3月11日の巨大地震から45日が経ちました。地震と津波は天災ですが原子力発電所の事故は明らかに人災です。原発は発電の仕組みだけを見ればきわめて低コストの「優等生」。でも自然界に存在しないプルトニウムを生み、その管理には厖大なコストがかかりますし、今回のようにひとたび事故が起きれば、その処理と補償にこれまた巨額の費用と途方もない歳月を必要とする「どうしようもない悪ガキ」です。この惨劇を繰り返さぬよう、今こそ自然エネルギーへの転換を図ろうという動きがあちこちで始まりました。そして自然エネルギーに関してスペインは先進国なのです。
2007年に日本で公開されたアルモドバル監督、ペネロペ・クルス主演の映画『ボルベール〈帰郷〉』。ご覧になった方は覚えておいででしょうが、ローラ・ドゥエニャス演じるソーレおばさんが赤い自動車でラ・マンチャ地方の国道を走るシーンで風力発電のプロペラが何度か映ります。ロケ地はクエンカ県の町シサンテ。マドリードとバレンシアのちょうど中間に位置するこの町には広大な風力発電所があります。「ドン・キホーテ」の風車でご存じのとおりラ・マンチャ地方は絶えず一定の風が吹く地域が多く、スペインは風力発電が盛んです。スペインの送電網管理会社(REE)によると、今年3月の全国電力供給に占める風力発電の割合は21%に達し、なんと初めて最大の供給源になりました。水力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーを合わせると42.3%。昨年の3月は48.5%。総電力の約半分が再生可能エネルギーです。
スペインが風力発電の先進国であることを日本人の代表として世界的に評価したのが皇太子殿下です。2008年の夏、サラゴサで開かれた「水の博覧会」での演説でした。「スペイン知ったかぶり」の「Vol.143 風力発電」で触れましたが、スペインの風力発電量はドイツ、アメリカに次いで世界三位。2006年まではドイツに次いで二位でした。スペインは2020年に電力の29%を自然エネルギーでまかなうことを目標に掲げています。他のEU諸国の目標はドイツが25~30%、フランスが21%、イタリアが23%。ヨーロッパ最大の再生可能エネルギー大国としてスペインは世界中の注目を集めています。
原発への依存をやめて自然エネルギーや再生可能エネルギーへ大きく舵を切ろうという動きが日本でも脚光を浴び始めました。そのリーダー的存在が環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也さん。そして大手民間企業からはソフトバンク社長の孫正義さん。孫さんは先週20日民主党の復興ビジョン・チーム会合で講演し、「自然エネルギー財団」の設立を発表しました。その講演資料が一般公開されています。全53ページのPDFファイルで、5MBあるので少し重いですが、ブロードバンドなら数十秒でダウンロードできます。どのページも大きな文字とシンプルなグラフだけで構成され、問題点と目標がわかりやすく提示されています。今週ご紹介したスペインのデータももちろん取り上げられています。
自然エネルギーや再生可能エネルギーは環境にダメージを与えない「バラ色」の電力源と考えられがちですが、もちろんマイナス面もあると思います。なにしろ原子力発電でさえ「バラ色」の未来を約束して四十年前に始まったのですから。たとえば風力発電所付近の住民のなかには体調を崩す人がいるそうです。プロペラが発生させる低周波が原因ではないかと疑われていますが因果関係はまだ立証されていません。日本の陸地はラ・マンチャ地方のように絶えず一定の風が吹く広大な土地が少ないので、洋上に建設するのがよさそう。実際茨城県沖で稼働中のプロペラは今回の津波でもびくともしませんでした。何事も功罪相半ばするのが世の常。マイナス面は徹底的に検証し、プラス面を伸ばす。自然エネルギー先進国スペインはまちがいなく大きな指針となるはずです。