TVコント大全

1962(昭和37)年

てなもんや三度笠
朝日放送

5月6日開始。1968年3月31日終了。日曜午後6時~6時30分。出演は藤田まこと、白木みのる、由利徹、八波むと志、南利明、浅草四郎、岡八郎、財津一郎、ルーキー新一、京唄子、鳳啓介、平参平、てんぷくトリオなど。作者は香川登志緒(現・登枝緒)。演出は澤田隆治。

香川・澤田のコンビは「スチャラカ社員」を世に送った翌年、昭和37年に二人の代表作を手がけました。それがこの番組です。「スチャラカ社員」では、すでにスターだったミヤコ蝶々や中田ダイマル・ラケットを主役に起用しましたが、「てなもんや三度笠」では、当時まだ全国的には無名に近かった藤田まことを抜擢しました。これには伏線があります。昭和33年に香川・澤田は「渡り鳥今日かえる」という単発の股旅物のコメディーを制作しており、主人公のやくざ〈アワビの千太郎〉を演じたのが藤田まことだったのです。これは「てなもんや」の原型と言える番組でした。

開始当初は、藤田まことだけでは役不足と見たのか、有名なコメディアンのゲスト出演が売り物になっていました。第一話では、あんかけの時次郎の親分役で伴淳三郎、用心棒役で堺駿二も出演しています。その後も、由利徹、八波むと志、南利明の脱線トリオ(ただしバラバラに出演)を始め、エノケン、柳家金語楼などの東京のコメディアンも登場しました。半年ほど経つと、ゲストは関西のコメディアンが多くなりました。岡八郎、平参平、原哲男、ルーキー新一、財津一郎、芦屋雁之助、芦屋小雁、芦屋雁平、かしまし娘、京唄子・鳳啓助、横山やすし・西川きよしなどです。

とりわけ異彩を放っていたのは、〈蛇口一角〉という写真師役で登場した財津一郎。奇声を上げて笑いながら左手を後頭部から回して右耳を掻いたり、「ヒッジョーニッ、サビシィ~!」「…チョ~ダイッ!」というギャグを飛ばしました。

物語は、藤田まことの〈あんかけの時次郎〉が、白木みのるの〈珍念〉と二人で全国を旅して修行するというもの。時代は江戸時代末期で、二人は渡世の義理でさまざまな事件に巻き込まれます。でもこの番組の面白さはストーリーではなく、あくまでも個々のギャグにありました。

まずオープニングのコマーシャルのコント。鐘がゴーンと鳴り、辻堂の扉からあんかけの時次郎が登場。「あっしは泉州は信太の生まれ、あんかけの時次郎。意地には強いが人情には弱い…」と言っているところへ毎回誰かに扮装した原哲男が現れ、「鬼神のお松よ」「ウソつけ、お前。キリンやのうてカバやないけえ」といったやりとりがあって、時次郎が「オレがこんなに強いのも、あたり前田のクラッカー!」と、前田製菓のクラッカーを懐から取り出して見栄を切ります。この「あたり前田のクラッカー!」は流行語になりました。他にも藤田まことが劇中でよく使った「きれいなねえちゃんやんか!」「耳の穴からスッと手ェつっこんで奥歯ガタガタいわしたろか」「まこと、まこと、藤田まこと」も流行りました。珍念が、時次郎に危機が迫ると「これからスポンサーとこ行って、白木みのる主演の番組つくってもらうように頼んでこよ」と言うなど、楽屋オチも随所に使われていました。

ミュージカル仕立てになっていたこともこの番組の優れた特徴です。出だしで時次郎と珍念が♪スットントロリコ、スチャラカチャンチャン♪と歌ったり、ゲストが歌うシーンが劇に見事に溶け込んでいました。