三遊亭円生「しわいや」

えー、よくこの、噺家が三ボウと申します。中でこのしわいというのがございますが、これはまァ、けち、赤螺屋あかにしや吝嗇りんしよく、六日知らず、あー、しみったれ、我利我利亡者がりがりもうじやなんという、いろんな悪口がありますが。六日知らずというのは、これは聞いただけではわかりませんで。で、どういうわけだてぇと、日を勘定するときに指を折りまして、一日二日三日四日五日と勘定する。で、六日というとこれを開けなくちゃァなりません。いったん握ったものは離さないてンで、これをその六日知らずてぇましてね。えー、あるけちなかたが、奉公人を十人使って、商売を盛大にやっておりますがだんだん物価が上がってくる。

「どうも考えましたね。こう、どうも経費がかかっちゃァやりきれない。十人の奉公人てぇのは少うしこれは多いから、これはまぁ半分ぐらい減らしてみたらどんなもんかしら」

で、えー、半分にいたします。五人だけで使ってみる。一所懸命にやればどうにかそれでも間に合いますから、これはどうも五人もいるのは無駄な話だから、で、三人暇を出して二人にする。で、やってみたが、まァ、それでもどうやら間に合っていきますので、これはまァ考えてみると奉公人は無駄なもんだてンでみんな暇を出す。今度は夫婦二人で、かァ、一所懸命にやってみるとどうにか間に合います。考えりゃかみさんは無駄なもんだてンで離縁をしてね。えー、自分一人になってやってみたがそれでも間に合う。してみると俺が無駄かしらてンで自分が死んじまったてぇ話があります。

えー、しわいかたの近所に、えー、近火きんかがございます。ま、いい按配におさまる。

「いやどうもありがとう存じます。えー、ひとしきりはどうなるかと思いまして、よい按配でございます、ありがとう存じます。あ、どうも! ご遠方のところありがとうございます。――おいおい、皆さんがお見舞いにいらっしゃるんだから、火鉢に、なんだ、火を入れ……何? 『火を入れますってってこれからおこすんですか』? ……おまえはそれが頭が働かない、馬鹿だ。熾すんじゃないよ、わざわざ火を熾さなくても、向こうのうちが焼け落ちたばかりだ、え? 大きな十能があるだろ。燃えたやつを持って来て火鉢ン中に入れておきゃあいい。一挙両得てぇのはそこを言うんだ。……何をしてるんだ、持って来ないのか」
「へえ。向こうに取りに行ったら殴られちゃったんで」
「何? どうした」
「どうしたったって、持って来ようと思ったらいきなりパカッって殴って、ふざけるなって、こう言うン。高い金を出して建てたうちが焼けたんだから、他人に無闇に持ってかれてたまらねえ、いけねえって、こう言うン」
「……なんてぇまぁ、もののわからねえしみったれな奴。焼けちまった灰がどうなろうてンだ? じゃ何かい、向こうじゃやらないてぇのかい? いやいい! もらわなくてもいい! 本当にしみったれな奴だ。今度自家うちが焼けてみろ、火の粉もやらねえから」

火の粉なんかもらったってしょうがないン。えー、中にはこの、一年中おかずを買わずに食事をしようかなんという、ずいぶんその、始末のいい人がありましてね。おさいがなくてどうして食べるてぇと前が鰻屋さんで。向こうのうちでバタバタ鰻を焼き始めると、家内じゅうがその匂いを嗅いでおまんまを食べようてぇわけで。

「さあさあ、早く、早く来なさい早く。え? 早く嗅がないとおしまいになりますよ。あァ、どうも鰻てぇものはいい匂いだなあ、どうも、ええ? うーん、この匂いを嗅ぐと太りますね、うん。あァ、第一これ、きょうのは少し細い」

――て、ひどい奴があるもんで。慣れは恐ろしいもんで、太さを嗅ぎ分けるようになる。晦日になります。

「ごめんくださいまし」
「どなた? ……ああ、お向こうの鰻屋さん」
「へえ。えー、毎度どうも、ありがとう存じまして。お勘定をいただきに参りましたが」
「……勘定? 間違いじゃあないかい? あたしのところで鰻なぞは取ったことがない」
「いえ、えー、決してお間違いはございませんで。書付をどうぞご覧を」
「書付を? ……『一円五十銭、鰻の嗅ぎ代』。おや……? なんだい、この嗅ぎ代てぇのは」
「手前どもで焼きますとこちらさまで匂いを嗅いでいらっしゃいます。タレを一度つけていいのは二度というようなわけで、鰻のしようが抜けるから嗅ぎ賃をいただいて来いという」
「……へえ! 驚いたねどうも。うっかり嗅いじまった。嗅ぎ賃を取られようとはこっちも気がつかなかった。いや、嗅いだことはあるが風の加減でそっちから勝手に匂ったこともあるが、そういうのは引いてもらうわけにはいかないのかい? ……嗅いじまったものはしょうがない。じゃあ一円五十銭……ああ、ああ、わかりました。――おいおい! あのー、財布ン中入れて、銅貨のほうが、一円五十銭。ああ、こっちへ持って来て。この中に確かに一円五十銭だけ入ってるから」
「ありがとうございます」
「手を出すんじゃない、耳を出しな」
「え?」
「耳を。一円五十銭、こんな音がしている。音を聞いて帰んな」

嗅ぎ賃ですからね、これは銭の音だけ聞いて帰りゃあいい。

「横町の吝い屋なあ」
「え?」
「世の中にあんなしみったれな奴てぇのはねぇよ。なんか物を捨てるてぇと野郎どこで嗅ぎつけてくるかすぐ飛んで来やがるン。『ご不要でございましたら頂戴をいたします』ってやン。ええ? なんでももらって行くんだからいまいましいやね」
「だって、もらえねぇもの――」
「もらうよ。おっかあの古いんでも早桶の古いんでも、なんでも構わねえ。ああ、もらうに損はねぇてんで、なぁんでも、野郎、かっこんで行きやがるンだ。今日は、いまいましいから、ひとつ驚かせようじゃねぇか、え? 俺が大きな声で、ここで『うっちゃっちまう!』と、こう言う。おまえがそばで止めるんだ。『まあまあ、もったいねぇから取っておけ』と、こう言やあ、てへ、野郎……おいおいおい。見ねえ、あの□□□のところ、え? キョロキョロして歩いてやがン、なんか落っこっちゃいねぇかてな目つきしやがって。じゃ、ちょっとおっ始めよう。――なんだぜ! えへん、捨てちまうぜ、これは、え? うっちゃっちまうから!」
「だって、おめえ、もったいねぇから取っときゃいいじゃねぇか」
「いやあ、どうも取っといてもしょうがねぇからうっちゃるよ!」
「……ごめんくださいまし……ごめんくださいまし」
「……おう! なんだい?」
「えー、ただ今、何か捨てる捨てるというお話でございますが」
「ええ、うっちゃろうと思ってるン」
「いかがでございましょうか、ご不要でございましたらてまえが頂戴をいたしたいのでございますが。えっへへへ、いかがなもんで」
「……じゃあ、おまえさん、もらって行くってぇのかい」
「へい」
「やったっていいけどねえ。持ってけるかい?」
「ほう……大きい品で?」
「いや、大きい……ってわけではねぇんだけどもねえ。持ちにくいがいいかい?」
「はァ……お捨てになりますのは……?」
「捨てるのは、屁だよ」
「え?」
「屁だよ」
「……へ? ……あー、おならでございますか」
「うふふ、それなんだよ、ああ。今ね、こいつといろいろ相談をしてね、どうしようか、もったいねぇからもう少し取っとこうかと思ったけども、何しろ腹が張ってね、しょうがねえんだよ。せっかくでもったいねぇけどうっちゃっちまおうと思ったんだ、どうだい? もらうかい?」
「……さようでございますか」
「持ってけねぇだろ?」
「いえ、えー、頂戴をいたします」
「……え! 頂戴をいたしま……。――駄目駄目、おい、もらう」
「え?」
「もらうよ」
「見ねえな、なんでも言わねえこっちゃねえ、もらいたがるんだ」
「だって、まさか屁を持って行くとは言わねえと思った」
「じゃ、おめえ□□□といてやれ」
「馬鹿なことを言うな! そんなに急に出るかよ」
「おまえが言い出しべえじゃねぇか」
「しょうがねえな……。――じゃあ、やるから手ぇ出しな、こっちに」
「へい。ありがとう存じます」

尾籠なお話でございますが着物をまくってブッとやると、けち兵衛さん両手でしっかり押さえて駆け出したンで。どこへ行くだろうてンであとからついて来ると、自分のうちの裏に小さな菜畑がある。ここへ駆け出して――

「へへ。ただの風よりマシだろう」

ひどい奴があるもんで、どうも。世の中にはこういう狡猾□□な人がありまして。えー、こういうごくしみったれなのが二人で問答をしたという話で――

「どうも。あァたにいろいろご意見を伺いまして、えー、金が残らないのは無駄というものがあるからいかんという、ま、お説で」
「うん」
「で、そこであたくしがいろいろ考えまして、一月ひとつきのお菜にこの梅干が一つでいただいておりますが、いかがなもんで?」
「……おまえさんが、え? 梅干が一つ? うむ、偉い。あー、見所があるからあたしが意見をしたんだ。世間で、やれ金が残らない苦しいのなんて愚痴をこぼしているが、己がその無駄をしすぎるからいけない。朝飯前に茶を飲みながら梅干を二つ食ったなんていう馬鹿な奴があるが、えー、梅干が一月ひとつきに一つで、一月のお菜に、うんうん。どういう風にしてやるン?」
「ま、大体を三つに分けまして、いちばん初めはこの十日はこの梅干を見ていただいております」
「……ちょっとお待ち。じゃ何かい、食べないのかい」
「ええ! 皿へ乗っけましてね、梅干は酸っぱいもんだなァと思ってジーッと見ているうちに、口へこの酸っぱい水がたまりますから、その勢いでいただくン」
「……ははあ、なるほど。こりゃいい考えだ。睨んでるてぇのはな」
「中の十日が梅干の実を食べて、一番しまいが種をしゃぶりながらやっておりますが、なかなか味の抜けませんもので、これでまァ一月のお菜になります」
「ふーん、なるほど。じゃあ、種は残るわけだね?」
「ええ。これを晦日に飲むんです」
「……晦日に? 種を? ……ぷっ、お蕎麦のかわりに種を飲むてぇのは、まァいくらかお腹の足しにはなるだろうが、まァ一月に梅干が一つは減る勘定だな」
「へい」
「不経済だな」
「……ははァ……いけませんか」
「まァ第一に物を減らしちゃもったいないねえ。あたしなんぞはおかずを近頃増やしてるがね」
「……召し上がる……?」
「ああ。食べているが向こうが増えるン」
「え?」
「いやあ、別に不思議てぇことはないが。種を明かせば醤油。えー、こう、なんですねえ、大きい丼へ、下地したじを半分ばかり入れて、これ舐めるのに秘伝がある。箸へじゅうぶんにつばきを含まして、丼へ突っこんでから軽く、こう、ちょいと舐めるんだ。ね? どうしても唾が余計入るから向こうが増える」
「汚いねえ。唾で増えていくてぇのはどうも……。えー、夏になりますと、この扇子というものを皆使いますが、あたくしは、ま、一本で十年は使えることを考えまして。最初、こう半分広げて、五年使います、ええ。で、傷んだらこれを仕舞って、あとの半分で五年という」
「うーん、順に、なにかい、その、ま、五年ずつで十年だな。あー、うまく考えたようだが使いかたが粗い」
「はあ……いけません?」
「まァ一本で十年はもったいないな。あたしなんざァ四五十年もつでしょう」
「……お使いになる?」
「ああ、無論使いますよ。おまえさんのは、半分広げる。あたしはそんなことはしない。残らず、こう広げる。扇のほうで仰ぐ、それァいけません。胸へこう止めてね、首を振るン」
「……驚いたな、これァどうも。えー、いろいろまたお話も伺いたいこともございますが」
「ああ、ああ! 夜分ならね、ああ、ようござんす! いつでもいらっしゃい」
「じゃ、いずれ伺います」
「あ、お待ちしてますよ!」
「……こんばんは……えー、おいででございましょうか?」
「……どなた? ……ああ、ああ、来たのかい。お上がんなさい、こっちへ。え? いや、まだ寝ちゃあいませんよ。何? 明かりが? いや、うちはね、夜分は明かりはつけない、贅沢だから。いや、何もありません、こっちこっち〔手をポンポン叩く〕、さ、こっちだよ」
「へへ、とんだ七段目と来ましたなどうも。おや? あァた、なんですか、裸でいらっしゃるン?」
「あたしかい? うん、裸だ」
「へーえ、恐れ入ったもんで」
「何を、恐れ入るてぇほどのことはないよ。暗いところで着物を着たって無駄だから畳んでしまっちまう」
「はーあ、四季に構わず? 恐れ入ったもんですな。寒くないんで?」
「それはまたね、あったかいことはちゃんとしてありますが。え? いやあ、行火あんかなんざァ入れない。頭の上を触ってごらんなさい」
「頭の上……? おや? ……なんです、これ? 石のようで。……ははァ、これはぶら下げてある? なるほどうまい考えだねえ。寒くなるとあァたが下からこの石をヤァッてんで、こう持ち上げて汗をかこうという」
「冗談言っちゃいけない。そんな力を出しゃ腹が減ってしょうがないよ。ただぶら下げておけばあったかい。なにしろうちが古いのにね、縄がやわと来ているから、ちょいと風があるとミシミシ言いながら石がこういごくんだよ。今にこれが切れて落っこって来やしないか、石が落ちればあたしの命がなくなる。今に縄が切れるか石が落ちるかと思うと冷や汗が出てね。そりゃあもうあったかいよ」
「……なんだか嫌な心持ちになってきました。えー、また改めて伺うこと――」
「なんだよ、まだいいじゃないか、ゆっくりおしな、え? そうですか。水でも入れようと思っていたとこなんだが、いや、どうも。――何を? 履物を見るから明かりを? さァ困った、明かりがない。おまえさんが立ってる足もとに石がないかい? ありました? 小さい石? ああ、じゃそれを貸すからね、目と鼻のあいだを思い切って、こう殴ってごらん」
「目と? 冗談言っちゃいけねえ。そんなことをすりゃあァた目から火が出らァ!」
「ふん! それで見て帰りゃいいや」
「てへ、あァたがそんなことを言うだろうと思ったんでね、じつは履物は履かずに来たン」
「お? なんだい、おい、裸足で上がったのかい、うちへ? ふふ、あたしもそんなことがありゃしないかと思って畳を裏返しておいたン」

上には上があるもんで。吝競しわいくらべでございます。