エルチェの神秘劇 その上演形態

劇の構成

8月14日と15日の二日間にわたって、聖母マリア教会で上演されます。初日は第一幕「黄昏」(Vespra)。翌日は第二幕「祝祭」(Festa)。それぞれ一時間です。あとで詳しく触れますが、マリアをはじめ、使徒やユダヤ人など、すべての役はオーディションで選ばれた市民が演じます。マリアには、声変わりしていない少年が扮します。セリフはすべてアカペラの歌。教会中央に高い舞台を作り、そこから後ろの扉まではなだらかなスロープ(andador)になっていて、俳優たちはここを通って出入りします。両脇は椅子席なので、ちょうど歌舞伎の花道のような具合です。

第一部「黄昏」

14日午後6時。聖セバスチャン礼拝堂から葬列がやってきます。率いるのは聖母マリア教会の首席司祭と騎士団、そして旗手。騎士はモーニング姿で、先頭のふたりは権威の象徴である黄金の杖を手にしています。あとに続くのが劇の俳優たちと国立神秘劇保存会のメンバー。教会にたどりつくと市立楽団がパソドブレを奏でます。「黄昏」の幕開けです。

教会の後ろの扉から、マリアとその随行が登場。鳴り響くパイプオルガン。マリア役の少年は白のチュニックと青の長いマント、頭には金色の冠を戴いています。お供するのはサロメと、ヤコブの母マリア。赤いビロードのクッションを両手にかかえた天使ふたり(正しくは「二位」でしょうか)、マントをもった天使も四人います。演じるのはすべて子供です。中世の宗教劇は女性が人前で演技をするのをご法度としていた、その名残です。

マリアは、スロープを進みながら何度もひざまずいて祈ります。スロープはマリアにとっての〈十字架の道〉です。イエスが横たわっている舞台(cadafal)の周りは手すりで囲まれ、ロウソクが12本、闇を照らしています。イエスの死の床のまえでマリアは、天国へ昇る息子の道行きに付き添わせて下さいと、神に祈ります。

その瞬間、雲間に舞う天使たちの絵が描かれている天井(cielo)の中央部分が四角く開き、機械仕掛けの大きなザクロの実(granada)がロープにつるされてゆっくりと降りてきます。パイプオルガンと鐘の音がとどろき、外では打ち上げ花火が上がります。ザクロは降下しながら、花が咲くように皮が八つに分かれて下から上に開き、中から少年が扮した天使が現れます。天使はマリアに告げます。「イエスはおまえの願いを聞き届けた」。マリアは、イエスの臨終の床に使徒たちが来てくれるよう、天使に頼みます。天使は金色の巨大な羽を手渡し、ふたたびザクロでゆっくりと天に昇っていきます。

スロープに聖ヨハネが福音書を手に登場。マリアに駆け寄って、思いがけない出会いを祝福します。イエスの死が近いことをマリアに教わったヨハネに呼ばれて、十二使徒登場。ただしトマスだけは第二部「祝祭」の終わりにならないと現れません。床の前で歌う使徒とマリア。マリアが床に倒れこむ。使徒とお供が集まって手を貸す。

(使徒たちが集まるのにはわけがあります。使徒たちに囲まれたマリア役の少年は、お客さんに見えないように、舞台の底に消え、横たわる聖母マリア被昇天の像とすりかわるのです)

天井が開き、金粉の雨が降りそぞぐなか、アラセリ(Araceli)という装置が降りてきます。金色に輝く祭壇で、上には天使がふたり、それぞれギターとハープを奏でます。下にも小さなギターを弾くふたりの天使。中央は大天使。これを演じるのは聖職者です。アラセリが床につくと、大天使は、小さなマリア像をつかみます。これはマリアの魂を表すもので、肉体から魂を奪うことで、目に見える形でマリアの死を告げるのです。ふたたびアラセリが天井に消えて、「黄昏」は終わります。

第二部「祝祭」

15日。天井が開き、金粉の雨が降りそぞぐなか、アラセリ(Araceli)という装置が降りてきます。金色に輝く祭壇で、上には天使がふたり、それぞれギターとハープを奏でます。下にも小さなギターを弾くふたりの天使。

(以下準備中)