TVコント大全

「8時だヨ!全員集合」の舞台装置

ドリフの舞台装置の特徴はリアルであることです。当時クレージーキャッツは都会的なイメージがあり、セットも洒落たものを使っていました。ところが山田満郎がドリフのメンバーに会ってみると、洒落た感じがありませんでした。そこで「リアルなセットの方が似合うな」と思ったのです。よくやった「国語・算数・理科・社会」という教室コントも、都会の学校ではなく、田舎の分教場でした。校舎は木造、窓の外は山や田んぼが見え、柱に一輪ざしが飾られ、冬はだるまストーブが置いてありました。

スタッフのモットーは〈TBSの美術に不可能はない〉。どんな無理な注文にも山田は応えました。山田は台本作成にも関わりました。木曜日に次週のネタ作りの会議に参加し、金曜に翌日の放送で使うセットを会場に建てました。土曜が本番ですが、木曜に決めたことを楽屋でもう一度確認して、日曜にラフな図面を引き、月曜にディレクターと最終打ち合わせ。火曜に図面を引き直しして、その晩か遅くても水曜の朝までに大道具の営業に図面を渡します。水曜に大道具係がセットを作り、木曜に色を塗り、翌朝に会場に搬入、セッティングします。スタッフは総勢200名。そのうち美術スタッフが約45名もいました。この体制で16年間スケジュールをこなし続けたのです。

セットデザインのアイデアの原則は〈逆転の発想〉。たとえば、強風が吹いて山小屋が真横に倒れるという状況。加藤茶が中で眠っているといつの間にか山小屋が傾いて加藤が立った状態になります。もう一度寝ると小屋がさかさまになってまた起きてしまう。山田は、丸い筒の中に四角い部屋を作り、筒は見えないようにして外側に小屋の壁を作り、周りにゴムを張って転がしたそうです。仕掛けはすべてADたちが手で動かしていました。そうしないと芝居のタイミングと合わないからです。山田がいちばん苦労したのは、本物の車が崖から飛び出して家の二階に突っ込むというもの。崖と家をワイヤーで固定したり、助走距離とスピードを調節したり、苦難の連続だったそうです。

美術費は当時のバラエティー番組としては破格で、一回800万円、年間約4億円。それでも赤字を出したことは一度もなかったというから驚きです。