古今亭志ん生「小噺十八番」

うー、出はってぇと、一番最初はなは小噺というのから、噺は出てくるンでございます。「土瓶が漏るよ」「そこまで気がつきません」とかナ。「空地へ囲いができたよ」「へー」なんていうんでな。えー、ごく短いんでございます。

「雷は恐ぇな」
「なるほど」

なんてなことを言ってナ。えー。

「夢見た夢見たってどんな夢見やがったんだ、おまえの夢は。ええ? 大きな夢見たって、どういう夢だ。辰っつぁんなんざァおめぇ、富士の山へ腰をかけたって夢を見てるんだ。ずいぶん大きいじゃねぇか」
「うーん? 俺の夢なんざァ、もっと大きいや」
「そうかい。どんな夢」
「うーん。ナスの夢だい」
「ナスの夢? ナスなんぞ、おめぇ、どれだけ大きいんだ、大きいったっておめぇ、なんだろう、まぁ一尺ぐれえの大きさのナスっていやァかなり大きいな」
「そんなんじゃねぇんだ、もっと大きいんだ」
「あァん? 何か、三尺ぐらいのナスか」
「もっと大きい。ずっと大きいや」
「畳一畳ぐれぇか」
「もっと大きい」
「じゃ、この、六畳の座敷いっぱいくらいのナスか」
「いやァ、もっと大きい」
「じゃ、このうちぐれぇか」
「もっと大きい」
「そんな大きい……町内ちようねえぐれぇか」
「もっと大きいや」
「……うーん、どんな大きいナスだ」
「暗闇にヘタつけたようなンだ」

――って、こいつも、かなり大きなナスでございますナ。そういう、どうも、とりとまりのつかないのが、どうも落語らしいんでございますナ。

えー、鼠の娘がお嫁に行って、じきに帰ってきたんで鼠のお母さんが大変怒って、

「あんないい所へおまえ行って、なんで出てきなすったんだよォ。誰が嫌で出てきたんだい」
「いいえ、誰も嫌じゃないんですけれどねぇ、ご隠居さんがあんまり優しいんであたし嫌なの」
「優しいなら結構じゃないかねぇ」
「でも猫撫で声ですもの」

――なんて、えー、枡落としで鼠を捕って、

「捕ったよ」
「そうか。何だい、鼠か」
「鼠だ。でけぇや」
「待ってくれィ。大きい? おうおうおう、尻尾がちィと見えてる。そんな大きくねぇや。尻尾のついてる、小せぇや」
「何言ってやんだい、こん畜生め。大きいやい」
「うーん? 小さいよ」
「大きいやい」
「小せぇ」
「大きい」

てぇと、枡ン中で鼠が

「チュー」

えー、こういうようなのが、このォ、落語でございます。

「何だ、蟹って奴は横に這うけども、この蟹は縦に這ってンじゃねえか」ったら蟹が「少し酔ってますから」なんて……。

蛇から血が出てヘービーチーデーなんてぇのがある。これみんな洒落から出ているんであります。――あれ、誰がヘビと名前つけたんでしょうな。昔は、あの、ヘビなんて名前なんぞは、あれ、なかったんですナ。ただ、ノソノソノソノソしていたもんで。

「何だい、こりゃあ。ええ? 何て虫だろうなァ」
「何だろうねぇ」
「なんたっておめぇ、尻っぽばかしの虫じゃねぇか。何だよ、頭からすぐ尻っぽになる。そうだよ、こんなものはおめぇ、名前なんざァ、『へ』みてぇなもんだァこりゃァ」

と言って、あれ、『ヘ』と言ってたんですナ。

「あー、『ヘ』が行くよ」

なんて。そのうちに『ビー』となった……てぇことを言いますけども。うー、ヘビてぇものは不思議なもんでございますナ。あのヘビが大きくなるってぇと、あれは、ウワバミと改名をする、ねぇ。ウワバミってぇのは、つまりウワでバムからウワバミ。え? ウワバミが劫を経たら何になるんだったらある人が、それはおまえワニになるんだよって言いまして。ええ。豚を山ン中へ十年放しとくと猪になっちゃうてぇのとおんなしで、えー、つまり、ウワバミが劫を経ると手が生えてきたりなんかして、ワニになっちゃう。そういやワニといくらか面差しが似てますナ、あれはね、うん。だから、えー、ウワバミがワニより図体が大きくても、やっぱしワニには敵わない。一目置くことになる。弟ですからな、ウワバミのほうが。で、向こうはワニなんです。こっちは弟で。ええ、ワニ弟と言うくらいなもんでナ。もう三年経つとウワバミがワニになれるときは、じつにウワバミは楽しみだそうで。三つ違ってワニになれない。三つ違いのワニさん。ま、そういうような具合なんでございます。

昔は、今と違いまして、えー、浅草から吉原へかけた、大きな田んぼがございまして、この田んぼを突っ切って冷やかしに行く。「惚れて通えば千里も一里、長い田んぼも一またぎ」なんて、学校じゃあんまり教えないけれど、えー、毎晩のように冷やかしがゾロゾロゾロゾロ方々を回って、で、遅くなって田んぼ道を、うー、いろんな女の噂なんぞして通るのが、何人も何人も毎晩でありますから、えー、田んぼの蛙がこれをすっかり覚えてしまいましてナ。

「おい、どうだいどうだい。ええ? 人間ばかり冷やかしに行くからな、蛙仲間も冷やかしに行こうじゃねぇか」
「出かけようじゃねぇか。うん」
「どうだ。そっちは行かねえか、おい。殿様。おい、おまえなんか背中に筋が入って様子がいいよ。え? 赤も行くかい。青も? みんな連れて行こうじゃねぇか。エボ? 汚ねぇなあいつは。まァいいや。そいでも仲間だからナ。みんな、人間のとおりに立って行くんだよ。え? 向こうではぐれると踏み潰されちゃうからな? ええ。こうやって、こう……人間はこういう格好して行くよ。ねえ、ええ? ――ここが吉原だ。あー、綺麗だね」
「ここに並んでんのは、人間の花魁てぇのか」
「そうよ」
「ふーん。ここは何人いるんだ」
「ん? ここか? ここは七人いるんだ」
「おまえ、どれがいい」
「そうだな、俺はなんだなァ、えー、七人いる、上から四枚目の女がいいな」
「うーん……俺は違う」
「おまえどれがいい」
「俺は下から四枚目がいい」
「あーなるほど……真ん中だからおんなしだよこん畜生」
「あァそうか」
「どうしてあれがいいんだ」
「ん? あれかい? あれはね、八橋の仕掛けを着てやがるからな。俺たちは、八橋は恋しいよ。なんて女だか聞いてみな」
「そうか。――若い衆さん」
「へえ」
「あの八橋の仕掛けを着てる女は、なんてェの」
「あたくしどもにはおりませんよ、八橋の仕掛けを着た女の子は」
「あすこにいるじゃねぇか」
「いいえ、八橋の仕掛けを着た女の子は、あれはお向こうにいるんですよ」

ってンで、蛙だから立ってたンで眼が後ろのほうについてた。

「つゆ、つけないんですか」
「ああ、つゆつけちゃ、蕎麦っ食いじゃねぇ」

本当に蕎麦の味を好きならつゆをつけねえで食うんだなんて、この人長年の間つゆをつけないで食べてた。この人、患いましてな、もういよいよ危ないとなったときに、何か遺言はありませんかと言ったら、「死ぬまでに蕎麦につゆをつけて食いてえ」と言った。

食べるものてぇものはいろいろでございましてナ、蕎麦というものは、あれは「たぐる」と言いましてナ、ツーッとこう、何していくのが蕎麦なんですナ。蕎麦なんぞは、あれ噛んで食べてたらしょうがないんで、あれは、ツッと音をさして食べる。「百人の蕎麦食う音や大晦日」。それを、隣へ●●●したりなんかして、うまくも何ともないね、ええ。もう蕎麦だの塩煎餅だなんてものは、ピリッ、パリパリッて食うもんだ。塩煎餅、ちょっと口に入れて、半分食うのに三日かかったなんてぇのは、どうしたってうまくないですね、ええ。だから蕎麦もこう、ツッとやるのが、蕎麦屋によっては、こうツッとこう、蕎麦の猪口のところで蕎麦がこう切れてきて、スーッと食べられるといいけれど、ずいぶん長いのがありますな、蕎麦の。何でこんなに長くするんだ、物を結わくんじねぇんだよ、そんな長くなくたっていいんだけどね、スーッったってどうやったってしょうがない。しかたがないから猪口を下へ置いて立ってみたけどまだ駄目だなんて。踏み台をしてやって、まだいけねぇなんてぇんで。二階へ上がったらまだ引きずってた。こういうのはつゆのつけようがないね。こんなのはつゆを刷毛で塗ってもらう。うー、どうもそういうもんでございますナ。

腹が減ったから天丼でも食おうかなぁなんて思ってね、入ってって、

「天丼一つくれねぇか」
「へい! 上等ですか」
「……上等でなくていいんだよ、腹さへ入りゃいいんだから」
「ああ、じゃ中ですね」
「中の下でもいいや」
「ははァ。じゃ並なんですか、あァたは。――並だよ、この人は。うん、並。一番安いやつ。ああ、向こうにいる人は上等で、こっちの人は並だ。早く揚げなよ。天ぷらをよ。何でもいいんだよ揚げりゃ。海老なんぞいいよ。ハサミムシ……」

そんなもの揚げられてたまるもんか。よくこの畳のけばなんぞむしる癖があります。あれァ大していい癖じゃありませんな。

「どうもすいません本当に。そっちが来てくれて? ええ。あれはねぇ、あっしが悪いんじゃねぇんですよ本当は、ええ。本当はね、ええ、他の者が悪いんで、あっしはね、引き受けちゃったン。馬鹿馬鹿しい話だ、ええ。で、これからもう、何でございます、そういうことしませんからご勘弁を、へへ。何つったってあァたの前ですがね、このね、(むしる)えーん畜生」
「何をしてんだよ、おい。謝んないで畳のけばむしっちゃいけないぜ。おとつい取っ替えたばかりだ」
「ああ、道理でむしりにくい」

なんてぇのはね。えー、妙な、その、癖がありますな。中にはこの、顔を撫でながら話 をする癖がありますが、大概愛嬌になっていいですけどもな。えー、あれは自分の顔を撫でてっからいいけども、人の顔を撫でるんじゃいけない、ねえ。

「いやァどうも」

なんてんでな、自分の顔を撫でながら何か言ってる。向こうの顔を撫でちゃ嫌ですな。

「どうです」
「いやァどうも……(相手の顔を撫でる)」
「何すんだよ!」

これはどうも、こういう癖ってぇのは癖のうちでも良くない癖でありります。えー、売り物でも、なんか、涼しいような売り物が、以前はありましたな。えー、虫売りですとか、それから、えー、唐辛子とんがらし。唐辛子なんぞ売ってるのを昼寝して聞いてるとなお眠いもんでございますな。

「えー、とんがらし、とんがらしー」

なんてのはいいもんでございましてな。えー、苗を売りに来る苗屋なんてぇものは声を自慢で夏売るもんですな。売れなくっても俺の声を聞けってぇような調子で、

「ナイや~ナイ~。朝顔のナイや~夕顔のナイ」
「苗屋さん。あのォ、白粉の苗ありますか」
「今日は持ってこナイ」

どうしたって、この、売り物で商売がいろいろございますが、えー、耳の掃除をして歩いて商売があった。耳かきをいくつも持って、「耳の掃除をしましょう」なんてね。

「俺のやってくれねぇか」
「へい、よろしゅうございます」
「いくらだい」
「上中下がありますがな」
「うーん? 上てぇと何かい、丁寧にやるのかい」
「いえ、耳かきが違います」
「どういうんだい上は」
「耳かきの先にきんがついてりましてな」
「はーァ、贅沢だね。その次が」
「えー、象牙でございます」
「いっちばん安いのは何だい」
「釘のお尻で」

そんなものでやられた日にゃァ耳なんか壊れちまいますから。いろんな商売があったもんで、

「あれは頼朝公の髑髏しやりこうべ、近う寄って御拝遂げられましょう」
「へえ、これ頼朝様のしゃれこつですか。頼朝ってぇ人は頭が大きいって言いますが、ずいぶんこれは小さいですね」
「これは幼少のときの……」

って、幼少ってぇ……。

どんな偉い人でも、ご婦人というもののために迷うというのは、これは当たり前でございますな。迷わない人はないそうで、ええ。だからお釈迦様が「外面如菩薩内心如夜叉」と言って、女は顔は菩薩のようだけども、腹の中は女夜叉、鬼のようだって。これ、あたしが言ったんじゃないですよ、お釈迦様がそう言ったんだから。苦情があるならあっちへ言って、お釈迦様へ。もっともお釈迦様というおかたは、えー、おっかさんの胎内にいること三年三月みつき入ってたんだって。ずいぶん長く入ってたもんですな。で、生まれたときに三足みあし半歩いたそうで、生まれてすぐに。で、「天上天下唯我独尊」と、天と地へ指をさして。

「何だ、この子は、生意気な。生まれたばかりで。甘茶ぶっかけろ!」

みんなで甘茶ぶっかけた。でも平気でかっぽれ踊った。ね? 甘茶でかっぽれ。けれども、お釈迦様が、最初はなですから何宗旨でも、えー、もとはお釈迦様。「宗論はどちらが負けても釈迦の恥」。ただお宗旨によって陰気な宗旨と陽気な宗旨がありますな。陰気なのは南無阿彌陀仏。これは陰気ですな。だから心中なんぞにはもってこいだ。

「覚悟はよいか」

芝居なんかで。

「南無阿彌陀仏」

え? いいですよ。これァ、あのォ、法華のほうじゃどうしたってそうはいかないんですからな。南無妙法蓮華経。ねえ。

「覚悟はよいか」
「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮、ドンツクドンツクドンドンツク」

事が滅茶苦茶にしちゃう。だからあの、池上なんぞ、みんな太鼓叩いて行くときなんぞァ大変ですな、陽気で。

「ドンツクドンドンツクツク、ドンツクドンドンツクツク。●●●どうでもいい。ドンツクドンドンツクツク、ドンツクドンドンツクツク、ドンツクドンドンツクツク」

「今晩は!」

「よォ、今晩は」
「どうも、いいお天気ですな」
「そうですな。ドンツクドンドンツクツク、ドンツクドンドンツクツク。「こういう天気ですからな、ええ、御祖師様おそつさまは幸せで」

てめぇのほうがよっぽど幸せだよ。

「どうも何ですなァ、いい女が行きますな、あれァ。え? 新造で」
「知らないの」
「うん」
「あれはね、仕立屋の娘だ」
「あれが? へぇ、大きくなったなァ。いい女ですな」
「いい女ですな」
「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経! え? 何々? うー、どうするんだィ、あれァ。うん? もう決まっちゃったの? 誰? うん。あん畜生が? 婿になるんだって? ふざけてやがんなァ畜生……妙法蓮華経!」

とか言うようなことになる。そういうようなわけですから、なんか売り物でもそうですな、鰹なんぞを売ってる声は、どうも、んー、江戸の時代のことを、思い出しますな。「舌の上小判消えゆく鰹かな」なんて、●●●の詠んだ句にありますが、小判が消えるというくらいですから鰹は高かったんですな。出たての初鰹、将軍に献上になったすぐあとの鰹だ、食って食おうかしらって、みんな何したんですな。

「鰹で一杯いつぺえ飲もうじゃねぇか」
「銭がねぇや」
「何言ってやんでぇ、なくたって江戸っ子だ」
「馬鹿だな。江戸っ子だって、ねぇものは買えねえじゃねぇか」
「そこを買うのが江戸っ子だ」
「何を言う」
「……しゃァねぇ、褞袍どてら質に置け」

なんて、褞袍質に置いて鰹で飲んで、

「どうだい、昨日の鰹はうまかったかい」
「あァ、寒かった」

だから威勢のもんなんです。魚河岸なんぞはどうしても、この、鰹をな、まあ、そういうもんだと、何を買えばったって、威勢でな。歯切れがいいってぇと、その魚が生きてるようでございますからな。ええ、もう。

「このてえいくらだ?」
「買えるか?」
「買えるか買えないか値段言ってみろやい。いくらだ? ――何をォ? 高ぇ高ぇ。高ぇよ。」
「何言ってやんだい。てめぇなんぞに買えるかい、この鯛が」
「高ぇから買わねえんだい」
「何言ってやんだい。てめぇなんぞに売らねえや。早く向こうへ行け! ――買わねえのかい? どうしても買えねえのか、それよか? じゃいいや、負けとくから持ってけ泥棒!」

泥棒……。何かこの、威勢のいいもんでございますな。

「弁慶と小町は馬鹿だ、なあかかあ」という川柳がありますが、武蔵坊弁慶だってね、チョイとご婦人にね、

「どこ行くの、ベンちゃん」

ねえ。

「そんな重たい釣り鐘なんざ引きずるのはおよしよ。あたしとどっか行こうよ」

なんてなことを言われる。

「じゃ待て。七つ道具売るから」

なんていうようなことになる。ねえ。清水の清玄という、あんな偉い名僧知識な坊さんでも、桜姫には一度は迷って。どうか桜姫に逢いたい、姫に逢いたい、おシメに逢いたい……駄々っ子がいびったれしてるみたいにおシメばかり恋しがってる。けれども逢えなかった。ねえ。そりァ逢えない。こっちが坊主で向こうが桜だから、そりゃ合わない。ねえ。まったく絵が違う。だから、何事にもご婦人というものは、えー、花でございましてな。人の眼を喜ばせるのはご婦人でございます。みんな寄るってぇとご婦人の、なんてな。

「おう! ここんところに、おめぇ行ってみな。ずいぶん女、通るぞ」
「そうか」
「うん。――ほらほらほら来た。どうだい」
「うん、いいな」
「え? あの女どうだ」
「うん。年増だな」
「年増だ。どうだ」
「俺ァ好きだ。なあ。うーん、年増ァいいな。うん、俺ァ、あの女のためなら命はいらねえ」
「そんなか?」
「うん」
「あとからはどうだ」
「え?」
「新造が来るぜ。十八九ってとこだ」
「いやァ畜生め! 命はいらねえ」
「命いくつあったって足りねえや」
「あとから、何だな、こう髪を切って、夫の菩提を弔うという。後家ってものはいいもんだな」
「後家は一段上がるってぇよ」
「うー、俺ァ後家好きだなァ」
「好きか」
「好きだ俺ァ。俺の嬶も早く後家にしよう」

なんて、わけのわからないのがあるもんですな。えー、そういうように、人の眼を喜ばせる。

この縁というものを、その、えー、あるために、ご夫婦というものになれる。だから北海道の人と九州のおかたとが一緒になれるのは、これが縁なんでございまして。この縁を結んでくれるのが縁結びの神様てぇのがあって、年に一度ずつ、出雲へみんな神様が集まって縁を結んでくれる。そのときには神様はみんな出雲へ行っちゃうから、みんなどこへ行ったって神様は留守ですよ、ええ。ですから一年にいっぺん神無月かみなしづきてぇのがありまして。出雲は大変ですな。弁天様がいて大黒様がいて、春日様がいる、不動様がいる、もう大変。

「ご苦労さまでございますなァ弁天様。へえ。お綺麗ですな、あなたはなァ。深川の不動様、どうです? この頃儲かる? え? うん。儲からねぇ? んなこたァないよ、お賽銭が上がるじゃないか。え? 算盤とって、合わねえ? ふどう損……。なるほど、うめぇね。――どうです、春日さん? おまえさんと、しかと相談したいことがあるんだがね。え? こっち出てきておくんなさい。山野の地の神様、そんなお尻のほうにいないで、出ておいでよ。さァ、とにかく結ばないといけないね。さァ、ある? そっちに? 弁天様のほうにはどういう女の子がいますね? はァ、十九になる? 厄だね。じゃ、結びましょう。大黒様のほうには? 二十二になる男? よし、結んでね。そっちのを、そっちのを……」

なんてんで、こう結んで。これがみんな一緒になれるんですな。

「大変ごたついてるね。どうしたの? うん? 荒神様が御神酒に酔っぱらっちゃった? 毎年だね、あの荒神様は。たちが良くねえんだから、目がすわっちゃうんだからなァ。どうしたてぇんだい? え? 大黒様が気に入らねえ? どうして? 失礼だ? 帽子をかぶってる? しょうがないよ大黒様は。どこ行ったって帽子をとらねぇんだから、あの人は。喧嘩しちゃ駄目だよ。――ま、大黒様も勘弁してやってくんな、飲んでんだからね。まァまァまァまァ、ほら、取っ組み合っちゃった! ほら、みんな、しょうがねぇなァ! ほら、せっかく結んだ……メチャメチャになっちゃったよ。散らかっちゃった。結び直そう。おい、貸してくれ。え? こっちだろ? こっちとこれ、だったね? それからこれだった。こんなのみんな、こう結んで……。おや? おい、男が二人に女が一人になっちゃった。三つ余っちゃった。しょうがないね。面倒くせえ、こんなの一緒に結んどけ」」

これが三角関係になる。

「何を言ってやんだい、馬鹿。こん畜生。何だい、てめぇなんぞは俺のところにいりァありがてぇと思うんだ。なァ? こんないい亭主があるか本当に? 俺だからてめぇみてぇな女を女房にしててやるんだ、ありがてぇと思え」
「何言ってやがんだい、こん畜生め。こっちは仲人に一杯食っちゃったんで、ここへ来たんだ。行くとこはどこにだってあるんだ」 「じゃ、どこへでも行け!」 「行くよ! 行くから返しやがれ、人のシャツ着てやがって」
「てめぇ、俺の猿股穿いてやがるじゃねぇか」