ホセ・ルイス・アロンソ・デ・サントス José Luis Alonso de Santos

コメディーの達人

スペインの演劇と聞くとなんとなく暗いイメージが浮かぶ人、結構いると思います。まず名前があがるのがガルシア・ロルカでしょう。『血の婚礼』に『イェルマ』に『ベルナルダ・アルバの家』。これでもか!というくらいどす黒い闇が支配する、典型的な悲劇です。でもスペインにだってコメディー作家はたくさんいます。なかでも80年代以降、人気を不動のものにしたのがアロンソ・デ・サントス。代表作は85年の Bajarse al moro です。

マドリードの下町ラバピエスのアパートで共同生活している若い男女三人の話で、民主化したスペインの若者たちの生態を浮き彫りにしています。のちに映画化されました。ハリウッド・デビューする前のアントニオ・バンデラスが出演しています。日本では92年に劇団青年座が『モロッコの甘く危険な香り』というタイトルで上演しました。翻訳したのは…私です。

タイトルの bajarse al moro は「ハシーシを買いにモロッコに行く」という意味。三人ともドラッグをやっていて、部屋ではマリファナも育てている。しかもひとりは警察官で、その母親は万引きの常習犯。コメディーの設定としてはこれで充分。話が進むにつれ爆笑につぐ爆笑なのですが、内容はあとで触れることにして、この作品の特徴をひとつだけあげるなら、舞台は最初から最後までアパートの居間だということです。〈閉ざされた空間〉がポイント。つまりシチュエーション・コメディー。シチュエーション・コメディーといえば、三谷幸喜。おなじ80年代にフジテレビ『やっぱり猫が好き』をヒットさせましたが、あれも舞台はマンションの居間、三姉妹の話でした。では、アロンソ・デ・サントスは〈スペインの三谷幸喜〉なのでしょうか。この疑問に答える前に、まず、アロンソ・デ・サントスの作品を発表順にざっとみてみましょう。

作品一覧

初演の時期と劇場を書いておきます。太字の作品は、とくに重要なものです。ほとんどが出版されていますが、Castalia や Cátedra 以外の出版社のものはなかなか入手しにくいかもしれません。こういうときにビデオがあればいいのですが、残念ながら発売されていません。映画も日本では公開されていないのでスペイン版を観るしかないのですが、映画は野外ロケのシーンがあり、原作の〈閉ざされた空間〉という設定は無視されています。

  1. ¡Viva el Duque, nuestro dueño! Pequeño Teatro Magallanes de Madrid. 1975.
  2. Del laberinto al 30. Sala Cadalso de Madrid.1979.
  3. La verdadera y singular historia de la princesa y el dragón. Centro Cultural de la Villa de Madrid. 1980.
  4. El album familiar. Teatro María Guerrero de Madrid. 1982.
  5. Golfus Emerita Augusta. Teatro Romano de Mérida. 1982.
  6. El Gran Pudini. Festival Internacional de Teatro. 1983.
  7. Besos para la Bella Durmiente. Sala San Pol de Madrid. 1984.
  8. La estanquera de Vallecas. Teatro Martín de Madrid. 1985.
  9. Bajarse al moro. Teatro Bellas Artes de Madrid. 1985.
  10. La última pirueta. Teatro Monumental de Madrid. 1986.
  11. Fuera de quicio. Teatro Reina Victoria de Madrid. 1987.
  12. Pares y nines. Teatro Infanta Isabel de Madrid. 1989.
  13. El combate de Don Carnal y Doña Cuaresma. Coimbra. 1989.
  14. Trampa para pájaros. Teatro Rojas de Toledo. 1990.
  15. Vis a vis en Hawai. Teatro Infanta Isabel de Madrid. 1992.
  16. Dígaselo con Valium. Teatro Barakaldo de Bilbao. 1993.
  17. La sombra del Tenorio. Teatro Cervantes de Alcalá de Henares. 1994.
  18. Hora de visita. Teatro Barakaldo de Bilbao. 1994.
  19. Yonquis y yanquis. Centro Dramático Nacional. Teatro Olimpia de Madrid. 1996.
  20. Salvajes. Teatro Maravillas de Madrid. 1998.

(以下準備中。待てば海路の日和あり)