えー、よくこの嘘をつくということはいけないと言いますが、しかしまァこのまんざら嘘がないということは、やはり交際上具合の悪いもので。えー、人とおつき合いしようというにはこれァまあ嘘が多少は混じるもんで――
「おやおや、どうも、しばらくでございますんで、どちらへいらっしゃるんです? え? 運動ですか? ああ、どうも、達者でいらっしゃる、あァた。いやいやいや、それだからご健康なんですよどうも。おや? たいへんおかわいいお子さんをお連れで。どちらの? お宅の? へーえ、ちっとも知らなかった。いいお子持ちだなあどうも。どうです? ニコニコしてまあ、福そうなこと、えへへ。おいくつくらいですか? お八つぐらい……です? え? 六つ? まだ六つですか? 大きうがすねぇどうも。はーあ、ご体格がよくって、まあお楽しみなことで。お嬢様でらっしゃるんでしょ。え……? 男……? 男? へへへへへ、えへへ、本当ですか? え? 坊ちゃんのほう。ああ、どうも失礼を。いいえ、あたくしはお顔がお優しいんで女のお子様だと思ったが、ああ、いいご器量だなあ。もっとも、ま、おとっつぁんでもおっかさんでも、ねえ、どちらでも不足はないが、大きくなったらどうもたいへんですよ、えへへ。おとっつぁんだってこれじゃずいぶん苦労させましたよ」
「冗談言っちゃいけません。子どもがなんか、いま飲む飲むと言うんですよ。お急ぎでなかったら、どうですコーヒーでもおつき合いを」
「あら! コーヒー! 結構ですなァどうも、いえ、大好物で! えー、坊ちゃん! じゃあ、おじさんがお荷物持っていきましょうか?」
なんてんで、しらばっくれてね。人の懐でコーヒーの一杯でも飲むというわけで、これはまあ、嘘がありますからたいへんうまくいくんでね。あんまり正直だといけない。
「おい、どこ行くの? おいおいおい、おい!」
「よう」
「どこ行くんだよ」
「いや、運動に来たんだよ」
「え?」
「運動に歩いてるんだよ」
「……運動に? おまえが……? 嘘だァ」
「嘘じゃないよ」
「へへへへ、運動で歩いてるだなんて、煙草の吸い殻かなんか拾ってるんだ」
「煙草の吸い殻なんざ拾わねえやね」
「なん、なんだ、その脇でモゴモゴしてるのは」
「うちの」
「え?」
「うちの子だよ」
「……おまえの? ……まずい顔だねえ。よくそんなものを真っ昼間引っ張って歩けるね。へへへ、てめえでこさえたからしょうがねえだろうけど。粗製濫造だねえ。いくつぐらいになんの、それ? 六つぐらい、なったの? え? 九つ? 小さい子だねえ。食い物が悪くて育たねえんだ。かわいそうに栄養不良だ。ふふふ、何かい、男かい? 女! 女かい……? その顔じゃ売れ口はねえや。ひでえものをこさえやがったもんだねこりゃ。ああ、おいおい、見てやれ、泣いてるよ」
「え?」
「泣いてるよ」
「……笑ってるんだよ!」
「……恐い顔だね。泣いたか笑ったか見分けがつかねえ。今のうちに踏み殺せ」
「何言いやがんだ!」
こりゃ喧嘩になりますが。まァそういうところに嘘は必要だと言うが、まあ、中には尻から剥げるような馬鹿げたことを言って、人の驚くのを見て喜ぼうなんという、世の中にはまた変わった奴もあるもんで――
「さあさあ、もっとこっちへおいで」
「どうも。えー、すっかり今度はご無沙汰をいたし……」
「ははは、いやまァご無沙汰はいいが。ええ、まあ、もっとこっちへおいで。おまえが来ないとさみしくていけない。ええ? どうしたい? また何か嘘を仕入れて来たんだろ? なんの嘘をつくんだ今日は? 嘘をつきな、嘘つき」
「……どうも旦那は手厳しいねえ。あがるか否や面ァつかんで、さァ嘘をつけ嘘をつけ嘘をつけと来た日にゃどうも、嘘はつけませんね」
「それがだいたい嘘じゃないか。『嘘はつけません』? 何がつけませんどころか、おまえは千三つと言いたいが、千に三つも本当のことはない。それじゃ信用がなくなるから、たまには本当のことを言いなよ」
「じゃあ嘘はよします」
「ああ。嘘はいけないよ。どんな話を?」
「あたくしはね、若い自分に旅をしましてね。面白い話があるン」
「旅をした? ああ、それは面白かろう」
「日記をつけておいて、年をとって見ると自分ながら驚くようなこともあります」
「うん。どっちへ行ったんだい?」
「えー、仙台、盛岡」
「ああ、奥州、うんうん。商いで?」
「いえ」
「え?」
「商いじゃないんで」
「……なんだよ」
「武者修行」
「……言うそばから始まったな。武者修行と言やァおまえ、よほどの腕がなくちゃできるもんじゃあない」
「ええ。剣術は名人で」
「ちっ。自分で名人だぇば間違いはないが。じゃあ、よほど腕ができたのか」
「二十二の年に先生から免許皆伝を許されましてね」
「免許皆伝と言やァ大したもんだ」
「で、先生の言うには、これから修行に出てはどうだ、武者修行に行かんかと言うからあたくしは断った。いやあ、とんでもないこと。てまえなぞはまだまだ未熟でございますてぇと、いや、おまえの腕ならば立派につとまる。他流試合をして来るといい、一段と磨きがかかるからやってはどうかと言われたんで。こっちも年が若いし、それならというんで、ま、えー、出かけましてね。途中いろいろ話もあったが、南部の恐山という山の麓へかかったときはもう日の暮れ前という。これから店を片づけようというところへ入って行く。渋茶を出したからそいつを飲みながら山を見上げて、じいさん、なかなかこれは高山のようだてぇと、へぇ、これは高けぇ山でございます。拙者はこれからヨウシをしようと言うと、じじいの言うには、あぁとんでもないことで、この山は無事に越えた者はない、山賊が出るとか天狗が出るという。まあ危ないからおやめになったほうがいいと言う。そいつを聞いて、じゃ、おっかねぇからよそうなんてぇわけにもいかない、ねえ。こっちも武者修行ですから、ま、さようなものが出たら拙者が退治てやるから安心をいたせてンでね、山に登りかけて驚いた」
「どうしたんだ」
「なにしろその道の険しいといったら、片方を見るてぇと何丈とも知れぬ谷間。こっちは屏風を引っ立ったような岩。わずか二尺か三尺。ひとつ踏み外せば谷へ転がり落ちようという。こいつを、こう、踏みしめながら、だんだんだんだん登っていくと、はるか彼方に明かりがちらっと見える。このときは嬉しかったね。まずあそこに人家でもあろうかというので、明かりを頼りに上がってみる。上が一面の平ら地になりました」
「大きい山にはそういう所がよくあるという、うんうん」
「つぎのむらだしというやつでね。明かりのさすほうを、ひょいと見て驚いたね」
「なに」
「四五十人、車座で焚火をしている。中で隊長然たる奴を見ると、年の頃が四十もう五六でしょうかね、色の黒い、小鼻が開いた、口の大きな目のギョロッとしたゲジゲジ眉毛という。頭を見るてぇと森のように月代が生えて、大きなキセルで煙草をパクパク吸っていようという。その隣を見るてぇと芝居でやります白井権八というようなね、若衆髷という、きれいな男がいる。その隣を見るてぇとチョンキンマゲ。その向こうを見るてぇと慈姑の取っ手という。こっちを見るてぇとね、一竈、向こうを見るとくりくり坊主のちょんまげでね、その――」
「おいおい……くりくり坊主のちょんまげてぇのはどんな頭だい」
「えー、あァそう、へへへ、くりくり坊主の、向こうにちょんまげがいたんで。ふたつ込みなン」
「込みで話をしちゃわからないよ」
「蒲団を着ている奴もあれば素っ裸でいようというような、いやもう見るからに異様なありさまで。さァ困ったことだとは思ったが、今さら引き返すわけにもいかず。よんどころないから度胸を据えて煙草の火を借りましたね。『率爾ながら火をひとつ御貸し下され』てぇと、『さァさァおつけなさいまし』てやン。向こうじゃあっしをジロジロ見ているが、何食わぬ顔で煙草を二三服吸い、大きに馳走であるなと行きかかると前にいた奴がいきなり大手を広げてね、『侍! 少ーし待っておくんなせえ!』ときたン。『待てとおとどめなされしは身共がことでござるよな』てンでね、えへへ、ちょいと気取ったン」
「そんなところで気取らなくたっていいよ」
「『あたりに人がいなきゃこんだのこった』ってやン。『何か用がしあってか』『ほかのこってはごんせんが、あっしはこの山の駕籠舁きだ。駕籠に乗ってもらいてえ』という。身共は駕籠は嫌いだと断ったが、後ろにいた野郎がそんなら馬に乗れとこう言う。馬も嫌いだてぇと向こうが怒ったね。『馬も嫌ぇ駕籠も嫌ぇ、出世のできねえ貧乏侍。そんなら酒手をもらおうか』ってン。そんなあァた、馬鹿にした話はない、ねえ。馬にも駕籠にも乗らず酒手を出せという。ま、こんな奴から火を借りたのが因縁だと思うから、袂へ手を入れてみるといい塩梅に細かいお足があるからね、扇子を広げてこれへ乗せて、『些少ながら』てンで差し出した」
「いくら出したんだ」
「え?」
「いくら」
「……文久銭がひとつ」
「少ないなそりゃ」
「少ないったって、向こうも怒ったね。覗いて見やがってね、『べらぼうめ! これっぱかりならこっちからくれてやらぁ!』って、パーッて叩きやがるン。銭が後ろに飛んじゃったン。あたしゃ二時間探したよ」
「●●●だねおまえも」
「『して汝らの望みというのは』てぇと、『おうさ! いくら神楽と言うじゃあねえ。路銀はもとより身ぐるみ大小、〔甲高い声で〕残らず置いていけぁよし。〔胴間声で〕いやだおうだと四の五の言う――』」
「なんて声を出す」
「大勢で口をきくからいろんな声が出る」
「話が細かいな」
「ええ。『なんと侍、性根を据えて挨拶しろ』ときたから、一足あとへ飛び下がり、『さては汝らはこの峠にすまがいなす、ひとりふたりの履物よなあ』と言った」
「なんだい、そのひとりふたりの履物てぇのは」
「しめてサンゾクだてぇんで」
「変なところで謎をかける奴があるか」
「『一丁目があって二丁目のねえ、俺ぁ頭の縄張り口だ。それとも腕ずくでも取ってみせようか』てぇんで。『取れるもんなら取ってみろ』てぇと、こっちにいた蒲団を着た奴が丸太を持って打ってかかる。ひらっと体をかわすてぇと、空を打ったから前へ四つん這いになったン。蒲団を着た奴が四つん這いに這ったからおかけなさいと言わないばかり。これへ片足かけて向こうをぐっと睨み、前にいたくりくり坊主の素っ裸な奴が組んでかかりましたから、そいつの胸倉取ってグーッと締め上げると『いててて!』……」
「おいおい……相手は裸だてぇン」
「うん」
「どこを締めたんだ」
「胸倉を取ってグーッと」
「胸倉をグーッとったっておまえ、裸で胸倉はなかろう」
「裸で……あァそうだ。えへへへ、裸じゃ胸倉はありませんや、えへへ。しかたがないから髻をつかんでグーッとし――」
「……坊主だてぇン」
「……あァ、弱ったね、えへへ。坊主で裸じゃしょうがねえから、耳を持って上へ持ち上げて」
「ウサギだなまるで」
「こいつを目よりも高く差し上げ向こうへダーンと投げつけた。『さあ、その侍は手ごわいぞ。飛び道具だ飛び道具だ!』ってやン。今度はズーッとまわりを取り巻いて鉄砲を向けた。こりゃいけませんよ、ドンてぇばおしまいだ。しかたがないからピタッとそこへすわって、膝へ手をついてグッと睨んだ。向こうが驚いて鉄砲を引っこめた」
「おまえの度胸に恐れて鉄砲を引いたわけだ」
「いえ、こっちが庄屋で向こうが狩人ですから。向こうのどうしても負けになる」
「なんだ、狐拳だそれじゃ」
「『その侍を畳んでしまえ! 畳めー!』 畳め畳め畳めってやン。え? 大道の古着屋が夕立を食らったようで、畳め畳めってやン。もうこうなったら力を見せて驚かしてやろうと、片方を見ると高さが三間幅が二間もあろういう岩がある。これへ手をかけて『あらあらあらァ! デーン!』っと投げると、根からポキッと折れて」
「……そんな大きな岩が根から折れたの」
「ええ。もっとも厚さは一分」
「なんだ、板だね」
「この岩を目よりも高く差し上げ、投げつけようとは思ったが、当たる奴も当たらない奴もあっちゃあいけないから、これを小脇に引っ抱えて」
「おいおい、高さが三間幅が二間あるものを小脇に搔いこめたかい」
「……えっへ、真ん中がくぼんでいまして。あとで聞いたら瓢箪岩」
「そんな岩があるかい」
「この岩をちぎっては投げつけ、岩をちぎっては――」
「なんだ、岩がちぎれるのか」
「えへ、できたてでやわらかい」
「餅だなまるで」
「さあ、山賊は頭ぁ瘤だらけにしてワーッてんで蜘蛛の子を散らすがごとくに逃げた。まあ、やれ安心てンで木の根へ腰をかけて一服吸っていると、麓のほうからズーーーーッという。何事かと小手をかざして見ると驚いた。背中のあたりは一丈五六尺はあろうかという猪」
「猪?」
「ええ。イノシシが、こう、角を立てて飛んできたときは驚きましたねぇあたしも」
「……猪に角なんざァ――」
「ありますよ」
「ありゃあしないよおまえ。牙あるものは角はないン。猪は牙だよ」
「ああ、そう、牙!」
「……だって、いま角だって――」
「いえ、その牙がズーッと伸びて、こう、角になる」
「そんな長い牙があるか」
「相手が畜生じゃァしょうがない。片方を見ると大きな松の木があるから、この松の木へクーッとよじ登ってね、てっぺんまで上がり、マツは安心と」
「いやな洒落だなどうも」
「上からこう見下ろしていると、猪の奴が木の回りをグルグルグルグルグルグル回ってやがる。え? どうするかと思うとやがて鼻面で、こう、木の根を掘り始めたン。ね? 根が緩んでくるから上で、こう、揺れますよ。へへ、こんなキの揉める話はない。こらァどうも弱ったことになった、どうしよう、と片方を見ると、杉の木がある。こいつに、気合いもろともにパッと飛び移ったン」
「そこいらが武芸の妙てぇもんだな」
「それから上へ、こう、登ろうとすると、木の股で、『えへん!』」
「なんだい」
「なんだかわからないン、ええ。こっちの木の上に行こうとすると、こっちでも『えへん!』 ……『えー、塞がってますか』」
「なんだい、手水場だなまるで」
「なんだと思ったらね、これがね、天狗なン」
「……天狗?」
「ええ。烏天狗が卵を温めてやがン、ええ。『いま上がってきちゃいけねえ!』『……いけませんか、上がっちゃ』『いけねえ!』『だけどもねぇ、下に行くてぇと猪がいるんですが。上げて下さい』ってぇたら、『駄目だ! 上ぇ来ると股をもって引っ裂くぞ!』。股をもって引っ裂かれちゃァ困る。上は天狗、下は猪。進退窮まるてぇやつで。どうしたらよかろうと思ったが、剣道の極意に身を捨ててこそ浮かぶ瀬もありという。これから度胸を据えて上からバーンと飛び降りると、いい塩梅にね、猪乗りになって」
「なんだい、猪乗りてぇのはおかしい。馬乗りになった」
「へへ、馬なら馬乗りだが猪だから猪乗りてぇやつ。見るてぇとおまえさん、この猪に首がない」
「……だって木の根を掘ったてぇじゃないか」
「ええ、どっかに野郎落っことしたのかと思ってね。後ろを振り向いたら後ろに首がある。あべこべに乗っかっちゃったんで。前で尻尾がチョコチョコチョコチョコしてる。こいつに手をかけてグーッと引っ張るとだんだんこう伸びてきましたから、この尻尾で襷十字に身をあやどり、余ったやつで鉢巻を――」
「おまえの話はどうしてそういい加減なんだ。猪の尻尾にそんな長いのはないよ。牛蒡尻といってあれは短いんだ」
「それが陽気があったかいから伸びてる」
「飴細工だ、それじゃ」
「これから懐剣を抜いて、突き刺してやろうと思ったがね、駄目」
「駄目?」
「ええ。猪でも利口なもんですね、松脂をつけてすなっぱを転がってね、天日で乾かしてあるから刃物が受けつけない、ええ。みんなガチガチガチガチ跳ね返る。どうにもしょうがない。もうこうなったら運を天に任せようと、猪のなすがままにしていると、山じゅうをバーッと荒れ回ったね。そのうち木の根へつまづいてウヘーとのめる途端に、股ぐらへ手が行ってグニャッと……。触ったものがあるが、なんだと……?」
「え、わからない」
「猪てぇものはぞんざいなもんですね」
「なにが」
「褌を締めねえ」
「馬鹿なこと……猪が褌を締めるかい」
「見るとおまえさん、猪のコレが金玉ですよ、てへへ。ああ、天より我に与えし金玉と押し頂き――」
「変なものを頂く奴があるもんだ」
「人間でも畜生でも急所に変わりはなかろうと思ってグーッとつかむと、そこへパタッと倒れた」
「仕留めたな」
「ええ! 悔しいから頭と尻尾へ手をかけて、これを目よりも高く差し上げて――」
「おまえの話はなんでも差し上げるんだ」
「ええ、たいていのものは差し上げるんで、ええ。差し上げないのは晦日の勘定ばかり」
「そんなものは差し上げるほうがいいよ。背中が、おまえ、一丈五六尺あるてぇン」
「うん」
「頭と尻尾へ手が届いたのか」
「へへへ、それがおまえさん、こうやるとだんだん縮んできた」
「雑巾だ、それじゃ」
「こいつを二つ三つ弾みをつけてダーンと向こうの岩へ投げつけると、背骨がボキッと折れて、腹の皮がザクザクザクッて破けた」
「ひどいことをしたなあどうも」
「中から出たのを見て驚きましたね」
「なんだ」
「猪の子が十六匹出た、ええ。四四の十六というやつ。てんでてんでに後ろ鉢巻縄襷、やあ憎っくい旅の侍、親の仇、出で立ち上がって尋常に勝負勝負てんで、まわりへ取り巻かれたときはどうもじつに弱った」
「……おまえの話はどうしてそうだらしがねぇんだ。おまえ、何を締めて殺したんだ」
「何を締めたって……金玉を締めたン」
「……金玉を締めたンなら雄だろ」
「雄ですよ。雌に金玉はないやね」
「どうしてそう話がわからない」
「冗談じゃない、どっちがわからない」
「雄の腹から子が出たのか」
「雄の腹から……へへへ、そこが畜生の浅ましさ」
「馬鹿なことを言うな!」
弥次郎でございますが、どうやらお時刻でございます。