている。これだからネットは油断ができない。
となれば、あと必要なのはタイトルだけだ。「みんなで小説」は終わりだ。考えました。
「ノート」
何もない真っ白のページ。何を書いてもいいまっさらな白紙。ノートだ。ノートでゆこうと思うのだ。
ノートがどんな展開を見せるのか、まったく予想がつかない。そもそも「展開」するかどうかさえわからない。だがそれでいい。わからないからこその、白紙のノートだ。
2006年2月4日
- 先生。
- え?
- どうかしたんですか。
- なんで?
- さっきからうなだれてますけど。
- ああ、いや、ちょっとね。文庫本を買ったんだよ。
- ええ。
- で、ぱらぱらとめくっていたらね、小さな折り込み広告が入っていてね。
- 折り込み広告?
- ほら、あるじゃないか、折り込み広告。文庫本にはさんであるだろ。今月の新刊とかなんとか。カラフルな紙で写真もいっぱい使ってて、四つに折りたたんである紙。
- ありますけど。
- 縦横に折るんじゃなくて横に二回折る。じゃばらみたいに開く。
- ありますよ。それがどうかしたんですか。
- 買ったのは文春文庫なんだけどね、『盲導犬クイール』が文庫になったんだよ。
- ええ。
- 角田光代の『空中庭園』も文庫になった。北方謙三の『鎖』、宮本輝の『海辺の扉』も文庫だ。『星になった少年』の広告も載ってるんだけど、これは文庫じゃなくて単行本なんだ。映画とのタイアップ広告だ。
- それでうなだれてるんですか。
- ばかを言うな。わからないから困ってるんだ。
- なにがわからないんですか。
- 紙だよ紙。この、ぺらぺらした折り込み広告、これ、なんていうんだ。
- 知りませんよ。
- 呼び方があるはずなんだ。新刊書には帯があるだろ?
- 帯?
- あるじゃないか。ほら、「芥川賞受賞第一作!」とかコピーが書いてある。
- ああ、ありますね。
- 腰巻きともいうらしいが。で、ぺらぺらした紙だ。これはなんて呼ぶんだ。
- さあ。
- 気になるじゃないか。
- なりません。
- なりませんって、君は、そんなにだらしない人生を送って平気か。
- なんで人生の話になるんですか。
- ああ、なんていうんだ、このぺらぺらの紙。絶対業界用語があるはずなんだ。それさえわかれば……。
- それさえわかれば、どうなんです。
- 安心じゃないか。
- 別に不安じゃないです。
2006年2月2日
1953(昭和28)年のきょう、NHK・東京テレビジョン局が本放送を開始しました。
自由国民社の『テレビ史ハンドブック』によると、放送が始まったのは午後2時。「JOAK-TV、こちらはNHK東京テレビジョンであります……」とアナウンスが流れ、古垣鐵郎・NHK会長があいさつを述べたのに続いて、菊五郎劇団の舞台劇「道行初音旅」が放映されました。ビデオなんかない時代ですからもちろん生放送。夜は歌謡番組「今週の明星」をラジオと同時放送。現代舞踊「日本の太鼓」なども中継された、とあります。
当時の機材はスタジオ用テレビカメラが三台、中継用が二台。当日の受信契約数は866、受信料は月額200円。サラリーマンの給料は3万円台、受像器の大半はアメリカ製で30万円前後しました。月給の十倍です。「目で見るラジオ」という言い方が当時あったそうです。以上テレビ豆知識でした。
2006年2月1日
お料理やお菓子、パッチワークは得意だけれど、潜水艦はどうも苦手で……そんなあなたのための、潜水艦のつくりかた入門講座です!
もうすぐ二月。陽射しにもちょっぴり春の訪れを感じる、そんな今の季節は潜水艦づくりにぴったり!つくりかたもとってもカンタン!さっそく始めましょう。
1. 敵がいないかどうかチェック!
せっかく潜水艦をつくっても敵に見つかってしまえばすべては台無し。家のまわりをよく観察しましょう。宅配便のお兄さんが実はスパイだった、なんていうことがよくあります。「家事や子育てが忙しくて、とてもひとりで監視するなんて無理……」そんなときは首相官邸の警備員さんに相談に乗ってもらいましょう。
2. 大は小を兼ねる!
初心者は小さい潜水艦をつくりがちです。プチ潜水艦ですね。でも最近のトレンドはなんといっても巨大潜水艦!
「大きいと敵に見つかりやすいのでは?」
「逃げるのに手間取るのでは?」
たしかにそうですが、見つかったら、やっつければいいのです。大きければ大きいほど魚雷も大きなサイズを積めます。逃げる前に殺る!これでもう安心です。
3. 鉄鋼はウクライナ産がベスト!
潜水艦づくりに欠かせないのが鉄鋼。産地はブラジルやアルゼンチン、中国、ルーマニアなどが有名ですが、コストパフォーマンスが高いのはウクライナです。まずは商社に資料請求しましょう。三菱商事や三井物産がお勧めです。訪問する場合は必ずアポをとっておきましょう。
4. 手袋を忘れずに!
手袋をはめずに作業して指を切断する事故が最近増えています。潜水艦をつくるときは手袋を忘れずに。
5. 作業は毎日少しづつ!
潜水艦も編み物も「毎日少しづつ」がポイント。初心者は「早く完成品が見たい!」と、つい一日で全部つくりたがります。あわてずのんびりこつこつやりましょう。あとで「魚雷積むのを忘れた!」なんていうことにならないように。
2006年1月27日
私のなかで舞つてるものは
こほろぎでもない、
秋の夜でもない。
南洋の夜風でもない、
椰子樹でもない。
それの葉に吹く風でもない
それの梢と、それそれにゆく雲でない月光でもない。
つまり、その……
サムシング。
だが、なアんだその、サムシングかとは、
決して云つてもらひますまい。
中原中也「Qu'est-ce que c'est que moi?」
『中原中也全詩歌集(上)』講談社文芸文庫、p.356
2006年1月18日
はじめまして。
まかせてください。
だいじょうぶ。
心配ご無用。
だってぼくはまかせろ君。
ではごきげんよう!
2006年1月14日
「顎がこわれたら泡もはじけた。自分の病気と世の過剰景気の破綻と、それぞれ露呈が半年ほどの差で重なったので、後にそんな冗談で自分をからかったものだが、その数年前から私は町に出るたびに、人の姿からめっきり精気の失せているようなのを感じて、伝え聞く好況と裏腹なのに首をかしげていた。人の歩く姿の、背に張りがなく、膝が伸びきらず、足取りも弱い。速足には変わりがないが、足がよく上がらず引き摺っている。車内の席に坐る様子を見れば、揃って腰を浅く掛けて、まるめた背でもたれこみ、足を投げ出し気味にして、物の弾みでそのまま前へずり落ちはしないかと思われた。話す声は喉に掛かって高く、それでいて抑揚にとぼしく、言葉も締まりがなくて、話しつのるほどに自分で自分の声が聞えないように目がもどかしげなままに、とろんと据わって来る。近頃、人の立ち姿というものを見たことがない、とある日は思った。見回せば、あちこちに人は立っている。しかし立ち姿を見たという気はやはりしなかった。」
古井由吉『野川』講談社、p.72
2006年1月13日
- おい、ヤス。
- へい。
- みんな集めろ。
- へい。おい呼んで来い。
- へい!(チンピラたち去る)
- ヤス。あの話どうなった?
- 片づきました。
- 大丈夫なんだろうな。
- へい。
- ちゃんとしとかないと、こっちがヤバくなるからな。
- あれだけ強く言っとけば大丈夫でしょう。
- だといいがな。(組員全員集まる)集まったか?
- へい!
- さっそくだが、年が明けてきょうで十日だ。てめえら一つくらい何かいいことしただろうな。聞かせてもらおうか。おい、タケ。
- へい。
- どうだ。
- へい。金田のばあさんにお年玉やりました。五万円ですが。身寄りがなくてかわいそうなんで……。
- 金田のばあさんって、年末ジャンボ当たったばかりじゃねえか。
- そうなんすか?
- 馬鹿野郎!それくらい調べてから行くだろうが!二億円当たって毎晩ホストクラブ通ってるじゃねえか!
- そんな話、ばあさんひとことも……。
- 言うわけねえだろうが!それを調べるのがおまえの仕事だろ!
- すんません!
- おい、テラニシ。
- へい。
- おまえは?
- へい。三丁目のどぶさらいをしました。
- ほう。やるじゃねえか。
- ありがとうございます。
- ちょっと褒められたくらいで調子に乗るんじゃねえ!
- す、すんません!
- ヤマギシ。
- へい。
- おまえはどうだ。何かやったか。
- ホームレスのオヤジたちに炊き出しやりました。
- ほう。炊き出しとは気が利いてるな。何作った?
- ビーフカルパッチョ、アーティーチョークのフライとレモンドレッシング、ホタテのロースト、そら豆とファロのリゾット、それと本日の魚介を使ったモロッコ料理のタジンです。
- オヤジたち、どうだった?
- 目を白黒させてました。
- 当たり前だろうが!そんなゲテモノ食わせて、てめえじいさんたち殺す気か!
- す、すんません!
- どいつもこいつも、雁首揃えてろくでもねえことばっかりしやがって。罰だ。タケはひったくり、テラニシは空巣、ヤマギシは強盗。さっさと行け!
- 兄貴、それだけはかんべん……。
- なんだと?じゃあ落とし前つけろ。指つめろ。
- わかりました。ぬおおおおお!……こ、これでかんべんしてください。(失神)
- おいテラニシ!ヤマギシ!さっさとやれ!
- 兄貴、赤い羽根の募金運動毎日やるんで、かんべんしてください。
- 俺もスロットで稼いだ金ぜんぶユニセフに寄付するんで……。
- 自分たちだけ抜け駆けしようったってそうはいかねえ。おい、早くやれ。
- ぬおおおおお!
- うおおおおお!(声をそろえて)兄貴、これでかんべんしてください。
- よし。じゃあ落ち葉かきだ。二丁目のあおぞら公園。行くぞ!
- へい!
2006年1月11日
今年がみなさまにとって良い年でありますように。
2006年1月1日